日産が描く5Gとのこれから: 【前編】5G技術が車とどう関わりがあるの?
5G対応のスマホが多数発売され、いよいよ身近になりそうな5G。
5Gといえば、スマホやPCに関りが深いもの、というイメージがありますが、5Gによって車の世界も大きく変化する兆しがあるそうです。自動運転やコネクテッドカーといった、未来の車の形を模索している日産に、5Gで車の未来がどう変わっていくのかお話を伺いました。
5Gの超低遅延で自動制御が進化
――5Gが浸透すると、車にはどのような変化がありますか?
5Gで良くなることは、我々から見ると二つあります。一つが皆さんもよくご存の高速大容量通信と、もう一つが通信の超低遅延(※1)です。
4Gは端末から基地局までの通信において、理論上は10ミリ秒(0.01秒)程度の遅延が発生しますが、5Gでは1ミリ秒(0.001秒)程度まで短縮できるようになります。10倍反応が早くなる技術とも言い変えられます。
高速大容量通信では、提供する情報の量が圧倒的に増え、そのスピードも上がります。例えば、車のナビの地図をアップデートするサービスに関して、少し前までのシステムだと、アメリカのカリフォルニア州の地図をダウンロードするのに10分以上かかりました。それが、フルスペックの5Gの場合は、全米の地図が30秒以内でダウンロードできるようになります。
これまではお客さまに提供する情報は、テキストや音声が中心でしたが、5Gになると映像がどんどん増えるのではないかという期待はしております。
もう一つの超低遅延ですが、実は超低遅延の中にも二つ、注目しているものがあります。
一つは、携帯電話会社さんの基地局を介すもの。例えば、車が完全自動運転になったときに、プログラムされていないことをやらせようとする場合、遠隔で操作できるようにしておくことが考えられています。
そのときに、遠隔操作している側がハンドルを切ってから、1秒後に実際の車がハンドルを切ったらぶつかっちゃいますから……。ですので、5Gの超低遅延というのは我々にとって非常に重要な技術です。
もう一つは、車と車が直接通信する際の超低遅延です。
今の我々の車は、追従運転の際、前の車との車間距離を測定して、車間距離と相対速度を計測することで自分の車を制御しているんですね。これに対して、車と車が直接通信するようになるとどうなるか。前の車がブレーキを踏んだ瞬間に、前の車がブレーキを踏んだということが通信でわかるので、自分の車もすぐにブレーキを踏むという制御がほぼ同じタイミングでできるようになります。
この制御を4Gでやった場合、時速100キロでコンボイ走行(縦列集団走行)しているとすると、2.8メーターの車間距離をとらないとぶつかる可能性があるんです。ところが、フルスペックの5Gだと遅延は1ミリ秒(0.001秒)なので、理論上は2.8センチまで車間距離がつめられるということになります。もちろん車両制御とか乗員の感じ方とかのファクタがあるので、そこまで詰めることは無いと思いますが。
超低遅延はスマホを使うということではあまり関心が高くない技術かもしれませんが、我々はこういった点で興味を持っています。
未来は車内にアバターが現れる!?
【CES 2019で発表された日産の未来技術のデモ】
ほかにも、5Gがあると実現できるモノとして、「Invisible-to-Visible (I2V)」(※2)というものがあります。
リアル(現実)とバーチャル(仮想)の世界を融合することでドライバーに「見えないものを可視化」し、究極のコネクテッドカー体験を生み出す将来技術のこと。車内外のセンサーが収集した情報とクラウド上のデータを統合することで、クルマの周囲の状況を把握するだけでなく、クルマの前方の状況を予測したり、建物の裏側やカーブの先の状況を映し出したりすることも可能。
I2Vは、車の中に友人などをアバターとして呼んで話をするといったこともできるのですが、これは通信先と遅延なくやり取りをしないといけないので、低遅延通信ができないと実現できません。
デモでは、プロドライバーがアバターとして同乗してアドバイスをするシーンなどもありますが、これは車のデータをリアルタイムにクラウド側に送って、クラウド側にいるドライビングコーチがリアルタイムで指示しているのです。
ほかにも、道路状況や、道路標識、近くの歩行者などに関する情報、渋滞の先で何が起きているかなどをフロントガラス上に視覚化して提供するなど、遠隔操作だけではなく、遠隔でのサポート、サービスを考えています。
これを実現できるのが5Gです。<後編に続く>
文・取材:砂流 恵介
写真:島田 香
編集:マイナビ学生の窓口編集部