経営理念は「自由に、楽しく、生きる!!」。果樹・畜産の二刀流農家・西口寿一さんが考える、農業の魅力

安藤茉耶

PR 提供:農林水産省
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現在、地元和歌山のにしぐち農園・西口畜産で、果樹と畜産の二刀流農家として活動している西口さん。3年間の会社員生活を経て、二刀流農家の道を選んだ彼は、農業の魅力をどう感じているのでしょうか? 学生時代から振り返っていただきました。

プロフィール

PROFILE

西口寿一さん

1985年生まれ。和歌山県出身。農家に生まれ、地元の高校を卒業後は酪農学園大学に進学、4年間酪農を学ぶ。3年間の会社員生活を経た後に、地元・和歌山に帰り就農。実家のにしぐち農園・西口畜産で、果樹と畜産の二刀流農家として活動している。


「スノーボードをやりたい」動機で北海道の酪農を学ぶ大学へ

現在、和歌山県内で希少な熊野牛を肥育しながら、標高600mの山間地「天空の村」で果樹を栽培している西口寿一さん。二刀流農家として注目を集める西口さんですが、幼い頃は「農家を継ぐのは嫌だった」と語ります。

「平家時代の落ち武者が、和歌山県の山奥に住み始め、生きていくために農業を始めたのがうちの起源です。祖父の代で商売として果樹農園を始め、父の代で牛の肥育を拡大していきました。僕の世代では、農家の息子で後を継ぎたいと思う人はかなり少数派だと思いますね。農家に生まれたら、子供でも労働力として農作業を必ず手伝わなければならない。幼い頃は、将来は絶対農家にはなるまいと思っていました」。

地元の中学・高校を卒業した西口さんは、北海道にある酪農学園大学に進学。父親の母校という縁もありながら、一番の入学理由は北海道という土地にあったそうです。

「実は『スノーボードを思いっきりやりたい!』と思って北海道の大学を選んだんです。入学したのは酪農学園大学の酪農学部・酪農学科という酪農の中の酪農を学ぶところ。牛を扱うといっても実家の畜産業とは方向性は違いました。ただ授業をしっかり選択していれば、卒業時に家畜人工授精師や食品衛生監視員といった難関資格も取得できるのが魅力的でした」。

酪農のスペシャリストを育てる環境ゆえに、人との出会いも多かったと西口さんはいいます。

「畜産農家の子供がたくさん通う学校だったので、人脈を広げるにはいい環境だったと思います。例えば、神奈川県の石田牧場の息子さんも同級生で、尊敬する農家の一人として今も交流を続けています」。

スノーボードに没頭する日々を過ごしながらも、大学は4年で無事に卒業。西口さんはそのまま実家を継ぐのではなく、就職という道を選びました。

3年間の会社員生活を経て、二刀流農家の道へ

西口さんは、北海道苫小牧にある畜産飼料の会社に就職し、会社員生活をスタートさせました。営業職を希望していたものの、入社後は社長の運転手や事務作業に追われる日々を過ごしたそうです。

「会社員時代は、毎日スーツを着て出社していましたよ。髪も今と同じ金髪ではなく黒でした(笑)。当時は理不尽さや辛さを感じることも多かったのですが、今思えば、就職せず農家を継げば得られなかったビジネスマナーや忍耐力を学ぶ貴重な経験になったと思います」。

そんな西口さんに転機が訪れたのは、就職から3年経った頃。高齢化により祖父母の体力が落ち、実家の果樹園が荒れていく実状を知り、農家になることを決意しました。

「うちは祖父母が果樹、両親が畜産と仕事の棲み分けをしていたのですが、僕が実家に帰ってからは果樹、畜産の両方を両親と一緒にやっています」。

果樹と畜産の二刀流とは珍しい印象ですが、そうではないと西口さんはいいます。

「実は二刀流農家って珍しくはないんです。例えば、近江牛の畜産農家では、田んぼに適している土地柄、牛に餌として与える米を一緒に作っている場合も多いんです。うちは米ではなく山間地に適した果樹を作っているというだけの話です」。

ただし二刀流農家ならではのメリットもあるそう。

「農業に限ったことではないのですが、事業をしているといい時も悪い時もありますよね。僕の家の場合は、畜産の調子が悪い時は果樹で稼いだお金でご飯を食べられますし、逆の場合もあります。両方調子が悪いという年は今までにはなかったので、どちらかで補填ができるのは二刀流農家の強みだと思います」。

和歌山農業MBAで学んだ、経営としての農業

西口さんが就農してから約14年。両親の代から始めた熊野牛は、現在80頭にまで数を増やし、来年末には90頭の肥育を目指しているといいます。

また西口さんは、育てた梨や柿などの果樹を、農協だけでなく産直サイトに出品するなど販路拡大も行ってきました。さまざまな新しい挑戦を進める西口さんですが、両親と農業をすることは想像以上の苦労があったそうです。

「これは農家の後継者にとって一番の問題だと思うのですが、帰ってきても両親との兼ね合いがうまくいかず農家を辞めてしまうケースが結構多いんです。親は子が失敗しないようにアドバイスしようと口を出しすぎてしまうし、子は自分のやり方が通らずに辛い思いをする。環境は整っていても、なかなかハードルが高いんですよ。僕も実家に帰ってから10年ほどは我慢の年でしたが、同時にスキルを身につけるいい準備期間になったとも考えています」。

西口さんが自分の農業スタイルを築くきっかけとなったのが、JA全国青年大会「青年の主張発表会」でした。

「僕は声が大きいのと、勢いがあるという理由で発表会の代表に選ばれ、東京の大きなホールで自分が目指す農業を主張したんです。そのとき僕が発表したのは、『ミルフィーユ農業への挑戦』。ただ農業をしていいものを作るのではなく、付加価値をミルフィーユのように積み重ねて、売り上げを上げていこうという内容です」。

改めて経営視点で農業について考える機会を得たことで、意識が変わってきたという西口さん。そして翌年、「和歌山農業MBA塾」に一期生として入塾。農業経営について他の参加者たちとともに学びました。そしてミルフィーユ農業への第一歩として、アルコール袋を被せて渋抜きを行う「紀の川柿」の栽培にも挑戦し始めました。

「あるMBA塾の日に『こんなに晴れた日に農作業をせずみんなで勉強しているのは他の農家に笑われるかもしれない』という話題になったんです。だけど、僕はそうではないと思います。いいものを作ることは農家としてすごく大事ですが、節税して売り上げを出したり、もらうべき補助金を受け取ったりすることも経営ではとても大切なんです。MBA塾で経営としての農業を考える視点を得たのは、大きな学びとなりました」。

「自由に、楽しく、生きる!!」。厚みのある農家でいるための経営理念

西口さんが目指す農業の根幹には、ある経営理念があります。

「うちは『 自由に、楽しく、生きる!!』を経営理念に掲げています。これは塾で学んだことなのですが、仕事はあくまで自分が家族と楽しく過ごすための手段であって、それがメインで生きているわけではない。だけどやるからにはプロ意識を持って挑む。仕事をすることで自分の生活が豊かになって、遊んで暮らしたいという思いがあります」。

経営理念だけでなく、西口さんは行動指針も掲げています。

「いくつかある行動指針の中でも『事実はひとつ、解釈は無数』という言葉は特に大切にしています。これは大学の同級生で、MBA塾の講師でもある石田牧場の石田くんがいっていた言葉なんです。物事は解釈次第で良くも悪くも考えられるので、どんなことでも良い方に解釈するようにしています。自営業で、経営理念や行動指針を掲げる必要はないかもしれませんが、何かがブレた時に芯があるというのは大事。経営判断するときの材料として持っていることで、農家としての厚みはだいぶ違うと思います」。

経営視点で農業を捉える西口さんですが、仕事の原動力につながるのは「売り上げ」だと語ります。

「しっかりと売り上げがあれば、例えしんどいなと思う仕事だとしても、モチベーションは保てると思います。農家ではよく、剪定がどうとか今年の果物の出来はどうだとか話します。それはもちろん大事なのですが、やはり経営では売り上げを伸ばすことが重要です。利益をあげることが重要なのではありません。例えば、必要な機材を減価償却して、利益を出さず、だけど売り上げは伸びているという状態にする経営者としての工夫も必要なんです」。

西口さんが語る、農業の魅力

最後に、西口さんが感じる農業の魅力を教えてもらいました。

「農業に答えはないんですよね。自分が思うように進み、自分が描く世界を作っていけるのが農業だと思います。これは自営業全般に言えることでもあります」。

また西口さんは、農業の可能性について次のように語ります。

「農家の数はすごいスピードで減っている。だから土地もたくさん空いているんですよ。古い農家では、自分の財産が減るとか他所者に貸したくないなどの理由で土地をなかなか新規参入者に貸したがらないことが多いですが、それを凌駕するくらいどんどん農家は減少しています。だからこそやり方次第では可能性しかないと思います。例えば他の業種から就農する場合だと、農家からしたらパソコンでパワーポイントやワードを使えるだけでもスキルになるんです。あとは足りない経験値や技術面のサポートを誰かにしてもらえば、新規就農は十分可能だと思います。新規就農者への補助金もありますから、制度をうまく利用することも大切です」。

農家に生まれ、会社員を経て就農した西口さんは、これから社会に出る学生に向けて「まずは行動してほしい」と強く訴えかけます。

「社会に出たときに、学生の頃の経験や知識はまず通用しないということを思っていた方がいい。社会に出て、壁にぶち当たってみて、初めてその先に見えてくる物があるはず。まずはその世界に飛び込んでやってみることが大事です。そしてこれは違うなと思ったら、また別の世界に行けばいい。入る前に頭で考え過ぎてしまうのは、正直面白くはないと思います。壁にぶち当たったときこそ、自分のスキルが身につくはずです」。


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取材・文/安藤茉耶
編集:学生の窓口編集部


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