ポケGOで中高年が健康に?! そこから見えてくる「都市デザインと健康」 #発掘おもし論文

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ポケGOで中高年が健康に?! そこから見えてくる「都市デザインと健康」 #発掘おもし論文

位置情報を使って遊ぶスマホゲームもすっかりポピュラーになりました。現在でも根強い人気の『ポケモンGO』はそんなゲームの代表格ですね。この『ポケモンGO』が楽しいだけではなく、健康増進に役立つとしたらどうでしょうか? そんな研究成果が実際にあるのです!

位置情報ゲームは中高年の歩数増にたしかに役立った!

東京大学 大学院工学系研究科 都市工学専攻 樋野公宏准教授の研究チームは、中高年を対象に位置情報ゲームの利用者・非利用者間において、『ポケモンGO』のリリース前後で「歩数の変化」に差があるかを調べました。

リリース前後9カ月という長い期間にわたる歩数を分析したところ、位置情報ゲーム利用者は、『ポケモンGO』のリリース後、非利用者と比べてよく歩いていたことがわかり、日平均歩数の差は最大の月で約600歩に達したとのこと。

ウォーキングブームといわれる昨今ですが、よく歩くことが健康の増進につながると厚生労働省も勧めています。『ポケモンGO』のような位置情報ゲームが「歩くこと」へのモチベーションを高める一助となるわけです。
詳細は下記URLの論文を読んでいただきたいのですが、この研究成果が「健康増進を目的とした位置情報ゲームの開発」「地方自治体の健康づくりのメニューの一環に取り入れる」などに生かされることが期待されます。

⇒論文掲載(英語):『Journal of Medical Internet Research』「Step Counts of Middle-Aged and Elderly Adults for 10 Months Before and After the Release of Pokemon GO in Yokohama, Japan」
https://www.jmir.org/2019/2/e10724/

「都市デザイン」が人の健康に影響を与える!


樋野公宏教授

東京大学 大学院工学系研究科 樋野公宏准教授に上記の研究についてお話を伺いました。樋野先生は「都市計画」「都市デザイン」の専門家で、「環境デザインを通した犯罪予防」についてのオーソリティーとして足立区に協力するなどの活動も行っていらっしゃいます。

――位置情報ゲームに注目した非常にユニークな研究ですが、この研究を始めたきっかけはどのようなものでしたか?

樋野准教授 私たちは横浜市の運営する「よこはまウォーキングポイント事業」※と協力して調査研究を行っています。この事業には32万人ほどの市民の皆さんが参加されているのですが、この方々の「歩数」のデータを共有しております。

このデータを用いて、例えば駅の近くに住んでいる人だと1日にどれぐらい歩くのか、坂道があるとどうなのか、などを調査しています。これを計測することで、都市環境が身体活動にどのように影響するかがわかるわけです。

――それは面白いですね! 都市の造りが知らず知らずのうちに人の健康に影響を与えているわけですね。

樋野准教授 はい。都市デザインは身体活動と密接に関係しています。論文発表した研究は、どちらかというと派生的に出てきたものなのですが、『ポケモンGO』が流行していましたから、これが身体活動にどのような影響を与えるのかを調べてみよう、となったのです。

――なるほど。樋野先生の本来の研究とは少し毛色の違った研究だったわけですね。ただ、得られた結果は非常に明解ですね。

樋野准教授 そうですね。明らかに有意な差が見られました。海外の研究で若い世代を対象にしたものはあるのですが、本研究のように中高年のみなさんを対象にした研究はあまりないのです。その点でも意義があったのかなと考えています。論文の最後に書きましたが、この結果が地方自治体の健康増進事業などに生かされることを期待しています。

※「よこはまウォーキングポイント事業」
横浜市が独自に行っている事業で、18歳以上の横浜市在住・在勤・在学の方にウォーキングを通じて健康を増進してもらうことを企図しています。専用の歩数計(1人1個無料配付)またはスマートフォン専用歩数計アプリ(無料)で参加でき、歩いた歩数に応じてポイントを付与。ポイントに応じて抽選で商品券などが当たります。詳細は以下のURLを参照してください。

⇒参照:『横浜市』「よこはまウォーキングポイント」
https://enjoy-walking.city.yokohama.lg.jp/walkingpoint/

都市計画によって人を健康にする!

樋野先生の研究室がある東京大学本郷キャンパス

樋野先生の研究室がある東京大学本郷キャンパス

――では位置情報ゲームの件は横に置きまして、先生の本来の研究はどのようなものでしょうか?

樋野准教授 「都市環境と身体活動との関係」をテーマに研究をしています。身体活動という言葉がわかりにくければ「健康」と言ってもいいかもしれません。「都市環境と健康の関係」ですね。

――それは、先ほどおっしゃった「駅が近いと歩数がどうなるか」「坂道があるとどうか」といったことでしょうか?

樋野准教授 そうですね、都市環境によって人の歩数や活動量がどのように変わるのかを計測して、その関係性を測るわけです。

――とても面白いですね。先生がそのようなテーマを研究するようになったきっかけは何だったのでしょうか?

樋野准教授 医学系では公衆衛生という分野で身体活動を扱っています。最近、その公衆衛生分野から都市計画への期待が高まっているという背景があります。

健康リスクの高い個人への介入は昔から行われています。例えば、体重の増えている人には「体重を減らしなさい」「運動したほうがいいですよ」とアドバイスしたりとか。こういう手法を「ハイリスク・アプローチ」というのですが、これには限界があります。

もっと多くの人に影響するアプローチが大事であるといわれていて、これを「ポピュレーション・アプローチ」というのですが、その一つが都市計画なのです。

――なるほど。

樋野准教授 例えば「運動しやすい公園」「公共交通」をしっかり造る、とかですね。私たちは毎日の通勤、駅の乗り換えなどで知らず知らずのうちに歩かされたりしているでしょう? これは都市環境が身体活動に影響する例です。

――つまり、巧みな都市計画があれば人を健康にできる?

樋野准教授 都市計画は身体活動、健康に寄与できます。ですから、都市計画に対する期待が高まっているわけです。健康は人類の普遍的な願いですから、都市計画で人を健康にすることができるなら面白いなと思い、研究しているのです。

従来は都市と健康の関係についてネガティブな側面に着目して、それを解決しようとしてきたように思うのです。例えば公害問題とか、水質がよくないのできれいにしましょうとかです。

――たしかにそうですね。都市は人がたくさんいて居住空間が狭い、自動車がたくさん走っていて大気が汚染されているといった情報ばかりだったかもしれません。

樋野准教授 それだけではなく、人を健康にする、ポジティブな側面に目を向けた都市デザインが必要なように思います。

――それは新しい視点ですね。先生の研究の目的は「都市計画、都市デザインによって人を健康にすること」と考えてよいのでしょうか?

樋野准教授 そうですね。そう考えていただいていいでしょう。

東京

日本は「コンパクト・シティ」を目指すべきである!

――都市デザインについて一般の人も知っておくべき考え方はあるのでしょうか?

樋野准教授 現在、少子高齢化が進んでいる日本では「コンパクト・シティ(compact city)」という考え方が注目されています。

――それはどのようなものでしょうか?

樋野准教授 すでに各地方自治体で起こっていることですが、人口が減り……人口が減るということは税収が減るということですので、財政が厳しくなり、これまでどおりの住民向けサービスやインフラの維持・管理が難しくなるのです。つまり、コストが掛けられないわけです。

ですから、住民のみなさんにできるだけ公共交通の便のいい場所に集まっていただいて、クルマに依存しない生活をしてもらう。そこでは効率よく社会的サービスが受けられる、人が歩いて暮らせる街、そういったイメージです。

――たしかに、もうメンテナンスコストが捻出できないという地方自治体もあると聞いています。日本の人口動態からいうとコンパクト・シティの実現は喫緊の課題ではないでしょうか。先生の研究はコンパクト・シティのあるべき姿を示す基礎データになりますね。

樋野准教授 もちろんすぐに都市構造を変えることはできませんが、20年、30年先を見据え、長期的にはコンパクト・シティを目指すべきだと思います。その過程で、公園を造り直す、ビルを建て直すといったことあるなら、健康に配慮したデザインのアドバイスができると思います。

例えば「公共交通の利便性が高いところでは人々はよく歩く」といったことは私たちも指摘しています。地方自治体のまちづくりに私たちの研究がエビデンスとして使われるのであれば、それはうれしいことですね。

研究の面白い点とつらい点は?

――先生の研究で面白いと思われるのはどんな点でしょうか?

樋野准教授 仮説を立てて、検証を行い、結果が仮説どおりだったという際にはやはり面白いと感じます。位置情報ゲームと歩数についての研究では、ほぼ仮説どおりの結果になっていますので面白かったですよ。

――逆に研究のつらいところとは?

樋野准教授 つらいところは……特にありません(笑)。調査を行って結果が出ないとか、そのようなことはよくありますので。

――都市デザインの研究という点ではいかがでしょうか? 面白いこと、つらいことはありますか?

樋野准教授 そうですね、進学先を選択する学生に学科の紹介をするときには「他分野との連携が面白い」と言います。

例えば、位置情報ゲームと健康という研究であれば医学系、公衆衛生分野の先生たちと一緒に研究をするわけです。「都市環境と犯罪」という研究なら法学や心理学、犯罪学の先生たちと連携して行います。

都市計画・まちづくりというのは極めて幅の広い分野なのです。都市計画に対しては多様な要望と課題が挙がります。それに応えるためには、一つの専門性では駄目で、他の専門の先生方と一緒に進めていかないといけません。そこが面白いところでもあるし、うまくいかない場合は逆にそれがつらい点になるかもしれませんね。

「誰もが健康に暮らせる街」を実現するには……

健康と都市デザイン

――研究の目標をどのようにお考えですか?

樋野准教授 「犯罪予防」のできるまちづくりのために足立区のみなさんと「まちづくり憲章」を作る活動を行っていますが、これはどちらかというと短期的な活動目標になります。メインは都市計画の研究ですので、長期的な都市計画のエビデンスとなるような研究も進めていくつもりです。

――先生の研究の究極の目標とは何でしょうか?

樋野准教授 極めて大ざっぱな言い方をすれば「誰もが健康に暮らせる街」ですかね。この「誰もが」というところがポイントで、一部の人が健康になるというのではなく、老いも若きも、所得の高い方も低い方も、どんな人も健康に暮らせる街、それが理想だと思いますね。

――その「誰もが健康に暮らせる街」の都市計画には、エビデンスを積み重ねるような研究を行うことが大事なのですね。

樋野准教授 そうですね。やはりエビデンスが必要です。

――20年後、30年後、現在の大学生が中高年になるころ、彼らが住む街は、先生の研究によって得られたエビデンスを基にした「コンパクト・シティ」になっているかもしれませんね。

研究とは自分の進路を自分で決めるもの!

――当サイトは現役大学生、大学進学を目指す高校生もたくさん読んでいます。中には研究者になりたいと思っている読者もいます。研究者の道が気になっているけれど踏み出せないという人へのアドバイスがありましたら、ぜひお願いいたします。

樋野准教授 研究とは、自分で目標を決めて自分で進めていくものです。自分で自分の進む道を決められるという自由度の高さは、他の仕事と比べて高いかもしれません。そのような仕事が好きならぜひ目指してください。

――ありがとうございました。

「都市に住むことで健康になる」は、これまでの「都市は狭苦しい」「都市は空気が悪い」などネガティブな都市の捉え方とは真逆の視点です。都市計画、都市デザインは人間の身体活動と密接に結び付いているのですね。「誰もが健康に暮らせる街」とはどのようなデザインになるのでしょうか? 樋野先生の研究の進展を期待せずにはいられませんね。

(高橋モータース@dcp)

樋野公宏 Profile
東京大学 大学院工学系研究科 都市工学専攻
准教授 博士(工学)
専門分野:居住セキュリティ、都市居住・住環境
委嘱:
・警視庁委嘱 建物防犯協力員(第001号)
Building Security Adviser, Metropolitan Police Department (MPD)
・福岡県警察 犯罪予防研究アドバイザー
Crime Prevention Research Adviser, Fukuoka Prefectural Police
・足立区防犯専門アドバイザー
Crime Prevention Special Adviser, Adachi Ward, Tokyo
・アーバンデザインセンター高島平 (UDCTak) 副センター長
Vice President, Urban Design Center Takashimadaira (UDCTak)

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好きなものはチョコとビールと音楽と映画。ネトフリ廃人。ときどき絵を描きます。
Twitterで人の「いいね!」欄を見て時間をつぶすのが日課。

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