吉岡里帆の大学生活で見つけた道「演劇が何ものにも代え難いくらい楽しかった」|あの人の学生時代。#29
著名人の方々に大学在学中のエピソードを伺うとともに、今の現役大学生に熱いエールを贈ってもらおうという本連載。今回は現在好評放送中のドラマ『健康で文化的な最低限度の生活』(カンテレ・フジテレビ系 毎週火曜よる9時〜)で、生活保護受給者に寄り添いながら奮闘する新人ケースワーカー・義経えみる役を演じる吉岡里帆さんが登場。大学生の男女共に人気を誇り、雑誌ドラマCMなどで見ない日はないほど多忙な吉岡さんに、ドラマの見どころ、大学生へのメッセージを聞いてみました。
文:落合由希
写真:島田香
編集:学生の窓口編集部
INDEX
1.芸術に触れたくて、大学生活は「書道」の道へ
2.書道、趣味、仕事…やりたいことだらけだった大学生活
3.「何ものにも代え難いくらい楽しい」と思った演劇に出会う
4.一生懸命な新人ケースワーカーを演じる
5.今年の夏といえばドラマで共演した「吉村界人さんのタンクトップ姿」
芸術に触れたくて、大学生活は「書道」の道へ
――吉岡さんは京都の大学で書道コースに行かれていたそうですが、大学・学部選びの理由は?
もともと芸術的なものがすごく好きで、写真とか絵とか書道とか音楽とか、そういう仕事に就いている人を「いいなぁ」って思っていたんですけど、なかなかチャンスがなくて。
でも、子どもの頃からずっと続けていた書道を学べる学校を調べてみたら、書道の名門校が京都に偶然あったので「ここで学んでみたい」と思ってそこの大学・学科を選びました。
部活でも書道部に入っていたんです。建仁寺っていう京都五山に入る大きなお寺があって、わたしのすごく好きなお寺のひとつで、その書道部の仲間と一緒にそこで展覧会を開いたりしていました。
あと、京都内にある、書道をやっている人たちともサークルを組んでいて、そこの人たちとも展覧会をしました。部活としてもできたし、サークルとしても書道展を開けて、1年で2回も大きな展覧会ができたことは思い出深いです。
――書道って、ひとりで書くだけじゃないんですか?
ひとりで書くことももちろんですが、合作なんかもあります。一緒に活動していた仲間はどちらかというと細かい文字の巻物を作ったりするのが得意で、各々ひとりで作品づくりをすることが多かったですね。なので、私も割とひとりで書く方を重点的にやっていました。
――部活やサークルの経験が今の仕事に活きてるなって実感することはありますか?
仕事柄、なにかものづくりをしている人たちと会うことが多いのですが、私自身もものづくりをしていた経験があることで、その人たちの考え方を理解できるということは、今の仕事にも活きてるなと思います。
書道、趣味、仕事…やりたいことだらけだった大学生活
――大学に行きながら演技のお仕事もされていたと思うのですが、大学生活と仕事との両立は大変でしたか?
そうですね、その頃から睡眠時間がぐっと減った気がします。1日にやらなきゃいけない項目が多すぎて。それを両立するようになってからは、生活スタイルが変わりました。
――書道以外で夢中になっていたことはなんですか?
趣味でいえば写真を撮ることですね。また、他校の子たちと一緒に演劇や自主制作の映画もやっていたので、映画を作ったり、お芝居したり。好きなことは全部、将来の仕事にもつながると思って真剣に取り組んでいました。
――そんなに好きなことがたくさんあったら、確かに寝る間を惜しんでやりたくなるのはわかります。そんな大学生活の中で転機はありましたか?
在学中に『あさが来た』(NHK連続テレビ小説)のオーディションに受かったことですね。それがすごく大きな転機だったと思います。地元から東京に行くことも増えて、生活がガラっと変わった感じを覚えています。
「何ものにも代え難いくらい楽しい」と思った演劇に出会う
――書道に写真、映画、演劇といろんなことをされてましたが、当時いちばん好きだったものはなんですか?
演劇がいちばん好きでした。何ものにも代え難いくらい楽しかった。舞台はやっぱり、いつかまたやりたいですね。私、「新派」(※1)がすごく好きなんです。地元に南座っていう大きな芝居小屋があって、そこで観た新派のお芝居がめちゃくちゃおもしろくて、お腹かかえて笑って、でも日本らしさがしっかりあって。古典的なものも大事にして、新しいものも混ざっていて……。ああいう、日本らしさが残っている人情話みたいなものは今後やってみたいです。
(※1)
1888年(明治21年)に始まった日本の演劇の一派。明治時代に始まった「壮士芝居」「書生芝居」などをもとに、歌舞伎とは異なる新たな現代劇として発達し、「旧派」の歌舞伎に対し「新派」と称された。当代の庶民の哀歓・情緒を情感豊かに描いた演目が多いことが特徴。
――ちなみに、趣味だという写真は今も撮ったりしてるんですか?
今はしてないですね。仕事を始めてから、なかなか余裕がなくて。本当は書道もやりたいなぁっていつも思っています。でも今時間がない中でやっても、きっといい写真も撮れなければ、いい書も書けないなぁ、と。だから自分自身、少し余裕ができてからまたやりたいなぁと思っています。
――では、もし今まとまった休みがあったとしたら何をしたいですか?
うーん、地元に帰りたいですね。あと、寝たい(笑)! 次の日のことも何も考えずに好きなだけ寝たいです!
一生懸命な新人ケースワーカーを演じる
――ドラマ『健康で文化的な最低限度の生活』で演じられている義経えみるという役は、安定を求めて公務員になった、情に厚くまっすぐな性格の新社会人という役どころですが、実際に演じてみていかがですか?
すごくやりがいを感じてます。等身大の役なので、演じていてもリアルなリアクションの連続という感じですね。突然生活課に配属されて、そこは自分が想像していたような世界とはまったく別の世界で……。
でも、就職したての頃ってやっぱりみなさんそうなのかなとも思いますし、自分が思い描いていた未来とはまた全然違う景色がそこにはあって、でもそこでがんばっていくしかなくて。社会人として、その自分が今置かれている現実としっかり向き合っていかなくてはならないのかなと。それに加えて、さらにえみるは110世帯という数の世帯と向き合わなきゃいけなくて。
――ひとりで110世帯……多いですね……!
そう、すごく多いんです。実際にケースワーカーとして働く方にお話を聞くと、みなさん大変な思いをしながらお仕事と向き合われている方ばかりで……。
でもなんとか利用者の方の役に立ちたいという信念を持って仕事を続けていらっしゃるケースワーカーのみなさんに対しては、尊敬の気持ちでいっぱいです。
――役作りをする上で、苦労した点はありますか?
専門用語が難しいので、そこは苦労してますね。独特なセリフが多くて、普段なじみのない言葉ばかりなので、そういう意味では難しいです。
それと、えみるが利用者の方の気持ちを汲み取って少しずつ成長していくんですけど、リアルなぶん、何か大きな決めゼリフがあるわけでもないですし、わかりやすい描写があるわけでもなくて。本当に少しずつ積み重ねて積み重ねで「あ、成長していった」とか「人と人の心が通じ合うようになった」ということを描いていくんですね。成長していくさまをカット毎の心のつながりなどでていねいに表現していかないといけないので、そこは難しいなと思いながらやっています。
――必ずしも台本通りの順番で撮影するわけではないでしょうし、気持ちを作るのが難しそうですね。
そうなんです。なので、撮影前には毎回、台本を自分の出るシーンのもっと前から読んで、気持ちを作るようにしています。
――役柄に共感する部分はありますか?
一生懸命やればやるほど空回りしちゃうえみるにはとても共感しますね。私も同じような経験がありますし。たとえば、私はすごい熱量を持って接するんだけど、相手との熱量のギャップを感じてしまったときはその差を気にしてしまうことも。あと、一生懸命やりすぎてしまうところも似てるなぁって思います。
だから、うまく力を抜いたり、力の抜きどころをわかってる人にあうとすごいなって。私は抜きどころがわからないので、まだまだその境地へは遠いかもしれません。
――経験を積み重ねていかないと、うまく力を抜くのは難しそうですよね。ただ、えみるは新人ですし、そういう意味ではスタートは吉岡さんと同じとも言えるのでは?
そうですね。だから台本を読んでいてすごくえみるに共感しています。
今年の夏といえば「吉村界人さんのタンクトップ姿」
――撮影では、えみるの指導係である井浦新さんとのシーンが多いと思いますが、井浦さんはどんな方ですか?
新さんはすごくおもしろい方で、いつも話してて楽しいです。
――そうなんですね! 今までの役どころもあってか、物静かな方なのかと思ってました。
確かに静けさみたいな、静寂な時間を持っている方ですけど、でも、好きなものに対しての愛情がすごく深い方で。歴史が好きで、家族を大事にされていて、自然が好きで……。
その、好きなものの話を聞いているととてもおもしろいんです。熱量が本当にすごくて(笑)。新さんはとくに縄文時代が好きなんですけど、新さんの縄文の話を聞くのが好きです。しかもちょっと天然なんです、新さん。
――楽しそうな現場ですね。ロケも多くて大変だと思いますが、暑さは大丈夫ですか?
みんな汗かきながら、必死になって撮ってます。スタッフさんも共演者のみなさんも、「暑いね〜!」ってヘトヘトになりながら撮る、みたいな。ドラマの中では自転車に乗って訪問するシーンがキーポイントになってるんですけど、自転車で走るシーンはホントに暑くて暑くて……。いい汗かいてます(笑)。
――いい運動にもなってるんですね(笑)。撮影時の印象的なエピソードなどはありますか?
今回、同い年の吉村界人さんとも初めて共演させていただいたのですが、吉村くんもまたおもしろい人で、彼と仕事ができて本当によかったなって思ってます。
吉村くんはいつも、肩のところで袖をブツッと切った、脇が丸見えのタンクトップを現場に着てくるんですよ。なのでいつも「ちょっと、腕出すぎじゃない?」ってツッコんでます(笑)。その姿が印象的すぎて、今のところ、わたし的今年の夏といえば「吉村界人のタンクトップ姿」というくらい(笑)。
初日から「おい吉岡」って名字を呼び捨てで呼んでくれたのも今までにない距離の詰め方で嬉しかったです(笑)。
――そんなユニークな出会いもあったんですね。では最後にがくまどの読者のみなさんにドラマの見どころを教えてください。
今作では、ケースワーカーという、まだ世の中ではあまり知られていない職業を生々しく、そして時にはさわやかに描いていきます。人と人とのつながりの尊さや、そこから見出される人生の希望を、夏らしくパワフルにお送りしますので、ぜひ大学生のみなさんも一緒に学び、明るい夏にしていきましょう!
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最後に、今の大学生に一言メッセージをお願いすると、「好きなことにまっすぐに!!」と書いてくれた吉岡さん。大学時代、書道・演劇・映画・写真と、勉強や仕事、趣味も含めてまさにまっすぐに好きなことに向かっていた吉岡さんだけに、自身の経験に裏打ちされた、迷いのない力強いメッセージをいただきました。公務員志望の学生は特に見てほしい夏ドラマ『健康で文化的な最低限度の生活』、ドラマの中で成長していく新人ケースワーカー・えみるに注目です。
<プロフィール>
よしおか・りほ●1993年1月15日生まれ。京都出身。おもな出演作は、映画『幕が上がる』『明烏』『STAR SAND –星砂物語-』、ドラマ『連続テレビ小説 あさが来た』(NHK)、『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)、『カルテット』『きみが心に棲みついた』(ともにTBS系)など。映画『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』が2018年10月12日に公開予定。写真集『so long』(集英社)が好評発売中