学術機関リポジトリとは!? 「しくみ」と「卒論に役立つ使い方」を解説
学術機関リポジトリとは、大学などの学術機関がもつデジタル文献サービスのこと。デジタル管理することで検索も発信もしやすくなり、今後のさまざまな研究活動にも大きく貢献できると期待されています。
そもそもリポジトリという言葉には「倉庫」「貯蔵庫」という意味がありますが、ここでは大学などで運用されている「機関リポジトリ」について取り上げます。大学での勉強や卒論にも役立つこと間違いなしの機関リポジトリ、この機会にどんなものか知っておきましょう。
機関リポジトリとは
機関リポジトリとは、国立情報学研究所の公式サイト内にて次のように説明されています。
機関リポジトリとは、大学とその構成員が創造したデジタル資料の管理や発信を行うために、大学がそのコミュニティの構成員に提供する一連のサービスです。
(引用:国立情報学研究所「学術機関リポジトリ構築連携支援事業」)
機関リポジトリは、大学やそこに所属する教授などによる研究資料(論文など)を「管理」したり、内外に「発信」できるようにしたデジタルサービスのことを指します。そして「大学が提供する」とあるとおり大学等ごとに設けられているものです。
もう少し詳しく、今度は文部科学省による説明をご紹介します。
機関リポジトリは、大学及び研究機関等において生産された電子的な知的生産物を保存し、原則的に無償で発信するためのインターネット上の保存書庫である。
(引用:文部科学省「学術情報発信・流通の推進」
「インターネット上の保存書庫」これは分かりやすいですね!論文などの研究資料を紙ベースで保存するのではなく、デジタル化してネット上に保存することで、世界中に発信しやすくなるというわけです。
機関リポジトリのこれまでの歩み
機関リポジトリがどのように広まってきたのか、大まかではありますがこれまでの歩みを見ておきましょう。
●インターネット普及前
論文などの学術情報を得るための主な手段は、商業出版社による「学術雑誌」でした。ですが、こうした学術雑誌が研究者たちにとって著しく重要な位置付けとなったあまりに、学術雑誌が高騰するといった状況も生まれました。
●オープンアクセスの浸透
インターネットの急速な発展と普及により、様々な情報が容易に入手しやすい時代となりました。これが今、大学生のみなさんが生きているネット社会です。論文などの学術情報に関しても同様で、「誰もが制約なくアクセスできた方が良いのではないか」といった発想が生まれました。これが「オープンアクセス」という考え方です。
●オープンアクセスの2つの流れ
オープンアクセスには大きく2つの流れがあります。1つめは出版社が主体となるもので、具体例としてはオンライン上で自由に閲覧できる「オープンアクセスジャーナル」など。そしてもう1つ、大学等での研究者自らが主体となるものとして「機関リポジトリ」が生まれました。
●国の施策として機関リポジトリ推進
2006年〜2007年にかけての「国立情報学研究所」による『学術機関リポジトリ構築連携支援事業』を通じて、各大学等での機関リポジトリ構築が急速に進み、全国展開が実現。「JAIRO cloud」というシステム環境も提供され、各大学等への導入サポートが行われました。
機関リポジトリのしくみ 無料で使える?
機関リポジトリは前述のとおり、大学等ごとに設けられているものです。ですが、各大学等で完全に独立しているわけではなく、日本全国のデータを集約できるしくみが存在します。それが「学術機関リポジトリデータベース」(IRDB : Institutional Repositories DataBase)です。
機関リポジトリやIRDBの全体像を簡略化すると、次のようになります。
IRDBでは各大学等の機関リポジトリに登録されたコンテンツのメタデータ※を収集し、データベース化しています。さらにIRDBは外部システムにもメタデータを提供しており、より広範囲でデータを有効活用できるようにしているのです。
※メタデータとは:データの作成者・作成日時・属性といった付帯情報のこと
そして、機関リポジトリは原則として無料で使えます。学生のみなさんも無料で使えますので、学びや研究のために有効活用していきたいですね。
卒論に役立つ?機関リポジトリのメリット
卒論などの際に、機関リポジトリはどのようなメリットが期待できるのでしょうか。ここでは大学生目線での機関リポジトリのメリットについて挙げてみました。
・査読論文(学術雑誌に掲載されるもの)以外の論文も気軽に閲覧できる。
・どんな類似研究が行われているのか?最新動向を知ることができる。
・先輩たちの論理展開の方法を参考にすることができる。
・日本国内のみならず世界中の論文にアクセスしやすくなる!
このように、さまざまな論文に触れるチャンスが増えることで、自分の研究テーマに関する知見を深めることができるのではないでしょうか。
また、「大学の社会的責任」という観点からは、国の補助金等により行われた研究の成果をオープンにできるメリットも大きいです。補助金が投入された研究に対する透明性を確保できますし、社会に対する説明責任を果たすことにもつながるわけです。
機関リポジトリには課題もある
一方で、機関リポジトリの現状にはまだ課題もあります。システムを長期的に運用していくための「コスト」の問題、それからコンテンツをさらに充実していくための「手間」や「著作権」の問題などが挙げられます。
特に「著作権」について、文部科学省公式HPでは次のように書かれています。
機関リポジトリへの登載には、ジャーナルを発行する学協会等の許諾を必要とするが、その公開のための著作権ポリシーが定まっていない場合が多いことも支障になっている。
(引用:文部科学省「機関リポジトリの活用による情報発信機能の強化について」)
学術雑誌に掲載された論文は、著作権の問題があり機関リポジトリへの登載が進まないという現状があるのです。そのため、機関リポジトリはそれ単独で活用するというよりも、これまで通り大学の図書館での書籍や雑誌などとあわせて上手に活用していくといいでしょう。
機関リポジトリの使い方をマスター!
機関リポジトリはオープンアクセスとなっているのが大きな特徴。誰でもワンストップでアクセスでき、使い方はとても簡単です。前述のとおり、IRDBという全国集約システムもあるため、
・IRDB(学術機関リポジトリデータベース)
の好きな方をチョイスして使ってみましょう。
大学ごとの機関リポジトリから検索する
自身の大学等でのリポジトリは、比較的身近な存在といえます。まずはご自身の大学のものをご覧になってみてはいかがでしょうか。あるいは「京都大学」「千葉大学」などは、機関リポジトリに関して先進的な取り組みを行なっており、コンテンツも充実しているのでおすすめです。
今回は京都大学のリポジトリ「KURENAI-紅」を例にとって検索してみます。
TOPページ左上の検索ボックスに例えば「教育」などと入力して検索するだけ。簡単ですね!
あるいは、もう少しスクロールすると下図のように研究科等ごとにカテゴリー分けがされていたり、著者で絞り込みができたりと、便利なメニューも用意されています。
IRDB学術機関リポジトリデータベースから検索
IRDBも、基本的にはキーワードを入れて検索するだけといたってシンプル。
上図のとおり、Googleと似たようなインターフェースとなっています。
文献の数が多すぎて困る場合は「詳細検索」をクリック。
すると「タイトル」「著者」「著者所属」など、たくさんの項目からソートをかけることもできるようになっています。
まとめ
今回は大学などの学術機関がもつ「機関リポジトリ」について解説しました。「リポジトリ」というと難しいように感じられますが、実は誰もが自由に大学での研究成果を閲覧できる、便利なサービスとなっています。
国の支援事業もあり現在は全国的に普及していますが、よりコンテンツを拡充していくには解決すべき課題も残されています。とはいえ気軽に研究論文を閲覧できるのは大きなメリット。これまでの書籍や学術雑誌などと併用しながら、上手に使ってみてくださいね。
文:学生の窓口編集部