関係者に聞く。組織委員会の求めるレガシー、そして五輪が目指す未来とは? | 「結局どうなの? 五輪ボランティア」第5回

編集部:ぱいん
2018/11/22
将来を考える
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世界最大級のお祭り「オリンピック・パラリンピック」。多くのアスリートがしのぎを削るアスリートの祭典であり、同時に平和を願う思いが込められた大イベントが2020年の東京を中心に開催されます。

“オリンピック・パラリンピックの成功は、 まさに「大会の顔」となるボランティアの皆さんの活躍にかかっています!”

こうした謳い文句で募集されているボランティアですが、世間では冷ややかな反応も目につき、参加に不安を感じている人も多いのではないでしょうか?

そこで、東京オリンピック・パラリンピックのボランティアとどう向き合っているのか、疑問を持つ人や前向きに参加したいと思っている人、運営に関わっている人など、さまざまな立場の人にお話しを伺いました。「結局どうなの? 五輪ボランティア」と題し、5回の連載でお送りします。

最後となる第5回では、東京オリンピック・パラリンピックの組織委員会にボランティア検討会議委員として関わる、文教大学准教授の二宮雅也先生にお話しを伺います。 


二宮雅也 文教大学准教授
日本財団ボランティアサポートセンター参与。特定非営利活動法人日本スポーツボランティアネットワーク理事。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会ボランティア検討会議委員。著書に『スポーツボランティア読本』(悠光堂)などあり。


 ーー世間ではオリンピックボランティアの募集要項に関して、組織委員会に批判が集まっていますが、二宮先生としてはどうお考えでしょうか?

まず全国の学生に応募を促進するということにあたってですが、地方の学生に配慮がなされていれていない。私として、そこは声を大にして批判したいところです。

活動日数が10日間という長い日程にも関わらず、地方からの交通費や宿泊場所への補助が全くない。文部科学省やスポーツ庁が全国の大学に文書を出しながらも、実際は東京にいる学生にしか参加しやすい環境がないのは不公平だと思います。

地方にもたくさんの学生がおり、関わりたいと思っている学生もたくさんいると思います。奨学金の返済などが問題になっているこのご時世、実際の負担額を考えると、参加が難しい地方学生も多いはずです。地方学生にぜひ参加して欲しいと言いながら、時間もお金も本人に出させて、来られる人だけ来てくださいでは、意義ある応募促進とはいえませんよね。

今からでもなにか地方の学生が参加しやすいような準備を整える必要があるでしょう。組織委員会や東京都の準備には限界がありますので、スポンサー企業や自治体、外部団体が協力して、できる限りの準備をギリギリまで提案したいと思います。日本全体での未来へレガシーを残したいというなら、全体への目配りを大切にしてほしいですね。

 

ーー組織委員会はこの先どういったことに取り組んでいくべきと考えていますか?

組織委員会がやるべきことは、やりたいけど距離や日程、お金の問題で参加できない人がどうやったら参加しやすくなるか。そこを他団体等と協力して考えていくことが大切です。やれる人だけでなく、やりたいと思っている人にチャンスを与えられるようにすることが第一でしょう。

 

ーー今回の東京オリンピックでは、営利目的の商業イベントで無償のボランティアに頼ろうとする姿勢に反発があると思っているのですがいかがでしょう?

そもそも、オリンピック・パラリンピックにボランティアは必要なのか。現状、オリンピックの歴史を絡めたボランティアの是非について論調は少ないように感じます。2020東京大会だけを取り上げて、オリンピックボランティアについてどうこうというのは、少し違うのかなと思っています。   

オリンピックの歴史から考えると、1896年に近代オリンピックが始まった当初は、限られた国からの限られた代表選手でだけで行われていました。それが時代とともに特に政治的な影響も受けながら大きなイベントに成長していくにつれ、徐々に限定的に開催できる規模じゃなくなっていったんですよね。

ボランティアに関しては、1948年のロンドンオリンピックから協力があったと言われていますが、ボランティアによる組織的な運営がなされたのは、1980年冬季レークプラシッド大会からになります。このころのオリンピックは、赤字開催が当たり前になっていましたので、運営面からもボランティアの存在は大きかったと思います。

しかし、1984年のロサンゼルスオリンピックから、アメリカのテレビマネーが資本として入ることになります。それで世界中に放映されるようになって、オリンピックはさらに大きくなっていきました。その流れが加速していき、スポンサーも階層化され今の形につながるわけです。

商業主義化する前からボランティアは存在していた。しかし、オリンピックが巨大化していく中で、ボランティアの存在は引き続き採用された。だからボランティアありきが前提とされてきた歴史が現実にあります。

 

ーー過去のオリンピックから続いてきたことだから、急には変えられない。難しい問題ですね。

もう一つはオリンピックのなかで、ボランティアムーブメントが大きくなっていったということも忘れてはいけません。特に、2000年のシドニー大会からは、自国のボランティアのみならず、外国人ボランティアの参加もはじまります。

さらに、2004アテネ大会からは、遠隔での面談を行ったボランティアも参加することになり、ボランティアにも国際色が豊かになりました。

そういう意味で、さまざまなボランティアの価値観を持つ人たちが集う大会になったわけです。そして、2012年ロンドン大会では、7万人の募集に対して24万人の応募がありました。さすがボランティア先進国といったところでしょうか。

しかし、前回のリオ大会では同様に24万人の応募があったものの、大会当日に予定のボランティアが現場に現れないなどの問題もありました。今回の東京に関しても、ボランティアの価値観が限定的なこともあり、なかなか理解が得られない部分もあります。

また、日本は日頃からボランティアに触れる習慣が多いとは限りません。また、近年では立て続けに発生した災害を支えるボランティアの活躍もあり、ボランティア=弱者救済者といったイメージが強固になりました。よって、商業主義的な巨大イベントにおいて、ボランティアが支える構図そのものが疑問視されているとも感じています。

さらに、ブラックと呼ばれている労働環境の問題などと合わせて、活動条件が厳しいオリンピックボランティアが叩きやすかったからというのもあるでしょう。ですからボランティアと無償労働が重ねて議論されることも、特にネット上で盛んだったと言えます。

 

ーー日本でボランティアが正しく理解されていないから、労働と比べてしまうと。

ボランティアですから、参加は自由です。自分がコミットするボランティア活動に興味関心があり、示された活動内容や条件に納得した人が応募し、活動することになります。

例えば、欧米では自分の余暇の時間の使い方として、ボランティアを行うのがひとつの関わり方となっています。自分のスキルを磨いたり、能力を活かしたり、地域のために活動したり、それぞれの価値観はいろいろで、自分の好きな活動をする。それがどんなものでもよくって、趣味活動と同列に捉えられるボランティアもあると考えられるべきだと思います。

2020東京大会のボランティアに関する議論が、多様なボランティア観の理解につながると良いですね。

 

ーー本人が好きでやることなので、お金を払って雇われるのとは違うのですね。それでも、過酷な暑さの中で決まった時間、日数活動しなければならないというのは大変に思います。アルバイトにしようという案は上がらなかったのですか?

私はアルバイトとして募集しても良いと思いますが、集まる人の意味が違ってくると思います。アルバイトで雇うということは”労働させる”ということになります。集まる人は労働の対価を求めて来て、単に賃金をもらって終わりということになる。そうなると大会が全く別物になりますね。

アルバイトスタッフで運営する大会では、お客さんも活動にあたっている人をアルバイトとみなします。労働者とみなし、扱いが変わってくるでしょう。心無い人は、サービスに納得がいかず、怒り出す人もいるかもしれません。

そうではなく、そもそも運営者もアスリートもボランティアも観客も、みんな一緒に作り上げるイベントが現代のオリンピック・パラリンピックなのです。だからこそのボランティアなのです。

ボランティアはそれぞれが何かしらの目的や志を持って集まる。本当にスポーツが好きで関わりたい人もいれば、オリンピックやパラリンピックほどの国際的なイベントで、自分のスキルを直接的に活かしたい人や、新しい出会いや交流、ボランティア同士でつながる楽しさを求めて参加する人もいるでしょう。

そうしたボランティアが、現場でいろんなことを感じて、いろいろなものを得て帰っていく。オリンピック・パラリンピックが終わったあとにもそこで得た経験が社会に還元されて、なにかしらの文化が残り広がっていく。それこそがボランティアレガシーなんです。

 

ーー二宮先生は、ほかのインタビューなどで、ボランティアへのリスペクト文化が必要だとおっしゃっていましたが、実際に組織委員会の方々にボランティアとして参加していただく方へのリスペクトはあるんでしょうか?

組織委員会だけでなく、基本的にオリンピック・パラリンピックのボランティアを熟知している人はそんなにいませんでした。ただ有識者会議などを経て、ボランティアがどういう存在なのか、どういった役割を果たしてくれる存在なのかといったことが、だんだん理解されるようになってきました。

というのも組織委員会はボランティアの専門家ではなく、言ってしまえばお祭りを運営するぞって集まった人たちなので。だからこそ委員の我々がボランティアってこういうものなんですよって、伝えているところでもあります。

今の組織委員会の人もオリンピック・パラリンピックをやるのは初めてです。だから、いろいろうまくいってないところも多い。それは我々が変えて行けなければいけないところだと思っています。だんだんと浸透してきているので、これから良い方向に向かっていくと思いますよ。

 

ーー最後にこの企画を締めくくるものとして、学生に対してメッセージをいただけますか?

いろんな意見が飛び交って盛り上がっている東京オリンピック・パラリンピックで、よくわからないことも多いと思いますが、学生にはよくわからないものこそ体験してほしいと思っています。

学生にオリンピック・パラリンピックの意義はというなら、これまでの歴史も含めてこんな大きなイベントをなぜやっているのか、それによってどんなことが起こっていて、なにを伝えようとしているのか、そういうことを自分なりに考えてみてほしいと思います。

自分なりに疑問を持ってみてほしい。そして参加してみて、何が得られるのかを実際に体験して、自分の大事な経験にしてほしい。

4年に1回、世界のどこかで開催され、世界中の人が集まるイベントで、それが身近な日本の東京で行われる、そんなチャンスはこの先あるかないかわからない。せっかく経験しやすいチャンスがあるんだから、体験してみて、それからいろいろ考えてみるのがいいと思います。迷っているならぜひチャレンジしてほしいです。

 

ーー二宮先生自身が考える、オリンピック・パラリンピックの意義についても教えていただけますか。

平和への願いですね。オリンピックは「平和の祭典」として始まりました。オリンピック憲章にも平和というメッセージはあります。

しかし、一度としてその期間だけでも平和になったことはないんです。世界中のどこかで国や地域同士の争いが起こっている。だからこそ平和を祈るということを、オリンピック・パラリンピックを通して考えてみてほしいです。

また、パラリンピックに関しては、東京は世界で初めて2回目の開催都市になります。1964大会を開催した方々の想いを共有し、包括的な社会の再構成を考える機会になればと願います。特に、国や地域の争いが絶えない今日において、戦いの結果障害を負い、パラアスリートになった選手もいます。パラリンピックから考える平和についても、現代社会的には意義深いと考えています。

今はほかにも性別、年齢、人種や国籍、心身機能、性的指向、性自認、宗教・信条や価値観、キャリアや経験、ライフスタイルなど身近にいろいろな多様性を背景とした差別が溢れています。

しかし、大会を支えるボランティアは、多様なメンバー同士が互いに影響し合い、異なる価値観や能力を活かし合うことで、チーム全体活躍できるようになり、大会を成功に導くことができるのではないでしょうか。

スポーツという多くの人が楽しみやすい文化をベースにしながら、平和や多様性について考えるきっかけをくれるというのが、オリンピック・パラリンピックの一番の価値だと思っています。

 

ーーありがとうございました。

 

5回に渡ってお届けした、この企画。多数の批判にさらされ、「なんてひどいオリンピックなんだ!」という思いからスタートしました。しかし、どういったことになっているのか調べ、さまざまな人の話を聞くなかで、今の形になってしまった背景や、ボランティア以外にも抱えている多くの問題がありながら、「それでも」という希望を持って取り組もうしている人が多くいることが感じられました。

せっかく開催されることになった東京オリンピック・パラリンピック。楽しみにしている人がたくさんいます。組織委員会の方にはぜひ、多くの学生がより参加しやすくなるような形を、もう一度考えていただきたいと願うばかりです。

東京オリンピック・パラリンピックのボランティアに参加するか否かは、今のところ選択の自由があります。これからを生きる学生には、今回の二宮先生も語っていたように”自分で考えて”価値を見極め、ボランティア参加を検討して欲しいと思います。

東京2020大会ボランティア募集締め切り:(2018年12月21日17時)


取材・文・撮影/学生の窓口編集部
イラスト/オカヤマ(@okayama1002

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