SNSで強気になってしまう人がいるのはなぜ? #もやもや解決ゼミ
日常に潜むもやもやを学術的に解決する「もやもや解決ゼミ」。
SNSでは、普段の生活ではなかなかできないようなキツい発言を見かけることもありますよね。ふだんは優しい人なのに、ネット上の発言ではとげとげしく攻撃的になってしまっている人を見かけた経験はないでしょうか。
なぜ、SNSで強気になってしまう人がいるのか? 社会学者でネットワークコミュニケーションの専門家、武蔵大学の粉川一郎教授に回答してもらいました!
90年代から「匿名性」「非言語要素がない」で説明されてきたけど……
ネット上で発言がキツくなる傾向があるというのは、1990年代初頭の掲示板が一般的になった時代から指摘されてきました。古典的な説明では、主に以下の2点がその理由とされます。
2.非言語情報がないから
匿名性が高いネット上では、自分の発言に責任を取ることがありません。そのため普段の生活ではできないような厳しい発言をしてしまうという説明です。
2ですが、人間は普段の生活では「目の動き」「声の調子」「身ぶり」など、非言語情報から相手の真意をくみ取り、コミュニケーションを取っています。
しかし、これらの要素がないと、相手に伝わっていないと感じてしまい、気を付けないとキツく受け取られる表現になりがちです。
例えば、メールの文面だけだと相手に思ったように伝わらないと感じることはありませんか? 逆に、メールの文面だけだと相手が何を感じているか不安になることはありませんか? 本人は何気なく書いたつもりなのに、相手に「怒っている」ととられたりするのは、非言語情報がないためともいえるのです。
ただ、こうした特性はネットに特有のものというわけではありません。対面やネット以外の媒体でも起こりうることです。
例えば、電話で苦情を入れるクレーマーはなぜ強い物言いになるかといいますと、電話を受けている相手が何者か知らないし、非言語情報が限られているためとも考えられます。
「他の自分になれること」や「閉じたコミュニティー」も原因に
このような古典的な説明のされ方以外に、最近では以下のような点も指摘されています。
・エコーチェンバー効果
アイデンティティーの多重化は、ネット上にさまざまなコミュニティー空間が広がっていることがもたらします。
それぞれの空間で、Twitterではこういう自分だが、Facebookではこのような自分と、「普段の私以外の者」になれます。キャラクターを演じることができるので、これが強気の自分を生む土壌になるというわけです。
また、エコーチェンバー効果は現代型のSNSが普及し始めた2010年以降に改めて注目されるようになった考え方です。最近のSNSはフォローという形で自分の興味関心のある人の発言のみを選択的に見ることができます。
その結果、SNS上に広がる自分のコミュニティーが自分と同意見の人ばかりになってしまいがちです。そこには同意見の人しかいませんので、何か発言しても賛成の意しか返ってこないため、その考え・発言が次第に強化され先鋭化するのです。
自分の発言が肯定されやすいので、強気の態度を取っても平気というわけです。あたかも閉じた空間(チェンバー)の中でこだま(エコー)が反響するようなので、この名前が付いています。
「正義の味方」になれてしまうことも一因になりうる
さらに、SNSで強気になる人が多いのは「正義」という価値観が重視されているためという考え方もあります。「法的に正しいから」「道義的に正しいから」と重箱の隅をつついてまでも言い立てる人がいますが、これは正義がバックにあると思っているからですね。
例えばネット上で、お母さんの作ったお弁当の写真を見て「栄養素に偏りがある」などと言い立てたりする人がいますが、普段の日常生活では、「言っても大きなお世話だろうから」と考えてわざわざ発言しないでしょう。
しかし、ネッ上では正義重視の価値観をもとに強気に発言しても、正義の味方になれてしまう。「自分は正しい」という思いが強気な態度を誘発し、また強化するわけです。
そんなに人は強気になっていないのかもしれない
というように、ネット上には人を強気にさせる環境があり、その環境が人を強気にさせているといえるのです。
しかし一方で、実は「そんなに人は強気になっていないではないか?」という見方もできます。ネット上で強気な発言をする人は実はそれほど多くなく、全体の1%ほどにすぎず、その人々が全体の2割の発言を行うというリサーチもあります。
そうした少数の人々の発言が目立つため、あたかも強気な人が多いように感じるというわけです。また、「リツイート」の量などは非常に注目されますが、しかしリツイートは元のツイートに同意するものばかりでしょうか?
キツい発言があったとして、それをネタとしてリツイートする人だっているはずですが、リツイートの量だけ見るとあたかも大量の人が賛同しているかのように思えます。SNSで強気になる人が多いというのは、一方で「多く見えているだけ」という側面もあると思います。
SNSで強気になる人がいるのは、匿名で非言語コミュニケーションの要素がないからというのが大事なポイントのようです。
また、コミュニティー内だけのコミュニケーションであることや、普段の自分以外の者になれる、とりわけ正義の味方になれることが人を強気にさせたりするとのこと。
これは誰にでも起こりうることですね。ついそういった状況に陥ってないか、自分で意識してみるのも大切なことかもしれません。
イラスト:小駒冬
文:高橋モータース@dcp
教えてくれた先生
粉川一郎先生
武蔵大学 社会学部メディア社会学科 教授 グローバル・データサイエンスコース主任。
筑波大学 大学院修士課程環境科学研究科修了。三重県生活部NPO室市民プロデューサーなどを経て現職。藤沢市市民電子会議室に立ち上げより世話人として参加。現在は複数の自治体で社会的インパクト評価に取り組んでいる。『社会を変えるNPO評価-NPOの次のステップづくり』(北樹出版, 2011年)、『パブリックコミュニケーションの世界』(共編著,北樹出版, 2011年)、『東日本大震災とNPO・ボランティア: 市民の力はいかにして立ち現れたか』(共著, ミネルヴァ書房, 2013年)など著書多数。
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