好きな人への告白、並んだ「Re:」、そして。さえりさんの #平成といえば

夏生さえり

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平成最後の夏もおわりを迎える。ご存知の通り、今年で平成はおわってしまう。それに伴ってさまざまな記事執筆依頼が来た。これもそのひとつ。「さえりさんにとっての #平成といえば 何でしょうか?」と言う。


わたしにとっての #平成といえば…… と、聞かれても正直困る。


なにせ、わたしは平成生まれ。平成といえば、「人生そのもの」としか言いようがない。でももし何かひとつあげるとすれば、とある恋のはじまりとおわりだろうか。


16歳の頃、好きな男の子に告白をした。


目は切れ長で背が高い、他校のAくん。男友達の親友だった。ファミリーレストランで男友達を見つけ、話しかけに行った時に隣にいた。陽気でお調子ものの男友達とは違い、Aくんは出しゃばらず、横で静かに笑っていた。そのクールな雰囲気に、いや、そもそも見た目そのものに、わたしは人生ではじめての一目惚れをしたのだった。


あんなにわかりやすい一目惚れをしたのは、後にも先にもこの時だけだ。男友達の横を離れる頃には、すっかり恋をしていたし、一緒にいた友達にさえ話していた。「あの人、やばい」。


今思えば一目惚れって、あの頃にしかできないような気もする。恋に対して不安がない状態じゃないと、そんな無謀なことはできない。何もわからなかったのだ。だから簡単に、無邪気に恋をした。


男友達から連絡先を聞き出し、メールを交わした。後から知ったことだが、Aくんはモテる男の子だった。中学生の頃には、ファンクラブさえあったという。きっとわたしの知らない高校生活のなかで、彼に想いを寄せている人もいるだろう。他校で接点の少ないわたしに、どうやって興味をもってもらえばいい?


夜はメールを終わらせてしまわないように、寝たふりをした。次の日に「ごめん、寝ちゃった」と言ってメールを送れば、「Re:」が途絶えることはない。彼が一度送ってきた変なキャラクターの写真を思い出して、その後、街で見かけるたびに写真を撮って送った。


ベタな方法は一通り試した。彼が好きというMr.ChildrenのCDも借りたし、HYのMDも借りた。


今までほとんど聞いたことのなかったMr.Childrenアルバムの1曲目は、今でも覚えている。じゃかじゃーんという音からはじまる、『名もなき詩』という曲だ。壊れかけたCDコンポの横にバカみたいに突っ立って聴いた。


「ちょっとくらいの汚れ物ならば、残さずに全部食べてやる Oh darlin」。歌いだしは、そう言う。変わった曲だな、と思った。好きになれるかどうかはわからなかったけれど、当然こう送った。「いいね。結構好き」。


告白のきっかけになったのは、Aqua Timezの『千の夜を越えて』という曲だった。当時、音楽番組をつければ必ずと言っていいほどAqua Timezが出演していて、Aqua TimezかORANGE RANGEの曲は必ずカラオケで歌われる定番だった。放課後に行くカラオケのために、実家の淡いピンクの湯船に肩まで浸かってお湯を震わせながら、口ずさんでいた。


「怖くたって、傷ついたって、好きな人に好きって伝えるんだ。気持ちを言葉にするのは怖いよ。でも好きな人には好きって伝えるんだ」


このフレーズにたどり着いたとき、この歌は自分のための歌ではないか、と思った。「そうだ。今日、言おう」。ざばっと立ち上がると、お風呂のお湯がわたしの身体をかけぬけていった。言おう、言おう、言おう。伝えよう、伝えよう、伝えよう。半ば興奮状態で髪の毛を乾かした。まだ染めたことのなかった黒髪は、踊り狂っていたことだろう。

手段は、メール。なぜか、文面まで思い出せる。



ねえ、わたしがA君のこと好きって知ってた?



少しだけスクロールをしたその下に、書き付けた。

結局その日は「ちょっと考えさせて。明日メールするね」と言われてしまったけれど、次の日、放課後にメールが来た。



「これからよろしくね」


そう書いてあった。


夕暮れの教室で、友達2人と話していたわたしは「ああああああ」などと奇声をあげながら走りだした。まっすぐに続く廊下。誰もいない教室の横。短いスカートの裾を跳ね上げながら駆けて行ったのは、感情を受け止めきれなかったから。落書きだらけのスリッパから、かかとをつぶしたローファに履き替え、学校の門まで走った。


そうして「なに!?」と言いながら、追いついた友人に報告をした。


これからよろしくね、だって


文面の後ろについていた、太陽のマークも覚えている。こうしてわたしたちは、晴れて“付き合う”ことになったのだった。


彼から来るメールの着メロは、aikoだった。『Power of Love』という曲。彼と会う直前は何度でも緊張したし、デートに行く前には親友にコーディネートの写真を送った。


不慣れなくせに、髪を巻いてみたりもした。彼が、「さえりの髪、黒を通りこして青く見えるね」などと言った、あの寂れた商店街のことも思い出せる。彼を見上げると、向こう側から太陽が射していて眩しかった。


大好きだった。「もう決めたもん、俺とおまえ50になっても同じベッドで寝るの」だと思っていた。はず、なのに、50歳どころかわたしたちは一度も同じベッドで寝ることもなく、それどころかキスをすることもなく、半年であっさりと終わっていった。



好きじゃなくなるのは、早かった。
無邪気に恋をして、無邪気におわりを迎えた。
あれを「若かった」と言わずして、なんと言おう。


大学になって住む場所さえ離れ離れになってしまったけれど、彼とは今でも友達だ。つらい時はいつだって連絡をしたし、彼の話もたくさん聞いた。恋人としては序章だけで終わってしまったような関係だったけれど、友人としては今でもうまくいっている。


大学の頃までは、まだ彼もわたしのことを異性として好きでいてくれて時に意味深な空気も流れたこともあったが、大人になるにつれ徐々に彼女の話もするようになり、わたしも彼氏の話をするようになった。

もうAqua Timezは聞かないし、着メロはなくなってしまった。LINEを交わしても「Re:」はつかないし、もらったプリクラをフルフルシャーペンの中にいれることも、彼の高校のバッジを通学カバンにつけることもない。


そんな彼が、つい先日こう言った。


「おれ、そろそろ結婚するかも」


東京のスタバでおしゃれなジャズを聴きながら、わたしはスマホを片手にその連絡を受け取った。目の前にはパソコンと、山積みの原稿。もう叫ぶこともないし、走り出すこともない。静かに、あたたかなラテをすする。その足元は買ったばかりのヒールだった。


そのとき思った。
これがわたしの平成の終わりだな、と。


夏生さえり
山口県生まれ。フリーライター。大学卒業後、出版社に入社。その後はWeb編集者として勤務し、2016年4月に独立。Twitterの恋愛妄想ツイートが話題となり、フォロワー数は合計18万人を突破。難しいことをやわらかくすること、人の心の動きを描きだすこと、何気ない日常にストーリーを生み出すことが得意。著書に『今日は、自分を甘やかす』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『口説き文句は決めている』(クラーケン)、『やわらかい明日をつくるノート(大和書房)』、共著に『今年の春は、とびきり素敵な春にするってさっき決めた』(PHP研究所)がある。


文・写真:夏生さえり
編集:学生の窓口編集部

僕とわたしの #平成といえば

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