「未来を切り開く、農業の挑戦者になる!未来農業フェスタ 2025」開催。ロールモデル農業者たちが語る、農業の可能性

仕事としての農業には、一体どんな魅力があるのでしょう。人手不足が叫ばれる農業ですが、ビジネスとして取り組み、成功に導いている若手農業者も多く存在します。今注目の農業者たちと未来の新規就農者との出逢いを生むためのイベント「未来を切り開く、農業の挑戦者になる!未来農業フェスタ 2025」が、2025年2月22日にコングレスクエア日本橋で開催されました。
イベントには次世代のロールモデルとなる7名の農業者たちが登壇。農業の未来についてトークセッションを行いました。
未来を切り開く、農業の挑戦者になる!未来農業フェスタ 2025」とは?
主催するのは「農業の魅力発信コンソーシアム」。農林水産省による「農業の魅力発信支援事業」を活用して発足され、民間企業5社が協力し、農業の魅力を発信するために活動しています。
イベントのテーマは“未来を切り開く、農業の挑戦者になる”。全国各地で活躍するロールモデル農業者たちに自身の体験談を語ってもらうことで、さまざまな人が仕事としての農業に触れる機会を作ろうと開催され、会場は大いに賑わいました。
開会の挨拶に立った農林水産省 経営局 就農・女性課長 尾室幸子さんは「今日のイベントは“地方創生2.0”や、“就職して始める農業”といった今の時流にピッタリな内容」とコメントし、「イベントを通じて、職業としての農業の魅力を感じ、地域のサポートも得ながら1歩踏み出していただけると幸いです」と参加者たちに語りかけました。
農業で地元に貢献。ロールモデル農業者たちが語る地域との関わり方
トークセッションは二部構成で行われました。第一部のテーマは「農業を通じた地域おこし」。マイファームおてつたびで受け入れ農家をしたことのある4名のロールモデル農業者たちが登壇し、農業を始めるきっかけや地域へのアツい思いを語りました。
ここからは、実際に「ロールモデル農業者」のトークセッションの中でとくに印象に残ったことをお伝えします。
奥村光希さん(Orchard muku.)
長野県喬木村で市田柿を栽培する奥村さんは、幼少期から祖父母が営んでいた農園を手伝っていたそう。しかし子供の頃の夢は音楽の先生。将来自分が農家になるとは思っていなかったといいます。
「私は若くして結婚し、子供を産んだのですが、生活が苦しかったときに祖父母の農園を手伝わせてもらったんです。そのことが農家を志すきっかけになりました。その後祖父が亡くなり畑を手放さなければいけなくなったのですが、子供の頃から走り回っていた農園を失うことが悲しくて『私が守りたい』と父に直談判したんです。猛反対されましたが、5年後、10年後の経営計画をプレゼンテーションして、なんとか説得することができました。
いざ就農すると決めて、役場の窓口に相談に行ったら、担当の方から開口一番『何故今なの? しっかり働いて50、60代で就農してもいいんじゃない?』と言われたのが印象的でしたね。てっきり応援してもらえると思っていたので驚きましたが、今思えば、私の本気度を試すためにわざと厳しいことを言って下さったのかもしれません。
子育てをしながら働ける農業は私にとっては天職だなと感じています。1番の大きな夢は、市田柿のネームを国内で広め、いずれ海外輸出をすることです。もっとしっかりブランディングをして、自分の名前の商品として売り出していきたいと考えています」(奥村さん)。
清水雅大さん(とのわファーム)
東京都青梅市で多品目野菜を育てる清水さんは、元・医療関係者。コロナ禍で多忙な生活を送るなか、心と体のバランスを崩して休みを余儀なくされたそう。
「体が元気になってきたとき『心の動くものに挑戦しよう』と始めたことのひとつが農業だったんです。東京の練馬区に住んでいたので、東京で農業をやっているところを探していて、たまたまインターネットで見つけたのが青梅の農家さんでした。最初はボランティアに応募して手伝いに行ったのですが、畑で仕事をしていると、とても気持ちが良かったんですよ。
『明日も手伝いにきていいですか?』と聞いたら『いいよ』と言われたので、そのまま通い続けていつの間にか居着いてしまった感じですね(笑)。そんな生活を半年ほど続けたあと、本格的に就農するために、会社を辞め、アグリイノベーション大学校に入学して農業を学びました。
青梅の農家さんは新規就農者に優しくて、応援してくださいますし、就農者同士の情報交換も盛んです。農業は今、転換期を迎えている非常にチャレンジングな業界。私はまだ農業を始めて間もないですが、都会からもアクセスの良い都市農業だからこそ、農業に興味を持つ方が気軽に遊びに来てくれればうれしいですね」(清水さん)。
石川智之さん、石川圭さん(いっぽファーム)
岩手県平泉市でイチゴとナスを中心に栽培する石川智之さん、石川圭さん夫妻。結婚後に岩手県に移住し、いっぽファームを立ち上げました。
夫の智之さんは岩手県出身。祖父の代まで専業農家だったこともあり、幼い頃から生き物には慣れ親しんでいたといいます。
「高校卒業後は県内の食品会社に就職したのですが、30歳を目前にし、地元に帰りたいという気持ちが強くなったんです。実家の農地や農機具などは立派な資産。それを活用して仕事がしたいと転職活動をしていたところ、株式会社マイファームと出逢い、入社して農業に携わるようになりました。私は地元に帰ってきて就農したので、地域に貢献したい気持ちが強いと思います。いっぽファームを地元の人たちから必要とされる存在にしていきたいですね」(石川智之さん)。
一方、妻・圭さんは全く農業に関係のない幼少期を過ごしたそう。
「最初に就職した出版社で忙しすぎて体を壊してしまって、食の大切さを実感しました。その後、青果の仲卸の事務職を経て、株式会社マイファームに入ったのですが、農家さんは皆熱い思いを持って仕事に向き合っているんですよね。その中で仕事をしているうちに自分も農業をやりたいと思うようになったんです。その後2年間の研修を受けて新規就農しました。
岩手に行くまで関東圏から出たことがなかったので、最初は文化や価値観の違いに戸惑うことも多くありましたが、今ではコミュニケーションが取れるようになりました。岩手県に移住して5年が経ちますが、農業を通じて地域の魅力をもっと発信していきたいと考えています」(石川圭さん)。
一人じゃないから安心して働ける。雇用就農ならではの魅力

第二部のトークテーマは「雇用就農という選択肢 」。農業の中でも雇用就農という道を選んだ3名が登壇し、農業の魅力を語りました。
永崎亮太さん(有限会社トップリバー)
有限会社トップリバーに入社して4年目の2020年、26歳の若さで自社農場の一区画を管理する農場長となった永崎さん。翌2021年に自社農場全域を管理する統括農場長となり、現在は、約80ヘクタールもの作付面積を誇る広大な圃場の管理と、従業員の人材育成などに力を注いでいます。そんな永崎さんですが、元々は独立就農を目指し、会社に入社したそうです。
「祖父母は兼業農家で酪農をしていましたが、僕自身は農業とほぼ無縁の子供時代を過ごしました。将来の仕事として農業を意識し始めたのは学校の授業ですね。授業の中で、農業が人手不足で困っているというのを教わり、自分が農業に携われば人の役に立つのかなと思い、農家を志しました。
有限会社トップリバーでは3年〜6年のサイクルで日本中で農業者を独立させ、業界全体を盛り上げていこうとしています。自分もいずれ独立就農するなら、マッチするかと思い、入社を決めました。
城樂七海さん(朝霧メイプルファーム)

もともと動物園の飼育員を志していた城樂さん。大学4年生の頃、第一希望の動物園の採用まで時間があったことから、他に動物と関わる仕事を探していたなかで朝霧メイプルファームを知ったそうです。
「酪農の仕事は休みが少なく、体力面もキツそうというイメージがありました。女性の私にとっては厳しいだろうなと。ただ就職活動の中で今の会社と出会い、そのイメージがガラッと変わりました。雇用就農なので休日をしっかり取れ、安定的にお給料ももらえます。すごく安心感を覚えて、選択肢の1つになりました。
朝霧メイプルファームでは、ジョブローテーション制度というのがあり、3年間の研修期間が設けられています。一通り研修を受けると、餌作りや仔牛の世話など酪農全般の業務ができるようになります。
私はまだジョブローテーション中ですが、動物飼育の技術を習得して、プロフェッショナルになりたいと思います。雇用という就農スタイルは、仕事も自分の趣味の時間も充実させられるはず。ぜひ皆さんも選択肢のひとつに入れていただければと思います」(城樂さん)。
今村 潤さん(アップデート株式会社)
今村さんは新卒で農業機械メーカーに入社後、農業メディア事業会社を経てアップデート株式会社に入社。現在は栽培管理の統括をしています。
「私は会社員を経て就農しましたが、最初自分で農業をやるという気持ちはなかったんです。ただ昨今の米不足の問題をはじめ、食料危機などを目の当たりにして、農業を仕事にするという選択肢が生まれました。就農する前の農業に対するイメージは“キツイ”。確かに実際就農してみて、キツイと感じる作業もありますが、青空の下、ストレスフリーで仕事ができるのはとてもうれしいこと。
アップデート株式会社は、離農する農家さんから事業継承を受ける形で始まった農業法人です。今年で3年目になりますが、離農される方としっかり向き合うことが必要だと日々感じています。時代とともに事業継承の需要はますます増えていくので、その中で生まれるさまざまな課題を解決できるパイオニアになっていきたいです。
雇用就農の魅力は一人ではないというところ。チームで取り組む良さがありますし、人脈を作っていくことができます。のちに独立を目指していても、必ず役に立つと思います」(今村さん)。
参加者とロールモデル農業者が実際に交流できるマッチングブース
会場には個別ブースも設けられ、先輩農業者たちと来場者が和やかにコミュニケーションをとる姿が見受けられました。7名の農業者のリアルの声を聞くことができたイベント。仕事としての農業の魅力、そして農業の未来を感じられるいい機会になったはずです。
■「農業の魅力発信コンソーシアム」
農業の魅力発信コンソーシアムは、農林水産省の補助事業を活用し、農業現場で活躍する「ロールモデル農業者」との接点を通じてこれまで農業に関わりのなかった方が「職業としての農業の魅力」を知る機会を創るために、イベントの開催やメディア・SNSを通じた情報発信を行っています。
公式HP:https://yuime.jp/nmhconsortium/
取材・文/安藤茉耶
編集:学生の窓口編集部
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