連載2回~4回でお伝えした、就活アドバイザーの才木さん流自己分析は、「最も打ちこんだこと」という一つのテーマを掘り下げていく「ワンテーマ自己分析」でした。これを実践し、内定を獲得した先輩の成功事例を、才木さんから紹介してもらいました。
<1年活動しても内定ゼロだったAさんの場合>
私が自己分析の指導をした就活生Aさん(女子)の事例です。
彼女は就活への意識が高く、大学3年生の5月から熱心に自己分析を始め、就活に取り組んでいました。ところが1年活動を続けた4年生の5月になっても内定ゼロのままで、1次面接にもほとんど通らない……。そこで私のもとへ相談にやってきました。話を聞きながら、「ワンテーマ自己分析」を一緒にやり直すことになったのです。相談に来る前と後の、分析結果と導き出した自己PRのための「キーワード」の違いは歴然です。ぜひ皆さんの自己分析の参考にしてください。
<打ち込んだこと>
中学時代……バドミントン部の活動
部活仲間には小学校時代からの経験者もいたが、Aさんは未経験。それでも部を率いたいとの想いから、立候補して、未経験ながら部長を務めた。
高校時代……大学受験の勉強
がむしゃらに勉強したが、現役では合格できず浪人。浪人時代はさらに勉強したが、合格したのは第4志望の大学。
大学時代……留学生のサポート
留学生の生活のサポートをマンツーマンで行った。留学生との交流は深めていたが、志望校でなかったこともあり、大学では友人をあまり作らなかった。
<自己PRのための「キーワード」>
「柔軟性があります」
上記の「打ち込んだこと」のエピソードと「キーワード」では、選考にことごとく通らなかったということですが……。何がいけなかったのか、みなさんはお分かりになりますか?
Aさんの自己分析の問題点
彼女の自己分析では、中学・高校・大学時代に打ち込んだことと、自己PRのための「キーワード」の間に関連性がありません。彼女は「柔軟性がある」という自己PRを、自己分析から導き出したのではなく、どこの企業でも好印象を与えるからという理由で選んだのでした。これでは自己PRに説得力が出るはずがありません。
連載第2回・第3回で紹介した「ワンテーマ自己分析」で分析し直した結果、彼女の特性は「不安要素や改善点をみつけるのが苦手な人」と言えると思いました。
例えば、大学受験に失敗したのは模試で合格ラインの判定が出なかった大学をがむしゃらに受験したから。模試の判定結果から苦手な科目を改善しなかったのが大きな要因です。また、就活も早くから自己流で取り組んだものの、改善点を見つけられなかったから、内定に結びつかなかったのです。
こう言うと、とてもマイナスな特性に聞こえますね。しかし、見方を変えれば、「熟考するよりも自分が思ったままに突き進む」という強い個性と言うことができます。
「短所もしっかり自覚することが重要」と以前述べました。短所はどう乗り越えるかが重要なのです。Aさんの場合は短所を強い個性ととらえることで乗り越えることにしたのです。この個性がマッチしさえすれば、マイナスどころか大きなプラスになる可能性があると考えました。
新しい「キーワード」で内定獲得!
相談の結果、私は彼女の自己PRのための新しい「キーワード」を
「私は心では考えられますが、頭で考えることは少々苦手です」
に決めました。
何事においても、彼女は「よくよく考えて無理そうだからやめる」といような選択はせず、成功するかどうかは別として、「こうと決めたらその道を行く」タイプという意味です。中学時代は未経験のスポーツに挑戦し、経験者をさしおいて部長を務めましたし、高校時代も自分が受けたい大学は変えない! というスタンス。大学では友だちづきあいを楽しむこともせず、興味のあることのみに向き合い、我が道を貫いた感があります。これらのエピソードと上記の新しい「キーワード」をつなげると、自己PRに一貫性を出すことができます。
一見、相手がちょっと驚くようなマイナスな表現を使ったので、Aさんも渋々でしたが、この自己PRを携えて面接に臨みました。結果はというと……、2週間後に大手企業に内定! 面接官からは「うちの会社は慎重に熟考する社員ばかり。でもあなたのように突き進む人も必要なんです」と言われたそうです。
面接官は多くの就活生に会い、さまざまな話を聞きます。短時間でその就活生の人物像を描けなければ、採用の判断もできません。彼女が内定を得ることができたのは、自己PRに一貫性があったことで人物像がしっかり伝わり、企業にマッチするかどうかを検討してもらえたからです。
文・磯野佳世子
才木弓加・プロフィール
大学などでの就職対策セミナーの講師を務めるかたわら、自ら就職塾を主宰し、 直接学生への指導にあたる。就職本も多数執筆。
就職情報サイト 「マイナビ」(http://job.mynavi.jp/)では、 イマドキの就活のノウハウを熟知した講師として、エントリーシート、面接、自己分析、 就活マナーなど、多方面から「才木流」の内定獲得術を伝授。著書に「自己分析の「正解」がわかる本」( 実務教育出版社) 「サプライズ内定」(角川マガジンズ)「面接担当の質問の意図」(マイナビ)など。