「オンラインに限界はない」。SNSを駆使して問題提起する横浜市立大学「TEHs」にインタビュー
SDGsに関心はあっても、実際にどう取り組めばいいのかがわからない――そう考える私たちに、手軽な取り組み方法をSNSで伝授してくれる学生団体がいます。
横浜市立大学の「TEHs(てふず)」は、コロナ禍を受けていち早くオンラインでの発信に力を入れ、フードロスやマイクロプラスチックの削減、フェアトレードの問題など、私たちの身近にあるSDGsについて問題提起。その解決方法の一端を自ら実践して発信することで、消費者意識の変化を訴えかけています。
今回は横浜市立大学の2年生でTEHsの中心メンバーでもある南亜加音さん、稲葉かれんさんに、その活動の中身をお聞きしました。
2020年6月にzoomで実施したミーティング。コロナ禍ではありながら、新入生も含めて今私たちにできることについて話し合ったそう。
SDGsを前進させるために立ち上がった「TEHs」
――まず、団体名「TEHs」の由来について教えていただけますか? 何かの頭文字?
(南さん)いえ、これは「SDGs」の文字をそれぞれアルファベット順にひとつ先へと進めたものになります。SDGsを前進させようという意味で名付けました。
――なるほど。団体設立のキッカケはなんだったのでしょう?
(稲葉さん)大学の国際関係論という講義を受講していた仲間たちで作りました。昨年7月、講義の一環で「国際連帯税」をテーマにしたシンポジウムに参加したのですが、そこに登壇する学生パネリストを選ぶため、一ヶ月前くらいから有志でディスカッションを繰り返したんです。そして、シンポジウムが終わったあとに、SDGsに深く興味を持った仲間たちで「私たちも何か活動したいね」と話し合って、8月に団体を立ち上げました。学校公認になったのはこの2月からです。
団体発足のきっかけとなった「国際連帯税」に関するシンポジウムではパネリストに選ばれたTEHsのメンバーが参加した。
――具体的に、どんなディスカッションをされたんですか?
SDGsを実現するには、そもそも世界的な予算不足という現実があるんです。各国が出しているODA(政府開発援助)でも間に合わないので、どこかから予算を確保しないといけない。だから、世界的な税金となる「国際連帯税」を設けようという構想もあるんですよね。私たちも、国際連帯税をテーマに、具体的にどこに税をかけるか、どう徴収するか、何に使うかなどをディスカッションしました。
――団体の立ち上げ後はどんな活動をされたのですか?
大きく言うと、SDGsに関するイベントと企画の運営です。SDGsに対してあまり知識がなかったので、まずは17ゴールの中から興味のあるものを選んで、自分たちの知識を深めていきました。例えば『ザ・トゥルー・コスト』という、ファストファッション(※)の裏側を描いた映画を観て、ディスカッションしたりもしましたね。
※ファストファッション:流行りに則った衣料品を大量生産し、低価格で販売するブランドや業態のこと。
――映画はどんな内容なんですか?
ファストファッションの安さの背景には労働力の搾取があるので、消費者として行動意識を変えていこうという話です。学生は安さを求めて服を買いますが、その裏には価値に見合わない低賃金、長時間労働があります。安い服の裏にある背景がわかると、その値段で本当に買いますか? と聞かれたときに、きっと買えなくなると思います。
資本主義が良いのか悪いのかと聞かれれば、一概に悪いとは言えません。だけど、どうやってファストファッションと向き合うかは考えるべきだと思います。今年5月に学校で上映会をしようとしていたんですけど、コロナ禍で実現できませんでした。
TEHsの活動の一環として行ったSDGsに関連する映画の上映会。映画をきっかけに世界の現状について考えるきっかけになったそう。
――使えるお金にも限りがあるわけですが、この問題とはどう向き合えばいいのでしょうね。
流行っている服を買いたくなるから、毎年何着も買っちゃうんですよね。なので、流行りものに飛び付いて安い服をいっぱい買うのではなく、その値段で一つだけいい服を買って、長く大事に着る。それがいいんじゃないかと思います。
SNSでディスカッションして問題提起
――他にはどんな活動をされているんですか?
SNS上での活動にも力を入れています。例えば、食糧問題にフォーカスしてグループを分け、約1ヶ月間かけてオンラインディスカッションをし、その結果をインスタにまとめてアップしました。インスタに載せる画像や文章、ハッシュタグなども、見た人に伝わりやすい構成にするため、ディスカッションを重ねました。
グループは、食料自給率や、昆虫食などの肉の代わりになるものを探すチーム、技術的面や流通について考えるチーム、マイクロプラスチックについて考えるチームなどに分かれ、「いいね」が一番多かったチームに景品を出すルールでした。
これも低賃金労働の問題につながりますが、日本人は輸入食品をたくさん食べていますよね。でも途上国はそういう先進国の競争力に押し負けてしまい、せっかく作った食物も安く売り出さざるを得なくなってしまうために思うように利益が上がらず、飢餓や貧困に陥っているんです。一方、日本では大量のフードロスが問題になっています。
――日本ではすごい量の食料が廃棄されていると言われていますよね。
実際、一番「いいね」があったのはフードロスの問題ですね。私たち日本人は、毎日ひとり一個分のおにぎりを捨てている計算になるそうです。そんな中で私たちにできることは何か。例えば空腹状態で買い物に行かないこと、冷蔵庫にまだ余り物がないか整理してから買い物にいくことも大切です。賞味期限を信用しすぎてもいけません。まだ食べられるものもたくさん捨てられていますから。こんな感じで「買い物のときに意識できること10選」をインスタに載せました。どれも日常生活でできることなので、ぜひ見てください。
――手軽に取り組めることを教えてくれるのはありがたいですね。
マイクロプラスチックの投稿も反響が大きかったです。実は、私たちは一週間にクレジットカード一枚分のプラスチックを体内に摂取していると言われています。ペットボトル飲料を飲むだけでも水に溶けたマイクロプラスチックを取り込んでいますし、ご飯にラップをかけて電子レンジにかけても、溶けたプラスチックが水滴と一緒に食品に降りかかっています。もちろん、人体への悪影響も指摘されています。
ほかにも「牛乳が余っているからラッシーを作ってみよう」「おうち時間が長いときこそ地産地消に目を向けよう」「フェアトレードで作られているチョコレートを探そう」など、実際にチャレンジしながら、その結果をSNSで報告しています。
フェアトレードで言えば、コーヒーもそうですよね。コンビニでは100円でコーヒーが買えますが、本来はもっと高くないとおかしい。労働者に支払わている対価は本当にわずかで、多くは流通業者などが持っていってしまいます。カカオを作っても儲からないから麻薬を作ってしまうという現状もあると言われています。
インスタ上でチーム制で投稿を行った企画。「いいね」が一番多かったチームに景品を渡すことでメンバーの活動モチベーションを上げつつ、SDGsの認知UPをはかる取り組みを実施した。
「学生も世界を変えられる。学生だからできる」
――活動の手応えはいかがでしょう?
インスタのフォロワーも順調に伸びていて、身近な人から「最近、TEHsの名前をよく聞くよ」と言ってもらえることも増えました。徐々に活動が広まりつつあるという実感はあります。メンバーも今年は新たに22人が入ってくれて、計33人に増えました。TEHsは、「横市生の、横市生による、横市生のためのSDGs」をサブタイトルに掲げていますので、まずはこうして身内に広めていくことが第一の目標です。もちろん、いずれはもっともっと大きく広めていけたらいいな、と思っています。
――今後の活動予定は?
まず、「テーブル フォー ツー」に取り組んでいる学生団体とコラボする企画があります。また、私たち自身は「サステナブル・シーフード」を学食に取り入れたいと思っています。サステナブル・シーフードというのは、環境に配慮して獲られた海産物のことですね。これは長いスパンで取り組んでいるもので、予算をどこかから獲得して、来年くらいには実現したいと考えています。
――オンラインでの活動にも引き続き力を入れていくのですか?
オンラインは限界があるように見えて、限界がないと思います。顔の見えないところまで広がっていく可能性がありますから。私たちは早くからオンラインで情報発信し、毎日更新しようと頑張ってきました。そこにコロナ禍がやってきて、逆にTEHsの名前を知ってくれる横市生も増えた印象です。最初は「SDGs何?」って言っていた友達も、最近では私の顔を見るたびに「SDGsが思い浮かぶ」と言っていますね(笑)。
――どんどん周囲にSDGsを浸透させているんですね。
SDGsを達成するには、自分たちだけで「ゴールの何番に取り組もう」と活動するのもいいのですが、まずはSDGsの名前を広めないといけません。私たち少人数がペットボトルを利用しなくなっても、2030年までの達成は難しい。まずはSDGsを広く知らせて、みんなでペットボトルを買わないようにすることが大切ですよね。メンバーも募集中で、誰でも大歓迎。女性が多いので、男性メンバーも増えてほしいですね!
同じ授業を受けていた女子メンバーが多いので男性メンバーも大歓迎だそうです!(^^)
――最後に、同世代の皆さんにメッセージをよろしくお願いします。
学生も世界を変えられる、とみんなに思ってほしいですね。「学生だから」「社会人じゃないから」とつい考えちゃうけど、学生のほうが自由な時間は多く、学生だからこそできることもあるはずです。みんながペットボトルゴミを捨てないようにすれば、一気に国際問題は緩和します。一方、自分に甘えてペットボトルを捨てれば、それが国際問題に繋がります。良くも悪くも、全人類が世界の一員。そう考えれば、地球がもっと面白く感じられると思います。
国際的な問題も、私たちの身近な問題ですからね。自分の選択に責任を持って、モノを買う前に、一度立ち止まって、本当に必要なものかを考えてもらいたいな、と思います。
サークルプロフィール
TEHs:南亜加音さん・稲葉かれんさん
SDGsを横浜市立大学生全員に広めることを目標に活動を続ける学生団体。2019年度に立ち上げ、「横市生による横市生のためのSDGs」という理念のもと、学内でSDGsに関するイベントの企画・運営を実施している。
文:猿川佑
編集:マイナビ学生の窓口編集
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