「自分の心が揺れることに敏感でありたい」(IT評論家 尾原和啓さん) #「かっこいい大人(ひと)」に会いたい (第2回)

編集部:ゆう

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VUCA時代の今、本当の「かっこいい生き方」って、なんだろう?

不確実な時代に、「将来何をしたらいいのかわからない」「失敗したくない」と悩める学生は多いのではないでしょうか。正解がないのは分かってはいるものの……前向きに、かっこよく、時代をサバイブしていきたい。 

元フェイスブックジャパンの代表取締役で、現在はMOON-Xを手掛ける長谷川晋さんが、「かっこいい大人(ひと)」と思えるビジネスパーソンと対談する同連載。今回は、マッキンゼー、Google、楽天など数々の企業で活躍されている、IT評論家・尾原和啓さんに「かっこいい大人」についてお聞きしました。

前回の記事はこちら→「かっこいい大人(ひと)」に会いたい (第1回) #マネーフォワードCEO辻庸介さん

【今回のゲスト】

PROFILE

尾原和啓(おばら・かずひろ) IT批評家

京都大学院で人工知能を研究。マッキンゼー、Google、iモード、楽天執行役員、2回のリクルートなど事業立上げ・投資を専門とし、内閣府新AI戦略検討、経産省 対外通商政策委員等を歴任。現在13職目 、近著「アフターデジタル」は11万部、元 経産大臣 世耕氏より推挙。「プロセスエコノミー」はビジネス書グランプリ イノベーション部門受賞

【今回の名言】

「かっこいい大人(ひと)」に会いたい

尾原さんが思う「カッコイイ大人」とは?

尾原:「“かっこいい”を語らない人」です。晋さんの功績のおかげで、日本でもInstagramが急成長しましたよね。

長谷川:ははは(笑)。

尾原:ただ、憧れの人を身近に感じられるようになった反面、憧れの人に囲まれることに慣れてしまった時代だとも感じます。これって、いい面・悪い面があるんですよ。

例えば僕ら世代の憧れの人は、テレビに出ているスターや歴史上の人物でした。ファッションも流派が分かれていて、「この雑誌のトップモデルはこの人!」といった、目指すべき相手や場所が提示されていたんです。憧れが一つしかないから、みんなが憧れを目指して楽しめた時代。しかし、今はそれぞれがインスタやTikTokを見て、憧れの人をフォローしています。“憧れ”が一人一人違い、ジャンル別にも持てるようになっているんです。

“憧れ”は「あの人になりたい」と僕たちにエネルギーを与えてくれる一方で、「あの人になれない私」も知れてしまい、自分と比較させてしまう力があります。昔は憧れに囲まれるのが非日常だったはずなのに、今では日常になっているため、“憧れ”に潰されてしまわないか心配しています。

「好き」を追求していくために、他者にかっこよさを押し付けてしまうと、自分を見失いやすくなるんですよね。だからこそ、人に“憧れ”や“かっこよさ”を押し付けないで、自分の中だけでどんな人間になるかを考えられる大人が、僕はかっこいいと思います。

長谷川:憧れに囚われているばかりで結局どうなりたいのかって見失いがちですよね。ただ、なんだか意外でした!尾原っちさんは僕の中で自由なイメージで、「こうなりたい」と思うものがあれば、常に全力で向き合って道を切り開いてきた印象です。想像とは違う角度で回答いただけてとても面白いです。では、「かっこいい」と思う大人の条件とはなんでしょう?

尾原:言葉にできなくても、心が震えるものを敏感に感じとれる人が、かっこいいと思います。例えばビートルズの曲を聞いて、かっこよさに痺れて気を失う人もいるんですよね。自分の理性では理解できないけれど、なぜか痺れるような感覚を得て、「こんな人になりたい」と猛烈に心が震えられる人が、かっこいいと思える第一条件です。

長谷川:“心を震える感覚”は、どのように身についていくと思います?

尾原:邪魔をしているものを排除することです。TEDの有名なスピーチで、ケン・ロビンソン氏が「学校教育は創造性を殺してしまっている」と話している動画があります。人間は本来好奇心が旺盛で、綺麗な花や景色を見たら、思わず立ち止まって眺めてしまう気持ちがあるはず。学生さんなら「このインスタグラマーが気になる!」とアカウントやハッシュタグを追いかけたくなると思うんです。

しかし、明日までに提出しないといけないレポートがあるため、興味を押し殺してしまうんですよ。この心惹かれる気持ちにフタを外せられる人が、「かっこいい」を見つけやすいと思いますね。晋さんが「かっこいい」と思う人も、自分の心が震える人が多いのでは?

長谷川:めちゃくちゃその通りですし、自分もそうありたいと思いますね。僕が一番心が震えたのが、大学で体育会ハンドボール部の主将をやっていたとき。勝っても負けても泣くような、魂を込めて打ち込んでいた体験は、起業へのきっかけにもなっています。痺れるような環境の中で仕事をしたいと思っていたので、「かっこいい=心震える」がものすごく理解できました。

尾原:かっこいいことに敏感な人って、それがどこから生まれているのかにも敏感なんですよね。なぜ自分の心が震えているのか、何か心の内側で共鳴するものがあるのか。両方の側面から考えられるようになると、楽しいと思えるものに出会いやすいかもしれません。

長谷川:尾原っちさんがかっこいいと思う大人は誰ですか?

尾原:時代的な生き方でいうと、白洲次郎ですね。連合国軍占領下の日本で、吉田茂の側近として活躍していた人物です。GHQとの交渉を担当し、日本が独立国家になるために自分の軸を通して尽力し続けた姿は、僕にとっての主軸となっていますね。

ただ、僕はベンチマークする人に対しては浮気症なので(笑)日々「かっけー!」と思う人は変わっています。先日はインスタで見つけた魚屋さんがすごくて。フォロワーが2,000人しかいないのに、近所の人に1,000人ほどフォローされているから、自分のやりたい商売ができているんですよ。

長谷川:いいなあ〜。ベンチマークする人はどんどん変わっていいんですね。

尾原:はい。日々「あの人のようにならなければ」と思うと、いつしか「あの人になれていない自分はだめだ」と自己否定に走ってしまいます。それはもう自分の物差しではなく、相手の物差しになっているんですよ。mustではなくwantでい続ける。憧れの人は2〜3人いて、日々アップデートするくらいの気持ちでいいんじゃないでしょうか。昨日は魚屋さん、今日は晋さん、でも明日になったら忘れているみたいな(笑)。

長谷川:最高です(笑)。尾原っちさんを見ていて思うのは、人生やキャリアは本当にいろいろな形があるということ。変なプレッシャーや固定概念を取り払ってくれる力をお持ちなので、若い世代の方には刺激になる観点だと思います。

前進するための原動力は何?

長谷川:尾原っちさんは、何をセルフエンジンとしているんですか?

尾原:「常に新しい“着想”を見出せるか」と、「その着想を一番有効的に使ってくれる人へパスができるか」ということです。

僕は瞬発力があるタイプですが、正確には0→1の人ではなく、0.1を10にするのが得意なんですね。誰かがモヤモヤして言語化できないことを「多分こうじゃない?」と伝えたときに、「そうか!」とピカッと電球が光る、この瞬間が魂のご馳走なんですよ。

長谷川:魂のご馳走、いいですね。

尾原:あとは、ピカッと光ったことをできるだけ社会にインパクトのある形で繋いでいくのが好きですね。例えば、三年前タイで視覚障害者に向けたサービスを立ち上げているスタートアップ企業がありました。ただ、アイデアはいいけれど、実際に量産できるのかが難航していたんです。そこで大田区の工場で働いている熟練のおじいちゃんに繋いだんですよ。すると2日でプロトタイプを作っていただいて、スタッフのみんなと驚きました。

インターネットの力を使って繋がれることで、イノベーションが起きるんです。光った電球を想像以上のところへ繋げていくのが楽しいです。晋さんのセルフエンジンは?

長谷川:僕は外からではなく、自分所以が多いですね。ある意味、表面的かもしれませんが……人生プランの階段を一段登れたかどうか。26歳で立てた人生プランがあるんですけど、そこに向かって一段一段進んでいる、あるいは登る準備ができているのを確認できることがエネルギーになっています。

尾原:僕の場合は「なんであんな場所に行くの?」と思うところに行ってみると、セルフエンジンが発動しやすいです。僕たちはそれぞれ、自分のセルフエンジンが発動しやすい環境を選んでいるんですよね。

仕事で実践している“マイルール”とは?

尾原:「こだわらないにこだわる」です。僕は誘惑に負けてしまいやすいので、「こだわらないにこだわる」ために、今は毎年30%の売上を捨てると決めています。新規事業を担当していると、中には当たる事業もあります。正直、そこに居座ったら人生楽じゃないですか(笑)。残念ながら僕は現状維持の魅力に負けてしまいやすいので、会社員時代は2年で転職すると決めていました。今はフリーなのでいきなり辞めるのは難しいため、お客様に対しては「あと三ヶ月で離れますよ」とお伝えして徐々にシフトするようにしています。

長谷川:売上30%、2年で転職……いやあ、すごいです。手放すって結構勇気がいることだと思うんですけど、なぜ尾原っちさんはできるんでしょうか?

尾原:シンプルな話で、固定的な強みだけで生きられる、ビジネスの時代は終わったからです。今までは一生会社が守ってくれる終身雇用制度がありました。でも今は情報が簡単にコピーでき、製造ができる。仮に自分たちの働く年数を60年としたら、会社の寿命と、僕たちが働ける長さを考えると、3回ほど転職する可能性が生まれてきます。それが当たり前になったときに「選ばれる強み」を大切にしないといけません。

「選ばれる強み」は、できればセルフエンジンがかかっているものを強みにできたらいいですね。努力を努力だと思わないから、どんどん活躍ができるはず。自分のセルフエンジンと、人から選ばれる理由をできるだけ重ねられるように意識していくといいと思います。

新規事業で作った部署を「守って」と言われると、僕はセルフエンジンが動かなくなってしまう。結果的に自分の強みを潰してしまうため、できるだけ強制的に離れたり、手放したりするようにしています。

座右の銘を教えてください

尾原:中学生の頃から掲げている「『どうにもならん』はどうにでもなる」です。客観的に見て「どうにもならない」と思ったことは、失敗して当たり前。今持っているオプションを全て手放して、あらゆることができるという意味だから、結果どうにでもなるんですよ。

長谷川:「nothing to lose」という言葉がありますが、まさにそうですよね。「ダメ元」「失うものは何もない」意味だからこそ、なんでもできるに決まっていると。気持ちが楽になる言葉ですね。

どんな若者と一緒に働きたいですか?

尾原:そもそも「どんな若者と働きたいか?」という質問は若者に失礼だと思うんですよ。

長谷川:なるほど。

尾原:変革の時代では、若者のほうが何歩も先を歩いています。「若者と一緒に働きたい」と思うのではなく、まずは「あなたは誰と一緒に冒険がしたいですか?」を考えるのが大切ですね。

僕の場合は、先ほどセルフエンジンでもお話したように、着想をもたらせてくれそうな、0と1の境界線で何かを生み出そうと奮闘している人か、誰かの0.1のアイデアを見つけたときに「じゃあ〇〇さんに繋ごう」とボールをパスできる人と冒険がしたいと思っています。

長谷川:僕はさまざまな人と働くのが好きなんですけど、「頭を使えるけれどバカになれる人」は素敵だと感じます。真面目に考えないといけないときはしっかりと発言しつつ、あえてバカになって斬新なアイデアを出したり、人とのコミュニケーションを円滑にしたりできる人と働けると楽しいですね。

さて、あっというまに時間が過ぎてしまいました。本日はありがとうございました!尾原さんの『モチベーション革命 稼ぐために働きたくない世代の解体書』も学生のみなさんにはぜひ読んでいただきたい一冊です。では、最後に学生さんへメッセージをお願いします。

尾原:熱いメッセージを届けない・押し付けないのがかっこよさでもあるんですけど(笑)

長谷川:確かに(笑)

尾原:僕はできるだけ自分の心が揺れることに敏感でありたいと思っています。今日の話の中で何か心が揺れて、その心の揺れが「今まで自分が生きてきたこと」と「〇〇に共鳴することがあったから心が揺れたんだ」と感じるものがあれば嬉しいです。ありがとうございました!

連載のホスト

PROFILE

長谷川晋

2歳から9歳までアメリカ、シアトルで育つ。京都大学経済学部卒、体育会ハンドボール部主将。2000年に東京海上火災入社、法人営業担当。P&Gで10年間、Pampers・Gillette・Braun・SK-IIなどのマーケティングおよびマネジメントを統括。その後、楽天の上級執行役員としてグローバル17ヵ国および国内グループ全体のマーケティングを管掌。2015年Facebook Japanの代表取締役に就任、在任中にInstagramはMAU810万から3,300万に。2019年8月にMOON-X Inc.を創業。Twitterでは次世代ビジネスリーダー向けに幅広いビジネス経験に基づいた情報を発信中。
https://twitter.com/shinhasegawa8

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学生に「一歩踏み出す勇気」を持っていただけるような記事を届けたいです。

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