日本政策金融公庫の職員から椎茸農家に転身。「田村きのこ園」を受け継いだ川島 拓さんが語る農業の魅力

安藤茉耶

PR 提供:農業の魅力発信コンソーシアム
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高齢化が進む日本の農家では、後継ぎ不足が深刻な問題となっています。そんななか若者が農家に弟子入りし、新規就農するケースも徐々に増えています。 川島 拓さんもそのひとり。師匠のもとで椎茸作りを学び、現在は田村きのこ園の経営者として活躍しています。彼はこれまでどんなキャリアを歩んできたのでしょうか?

プロフィール

PROFILE

川島 拓さん

1994年生まれ 。茨城県出身。筑波大学の生命環境学群 生物資源学類 で農業経済学を学び、卒業後は日本政策金融公庫に就職。2年間北海道で勤務をしたのち、農家になるため脱サラして地元に帰郷。就農準備のため地域おこし協力隊となり3年間活動する。2019年に活動で出逢った田村きのこ園の「福王しいたけ」の味に惚れ込み師匠に弟子入り、椎茸作りを学ぶ。その後事業継承し、2022年に就農。

筑波大時代に就農を決意

大学時代の川島さん

茨城県で生まれ育った川島さん。実家は非農家でしたが、自然と触れ合うのが好きな子供だったと振り返ります。

「身近に自然がある場所に住んでいたので、近所で虫取りして遊んだり、年に数回は家族でキャンプに行ったりもしていました。小学生の頃から理科が好きでしたし、高校でも生物が1番の得意科目でしたね」。

生物や自然を学びたいという気持ちがあったため、筑波大学の生命環境学群  生物資源学類に進学。4年間、学問としての農業に触れる日々を過ごしました。

農家の手伝いの様子

「大学12年では基礎的な知識やバイオテクノロジーなどを学び、3年生になってからは農業経済学の研究をしていました。この頃にはもう新規就農を目指していたので、つくば市内での新規就農者の経営発展の道のりをヒアリングして、卒業論文のテーマにしました」。

大学進学以前から、漠然と将来は農業に携わりたいと考えていた川島さんですが、大学のサークル活動が、進路をより具体的にしてくれたといいます。

「大学ではふたつの農業系サークルに所属していました。ひとつが『のうりんむら』という、学生同士が畑で野菜やお米を作る団体。もうひとつが市内の農業生産者のもとに学生アルバイトを派遣する『つくば学生農業ヘルパー』という団体です。サークル活動を通じて実際に農業を経験したり、アルバイト先の農家の方に話を聞いたりするうちに、農業って素晴らしい仕事だなと思うようになったんです」。

農業を中心とした学生時代を過ごした川島さん。ただ大学卒業後、そのまま就農の道に進むことはしませんでした。

「農業経営を学びたい」と日本政策金融公庫に就職

公庫時代の川島さん

「農業生産者の方に『将来農業をやりたい』とピュアな思いを伝えると、『儲からないからやめとけ』『俺は息子にも継がせない』などネガティブな意見を耳にすることがありました。 農業は素晴らしい仕事なのに、どうして経済的には難しいのだろうと疑問に思っていました。それと同時に、仕事にするなら経営という視点で農業を見ないといけないなとも。

私自身、お金に疎い性格だったので、卒業後そのまま就農したら、貯金もなくどんぶり勘定の農家になってしまうという危機感を持ったんです」。

就農の前に、農業の経営を身近に学びたいと考えた川島さんは、日本政策金融公庫に就職。農業融資を専門とする農林水産事業部に配属され、赴任先の北海道で、稚内から富良野、美瑛を担当しました。

「北海道にいた2年間は、農家への融資審査や営業を担当していました。経営者とお話しする機会も多く、どんな農業経営だったら上手くいくのか、どうすれば失敗してしまうのかなどを実地で学ぶことができ、本当にたくさんの経験をしました。富良野の農家に1週間の研修に行ったとき、1日目で腰を痛めてしまったのは大変でしたが、今ではいい思い出です(笑)。

融資という仕事で農業と関わるうちに、やはり自分でやりたいという気持ちが強くなり、北海道に赴任して2年のタイミングで退職しました」。

地域おこし協力隊で「福王しいたけ」の美味しさに感動!

協力隊時代のマルシェ出店の様子

地元茨城に帰り、就農の準備を始めた川島さん。

 「就農するなら、生まれ育って大学の知人も多い地元・茨城がいいと考えていました。ただ北海道にいながら茨城での就農を準備するのはなかなか難しいので、一度転職をして茨城で仕事をしつつ、もう1度自分の就農計画を立てることにしたんです。その頃、地域おこし協力隊の募集を見つけて参加することにしました」。

 川島さんの地域おこし協力隊としてのミッションは、笠間市の農業を盛り上げること。地元の農産物を都内のマルシェで販売したり、生産者を集めて勉強会を開いたりなど活動を続けていましたが、その中で運命的な出会いを果たします。

 「地域おこし協力隊の活動の一環で『田村きのこ園』を取材しにいって、後の師匠となる田村仁久郎さんに出会いました。田村さんは笠間市で65年間も椎茸作りを続けている農家。彼が栽培する『福王しいたけ』というジャンボ椎茸が、感動するほど美味しかったんです。

師匠の田村さん

ただその時、田村さんには後継者がおらず、自分の代で生産をやめてしまうという話も聞きました。初めてお会いしたときにはもうすでに81歳でしたから、体も思うように動かなくなって『(椎茸づくりは)もう終わりなんだ 』という話をされていたんです。

「こんなに美味しい椎茸が食べられなくなるのはもったいない」そう強く感じた川島さんは一念発起し、田村さんの元に弟子入り。地域おこし協力隊の活動のひとつとして、2019年から椎茸作りを手伝うようになりました。

師匠の味を引き継ぐため、田村きのこ園の経営者に

「うちの使ってる椎茸の品種は非常に栽培が難しくて、収穫量にも波があります。そのため、あまりみんながやりたがらない品種ではあるのですが、椎茸自体は肉厚でとても美味しいんです」。

椎茸の栽培方法は農家によっても異なりますが、田村きのこ園では菌床も手作り。菌床を購入して栽培する農家も多い中、田村さんは菌床の材料選びや配合を一からこだわり抜き、長年美味しい椎茸を作るために研究を続けてきました。

「椎茸の味に感動したのはもちろんですが、弟子入りを決めたのは、田村さんの人柄にも惹かれたから。僕が『椎茸作りを学びたい』とお願いすると『いいよいいよ』と快く受け入れてくれた。そんな師匠が作る椎茸をずっと残したいと思ったんです」。

無事、弟子入りを果たした川島さんですが、1カ月ほど経った頃、ある苦境に立たされます。

「菌床の仕込みの時期から手伝い始めて少し作業に慣れた頃、師匠が体調を崩して1カ月間入院することになったんです。仕込みをしないと1年の収入がゼロになってしまうので、とても大事な時期だったのですが、突如私1人に任されてしまった。そのときは病室にいる師匠に電話で作業を教えてもらいながら、なんとか乗り切りました。大変でしたが、あの時期があったからこそ師匠とも強い信頼関係が築けたのだと思います。事業継承を真剣に考えるきっかけにもなりました」。

椎茸の生産技術を学んだ川島さんは、協力隊の活動を修了した20224月に就農。田村きのこ園の経営権を引き継ぎました。その後しばらく二人で椎茸作りをしていましたが、昨年6月 に田村さんが亡くなり、以降は川島さんが田村きのこ園を守り続けています。

「田村きのこ園が、この地域に根付いて続いていくことが大事。私が大きく変えてしまうのではなく、師匠が作ってきた椎茸を未来に繋いでいきたいと思っています。

そのためにはまず、しっかり経営を続けていくことを一番に考えています。今はまだ個人事業主ですが、しっかり会社という箱を作り、仲間を集めて、いいものを残していく体制を創造していきたいなと思っています」。

川島さんが語る、農業の魅力と可能性

就農を目指しながら、日本政策金融公庫というキャリアも経験した川島さん。彼から見た農業にはどんな魅力があるのでしょうか?

 「私は食べるのが好きなので、作物を栽培して、それを食べた誰かに美味しいと言われることがすごくうれしいなと思います。特にうちのきのこ園は、ほぼ直売で販売をしているので、お客さんの反応を近くに感じながら農業ができる。やりがいはあると思いますね。

 日本政策金融公庫の仕事は、いわば農家の応援者。寄り添ってくようなイメージです。サッカーでは、審判やトレーナーをしている人も最初みんな選手を目指すじゃないですか。それなのに、どうして農業はみんな周りの産業ばっかり進むのかなと。私は今でも学生の方々に会う機会があったら、生産現場は楽しいよと伝えるようにしています。

 農家がどんどん減っています。廃業せざるを得ない農家の中には、経営的には問題がなかったり、テコ入れすれば伸びる余地があったりするケースも多いと思います。私が知る笠間市だけでもそう感じるのですから、全国を探せばもっとたくさんあるはず。

後継者がいなくて困ってる人もたくさんいる状況なので、若い人にとってはチャンスだと思います。事業継承により経営者として自立できるかもしれないし、非常に可能性がある分野だと思います」。

■「農業の魅力発信コンソーシアム」


農業の魅力発信コンソーシアムは、農林水産省の補助事業を活用し、農業現場で活躍する「ロールモデル農業者」との接点を通じてこれまで農業に関わりのなかった方が「職業としての農業の魅力」を知る機会を創るために、イベントの開催やメディア・SNSを通じた情報発信を行っています。
公式HP:https://yuime.jp/nmhconsortium/

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取材・文/安藤茉耶
編集:学生の窓口編集部

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