【世界で活躍するZ世代】視覚障害者の方が安心して横断歩道を渡れる世界を目指して…「ジェームズ ダイソン アワード2023」で国内最優秀賞を受賞した、法政大学でデザイン工学を学んだ田中郁也さんにインタビュー!
こんにちは!学窓ラボ リリースピッカ―のふじです。【世界で活躍するZ世代】の活躍や、その裏側のストーリーを学生目線でお届けします。
今回は「ジェームズ ダイソン アワード2023」で国内最優秀賞を受賞した、法政大学デザイン工学部システムデザイン学科卒の田中郁也さんへインタビューしました。
「ジェームズ ダイソン アワード」とは、ジェームズ ダイソン財団が主催している、「問題を解決するアイデア」をテーマに掲げ、革新的で起業家精神に溢れたエンジニアリングやデザインを専攻する学生や卒業生を対象とする国際エンジニアリングアワードです。
次世代のエンジニアやデザイナーの支援・育成を目的に2005年より開催する本アワードに対し、今年は世界30か国より1,900以上の応募がありました。
日本国内最優秀賞には、法政大学(卒業) 田中郁也さん、日本大学(卒業) 成嶋 セルジオ 正章さんによる、視覚障害のある人が安心して横断歩道を渡るための歩行者用信号認識プロダクト「AISIG」が決定!「AISIG」は視覚障害のある人が安心して横断歩道を渡るための歩行者用信号認識プロダクトです。AIによる画像認識を用いて歩行者用信号機の色を判定し、青の時は短い振動、赤の時は長い振動といった振動パターンの違いで、判定結果をユーザーに伝達します。このデバイスによって視覚障害者の生活圏の拡大を目指しているとのことです。
※「ジェームズ ダイソン アワード」はエンジニアリング(工学)、プロダクトデザイン、工業デザインを専攻する学生、卒業・修了して4年以内の方が応募対象となっており、田中さんは既に法政大学を卒業されています。
視覚障害のある人が安心して横断歩道を渡るための歩行者用信号認識プロダクト「AISIG」…アイデアはどうやって生まれた?
――田中さんは大学ではどういった勉強をされていたのですか?
法政大学デザイン工学部でものづくりの一連の流れを学んでいました。具体的には、世の中の課題を見つけるフィールドワークから、3DCADを使ってものを形にしていました。
――今回どういったことがきっかけで「AISIG」のアイデアを思いついたのでしょうか?また、アイデアを形にするためにどのように動かれたのですか?
チームメンバーである私の友人に視覚障害があるのですが、その友人だけでなく周りの同じハンディキャップを持っている人も横断歩道が渡れなくて困っているという話を聞いて、解決してみたいと思ったことがきっかけです。 まずは3~4人のチームメンバーに話を聞いて、試作機ができた段階で盲学校の先生十数名と信号で困難を感じている当事者の方10名程度に利用していただきました。
――今回このアイデアで「ジェームズ ダイソン アワード2023」に参加したきっかけを教えてください。
別で出たアワードで知り合った方に“「ジェームズ ダイソン アワード」にもアイデアを出してみたら?”とお声がけいただいたり、所属していたゼミの先生に薦められたことがきっかけです。
――「AISIG」の仕組みや機能について具体的に教えてください。また、特に工夫されたポイントや苦労した点があれば教えてください。
「AISIG」は、歩行者の状況を白杖の傾きから検知し、信号機の色を画像認識で把握し、それを振動で伝える仕組みになっています。特に工夫した点は、利用者の普段の動きにできるだけ何も加えないようにした(他の動作や負荷をかけないようにした)ところや、白杖の傾きで横断歩道にいることを認識が可能なところです。苦労した点は、カメラがついているデバイスを使用することで、普段の白杖に物が乗ったときに重さなどが変わらないようにした点です。1カ月くらいで調査し、3カ月くらいで試作機が完成しました。試作段階では指輪型やネックレス型などの形状も考えていましたが、利用者の方が普段から毎日使っている白杖に取り付けるデバイスがベストだと感じました。
――「AISIG」を世の中に広めることでどういったことを解決し、どんな世の中にしていきたいですか?
まずは、“視覚障害のある人が横断歩道を渡ることは命がけなのだ”という事実を認知していただきたいです。実際に日本で音響信号機が設置されているのか、音響信号機が無いと視覚障害のある方々にとってはどれくらい危険なことなのかということを広く知っていただくきっかけにしたいと思います。(現在、日本国内の音響信号機は全信号機のうち約10分の1程度しかないそう)
日本には130万人ほど視覚障害のある方がいらっしゃるのですが、将来的にはより多くの方に使っていただきたいと思っています。
――現在田中さんは大学を卒業されているとのことですが、今のお仕事でも大学で学んだことが活かされていますか?
はい。現在もデザインや設計関連の仕事に就いており、学生時代に学んだ考え方を活かしながら働いています。実際の仕事でプロダクトをデザインする際にも、ユーザーがどのような課題を抱えていて、どういったものを求めているのかを探りながらものづくりをしています。
――大学生のみなさんに伝えたいことはありますか?
私は学生の時“機会を逃さないようにすること”を意識していました。「ジェームズ ダイソン アワード」のようなコンペティションなどもそうですが、友人や先生から“やってみないか”と声をかけてもらったことには、難しそうだと思っても前向きにチャレンジするようにしていました。そのチャレンジ自体が自分自身の成長に繋がっていると感じるので、大学生のみなさんにもぜひ積極的にいろいろな場所でチャレンジをしてほしいと思います。
「ジェームズ ダイソン アワード」を主催するダイソン社員さんからの声
――今回田中さんと成嶋さんが考案した「AISIG」が高い評価を得たポイントはどういった点ですか?
ジェームズ ダイソン アワード審査員の一人で、Dysonのデザイン エンジニアでもある菅原は、「明確な問題とそれに対するアプローチが一貫しており、段階的で科学的な検討を経て現在の解決策にたどり着いている事がうかがえる。現在の白杖にデバイスを装着するというアイデアは、使用者が元々使用する道具を上手く利用しており、且つ操作やフィードバックも極端に不自然な動作を必要としていない事から解決策として綺麗にまとまっている。今後の更なる改良が楽しみである。」と述べています。
――過去日本の学生のアイデアで高く評価されたものはありますか?あれば具体的に教えてください。
直近では失われた声を取り戻すウェアラブルデバイス「Syrinx」が高い評価を受けています。「Syrinx」は、喉に外部から声の素となる振動を与えることで、喉頭を摘出し発声能力を失った人などが再び人と話すことができるデバイスです。詳細はこちらのページをご覧いただければと思います。
ー「ジェームズ ダイソン アワード」で受賞したアイデアで、実際に商品化されたものはどんなものがありますか?
海外の事例ではありますが、実際受賞したアイデアの約7割程度が商品化されています。直近で一番印象的な事例では、2014年の国際最優秀賞作品である持ち運び可能な早産児用の保育器「mOm incubators(マム・インキュベーター)」です。発明家のジェームズ・ロバーツさんは受賞後も開発を続け、今年ウクライナへいくつかの製品を送り、早産児のケアに役立ててもらっているそうです。他にも多くの受賞作品が現在も様々な場面で役立てられています。詳しくはこちらのページをご覧ください。
――「ジェームズ ダイソン アワード」への想いや、日本の大学生のみなさんに伝えたいことをお願いします。
生粋のデザイン・エンジニアであるジェームズ・ダイソンは、次世代の育成に非常に力を入れて取り組んでいます。本アワードの設立当時、ジェームズ・ダイソンは、エンジニアになりたい人が年々少なくなっていることに危機感を感じ、財団を立ち上げました。自分のアイデアをより多くの人に見てもらい発展させるための経済的な援助ができる場を定期的に作っていきたいと考えています。
日本の学生さんには、完璧ではなくてもよいので自分のアイデアを伝えるチャレンジを積極的にしていってほしいです!人からフィードバックを受けることを恐れず、身近な人だけでなく、より多くの人のアイデアを聞きながら自分のアイデアをブラッシュアップしてほしいです。このフローはどんな職業でもとても重要なことだと考えています。
また、「ジェームズ ダイソン アワード」は色々な国の学生さんと競い合える場です。単に成長の場になるだけでなく、自分自身のネットワークに繋がったり、自分のアイデアをビジネスとして大きくできるキッカケになることもあります。日本の学生さんにとっては言語やプロトタイプが応募の際のハードルとなっているというお声をいただいたり、より高度な試作品を求められていると考えられがちですが、物事の精度を高めていく、また試作を繰り返す過程の中で、自身のアイディアや考えを他者と共有するということが求められるかと思います。このアワードにも、いくつかの審査過程があるため、「(他者に)どう伝えることが、今後に活かせるのか」という、トライ&エラーの経験の場として捉えていただけると嬉しいです。ぜひ当アワードをみなさんの学びの機会として捉え、チャレンジしてほしいと思います。
取材を終えて…
身近な問題に向き合い努力を重ねてきた田中さんの姿勢は、私たちも見習うべき点がたくさんありました!
皆さんも、自分のアイデアを広く伝え、フィードバックを受けながら成長し、国際的な競争の場に挑戦する機会に積極的に挑戦してみてください。
協力:ダイソン ジャパン
ライター:ふじ(学窓ラボメンバー)
取材・編集:ろみ(学窓編集部)