大事なのは「自分にできないことを見つけること」 漫画家 マキヒロチが考える #就活逆転メソッド
――就活に、ほんとうに必要なものって、なんだろう?
「個性やキャラをアピールするのが大事」とされる一方で、「髪型はこうすべき」「履歴書はこう書くべき」などのルールやメソッド(っぽいもの)が多く存在するなど、就活自体が抱える矛盾に、とまどったり悩んだりする人も少なくないかもしれません。
そこで、(就活をちゃんとやっていなさそうな)いろんな業界で異彩を放つ方々に、あえて就活について伺えば、逆に「就活の本質」が見えてくるのでは?
……という仮説を、学生の窓口編集部が検証するのがこの連載『#就活逆転メソッド』。
今回お話を伺うのは、『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』や『いつかティファニーで朝食を』で知られる漫画家のマキヒロチさんです。
作品を読むと、ふっと肩の荷が下り、勇気付けられるような作品を世に出しているマキさん。悩める女子に向けて、そっとエールを送るような作風で人気を集めています。しかし、今のスタイルになるまで、さまざまなタイプの漫画に挑戦し失敗したこともあったとか。
今回は、昔よく漫画のネームを描きに来ていたというマキさん思い出のカフェ「ぽえむ」下高井戸店でお話を聞きました。
INDEX
✔ 元カレから学んだ「就活でマウンティングしてくるひと」の対処法
✔ インプットは大事、アウトプットはもっと大事
✔「いつチャンスがきてもいいように、準備をしていくこと」
✔「浅野いにおさんが自分の限界を教えてくれた」
✔ やりたいことがない人は「憧れの人と働くこと」を考えるといいかも
「浪人しようかな……と思っていたときにデビューが決まって」
―マキさんは就活をしたことはあるんでしょうか?
しませんでした。漫画家以外の道は考えたこと無くて、だめだったら考えようみたいな感じでやっていました。ぜんぜん売れなくてチャンスを無駄にしたこともあったけど、やめようと思ったことは無かったですね。
漫画家を目指したきっかけは小学生のとき。当時聖闘士星矢が大好きだった私を喜ばせようと、父がなぜか間違えて星矢のBL本をたくさん買ってきてくれて。最初はすごくびっくりしたんですが、その同人誌を読んで「漫画は自由に描いていいんだ!」と思って自分でも描き始め、小6で『りぼん』に投稿をするようになりました。
中学1年生から『別冊フレンド』に投稿するようになり、賞をもらえるようになり、中学生で年間何十万も稼げるようになりました。そのお金で、当時大好きだったヒステリックグラマーの服を買えるようになって、最初は純粋に漫画が描きたいから描いてたのに、段々漫画を描くモチベーションがヒスの服を買うためにシフトしてて、今思えば生意気なガキでしたね(笑)そんなスタンスになってたので、賞は取れてもデビューはできない状態が続きました。
高校卒業後に美大受験失敗して、浪人しようかな……と思っていたときにデビューが決まって。予備校の先生に進路について相談したら、「美大に行ってもやりたいこと見つからなかったり、就職先見つからなかったりする人もいるから、やりたいことあるんだったらやったらいいんじゃない?」って言ってくれたんです。
今思えば、自分自身、進路に疑問を持っていたから、後押ししてもらいたくて相談したのかもしれないですね。美大も800万円くらいかかるし、それだけ大学が自分に価値があるのかなって考えたら、漫画でやっていこうかなって。
元カレから学んだ「就活でブランドに惑わされないこと」の大切さ
―就活関連で思い出深いことはありますか?
昔、就活してる彼氏がいたとき、わたしは就活したことがなかったから見てることしかできなかったんですけど、その彼氏が「内定もらえそうかも」って某有名広告代理店の人事の名刺を見せて自慢していたんです。
でも私は彼がそのときまで広告業界に進みたいってことを知らなかったし、その会社でどんなことをしたいのかとか、目標など何も教えてくれなかったので、自分がどう生きたいのかより、有名な会社に入れたことのほうが大事だったのかな……と内心「ダセーな……」と思ってみてしまいました(笑)
そしたらその彼は、内定をもらったものの調子に乗りすぎたのか単位が取れず留年をしてしまい、内定もパーになって広告業界とはまったく違う小売業に就き、東京から遠く離れた地方で働くことになったんです。でもその後、彼なりに新しい生き方を見つけて、楽しそうに仕事の話をよくしてくれて、そんなときの彼はとても輝いていたし、有名広告会社の人の名刺を自慢してた彼よりずっと素敵だなぁと思いました。
とりあえず就職して、自分のやりたいことを見つけて離職する方もたくさんいるので、一概には言えませんが、あまりブランドに惑わされないほうがいいんじゃないかなと思います。
就活もそうですが、就職してもいやなことはたくさんあると思うから、いやなことがあっても続けられることを見つけるといいと思います。「なんだったら自分は続けられるかな」っていうのを探すといいんじゃないでしょうか。
インプットは大事、アウトプットはもっと大事
―「自分が続けられるかどうかが大事」とのことですが、マキさん自身がお仕事のやりがいや「続けていてよかった」と感じる瞬間はどんなときですか?
趣味でやっていたことが思わぬところで思わぬ人が見てくれていて、次の仕事につながるときですかね。
日々生活するためにやっている仕事とは別に、お金にならない作品もちょこちょこやっていて、それが意外に仕事につながることがあるんです。
最近だと、『ツイン・ピークス』っていう海外ドラマが日本で放送開始する40日前に、登場人物を1日1人Twitterで描いていたら、WOWWOWさんから「一緒にやりませんか?」と声がかかって。
▼きっかけとなったツイート
pic.twitter.com/SCanNNIoFP
— マキヒロチ (@makihirochi) 2017年4月11日
ほかには、自分の好きなことには可能な限りお金を惜しまなかったことが、今の私の財産になっていると思います。
何が役に立つのかわからないから、今でもインプットは意識してて、年に70本以上はその年に公開された映画を見るようにしてますし、旅行も大好きです。Twitterとかでこの映画が面白かった、今年の順位は何位! って話してたら映画のコメントの仕事がきたり……インプットも大事ですが、それを発信することも大事なんだと思います。
「いつチャンスがきてもいいように、準備をしておくこと」
―今、マキさんは作品のスタイルも安定していて、作品がドラマ化されるほど人気ですよね。その成功のきっかけは何だと思いますか?
編集さんに「もう一度会いたい人」だと思ってもらえるように、服装や姿勢に気をつけて、印象をよくするように意識するのは大切だと思いますね。
そして、いつチャンスがきてもいいように、準備しておくこと。編集さんとの打ち合わせでも、「連載の枠だけあるんですけど……なんかやりたいことありませんかね」っていうご提案もあるんです。そんなとき、「今こういうことに興味あります」ってすぐ言えるように、常にネタをストックしておくようにしてますね。
あとは、すごくイヤな言い方ですけど、「私にメリットあるのかな?」って人や依頼に結局助けられるんですよね。
―意外なところで人間関係が生きるということですか?
ほかの人と比べて手が遅いし遅刻しまくるアシスタントさんが、〆切の最後の最後まで嫌がらずにいてくれて助けてくれたり、誰が見てるんだろうという依頼を受けてとりあえずやってみたら後々やってきた別の仕事の依頼者から「○○見てお声がけさせていただいたんです」と言われたりして、無駄な付き合いってないんだなって思うことがたくさんあるんです。誰に助けられるかわからないので、みんなまわりにいる人を大切にしたほうがいいのかなって思います。
「浅野いにおさんが自分の限界を教えてくれた」
――今の作品のスタイルを見つけるまでは、どんな漫画を描かれていたんでしょうか??
私、本当は浅野いにおさんみたいな青春群像が描きたかったんです。
今でも憶えているんですが、26歳くらいのときに青山ブックセンターで浅野いにおさんの漫画を読んで、「自分がやりたいことを全部やっている人がいる」「私、もうやることなくなっちゃった」って思ったんですね。
でも、もう同じことで勝負しようと思わなかったし、その市場に無いもので勝負したかった。「自分にできないものを早く見つける」って、すごく大事なことだと思います。
浅野いにおさんが現れて、ほんとに感謝しているし、出会えてよかったなって思ってます。
そこから、今のスタイルになるまではギャグ漫画にも挑戦しましたし、えり好みしないで描こうと思いました。
―先ほど「デビュー後にチャンスを無駄にしたこともあった」とおっしゃっていましたが、具体的にはどんな失敗を経験されたんですか?
デビューして1、2年後に原作つきの連載をやってたんですが、プライベートがぐちゃぐちゃで自分の力を発揮できなかったことがありました。アシスタントも使いこなせなくて、どれくらいで仕上げるかの目論見が立てられなくて……。
結局、けっこう手抜きみたいになってしまって、次の仕事にもつながらなかったんです。
そのとき、労力もお金もケチったらだめだなと思いました。ちょっとくらいサボってもいいだろうと思ったら、次につながらなくなっちゃうなと。
やりたいことがない人は「憧れの人と働くこと」を考えるといいかも
――マキさんは幼いころから将来やりたいことが決まっていたとのことですが、大学生の中には、就活で志望業界を決める前の段階で「そもそもやりたいことがない」と悩んでいる人も多いと思います。そんな人はどうすればいいと思いますか?
やりたいことがあるひとはどんどんやればいいし、やりたいことが特にない人は、憧れの人とか「こんな人と働きたい」っていう人を考えるのがいいと思います。
わたしは憧れの漫画家さんがいて、それがモチベーションになっていました。何のために働くかって言ったら、やっぱり人とのつながりですよね。
身近なところで憧れの人をみつけたほうがモチベーション上がるし目標になるのかなって思います。私の憧れは安野モヨコ先生、いくえみ綾先生、土田世紀先生でした。土田世紀先生は「編集王」が本当に大好きでいつかお会いしてみたかったんですが、残念ながら若くしてお亡くなりになり、結局お会いすることができませんでした。
人っていつ死ぬかわかんないから、憧れの人がいつまでも生きてるわけじゃないんだぞと思うと「早く追いつかなきゃ」って思ってました。安野先生といくえみ先生はまだお会いできてないのですが、いつか会えたらな、と思っていてそれがささやかなモチベーションになっています。
憧れとか好きなものがモチベーションになるし「憧れ」を持てる人間でよかったなって思いますね。
――最後に、就活生へ何かアドバイスするとすれば?
うーん、そうだなぁ……気晴らしに「占いに行く」とかどうですか?
占い師さんって自分がどういう方向に後押ししてほしいのか見てるじゃないですか。励ましてほしいのか、やめたほうがいいって言ってほしいのか様子見ながら話してくれるから。マッサージに行く感覚で元気をもらうために行く人もいるし……。気軽に行ってみてもいいと思います。
マキヒロチさんの #就活逆転メソッド
✔「自分にできないこと」を早く見つけよう
✔「インプットも大事、アウトプットはもっと大事」
✔ 憧れの気持ちを忘れないようにしよう
「自分にできないことを見つける」というと、一見ネガティブなことに思えますが、できないこと、苦手なことを見つけたときに腐るのではなく、自分ができること、続けられることを探すのが大事だと教えていただきました。
「この人には敵わない」と思った瞬間が、ひょっとすると自分の可能性を広げるチャンスなのかもしれません。
取材・文/学生の窓口編集部
撮影/中邨誠
撮影協力/コーヒーハウスぽえむ 下高井戸店
マキヒロチさん公式サイト:http://makihirochi.com/
#就活逆転メソッド バックナンバー