映画・エンタメ宣伝のプロに聞く「映画・エンタメ業界の現状」と 「デジタルプロモーションの仕事」

編集部:ゆう

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公開を控えた映画・エンタメ情報を、世の中に広く発信するためのPR手法として、「デジタルプロモーション」が主流になっています。しかし、具体的にどんな仕事をするのかピンとこない学生も多いのではないでしょうか。

今回は、映画・エンタメ領域の宣伝を手がけている、株式会社フラッグの執行役員/PRプロモーション部管掌の高田道代(たかた みちよ)さんに、業界の現状をはじめ、「デジタルプロモーション」の仕事について伺いました。

【Q&A編】映画・エンタメのプロが答える!「デジタルプロモーション」の仕事にまつわる質問はこちら

登壇者プロフィール

PROFILE

高田 道代 (たかたみちよ)

株式会社フラッグ 執行役員/PRプロモーション部管掌

京都府出身。アパレル会社、広告制作会社を経て2008年10月にフラッグ入社。 未経験ながら映画宣伝部署の立ち上げメンバーとして、オンラインパブリシティ、ソーシャルメディアマーケティングなど、 デジタルプロモーション全般の経験を経て2013年よりPRプロモーション部マネージャーに就任。50人近くのスタッフを統括し、 2020年より執行役員に。映画学校ニューシネマワークショップ(NCW)で講師も担当。 4歳になる息子を持つワーキングマザーでもある。

≪フラッグ担当作品≫
『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』
『TENET テネット』
『竜とそばかすの姫』
『Summer of 85』など

コロナ禍で映画・エンタメ業界は大打撃。不安な日々のなか、フラッグが行ったこと

――映画・エンタメ業界の現状について教えてください。

弊社が担当しているエンタメ領域は、主に「映画」と「SVOD※」です。それぞれ2020年の新型コロナウイルス蔓延を境に、業界全体が大きな変革期を迎えました。

※SVODとは、動画配信サービス(VOD)の一つ。加入者が定額の視聴料金を払うことで、配信されている動画が見放題となるサービス。

映画だと、2020年5月頃から作品が続々と公開延期になり、コロナ前と比べて市場が半分近くにまで低下。先行きの見えない日々に不安を感じながら、映画業界のためにできることを模索してきました。

今年に入り、ようやく劇場にお越しいただくお客様が戻ってきている印象で、劇場が活気づいています。大きなスクリーンで映画を観る素晴らしさ、体感する喜びを再認識されている方も多く、嬉しさを感じています。

SVODは、映画の大打撃と反比例するように、配信サービスへの加入者が激増しました。コロナ前からもともと各社がオリジナルコンテンツ制作に力を入れていて、質の高いコンテンツが豊富に揃い始めていたんです。コロナ禍によっておうち時間が増えたことで、質の高いコンテンツの口コミが更に広がり、一気に盛り上がりを見せた印象です。

ただ、さまざまな配信サービスに加入したことで、今度は「どのサービスに絞ろうかな?」と迷いが生じている人も増えています。コンテンツの差別化を図ってお客様を維持し続けられるかが、現状の課題になっていますね。

――コロナ禍になった当初、フラッグではどんな懸念がありましたか?

コロナ前のPRプロモーション部では、8〜9割が映画とエンタメの宣伝をしていたんです。映画の公開がなくなる=売上が立たなくなることに直結するため、続々と公開の延期が決定していた当初は、正直「これからどうしよう!」という状況でしたね(笑)

ただ、そこですぐに「新しい領域を開拓していこう」と社内みんなで気持ちを切り替えました。おうち時間で盛り上がりを見せていたゲーム会社や、コロナ禍でデジタル予算にシフトした業界に、エンタメ業界で得たデジタルマーケの知見だからこそ実現できる実績をご紹介し、企画提案をしに行ったんです。

弊社が得意とする企画力を評価していただけたこともあり、新規で取引をさせていただく企業と出会え、現在ではエンタメと一般企業のプロモーションを半分ずつくらいの割合で行っています。いまは業界を限定することなく相互で知見を活かすことができますし、この2年間で会社としては一気に幅が広がって、会社もスタッフも成長できたと感じています。

映画・エンタメを支える「宣伝」の仕事3つ

――宣伝の仕事には、どんな職種があるのでしょうか?

まずお伝えしたいのが、映画やSVODの宣伝に関わる仕事は、コンテンツ権利を持っている配給会社や、コンテンツを配信しているプラットフォーム企業が必ずしもすべてを担当しているわけではありません。多くの企業が弊社のようなエージェンシーとパートナーを組み、一緒に宣伝活動をしています。

配給会社側で作品のターゲットやコンセプトなど、宣伝戦略全体を決めた後、実際に手を動かして宣伝していくのは、各パートナー会社になるケースが多いです。ここで、弊社が担当している映画宣伝の職種を3つご紹介します。

(1)宣伝プロデュース(肩書き:宣伝プロデューサー)

宣伝戦略の全体像を決め、宣伝全てを統括する仕事です予算管理も担っていて、一作品のプロモーションにかけられる宣伝費を、いかにうまく振り分けていくかも大切な仕事になります。

全体の宣伝戦略をゼロから作っていくため、映画がヒットするかどうかは宣伝プロデューサーの戦略次第。時代の流れを汲み取る力も必要な、とても責任のある仕事ですね。

基本的に宣伝プロデューサーは、配給会社やクライアント側に所属している方が多いですが、弊社では現場の次のキャリア形成として、宣伝の上流から戦略設計をするべく宣伝プロデューサーも所属しています。ここは今後ますます強化していきたい領域です。

(2)パブリシティ(肩書き:パブリシスト)

情報をメディアを通じて世の中に届けていく仕事です。例えば、朝の情報番組やネットニュースなどで、映画情報を見る機会があると思います。パブリシストは、そういったメディアに掲載してほしい“価値のある情報”や企画を作って、メディア側に掲載交渉をしていきます。

“価値のある情報”とは何かというというと、まだ世の中に出ていない、最新情報や記録的な数字、トレンドや独自性や説得力のある情報のことです。映画の中身だけで取り上げていただくには限りが出てしまうので、メディアの方々に「取り上げたい」と思ってもらえるような付加価値をつけて、情報の形を作っていくのがパブリシストにとって大きな仕事。

役割としては、さまざまなメディアの方とコミュニケーションをとり、消費者と作品を繋ぐストーリー設計をしながら「世の中ゴトを作る」といった、ブーム感を生み出すことですね。

(3)ソーシャルメディアプロモーション

(肩書き:ソーシャルメディアプランナー、 Webプロモーションプランナーなど)

ソーシャルメディアで実現可能なあらゆる施策をプランニングして情報発信を行い、消費者とのリレーションを構築していく仕事です。ソーシャルメディア全体のコミュニケーション戦略構築をはじめ、バズリサーチ、市場分析、ターゲット設定、公式アカウントのトンマナ・ペルソナ設計、公式ハッシュタグ開発、キャンペーン設計、インフルエンサー企画、UGCを生み出す企画など、手掛ける領域は多岐に渡ります。また、それに加えてWeb上での広告展開のプランニングも行います。例えばYouTubeやTwitterなどの広告でどんなクリエイティブをどんなターゲットにどんな予算で展開して行くべきかをプランニングし実行します。

ソーシャルメディアの重要な役割は、ターゲットの方に「これは自分が見るべき映画」として「自分ゴト化」してもらうことで、そのためにソーシャルメディアで実現できるあらゆる戦略を設計・実行していきます。パブリシティで「世の中ゴト化」を作っていく、ソーシャルメディアで「自分ゴト化」してもらう。この2軸で仕掛けていく事で良いプロモーションが作れると考えています。

――それぞれ何人所属しているのでしょうか?また、人気の職種を教えてください。

現在PRプロモーション部には50人近くのスタッフがいます。そのうち3人が宣伝プロデュースチーム、約15人がパブリシティチーム、約30人がソーシャルチーム(デジタル広告担当含む)に所属しています。

その年にもよりますが、新卒採用で募集しているのは、「パブリシスト」か「ソーシャルメディアプランナー」のみです。宣伝プロデューサーはかなりの現場経験値が必要なので、上記の2職種だけ募集しています。特に人気が高いのはソーシャルメディアプランナーで、今後もますます伸びていく市場だと感じています。

買付〜公開までの流れとは?

――買付〜公開までの流れについて教えてください。

各会社でスキームは若干違うと思いますが、基本的には下記の流れです。

(1)海外の映画祭・マーケット(ベルリン、カンヌ、トロント、AFM等)で映画を買付
(2)劇場営業担当が劇場で上映してもらえるよう交渉、公開時期確定
(3)宣伝プロデューサーが宣伝戦略を立案
(4)戦略を基に、パブリシストやソーシャルメディアプランナーなどの宣伝スタッフが公開日に向けて始動

映画公開の初日、初週末の成績が翌週以降のスクリーン数や上映回数に影響するので、公開直後の動員が一番重要なんです。観たい映画がある場合は、早めに劇場へ来ていただけると嬉しいです。

――体験イベントや雑誌、新聞、交通広告など、さまざまなプロモーション、広報手法があると思います。「デジタル」ならではの強みを教えてください。

ユーザとの距離が一番近いことですね。リアルタイムで反応をキャッチでき、日々発信内容のアップデートができます。

例えば、パブリシティの場合、Webメディアでニュースを出したあと、さまざまなソーシャルメディアからどんな反応があるのかチェックをします。「こんな人たちが反応してくれたんだ」「このユーザ層ならこんな企画もウケるかも」とユーザの動向が見えてきます。反応が近くで見えるからこそ、フットワーク軽く新しい企画を出せたり、ターゲットがズレた場合も軌道修正が随時できたりするんです。

もちろん大枠の戦略はある程度は固めていますが、デジタルは発信することで見えてくるものが多くあります。反応を受けて、その後の展開を試行錯誤できより良い施策に落とし込めるのが、面白さであり強みだと感じます。

デジタルプロモーションに必要なスキルは「ネット文脈への理解」

――デジタルプロモーションをする上で、必要なスキルを教えてください。

ソーシャルメディアがますます主軸になる時代だからこそ、映画・エンタメに限らず、共通して求められるのが「ネット文脈への理解力」ですね。

日々多くの情報が発信され、ソーシャルメディア上にはトレンドや炎上が生まれていますよね。情報をただ表面的に見るのではなく、「なぜウケているのか」「なぜ炎上しているのか」の理由を掘り下げてみると、発信者側・受け手側でどんな気持ちや出来事が発生しているのかが見えてきます。この双方を繋いでいるのが“文脈”です。

意見している色々なの人のリプを見たり、自分の考えを発信してみるなど、発信者側・受け手側の感覚を理解する力を身につけることが、プロモーションをする上で重要だと感じています。企画において、あらゆる立場のひとたちの視点に立った想像力が必要なので。

――映画・エンタメ業界に向いている人を教えてください。

大きく2つあります。まずは「自分の“好き”を大切にできる人」です。例えば、アイドルやアニメなど、沼にハマったり、推しがいたりする人は常にデジタルで熱心に情報収集をし、ファンの反応を見て、コミュニケーションを取っていて、努力せずともすでにファン心理を自分で理解できているんですよね。

担当するプロモーションが知らない分野になったとしても、ユーザが何を求めているのか、どんな情報を欲しがっているのか、何をされたら嫌なのかが、ユーザ視点で分かるんです。プロモーションをする際の主役は、エンタメ作品ではなくて、あくまで消費者が主役で消費者視点で考えることが重要。どんなジャンルでもいいので、好きなことがあり、デジタル上で能動的に情報収集し動向を追いかけ、「深い消費者視点」を持てている人は向いていると思います。

もう一つが「コンテンツ・制作者に対してリスペクトを持てる人」です。 リスペクトを持っている人は、作品に対する監督の考え、役者さんたちや制作スタッフの方々の思い、そこに向き合って立てられた宣伝戦略をしっかり理解しようと努力しますし、関連する過去の作品を熱心に観て勉強したり研究するんですよね。そうやって多角的に自分で考えることで、作品の良さがみえてくるし、何を訴求するのが作品にとってベストなのかを俯瞰して考えられるようになります。

宣伝の仕事において、ファン視点と俯瞰の視点、両方で物事を考えるのは非常に重要なんです。

この「好きを大事にできる」「リスペクトを持って仕事ができる」は宣伝をする際の熱量にも大きく影響します。宣伝側の熱量は受け手側にも伝わると思っていて、企画やコンテンツ、監督・キャスト・スタッフの方々に熱量を持って取り組める人が長く続けられるし、より高いクオリティを出せると考えています。

――学生時代にやっておくといいことはありますか?

情報発信をオープンにやってみましょう!新卒の採用面接を10年ほど担当している中で、ここ数年で特に感じるのは、アカウントに鍵をつけて、情報発信をクローズドで行っている学生さんが多いことです。プロモーションの仕事をしたいのであれば、匿名で構わないので、今のうちからオープンな情報発信に慣れて、ネット文脈への理解を深めておくのがおすすめです。

例えば、映画が好きなら映画レビューのアカウントを作って発信をしてみる。「さまざまな人とコミュニケーションを取る」「一人でも多くの人に見てもらうために見せ方を工夫する」など、反応を見ながら自分で考えて運用するとロジックが身につくと思いますよ。Twitterなら、ツイートアクティビティでエンゲージメント等の数値が全て無料で見ることが出来、自分で分析ができます。これはデジタルに関わるプロモーションの仕事に必ず活きてきます。

仕事を面白くするのは自分次第。常に新しいチャレンジをする

――高田さんの仕事に対する考え方を教えてください。

常にチャレンジする気持ちを忘れないようにしたいと思っています。会社の成長をはじめ、クライアントから依頼を受けている仕事のため、スタッフのためにも、自分達をアップデートして新しいことをやってみることは大事だと考えています。新しいことに取り組めると自分自身が新鮮に仕事を楽しめるとも感じますよね。仕事は自分次第で面白くなるからこそ、挑戦する姿勢は常に持っていたいです。

――ありがとうございます!最後に、学生のみなさんへメッセージをお願いします。

毎年面接をしていると、就活を自分のものにして、楽しんでいる人と一緒に働きたいなといつも感じます。なぜかというと、面接を楽しめる人は仕事も楽しめるから。面接で失敗したとしても、そこで人生が決まるわけではありません。ひとつの通過点です。面接自体を「どうせやるなら楽しんでみよう」とポジティブに捉えて、さまざまな会社を受けてみてほしいです。“好き”を大切にしたり、人を楽しませることが好きな人は、ぜひ弊社にも興味を持っていただけたら嬉しいです!

【Q&A編】映画・エンタメのプロが答える!「デジタルプロモーション」の仕事にまつわる質問はこちら

文:田中青紗
編集:学生の窓口編集部
取材協力:株式会社フラッグ

株式会社フラッグ

フラッグは、デジタルマーケティングの総合プロデュースを担うデジタルエージェンシー。オンラインパブリシティやソーシャルメディアマーケティングを手がけるプロモーション事業のほか、映像制作、ライブ配信、Web制作、VRやARといったインタラクティブコンテンツなどの制作事業を展開。プロダクション機能とエージェンシー機能を兼ね備えているのが特徴で、PRプロモーション部は映画・エンタメコンテンツの宣伝を中心に、一般企業のプロモーションも幅広く行う。2020年からは自社で買付〜配給〜宣伝プロデュースする事業も展開中。これまで7本の公開実績があり、今年の10月28日(金)には、初の日仏国際共同製作・配給作品となる『シャイニー・シュリンプス!世界に羽ばたけ』の公開も控えるなど、事業領域を拡大しています。また、映画の制作・宣伝を学べる映画学校「ニューシネマワークショップ(NCW)」も運営。

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学生に「一歩踏み出す勇気」を持っていただけるような記事を届けたいです。

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