五輪ボランティアは問題山積み? 国際ボランティア学会長が説くあるべき形 | 「結局どうなの? 五輪ボランティア」第4回

編集部:ぱいん
2018/11/21
将来を考える
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世界最大級のお祭り「オリンピック・パラリンピック」。多くのアスリートがしのぎを削るアスリートの祭典であり、同時に平和を願う思いが込められた大イベントが2020年の東京を中心に開催されます。

オリンピック・パラリンピックの成功は、 まさに「大会の顔」となるボランティアの皆さんの活躍にかかっています!

こうした謳い文句で募集されているボランティアですが、世間では冷ややかな反応も目につき、参加に不安を感じている人も多いのではないでしょうか?

そこで、東京オリンピック・パラリンピックのボランティアとどう向き合っているのか、疑問を持つ人や前向きに参加したいと思っている人、運営に関わっている人など、さまざまな立場の人にお話しを伺いました。「結局どうなの? 五輪ボランティア」と題し、5回の連載でお送りします。

大学生たちの意見を聞いてきた前3回に続き、第4回では大人の意見として、国際ボランティア学会の会長を務めている、甲南女子大学教授の中村安秀先生にお話しを伺います。

中村安秀 甲南女子大学教授
国際ボランティア学会会長。日本国際保健医療学会理事長。公益社団法人日本WHO協会理事長。

――東京オリンピック・パラリンピックは商業イベントとしてしっかり儲けている。お金がしっかりあるはずなのに、真夏の炎天下にガッチリ8時間働かせるということから、やりがい搾取と言われていますが、そういった指摘についてはどう感じていますか?

まず、言っておきたいこととして、布村さん(東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会副事務総長)のまとめた「東京2020大会とボランティアそして大学連携」には、ボランティアの自主性、主体性、社会性、公共性、無償性、無給性って書かれています。

“レガシーとしてのボランティア文化の定着に向けて、ボランティアの要件としては、自主性、社会性、公共性、無償性、無給性などが整理され語られています”
引用:ボランティア学研究 Vol.18 「東京2020大会とボランティアそして大学連携」(国際ボランティア学会発行)

しかし、ボランティア学会としては、無給なんてことは言っていないんですね。布村さんが自分でボランティアに求めるものを付け加えているんです。いいか悪いかはともかく、議論するときに、そういうところは気を付けておかないといけません。

 

――学会としては、ボランティアを無給のものというイメージにはさせたくないんですね。

オリンピック・パラリンピックボランティアへの批判的な指摘についてはまず、無償で10日間8時間働くというのを決めているやりかたに批判があるのは当然です。

ボランティアの大事なことは自主性とか自発性なのね。枠を決めてそれ以外は認めないという強硬なやり方は、非常に上から目線で、自主性や自発性を重んじようとしないっていうのがよくわかります。

今、文部科学省が学校教育の現場の中で、上からボランティア押し付けることをけっこうやっていて、それが授業にもなっています。ボランティアが必修になっている。そうしたところから、日本のボランティア像がゆがんできているように感じています。

 

――確かに公立の学校で行われている、奉仕の授業の必修化は一部で問題視されていますよね。

2つ目は、いったんやりはじめたら最後までやりきらなければというのがおかしい。やってみて向かないと思ったら、やめる自由がないと。ドタキャンはどうかと思いますけどね。

それは自発性に基づいた活動だからです。

ボランティアは自発性が大事だというけれど、やるのかを決めるのは自分たち。やり始めたけど面白くないからやめよう、そういう自由もあるのがボランティアです。

 

――やめる自由というのは意外でした。でも、言われてみればやめられないことのほうがおかしいですよね。

1995年の阪神淡路大震災がボランティア元年と言われていますが、その前の1993年に旧厚生省の中央児童福祉審議会が、ボランティアとはなにかというのをこう定義しているんです。

「個人の自由意志に基づき、個人の技能や時間を進んで提供し、社会に提供する」

そこには無償とか無給とかそんなことは書いてないんです。

今回の東京オリンピックで、若い人たちや学生さんが、自分が持っている時間を使いたい、あるいは自分でちょっと英語ができるから役立てたいと、そういう夢を持ってボランティアに参加できる環境を作るのが大人の役目だと思っています。

今は批判ばかりで、ボランティアに参加するのにも大変な覚悟がいる。そういう環境を作ってしまっているのは大人の責任です。

 

――確かに、批判ばかりの報道もあって、参加したい人にとっては肩身が狭い感じもあるでしょう。

今の形は決められた期間をフルでやることと決めているじゃないですか。今のやりかたは事務局が動きやすいように時間設定して枠を決めて、その枠に当てはまるボランティアだけでいいってしてるんですね。それを逆転しなきゃいけない。

ボランティアを呼ぶじゃなくて来てもらう形にしないと。それで来てもらったボランティアに自主性・自発性をもって動きやすくする環境をいかに作るのかが、事務局の役目でしょう。

医学部とか看護学部の学生だと実習とかで授業を動かせないわけですよ。休めないですよ。そのかわり夕方からは空いてる人もいるでしょう。そういう人に夕方から来てもらう。逆に朝なら行けるといこともあるし、曜日によってとかいうのもあるでしょう。

全部を一人ずつに合わせろとまでは言わないですけれど、学部や学生によって時間を空けやすいパターンがあるわけですから、そういうのに対応してあげないと。

 

――文部科学省から通知のあった、授業日程をずらして参加しやすくするという方法については、良い方法だと思いますか?

思いません。むしろあんな形でお上から通達する必要はないと思っています。

公休扱いにするってことを大学が決めればいいだけです。大学が東京オリンピック・パラリンピックをサポートするんだったらそうするし、関係ないとする大学だったらそうするのも大学の自由です

 

――地方の大学からすると東京のイベントだからあんまり関係ないと考えるところもありそうですしね。

もうひとつ、今のやり方だと東京の学生でないと参加しにくい。地方の人に対してある程度の優遇さはあってもよいのではと思います。

自分たちで全部やれとすると、お金があって時間もある人しか来られない、そうでない人は来なくていいみたいになっちゃってますね。そういった枠を考えてあげないといけない。

 

――地方から来る人にとっては、交通費なし宿泊費もなしで移動方法も宿泊場所も自分でどうにかしろというのは大変ですよね。

国際ボランティア学会の会長としてお願いしたいのは、ぜひとも文部科学省が進めている留学生30万人計画で日本に呼びつけている留学生を、東京オリンピック・パラリンピックのボランティアに参加させてあげて欲しいということです。

留学生が30万人も来ていたら100なん十か国から留学生が来ているでしょう。オリンピックにはその人の地元の国も参加するわけですよ。例えば宮崎にいるカメルーン出身の学生が、カメルーン代表選手のサポートをできたら、一生覚えているでしょう。自国の代表チームと会えたら嬉しいですよね。

留学生がお金をたんまり持っているわけもないんだから、留学生ボランティア枠とか作ってあげて、旅費だけ出してあげるとかサポートすべきですよ。この国が留学生を日本に呼んで、学生が留学しているときにオリンピックがある。でもお金がないからオリンピックにも関われないし、実際に見ることもできない。テレビで見るだけ。本国の人からオリンピックどうだったって聞かれて、「テレビで見ただけ」は寂しいですよ。

留学生が本国に戻った時には、大きな会社の社長さんになったり、大学の先生になったりして、影響力持つようになります。そういう留学生に対して何にもしないっていうのはナシでしょう。

日本にいる学生だけにボランティアやれって言うんじゃなくて、もっと国際的な視点を持つことが大事。日本に来ている留学生にも力になってもらって、日本の良さをアピールできる場なのに、下手だなぁと思います。

 

――時間もお金もないと嘆く学生に対しては、ボランティアに関わる良さや意義などは、どういったところにあるのでしょうか?

まず、学生の立場でいうと、みんな時間がないって言います。お金もなくていろいろ大変だっていうんですけど。悪いけど、学生の「時間がない」っていうのは、社会人に比べると全然で、時間は作れるはずなんです。

だから、学生さんには自分なりに時間を作って何かに取り組んでみなさいよと言いたい。

 

次に、ボランティアは学生にとって利害関係がなにもない場所です。学校だったら先生がいて、クラブにしても先輩後輩があって、そういう上下関係で生きなくちゃならない。でもボランティアにはそういうのがなにもない。そういうフラットな場所ってあんまりない気がするんです。

学生にボランティアを勧めているのは、利害関係がない場所で、自分はいったい何が喋れて何ができるのかを試されているんです。それが大きいですよ。

たとえば医学部の学生だったら、医学ができるかとかが評価の中心になるじゃないですか。そんなときに、「優しい言葉づかいするね」なんていうのは何の評価にもならない。勉強の場ではね。それがボランティアに行くと、ちょっと年配のおばちゃんからそういうことを言われたりすることもあって、「そんなことで喜ばれるのか」と。普段の大学やらバイトとは評価軸が違うんです。

 

――そういう中で自分の価値を見つめ直せる場として大事なんですね。

3つ目は、忙しがってないで自分がまだ経験していないことを経験しなさいと。日本の学生が世界の学生と比べて何が足りないかっていうと、体験が足りないです。

こうやらなきゃいけない、そこから外れたらいけない、っていうのがありますよね?

 

――レールの上を外れるのが怖いということですよね。

そう。以前、東大でも阪大でも教えていて、みんないい学生が多いんですけど、小中くらいからもうエリートコースです。お金がなくて傘買えず、雨が降ったら学校休んだとか、そんな貧困のなかで生きてないですから、体験が少なすぎるんです。

でもボランティアすると、変な経験もったおっちゃんが出てきたり、よくわからない人が出てきたりして、いろんな人がいるんですよ。たまにそういう人から話聞くのも絶対いい人生経験になります。

といってもそれは自発的でなければいけない。今の子たちの間だとボランティアするなんて言うと、欺瞞とか偽善的と思うかもしれないけど、やりたいと思ったらやったらいい。やりたいと思う気持ちに欺瞞も偽善もないんですよ。

今まで経験してきたのとは違う経験がきっとあると思うので、その世界を変かなって思いながら楽しんでもらえたらいいなと思います。「えぇ!こんな人がいたの、こんなことがあったの?」って思ってもらえたらいい。

 

――ボランティアにおいて得られるいろんな経験を楽しむことが大事なんですね。

ボランティアを楽しんだらいいんですよ。崇高なボランティア精神とか無償性でなければいけないなんて思う必要がない。もちろん交通費出すよって言われたらもらったらいい。でもそれで大儲けするなんてことは絶対ないですから。そんな感じです。

 

――ありがとうございました。

 

ボランティアにはあくまでも自発性、自主性が大事とし、それを尊重していない今の東京オリンピック・パラリンピックボランティアには、いくつもの問題があることを解説してくれた中村先生。

ただ、ボランティアというものには、普段の生活の中では得られないさまざまな経験があること、それを学生にはたくさん体験して欲しいということも伝えてくれました。自分が楽しそうと思うこと、興味を持ったボランティアがあれば、オリンピック・パラリンピックに関わらず、何かやってみてはいかがでしょうか?

次回、連載の最後として、東京オリンピック・パラリンピックにボランティア検討会議委員として関わる、文教大学准教授の二宮雅也先生にお話しを伺います。

取材・文・撮影/学生の窓口編集部
イラスト/オカヤマ(@okayama1002

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