お餅が喉に詰まったら結局どうすればいいの? #もやもや解決ゼミ
日常に潜む「お悩み・ギモン」=「もやもや」を学術的に解決するもやもや解決ゼミ。
冬の時期には「お餅を喉に詰まらせて呼吸困難になる人」が激増します。実はこのような事故は非常に多く、消費者庁の資料によれば1月には10万人当たり「1.93人」が「お餅を喉に詰まらせて救急搬送」されています(高齢者)※。
日本の人口は1億人以上なので単純計算でも全国で1,930人が救急搬送されているわけです。
それだけ身近な事故の「お餅による呼吸困難」ですが、実際にあなたの目の前で人がお餅を喉に詰まらせたらどうすればいいのでしょうか?
救急救命医のご経験を持つ『MYメディカルクリニック』の笹倉渉院長先生(医師)に教えてもらいました!
※⇒参照・データ引用元:『消費者庁』「御注意ください、高齢者の窒息事故!」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_009/pdf/caution_009_181226_0001.pdf
お餅での窒息は、現場での迅速な対応がカギ
誤って何か異物を気道に飲み込んでしまい、これが気道をふさいで呼吸困難になる。これを「気道異物(による窒息)」といいますが、日本では気道異物による窒息で亡くなる人は1月が一番多く、つまりお餅を喉に詰まらせる人が多いのです。
私は救急救命医の経験があるので実際にお餅を喉に詰まらせた患者さんにも対応したことがありますが、医師として一番早く確実な処置は「直視下でマギール鉗子(かんし)を使って取り除く」ことです。
気道をふさがれると呼吸ができず、5-8分で低酸素状態に陥り、脳に酸素がいかなくなるとたとえ心臓が動いていても脳死状態になってしまいます。お餅を喉に詰まらせるというのは、まさに5-10分が勝負の「現場ですぐに対処すべき事故」なのです。
脳死に至る前に気道を確保しなければならないため、すぐにお餅を取り除く必要があります。時間内に救急車が到着すれば、気管挿管(喉に管を通して呼吸できるよう空気の通り道を確保すること)で事なきを得ますが、10分以内に救急車が着くのを期待できない場合には、その場にいる人が対応しなければなりません。
目の前でお餅を喉に詰まらせた人がいたら……
実際に目の前でお餅を喉に詰まらせた人がいたら、すぐに119番に電話してください。
最近では救命士が側にいて、通報者から症状を聞き対処法を指示してくれます。スピーカーフォンにして、その指示を聞きながら救命活動を行います(その間に救急車が現場に向かいます)。
もし救命士の指示が得られなかったら、救急車が到着するまでに以下の順番でお餅を取り除くよう試みてください。
1.指でかき出す
口を大きく開けさせ、気道に詰まったお餅を指でかき出せないか試みます。実際、私もマギール鉗子がないときには指でお餅を喉からかき出した経験があります。
私の場合、幸いにして指が長かったためうまく救命することができました。緊急事態なので喉を傷つけることを気にするよりも、いち早くお餅を取り除くことを考え、恐れずに行ってください。
2.背中をたたいて吐かせる
お餅を詰まらせた人に下を向かせ、背中(左右の肩甲骨の間辺り)を力強くたたいて吐かせます。
3.ハイムリック法
「ハイムリック法」(腹部突き上げ法)は以下の手順で行います。
・お餅を喉に詰まらせた人の後ろに回ります
・その人の脇の下から両手を前へ回し、後ろから抱きかかえるようなポジションを取ります
・片手で拳を作りその人の腹部に当てます
・もう片方の手で拳を握り、その人の腹部へ拳を押し込みながら体を素早く引き上げます
・異物が吐き出されるまで素早く引き上げる動作を繰り返します
気を付けていただきたいのは、下から上へ体を引き上げる(突き上げる)動作を1回ずつ確実に行うことです。
ただし、高齢者が対象の場合、素人がハイムリック法を行うと臓器を傷つけてしまうことがあります。ハイムリック法は訓練しないと難しいものなのです。上記の1、2の方法でお餅を取り除くのがベターです。
4.掃除機などで吸い取る
掃除機で吸い取るのを試みてください。掃除機を使うのは効果的だというエビデンスもあります。最近では掃除機に付ける「お餅を取るための独自のノズル」も市販されています。万が一のためにそのようなアイテムを購入しておくのもよいでしょう。
また、最近では赤ちゃん用の鼻水を吸う機器がドラッグストアなどで販売しています。もし家庭にこのような機器があったら、それを使ってみるのも一つの方法です。
繰り返しになりますが、お餅を喉に詰まらせてチョークサイン(自分の喉を絞めるような動作)をする人がいたら、まず119番に電話をしてください。そして、すぐに救命作業を行います。「5-10分が勝負の現場でなんとかしないといけない事態」であることを覚悟してください。
読者のみなさんはまだ若いので、自分がお餅を喉に詰まらせるなんて想像もできないかもしれません。しかし、年末年始は祖父母、親戚などが一堂に集まるイベントで、その中の誰かがお餅を喉に詰まらせることも考えられます。
その場合には、笹倉先生の回答を参考に迅速に対応するようにしてください。救命活動は時間との勝負なのです。
イラスト:小駒冬
文:高橋モータース@dcp
教えてくれた先生
麻酔科標榜医、麻酔科認定医、日本医師会認定産業医。『公立昭和病院』初期臨床研修医、『東京慈恵会医科大学附属病院』麻酔科・助教、『公益社団法人 北部地区医師会病院』麻酔科・科長を経て、現『MYメディカルクリニック』院長。