【ファッション業界の次世代を担う才能の登竜門】 東京都が主催する若手デザイナーを育成・発掘するファッションコンクール「NFDT」 そのワークショップを覗いてきた
「東京をパリ、ミラノ、ニューヨーク、ロンドンと肩を並べる“ファッションの拠点”にしたい」
そんな想いのもと、東京都はファッション・アパレル産業の振興に取り組んでいます。
その取り組みのひとつが、「世界に羽ばたくファッションデザイナー」の発掘・育成を目的に、都内在住・在勤の学生らを対象に主催している2つのファッションコンクール「Next Fashion Designer of Tokyo(NFDT)」と「Sustainable Fashion Design Award(SFDA)」です。
<キャプション>昨年度の最終審査会(東京都産業労働局提供)
「NFDT」は、東京から未来を担う若手デザイナーを生み出し、世界で活躍できる人材に育てていくことを目的とした、都内在住または在学の学生を対象にしたコンクールで、テーマが自由の「フリー部門」と障害のある方の着用を前提としたデザインを募集する「インクルーシブデザイン部門」に分かれています。
「SFDA」は、都内在住・在学・在勤の学生とアマチュアデザイナーを対象に、日本の伝統である「着物文化」に着目したコンクールで、「ウエア部門」と「ファッショングッズ部門」に分かれています。
この2つのコンクールの最大の特徴は、何といっても、世界で活躍できる人材の「育成面」を追求していることにあります。表彰して終わりではないところが他にはない価値だといえます。
例えば、一次審査通過者にはパリコレデザイナーや業界のプロのワークショップ、二次審査通過者には将来を見据えて、流通などを学ぶビジネス体験の場。また受賞者には、賞金最大100万円に加え、ブランド立ち上げ支援、パリでの作品発表のサポートなどと至れり尽くせり。さらには次世代の育成プログラム「アカデミー」を本格始動・開講しているというから、これまで以上に東京都の本気を感じます。
2022年に創設して5回目となる今年度は、両コンクール合わせて過去最高となる約4,800件の応募があったといいます。昨年度は約2000件と聞いていますからまさに激増。注目度の高さと同時にものすごく盛り上がってきていることがうかがえます。
また実際、受賞者の中には、自身のブランドを設立し、国内外の著名アーティストのステージ衣装やMVで採用されるなどの実績も出てきているといいますから、いまや次世代を担う才能の登竜門としてもこれまでの取り組みの成果が確実に表れてきています。
現在(10月)は一次審査を通過した計59作品を対象に一般投票(11月9日まで)が行われており、各部門で得票数が多かった上位3作品が「特別選抜賞」の候補作品として、2027年3月に行うファッションショー形式の最終審査に進むとのことです。また、今回の一般投票とは別に、パリコレデザイナーやバイヤー、障害者支援団体の代表ら業界の第一線で活躍している審査員による二次審査も行われるとのことですから、応募者にとっては世界に羽ばたくデザイナーになるという夢を叶えるビッグチャンスです。
そんな一般投票が行われている最中、「NFDT」のインクルーシブデザイン部門での一次通過者向けのワークショップが開催されるというので、昨年に続き今年も覗いてきました。
【世界に羽ばたくファッションデザイナーの発掘!】東京都が主催する国内最大級の2つのファッションコンクール「NFDT/SFDA」。そのワークショップを覗いてきた
このワークショップは、二次審査に臨む学生デザイナーが、デザイン画や試作アイテムを持参して受講。専門家による講演やアドバイスだけでなく、視覚や身体に障害のある方たちと議論をする場も設けられているので、ユーザー視点の意見や要望を踏まえて、自分のアイディアをブラッシュアップすることができます。
「インクルーシブデザイン」の本質を学ぶ
ワークショップの前半は、障害のある方の着用を想定した「インクルーシブデザイン」に必要な知識を、障害を持つ方やデザインなどに関わってきた専門家の実体験から学ぶ時間でした。
最初に「インクルーシブデザイン部門」の特別アドバイザーである上原大祐さんと加藤さくらさんから挨拶と自己紹介を兼ねた体験談からワークショップが始まりました。
上原さんは、パラアイスホッケーの銀メダリストで、認定NPO法人D-SHiPS32(ディーシップスミニ)、一般社団法人障害攻略課代表として、企業や自治体のアドバイザー、インクルーシブ教育などで全国を訪問。また、一般社団法人ゼログラヴィティの理事として、誰もが海を楽しめる環境づくりや人材づくりにも力を入れています。
上原さんは冒頭で、自身の車いすでの散髪時の苦労を例に挙げて、ファッションだけでなくそこから派生していくものがたくさんあるということを意識してほしいと話されていました。
<キャプション>「インクルーシブデザイン部門」特別アドバイザー上原大祐さん(左)
近年、障害の有無にかかわらず着用しやすい衣服への関心が高まっており、実際、アパレル企業やファッション通販大手、百貨店らが、障害の有無や体型の違いに関わらない「インクルーシブファッション」アイテムを開発、販売を加速させているといわれています。
“一人の願いや困りごとを起点にしたら、みんながハッピーになった”
「インクルーシブデザイン」の本質はそこにあるようです。
その象徴的な例が、加藤さんの「スタイ(よだれかけ)」のお話でした。
加藤さんは、一般社団法人mogmog engine共同代表で、2010年生まれの娘さんが福山型先天性筋ジストロフィーの疾患を持っているそうです。娘さんの病気を機に、障害があっても美味しく食べられる食の開発をはじめ「障害がある子が生まれても誰も絶望を継続しなくてもいい世の中」にすべくさまざまな活動を行っています。
加藤さんの娘さんは、筋ジストロフィーのために幼児期以降もスタイが必要でしたが、赤ちゃん用のデザインのものだと一辺倒のものが多く、ファッション的にもフィット感がない気がしていたそうです。
そこで、もっとかわいいもの、スタイを付けていても可哀そうだといわれないようなものがあったらいいなという思いから、アパレル企業のユナイテッドアローズといっしょになって、スタイにもなるエプロンドレスをつくりました。これは前掛けで寝たきりでも着せやすく、速乾性もあって機能性にも優れている。さらには、スタイには見えないという画期的なデザインであることから、いまでは健常者からのニーズもあるとのことです。
娘さん一人のために作ったものが多くの誰かにためになったというまさにこれこそがインクルーシブデザインの典型的な事例のひとつでした。現在、「041(オーフォアワン)」というブランドとして展開されているそうです。
<キャプション>「インクルーシブデザイン部門」特別アドバイザー加藤さくらさん(右)
上原さんにも同様の体験がありました。
高齢者や障害のある方、車いすを利用している方でも簡単に着脱できる着物「KIMONALL(キモノール)」がそれです。これは車いすユーザーである上原さんの着物を着たいという願いから生まれたものだそうです。
上下セパレートなので、シャツを着るように、スカートをはくように簡単かつ気軽に、しかも数分から10分足らずで着ることができることから、いまでは車いすユーザーだけでなくインバウンドにまで需要が拡大、着付けができない外国人のお土産になっているとのことです。また、本物の着物に劣らない本格的なデザインになっていることから、お花やお茶の先生といった日頃着物を着る方々からも喜ばれているそうです。
インクルーシブデザインは一人の願いや困りごとから始まるということがわかったところで、次に後半に行われるグループディスカッションのゲストの方々から自己紹介を兼ねてファッションでの困りごとをお聞きしました。
今回は、視覚、聴覚、肢体不自由といった障害を持った方々に加えて、感覚過敏の専門家の方がいらっしゃっていましたが、困りごとは本当に人それぞれだということを感じました。ただ、共通していることは、それぞれの困りごとはコミュニケーションによってそのほとんどが解決できるということです。またそれは言い換えれば、困りごとの解決にはコミュニケーションが不可欠だということにもなります。
そのことで象徴的だったのは、視覚障害の方が話されている時のことでした。視覚障害の人にとっては声による反応がなければ意思の疎通ができません。今回も参加者の反応を確かめる場面が何度か見受けられました。これは聞くことを仕事にしている私も意識していく必要があると痛切に感じました。
理解を得ることが難しい感覚過敏
前半の最後は、感覚過敏研究所のパタンナー清水雅恵さんのお話でした。
感覚過敏とは、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚などの諸感覚が敏感で、多くの人が特に気にならない音、明るさ、匂い、肌触りなどがひじょうに苦痛なレベルに感じ、日常生活に支障をきたすことで円滑な社会生活を送ることが難しい状態のことをいいます。
状態といわれるだけあって、あくまでも病気ではなく症状。診断名がないので、周囲から認識されることが難しく、怠けているとか、わがままでとらえられ、社会的な理解を得ることがなかなか難しいそうです。
感覚過敏研究所は、感覚過敏当事者で研究所所長である加藤路瑛さんの講演会やワークショップ開催による感覚過敏の啓発活動、感覚過敏対策商品の開発販売、企業や大学との共同研究、調査等を通じて当事者の課題解決を目指し、様々な取り組みを進めているとのことでした。
<キャプション>感覚過敏研究所パタンナー清水雅恵さん
清水さんは、感覚過敏研究所が開発したアパレルブランド「KANKAKU FACTORY」の立ち上げに携わり、現在は、同研究所のスタッフとして感覚過敏対策商品の開発のほか、研究所全般の活動をされています。
今回は「インクルーシブデザイン」ということで触覚過敏を対象に「KANKAKU FACTORY」での商品開発の実例をあげながら話されていました。
感覚過敏の人にとって、市販の服の肌触りは針が刺さっているような感覚になるそうです。だから、生地の材質はもちろん、製法にも細心の注意を払うことが必要です。そのため、製品開発にあたっては何度もサンプルを作成し、修正を重ねていったと清水さんは話されていました。
「インクルーシブデザインは、対象となる当事者の困りごとや悩みごとをヒヤリングしそれをファッションと機能性と両方に落としこむというところが、一番の肝ではないかと思っています。実際、商品開発においてはひじょうに時間がかかりました。当事者の困りごとというのを理解するのがとても難しかった。自分たちがそれを経験できないということが大きいのですが、だからこそたくさんの人たちの困りごとを集めて、それをうまくデザインとか作品に落とし込むことを第一に考えました。みなさんはこれから作品、絵型、デザイン画をかたちにする作業に入ると思いますが、それにあたっては常に機能性と当事者の困りごとをデザインにどう融合させるかということを考えて、作品作りに取り掛かっていただければと思います」
と、清水さんはブランド構築にあたって感じたことと学生デザイナーたちにエールを送って話を締めくくりました。
“ファッション”という共通言語
ワークショップの後半は、学生デザイナーたちと障害のある方とがグループに分かれてのディスカッション。私はオブザーバーとして各テーブルを回りながら話をきかせていただきました。
各テーブルでは、学生デザイナーが自身のデザインを元に質問をして意見を聞き、障害のある方も自分の体験経験をもとに個々の問題や困りごと、その対応をどうしているのかなど話していました。それを真剣に聞き入り、中には一生懸命メモを取っている姿もありました。
はじめのうちは障害のある方との交流に慣れていないこともあってか、学生デザイナーも緊張していたようで、障害当事者の積極性の方が目立っていました。しかし、“ファッション”とい素敵な共通言語があることで、時間の経過とともにコミュニケーションが盛んにおこなわれるようになり、最後には打ち解けたようで笑い声も聞かれるようになっていました。
ワークショップの最後は今回得た情報を参加者全員が共有する時間。視覚障害があっても時間がわかる時計があること、あまり気にしたことがなかった雨の日の服の色の変化やしわなどが障害のある人にとっては気になるということ、また逆に服の裏表の判別については逆にこちらが気にし過ぎていたことがわかったなど新たな発見がいくつか発表されました。
その中で、印象に残ったのが、自閉症の家族がいるという学生デザイナーの話でした。「言葉が通じにくいこともあって、これまでは忙しさを理由に話しかけることをしてこなかった。今回話を聞いて、これからは好きなことなどをきっかけにして積極的に言葉を交わしていきたいと思っている」と話していました。この話を聞いて、こうした意識の変化が大切であり、この変化がワークショップの大きな成果なのだと感じました。
今回、ワークショップを覗いてみて
昨年の「着物」に続いて今年は「インクルーシブデザイン」のワークショップに参加させていただきました。実際に話を聞いて、あらためて、日本を代表する都市「東京」がこれらに着目する意義を感じました。
「インクルーシブデザイン」については、個々への丁寧な対応が必要だと考えると思っていた以上に簡単ではないと感じました。ただその一方で、障害のある人への理解と思いやりでひとつの問題が解決し、それが多くの人々、ひいては社会問題の解決にもつながっていくということもわかりました。
このコンクールに参加している学生さんたちはみなさんがその思いやりの心を持っているいわば未知の可能性を持った種。これからどんな花を咲かせていくのか。楽しみでなりません。
取材・文:かとうけいご
編集:マイナビ学生の窓口編集部


























