世界遺産で注目! 前川建築の魅力とは? 大学生からのアートのはじめかた「東京都美術館」編
大学生のみなさんは、ふだんアートに触れる機会はありますか? 「アート」と聞くと、なんだか敷居が高そうなイメージがあるかもしれません。大学生のみなさんの中にも「興味はあるけど難しそう……」と思っている人が多いでしょう。そこで今回は、初心者でも気軽にアートの一端を学び、楽しむことができる東京都美術館の夜間ツアー『トビカン・ヤカン・カイカン・ツアー』をご紹介。大学生からのアート入門をお教えします!
東京都美術館で日本が世界に誇る前川建築を堪能する
東京都美術館(通称トビカン)はJR上野駅の公園口を出てすぐに広がる、上野公園にある美術館です。北九州の実業家・佐藤慶太郎氏から当時の100万円の寄付を受け、1926(大正15年)に開館。2016年で開館90周年を迎えました。
1975年には、日本を代表するモダニズム建築家・前川國男(くにお)氏の設計による新館が建設され、現在の建物はこの新館になります。みなさんは7月17日に、上野の国立西洋美術館を含む「ル・コルビュジエの建築作品」が世界文化遺産に登録されたことをご存知ですか? 実は、今回ご紹介する東京都美術館を設計した前川國男氏は、ル・コルビュジエのアトリエで建築を学んだ弟子の一人なのです。さまざまな展示が行われている東京都美術館ですが、前川國男氏が手掛けた新館は端々に巧妙な仕掛けがされており、その仕掛けはアート初心者でもわかりやすく、また楽しめるものばかり。展示品だけではなく、建築も東京都美術館で楽しめるアートの1つなのです!
『東京都美術館』の夜間建築ツアー『トビカン・ヤカン・カイカン・ツアー』は、この「前川建築」の特徴について学べるもの。「ライトアップされた夜の美術館」というシチューションも相まって、美術館の常連から初心者まで、幅広い層から人気を集めています。今回は、このツアーにアート初心者の大学生・鈴木瞭さんと宮田みちるさんの3人で参加してみましたので、その模様をお届けします。
――今回はよろしくお願いします。お二人は東京都美術館に来たことはありますか?
僕は東京都美術館、初めてです。というより、美術館自体が初めてです! |
――ほんとに?! それはツアーに参加しがいがありそうですね!
私も東京都美術館には初めて来ました。 |
――やっぱり美術館というと「難しい」という印象が?
そうですね。絵画とかわかりませんし、正直「眠くなりそうだなぁ」と思ってます……。 |
私も美術館って聞くとちょっと緊張しちゃいますね。 |
――なるほど。たしかに美術館はなじみがない人にとってはちょっとハードルが高いかもしれませんね。今回は東京都美術館自体の魅力を楽しむツアーですので、気楽に臨みましょう!
東京都美術館の意外な豆知識が学べる夜間ツアー!
『トビカン・ヤカン・カイカン・ツアー」は金曜日の夜に不定期に開催。当日先着15名で誰でも参加することが可能です。案内役を務めるのは、東京都美術館と東京藝術大学が連携して行っている「とびらプロジェクト」のアート・コミュニケータ(愛称:とびラー)です。100名以上の一般から集まった年令も職業も様々な人たちが、東京都美術館を拠点に様々な活動を日々展開し、このツアーもとびラーが発案・企画しています。もちろんツアー内容は全てとびラーのオリジナル。ツアーでは、建物を見たり、みどころを聞いたり、とびラーとの会話と楽しみながら館内を巡ります。今回は「とびラー」歴3年の園田潤さんが担当。普段は会社員の、スポーツをこよなく愛す「アスリート系とびラー」として活動中です。
ツアーは中央棟のロビーからスタート! まずは東京都美術館について、その歴史や特徴などのお話を聞きます。
写真は中央棟のロビーにある「かまぼこ天井」と呼ばれるアーチ型の天井です。そこに吊り下げられているペンダントライトにも前川國男氏のこだわりを見ることができます。
上の写真を見て、みなさんはライトがいくつあるかわかりますか? 奥のほうまでずっとライトが連なっているように見えますが、本物は手前の3列だけ。それより奥はガラスに映ったものなのです。見え方を計算して巧妙にライトを配置する遊び心も、前川國男氏の建築の特徴です。外が暗くなると、さらにきれいにライトが連なって見えるようになります。
――このペンダントライトは、まさに東京都美術館ならではの豆知識ですね!
たしかについ誰かに話したくなりますね(笑) |
よく目を凝らしてもどこまでが本物か全然わからない! ……これはおもしろいです! |
次はロビー階中央の階段を登り、1階にある「佐藤慶太郎記念アートラウンジ」へやって来ました。ここでは東京都美術館誕生に尽力した佐藤慶太郎氏について学びます。解説では「当時の100万円は現在の価値でいくらになる?」というクイズも出題されました。正解は……ぜひツアーに参加して聞いてみましょう! その価格にきっと驚くはずです。
また、館内の至るところに三角の「おむすび型」が見られます。これは前川建築の特徴の一つ。写真はロビー階中央の階段を下から見上げた景色です。ちなみに、アートラウンジに置いてあるテーブルもおむすび型。他にもさまざまな場所にこの「おむすびの形」が散りばめられています。それを探すのも、前川建築の楽しみ方の1つです。
――ここまで参加してみてどうですか?
美術館ツアーと聞いて、最初は絵画を見て解説を聞いたりするような難しい感じなのかなと思っていましたが、予想と全然違いました。 建物を見ながらちょっとした豆知識なんかも聞けるので、わかりやすいし楽しいです。 |
私も同感です。アートに全然詳しくなくても楽しめる内容なんですね! |
夜にしか見られない幻想的な光景が待っている
佐藤慶太郎記念アートラウンジの次は、野外彫刻が置かれたエントランスへ。すると目の前に、鮮やかなカラーリングの壁が夕闇の中に浮かび上がる幻想的な光景が登場!
カラフルな壁は美術館の南側に位置する「公募棟」のもので、「赤」「緑」「黄色」「青」の4色(青色は最も手前に位置するため4色での撮影はできず……)があります。この美しい光景は、閉館までの夜のわずかな時間にしか楽しめないものです。
――この光景は一見の価値ありですね!
鮮やかな4色が浮かび上がってとてもロマンチック! デートスポットとしても楽しめそうです。 |
エントランスは表参道みたいなおしゃれな雰囲気だし、たしかにデートにぴったりかもしれないですね。 |
――ツアーで学んだうんちくも語れば、彼女も喜ぶかもしれませんよね。
ドヤ顔で語っちゃうとうっとうしがられるかもしれませんが(笑) |
エントランス前の彫刻空間にそびえる球状のアート作品「my sky hole 85-2 光と影」(井上武吉作)も、銀色に光り輝く昼間とはまた違ったシックな色合いになります。
また、コンクリートをノミなどで叩き、ざらざらした質感を作る「はつりコンクリート」も、夜になるとより陰影がはっきりと出て、特徴的な表情を見せてくれます。こうしたレアな夜景が楽しめるのも、『トビカン・ヤカン・カイカン・ツアー』の魅力でしょう。
初心者でも十分楽しめる!
『トビカン・ヤカン・カイカン・ツアー』
最後は外から見えていたカラフルな壁のある公募棟の休憩スペースに移動し、館内に残る前川國男氏デザインのイスとその歴史を学び、解散。約30分のツアーですが、非常に盛りだくさんの内容でした。
――アート初心者のお二人ですが、夜の東京都美術館のツアーはいかがでしたか?
思っていたよりずっと楽しかったです! 絵画とか、アートって難しそうだな~と思っていたんですが、今回は建築についてだったのでわかりやすいし、景色もきれいだったのでとっつきやすかったですね。 |
たしかに! どれもカラフルだったりきれいだったりして、アートの知識がなくても魅力がわかりやすい内容になっていたのは大きいですね。 |
――この夜間ツアーは、アート初心者の入門にぴったりということですね。
そうですね。たとえば思い切って美術館に来たとしても、どこをどう見るべきかわからなかったと思います。でも今回のようなツアーなら、見るべきポイントを教えてもらえましたし、見るだけではわからない作品の背景も知ることができました。 |
――今回のツアーで特に印象に残っているのはどこですか?
やっぱり4色の壁はとてもきれいですてきでしたね。 |
僕は「はつりコンクリート」です。明るい時間はわかりにくいものでしたが、夜になると凹凸がはっきりと出て、光と影の使い方にすごいこだわりを感じました。 |
――得るものも多くありましたが、次もまた美術館に行ってみたいと思いますか?
はい、行ってみたいです! 今回、建築についていろいろ教えてもらったので、他の美術館に行ったときも、照明とか壁とか、そういった細かい造りがどうなっているかに注目して楽しんでみたいと思います。 |
僕もです。できれば次もツアー形式で美術館を楽しんでみたいですね。 |
――初心者はまずツアーに参加して、アートの入り口を学ぶのがおすすめということですね。
アート入門にぴったりの東京都美術館
現在、東京都美術館では『ポンピドゥー・センター傑作展』と題した展覧会が行われています。フランス・パリの中心部に位置するポンピドゥー・センターのコレクションの中から厳選した作品が展示されており、マティスやピカソを始めとする偉大な芸術家の作品の数々を楽しむことができます。
本イベントでは、人気絵本『リサとガスパール』の展覧会限定グッズも販売されています(リサはポンピドゥー・センターのパイプの中に住んでいるという設定)。『リサとガスパール』が好きな人は、この機会に世界のアートを堪能してみてもいいですね。