【連載】『あの人の学生時代。』#15:映画プロデューサー/博報堂DYミュージック&ピクチャーズ 取締役:春名慶「“生意気力”を蓄えろ」 3ページ目
かつてないハイブリッドなプロジェクトに挑んだ『伊藤くん A to E』
――直近の作品では、テレビでの連続ドラマと劇場版が連動する『伊藤くん A to E』が話題を集めています。この原作に着目されたのはなぜでしょう。
これはもともと、1本の映画企画のために目をつけていた原作でした。しかし、原作はオムニバス形式であるため、2時間の映像にまとめようとすると、その魅力を十分に表現することができないと感じていました。そんな時、30分の連続ドラマを8本と、2時間の映画1本を組み合わせるというフォーマットのお話が舞い込んできて、「これだ!」と直感したんです。このやり方なら、『伊藤くん A to E』のおもしろさを余すことなく伝えることができるだろう、と。
その結果、連ドラでは、("伊藤"という男性に振り回される)A、B、C、Dという4人の女性のエピソードを深掘りし、そのうえで個人的にもこの作品のグランドストーリーと感じているEのエピソードを、映画でダイナミックに描く手法にたどり着いたんです。
――連ドラから派生する映画作品は過去にもありましたが、従来の手法とは大きく異なっていますね。
単純に続編や後日譚をやるのではなく、基本的に同じストーリーを扱いながらも、視点を変えることでまるで異なるおもしろさを表現できるという、ハイブリッドな連携を意識しました。同じ川でも、岸が変わればこれほど景色が変わるのかという発見を、みなさんには楽しんでいただきたいですね。もちろん、ドラマを見ていない人でも楽しめる映画に仕上げたつもりです。
――ありがとうございました!
学生時代にサークルで学んだチームビルディング力を活かして、多くの人を巻き込み、ヒット作品を次々と生み出す春名さん。そんな春名さんが学生のみなさんに伝えたいことは「"生意気力"を蓄えろ」でした。自分のこだわりや意見を突き通すことは時には大切なことも。春名さんの生意気力によって発揮されるこだわりが話題作を生み出す秘訣なのかもしれません。
<プロフィール>
春名慶(はるな・けい)
●映画プロデューサー/博報堂DYミュージック&ピクチャーズ 取締役。1969年、大阪府生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、93年博報堂入社。番組企画セクション配属を経て、97年に当時の映画セクションに転属となり映画ビジネスに携わる。主なプロデュース作品に、『世界の中心で、愛をさけぶ』『いま、会いにゆきます』『県庁の星』『神様のカルテ』『僕等がいた』『アオハライド』『ストロボ・エッジ』『僕だけがいない街』『青空エール』『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』『君の膵臓をたべたい』など。『となりの怪物くん』が来年公開予定。
(C)「伊藤くん A to E」製作委員会
TBS 8/15(火)深夜1:28、MBS 8/20(日)深夜0:50 ドラマイズム枠にて放送中!
<第8話あらすじ>
D高学歴の鉄壁女 神保実希 後編実希(夏帆)とクズケン(中村倫也)が一緒にいるホテルに押しかけてくる伊藤。聡子(池田エライザ)と寝たことを実希にぶちまけ、部屋は修羅場と化す。一方、"伊藤"の正体が、莉桜主催のドラマ研究会の生徒・伊藤誠二郎(岡田将生)であることが発覚し驚く莉桜(木村文乃)。さらに伊藤が自分の体験をもとに書いた『伊藤くん A to E』という企画を田村(田中 圭)が採用したと知り、ショックを受ける。かつて公私ともに一緒だった田村と、さらには自分自身の過去の栄光と改めて対峙する莉桜。軽蔑してきた相談者たちの誰もが自分自身と似ていることに気づいた時、莉桜もまた新たな一歩を踏み出すのだった……。
文:友清 哲