「1000軒の空き家」を救え! 鹿児島大学・井上聡佑郎さんが取り組む“地域おこし”活動
「SDGs」のゴール11には、「住み続けられるまちづくりを」という目標が設定されています。
都市部のインフラ強化やスラムの改善は世界中で課題となっていますが、日本では地方の過疎化も年々深刻化。持続可能な地域づくりを目指し、町おこしに取り組む若者も増えています。
鹿児島大学の学生団体「KG base」(鹿児島学生基地)のメンバーである井上聡佑郎さんもそのひとり。鹿児島県肝属郡錦江町(きもつきぐんきんこうちょう)の町おこしに励む井上さんは、今年の6月からゲストハウスの運営も始め、「ある問題」の解決に向き合っている真っ最中。一体どんな活動に取り組んでいるのか、ご本人にお話をうかがいました。
学生として、地域おこし協力隊として取り組むSDGs
――「KG base」では普段どんな活動をされているんですか?
広く言うと、錦江町の町おこしですね。「地域おこし協力隊」として子どもたちの教育に関わったり、鹿児島大の学生団体「KG base」(鹿児島学生基地)のメンバーとして町おこしに関わるようになりました。昨年一般法人を立ち上げ、2020年6月にゲストハウスもオープンしたところです。
――錦江町というのはどんな町なのでしょう?
大隅半島の最南端にある南大隅町の、ひとつ北にある町です。鹿児島県にはふたつの半島があって、薩摩半島には鹿児島市みたいな市街地や空港、新幹線、電車もあります。一方で、大隅半島は『じゃないほうの半島』と言われていて、錦江町は電車や高速道路も通っていません。でも、そのぶん自然は本当に豊かですよ。
――海が近いんですよね?
海はゲストハウスから歩いてすぐですよ。ちょうど僕もさっきまで海で遊んでいたところです(笑)。大きな川もありますし、近くには標高700メートルくらいの山もあります。夏は暑くて冬は寒い。気温差が激しいので二毛作どころか三毛作、四毛作もできるような豊かな土地です。
――素晴らしい自然に恵まれているんですね。
そうなんです。なのでキャンプスポットとしても有名で、夕陽が海岸線に落ちていく様子を眺めながらするキャンプは最高ですよ。キャンプ場は100円で使えるし、コンロなどの設備も整っているので、県内外から多くの人が訪れます。このアップダウンの多い地形は、ロードバイクを楽しんでいる人たちにも人気みたいです。錦江町は、大隅半島の最南端にある佐多岬まで往復で80〜100kmくらい。この距離というのは、1日で自転車を漕ぐ距離としてもちょうどいいそうです。
▶2020年6月にオープンしたばかりの錦江町ゲストハウス『よろっで』。井上さんはこちらの運営にも携わっている。ゲストハウスのすぐ側が海だそう!
錦江町が抱える「空き家問題」
――それでも、町おこしが必要なんですよね。錦江町の課題は何ですか?
僕が取り組んでいるのは「空き家問題」です。この町には全部で1000軒ほどの空き家があるのですが、倒れかかっているようなものもあります。台風も来るので危険ですし、周辺の方々にも迷惑がかかってしまいます。
――1000軒ほども空き家があるんですか!
何とかしたいのですが、7割は壊れかけていたり、持ち主が不明だったりするんですよ。家と土地の所有者が亡くなれば、所有権を親族で分配しますよね。でも、そういう相続が二度ほど続くと、権利関係者が多過ぎて、誰に権利があるのかうやむやになってしまう。そうなると、危険な空き家を撤去したくても、誰に許可を取ればいいのかもわからず、第三者はどうにもできないんです。
――根深い問題なんですね。
国も制度を変えようとしているんですけど、まだまだ時間がかかりそうです。それでも残りの約300軒は使用可能な状態で、所有者がわかっているものもあります。実際、僕たちのゲストハウスも空き家をリノベーションさせていただいたものなんです。
――空き家がそれだけあるということは、過疎化も進んでいるということですか?
はい。人口約7000人の町ですが、若者は進学や就職を機に町を出ていってしまうので、20代は約400人ほどしかいません。でも正直、少子高齢化をどう解決するかはまだ考えられていません。この町のあり方は住民主体で考えるべきですし、今の生活に満足しているならこのまま徐々に規模を縮小していくのも悪くないと考えている人も多い。無理に人を増やさなくても、今の幸福度が上がればいいのかなと思います。
――確かに、そういう考え方があってもいいですよね。
僕たちの考え方に共感してくれる移住者さんが来てくれるとうれしいですね。とは言え、空き家問題は解決しないといけませんから、ゲストハウスを拠点にしながらこの問題を広く浸透させ、同時並行で空き家の有効利用も進めたい。それこそ移住希望者に住んでもらうとか。今はコロナウイルス感染症の影響でゲストハウスにもお客さんがほとんど来られませんが、騒動が終息したらちゃんとお客さんも呼んで、空き家のアウトソーシングなどをやっていきたいと思います。
――ゲストハウスが活動の拠点にもなっているんですね。
まずはゲストハウスの利用者に錦江町の良さを知ってもらって、気に入ったら空き家をみてもらって、本当に気に入ったら移住してもらう。そうやって、空き家を魅力的でキラキラしたものにしていきたいと思っています。無理に移住者を呼び込む必要はありませんが、個人的には20〜30人の若者コミュニティはあったほうがいいかな、と思います。じゃないと、若い人がどんどん流出してしまいますからね。
――同世代の友達がいないと、なかなか生活が楽しめないですもんね。
僕は地域おこし協力隊として、地元の小、中学生たちの教育事業にも関わっていますが、教育プログラムには、今から子どもたちに『アントレプレナー精神(起業家精神)』を持ってもらうことで、立派な大人になったら錦江町のために夢を持って帰ってきてもらいたいという目的もあるんです。今年からはSDGsについても教えないといけなくなったので、僕も慌てて勉強している最中です(笑)。
――例えばどんな教育プログラムがあるのでしょう?
錦江町の子どもたちに自分の夢を発見してもらう「わくわく!夢発見プログラム」というものもあります。昨年は鹿児島市の騎射場という町のイベント「騎射場のきさき市」に参加して、錦江町の子どもたちがステージ上から1万人の客の前で「将来の夢」を発表してきました。バス移動費などは僕が鹿児島大学から補助金を引っ張り出して。あまり喋らない子と地道にコミュニケーションをとって、ついに「おじいちゃんみたいな大工になりたい」と明かしてくれたときは、すごくうれしかったですね。
▶錦江町には大学がないため、子供たちは進学するとなると錦江町の外に出ることに。就職した後や大人になってからまた錦江町に戻ってきたいと思ってもらい、過疎化を食い止められるよう地道な取り組みを続けている。
大学卒業後は東京へ“武者修行”に
――もともと井上さんはどちらのご出身なんですか?
福岡県です。大学で鹿児島にきて、地域おこし協力隊の一員として錦江町に関わるようになってから一度休学し、錦江町に移住しました。
――そもそも、なぜ錦江町に目を付けられたのでしょう?
僕は以前から旅行が好きで、学校が休みの時期はヒッチハイクで国内をぐるぐる回ったりしていたんです。そんな旅の途中、宮崎県でゲストハウスという存在に出会って、それがすごく面白かったんですよね。地域住民と触れ合うのも楽しいし、しかもそのゲストハウスの店長はまだ学生だったので驚きましたよ。
――珍しいですね!
はい。それがキッカケで「ゲストハウスをやりたいな」って思ったんです。ちょうどどこでやろうかと考えているときに、縁があって錦江町にたどり着いたんです。ちょうど役場も誰かに地域おこしやゲストハウスの運営を任せたいと思っていたタイミングだったこともあって、今に至った感じです。
▶井上さんがヒッチハイクの旅で出会ったゲストハウス。今の活動のきっかけになっている。
――今後の目標はありますか?
今は地域おこし協力隊の任期中なので自治体からお金ももらっていますが、これを助走期間と捉えて、やがては自分たちの会社でちゃんと自走できるようにしたいと思っています。
――大学卒業後は錦江町の町おこしに専念されるのでしょうか?
再来年の春に大学を卒業して、一度、東京で就職したいと思っています。それで社会にもみくちゃにされて、ある程度のノウハウを身につけたら、錦江町に帰ってきて、その経験を町おこしに活かしたいな、と考えています。
――武者修行ってやつですね!最後に、同世代の学生にメッセージをお願いします。
僕が伝えたいのは、夢を自分の言葉で発信することの大切さです。僕は昔、海上保安官になろうとしていた時期がありました。でも、“色弱”なので海上保安学校にも入れなかったんです。当時は夢を自分の中に留めていたので、誰もそのことを教えてくれなかった。もし夢を公言していれば、もっと早く別の夢が持てたはずです。だから、どんな小さい規模でも、誰かに自分の思い伝える。そうやってアウトプットしていけば、もっとしっかりと将来の自分を描けるし、人生もっとワクワクできるのかな、なんて感じています。同世代の学生の皆さんにも夢をどんどん言葉にしてほしいと思っています。
サークルプロフィール
KG base(鹿児島学生基地):代表 井上聡佑郎さん
KG base(鹿児島学生基地)は、錦江町をはじめ鹿児島県内各地の地域と大学生をつなぐことを目的に2019年に設立された学生団体。現在は小学生との一対一の対話を通した交流事業も行っており、今後は錦江町以外の地域にも活動の幅を広げていく予定。
文:猿川佑
編集:マイナビ学生の窓口編集
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