韓流コンテンツが飛躍を遂げた仕組みとは?韓国メディア産業に起こった“大きな変化”を紐解く『韓国ドラマ全史 なぜ世界的ヒットを連発できるのか?』#Z世代pickブック

いと(大学生ライター)

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こんにちは! 韓国・慶煕大学で学んでいた いと(東京外国語大学 4年生)です。

日本だけでなく世界でも多くのファンがいる韓流ドラマ。学生のみなさんの中にも好きな方も多いのでは?中には親や祖父母3世代で韓国ドラマ“沼”にハマっている、なんて方もいるでしょうか…?

今回は、そんな韓国ドラマが発展を遂げた25年間の歴史や背景を読み解くことができる書籍『韓国ドラマ全史 なぜ世界的ヒットを連発できるのか?』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)第5章 韓国型スタジオシステムとドラマビジネスより、一部を抜粋してお届けします。

『梨泰院クラス』、『私の解放日誌』SLL

2020年、全世界を一変させた出来事といえば、COVID-19の拡散である。人々の行動が制限され、ライフスタイルが大きく変わったと言っても過言ではない。誰かと会って話すこともままならず、ほとんどの人が自宅でパソコンに向かいリモートワークを余儀なくされた。そのような時期に、多くの人々を最も楽しませ、癒したのは、ドラマや映画といった映像コンテンツだった。
その時期、韓国コンテンツが再び世界から注目を集め、日本では「第4次韓流ブーム」が巻き起こった。映画業界では、ポン・ジュノ監督の『パラサイト半地下の家族』がアカデミー賞で4冠を達成し、その人気が続いていた。一方、ドラマ業界では、インターネット配信プラットフォームを通じて全世界に届けられた韓国ドラマが話題となり、ホームエンターテインメントに欠かせない存在となった。
その話題のドラマの一つが『梨泰院クラス』である。ウェブトゥーン『梨泰院クラス』を原及し、『六本木クラス』としてローカライズされた。ウェブトゥーンに加え、2022年には「日韓共同プロジェクト」としてドラマまで制作されるほどの関心を持たれた。韓国ドラマで印象的だった主題歌も日本でカバーされ、一つのストーリーの世界観が日韓を行き来するかのような体験を提供した。
そもそも韓国ドラマは、原作のないオリジナルストーリーで勝負することが多い傾向があった。しかし、『梨泰院クラス』は原作を再構成する可能性を改めて示し、その点でも高い評価を得た。この作品を手掛けたのは、制作会社「SLL」STORIES, LEAD, LIFE、以下SLL)である。
SLLは1999年9月、中央日報のインターネットサービスを運営する「CYBER中央」として設立された。その後、2007年5月にコンテンツ制作会社「ドラマハウス」を設立し、ドラマの受注制作事業を本格的に開始した。
その2年後、韓国国内のメディア産業で大きな変化が起きた。2009年、韓国では新聞法と放送法の改正案が成立し、新聞社による放送局の兼業が可能となった。さらに、メディア関連法の改正により、総合編成チャンネル(報道、教養、娯楽など多様な放送分野を調和させた番組編成を行うチャンネル)の導入が実現した。それに従い、2010年には、総合編成チャンネルの運営事業者として中央日報、朝鮮日報、東亜日報、毎日経済新聞の4社が選定され、2011年にそれぞれ開局したのが、JTBC(中央日報)、チャンネルA(東亜日報)、TV CHOSUN(朝鮮日報) 、MBN(毎日経済新聞)の4つのチャンネルである。
2011年6月、SLLの前身会社はJTBCの開局を控え、「ジェイキューブインタラクティブ」に社名を変更。同年12月には、JTBCコンテンツの流通を担当する「ジェイコンテンツハブ」を設立し、現在のSLLに近い形を整えた。その後、2013年には「ドラマハウス」と合併し、本格的にドラマ制作および放送事業へと進出した。2016年には「JTBCコンテンツハブ」、2020年には「JTBCスタジオ」へと社名を変更し、コンテンツの企画・開発、制作、投資、流通を体系的に行うスタジオ体制を構築した。そして、2022年には「SLL」へと生まれ変わり、グローバルメジャースタジオを目指す新たな第一歩を踏み出した。
SLLの特徴は、総合編成チャンネルであるJTBCとの安定した流通連携に加え、大手新聞社のバックアップにとどまらず、多数の競争力ある制作会社やレーベルと協力し、制作力を強化してコンテンツの新たな地平を切り開いている点にある。
その一つが「協業強化」である。2023年8月時点で、SLLは12のレーベルと提携し、209人のクリエイターとともに382作品を生み出している。それぞれのレーベルにはSLLが20%以上の持分を保有しており、プラットフォームやフォーマットにとらわれない柔軟な制作体制を実現している。国内外の優れたクリエイターたちと協力し、完成度と話題性の高い作品を生み出し続け、コンテンツトレンドをリードすることを目指している。
このような体制を整えたことで、テレビドラマの枠を超えた大作が次々とヒットを生んでいる。その一例が『今、私たちの学校は…』である。突然ゾンビウイルスが蔓延した高校に閉じ込められた生徒たちが、クスで非英語部門5週連続1位を記録した。また、南米スリナムでビジネスを始めた起業ために力を合わせて戦う物語は、ネットフリックスで非英語部門5週連続1位を記録した。また、南米スリナムでビジネスを始めた起業家が麻薬組織の摘発に挑む韓国国家情報院の作戦に巻き込まれるストーリー『ナルコの神』も、ネットフリックス公開から4日目に1位を達成した。さらに、東南アジアで「カジノ王」として名を馳せた男の波乱万丈な人生を描く実話ベースのクライム超大作『カジノ』や、岩明均の漫画『寄生獣』をドラマ化した『寄生獣-ザ・グレイ-』も話題となった。
SLLは、新規株式公開(IPO)を推進していることでも知られる。遅くとも2026年3月までの上場を目指しており、ビジネス全体の改善に注力している。既存のドラマ制作スタジオ事業だけでなく、芸能や音楽も含めた「総合コンテンツの知的財産(IP)事業者」とてのポジション確立を目標としており、「第2のCJ ENM」を目指している。

その一環として、初めて音楽事業に進出した。SLLは、YGエンターテインメントの子会社であるYGプラスと提携し、新たな音楽レーベル「アンコア(UNCORE)」を設立。このレーベルでは、音楽コンテンツ制作、パフォーマンス企画、音源およびアルバム流通を主な事業とする。YGプラスはグローバルファンダムの拡大や国内外での体系的な活動を支援し、協力する予定だ。最初のアーティストとして、2924年10月から始まったJTBCで放送中のサバイバ年ルオーディション番組『プロジェクト7(PROJECT7)』の最終選抜メンバーたち』の最終選抜メンバーたちをデビューさせる計画である。2025年上半期からマネジメント活動を開始し、音源、アルバム、公演、そしてIPに至るまで活動の幅を広げる予定だという。
海外展開も活発で、最近SLLが制作したドラマがさまざまな国でリメイクされ、注目を集めている。財閥オーナー一家のリスク管理を担当する秘書が、ある日突然財閥の末息子として生まれ変わり、再び人生を歩むことになるファンタジードラマ『財閥家の末息子~RebornRich』 はタイでリメイクされる予定だ。また、 先天的な怪力を持って生まれたト ・ボンスンが繰り広げる活躍とロマンスを描いた『力の強い女ト・ボンスン』はマレーシアで、さらに『医師チャ・ジョンスク』はトルコで、そして『ミスティ~愛の真実~』は中東でリメイクされることが決定している。日本においても、SLL制作の作品は引き続き注目を 『スカイキャッスル』 、 『わかっていても』 、 『怪物』といったリメイク版が続いている。
2021年にはアメリカの制作会社Wiip( 『メア・オブ・イーストタウン/ある殺人事件の真実』などを制作)を買収し、ハリウッド進出を狙い、イギリス、アイルランド、オランダなどヨーロッパ地域で韓国コンテンツをより便利に視聴できるように、楽天TV(Rakuten TV )の新規FASTチャンネル「ロムコムK-ドラマ(ROMCOM K-Drama) 」にドラマを提供している。
SLL代表取締役のチョン・ギョンムン氏は、2024年6月に開催されたセミナーで次のような見解を示した。文化的割引率が低く、参入障壁が相対的に低い新興国市場をターゲットとしたオーダーメード型戦略の必要性を強調し、さらにAI技術を活用した短編映画などの実験的コンテンツの登場が、今後の話題性を生む可能性を指摘した。しかし、一方で、これらの新しい取り組みにおいては、明確な収益モデルが確立されていない現状が課題となっており、業界の主流となるには限界があると述べた。

Z世代ブックピッカーのレビューコメント

自身の経験に照らし合わせても、コロナ禍で自宅での時間を楽しむにあたって、VODサービスが急速に普及したことで、日本での韓流コンテンツの浸透もぐっと進んだように感じます。また、韓国ドラマの日本リメイク版も珍しくなくなったことで、圧倒的に韓国ドラマを見ることへのハードルが下がったと思います。私は大学で韓国語を専攻していることもあり、友人から「おすすめの韓ドラある?」と聞かれることも多いです。それだけ韓国ドラマをはじめとするコンテンツが身近になったということだと思うので、なんだか嬉しいです。

『韓国ドラマ全史 なぜ世界的ヒットを連発できるのか?』

「冬のソナタ」から「イカゲーム」まで25年間の挑戦と試行錯誤の軌跡!

韓国のコンテンツ発展の大きな転換点となったのは、1997年の通貨危機とIMF救済であったことはご存知でしょうか?
この時期、韓国ドラマは従来の華やかなトレンディドラマから、家族愛や絆を描くIMF型ドラマへと変化。これが後の「韓国ドラマらしさ」を形成する要因となったと言います。
近年では、Netflixなどのグローバルプラットフォームの台頭により、制作会社の立場が強化。従来の放送局主導の制作から、制作会社が企画・開発から権利管理まで一貫して手掛ける「スタジオシステム」への移行が進んでいる。また、若手クリエイターの育成や共同執筆システムの導入など、新たな試みも活発化しているそう。
韓国コンテンツの成功に日本のコンテンツビジネスは何を学ぶべきか?を読み解ける一冊です。


著者:黄仙惠
定価:1,650円(税込) 発行日:2025年3月21日
詳細ページ:https://d21.co.jp/book/detail/978-4-7993-3132-3

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いと(大学生ライター)

いと(大学生ライター)

映画を見ることや旅行に行くことが好き。最近はソウル市内の小さな映画館を訪問することにはまっています。

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