未来に向けて歩み続ける - 福島の環境再生と復興の「いま」を感じる各地を巡る
東日本大震災、福島第一原子力発電所の事故から13年が経ちました。福島は、現在も復興と環境再生に取り組んでいます。そんな福島の“いま”、そして“未来”への歩みについて理解を深める『「福島、その先の環境へ。」ツアー2024』が、今年も実施されました。
このツアーは、学生たちが考案した3つのコースに分かれて“福島の復興と環境再生”について学べるもの。(若手社会人が考案した1泊2日のツアーも同時実施)。ここでは、全国各地から集まった82名の参加者たちの様子や、マイナビ学生の窓口編集部が学生たちと一緒に各地を巡って感じたことについて紹介します。
『「福島、その先の環境へ。」ツアー2024』とは
環境省が主催する福島再生・未来志向プロジェクト「福島、その先の環境へ。」の一環として実施されたもの。今年の8月にはツアー検討会議が行われ、「福島環境再生」×「地域・まちづくり」/「福島の食」/「新産業・新技術」という3つのテーマのもと、全国から集まった学生と若手社会人が福島の環境再生を想いながら、6つのツアーを企画しました。
「福島、その先の環境へ。」サイトについてはこちら学生が考案した3つのコースの行先は?
まずは、今回のツアーで学生が考案した3つのコースのテーマとそれぞれの行先について紹介します。
環境再生×地域・まちづくり
「福島のまち~過去と未来を繋ぐ架け橋~」
行政と民間のふたつの視点から、福島の地域・街づくりを学ぶコース。
環境再生×福島の食
「とって狩って絞って! 五感で味わうふくしま」
農業・牧畜・漁業など、福島の産業が震災によってどんな影響があったのか、現在どのようになっているのか、五感を使って体験するコース。
環境再生×新産業・新技術
「Life Cycle Assessment ツアー 福島で新産業・新技術の本質を見抜く」
福島の新産業・新技術を見学し、「本当に環境に良いものなのか」、「廃棄やリサイクルの過程」を学ぶコース。
ツアーの最後には、若手社会人も含めた参加者全員が集まり、ツアー中に学んだことを話し合う座談会も行われました
「みなさんの目で見た福島を伝えてもらいたい」ツアーに向けたオリエンテーション
ツアーの初日には、「福島、その先の環境へ。」プロジェクトの説明と交流会を兼ねたオリエンテーションを実施。まず、主催者である環境省の環境再生・資源循環局 企画官の戸ヶ崎さんから福島第一原子力発電所の事故の概要や、除去土壌についての解説がありました。
戸ヶ崎さんは今回のツアーについて、「環境省が行う理解醸成活動のなかでも、一番大きい規模」と紹介。また、「みなさんの素朴な目で見た福島を伝えてもらいたい」と、思いの丈を言葉にしました。
その後に行われた交流会では、学生たちがグループに分かれて自己紹介。「福島のことをもっと知りたかった」「関西に住んでいて、東日本大震災のことをほとんど知らなくて……」など、ツアーに参加した理由もそれぞれが吐露していました。
会場には飲み物やお菓子も。これから始まるツアーに向けて、学生たちの緊張も少しほぐれたようでした。
福島の「いま」、そして「未来」を知るスポットをピックアップ
今回のツアーでは、編集部も学生とともに6つのスポットを巡りました。そのどれもが、福島の「これまで」と「いま」、そして「未来」を知るために欠かせない場所。ここからは、ツアーを巡る学生の様子とともに、筆者が感じたことをお伝えします。
●東日本大震災・原子力災害伝承館
福島県双葉町にある県立の施設で、2020年9月に開館。福島で起きた地震、津波、福島第一原子力発電所の事故という未曽有の複合災害の実態や、復興に向けた歩みの展示などを通じ、防災・減災に向けた教訓を国内外へ発信しています。
資料館には、シアタールームをはじめ、津波により漂着した鍵盤ハーモニカ、福島第一原子力発電所の爆発を報道する新聞など災害当時の様子を鮮明に伝える展示が多数。それに加えて、「家族や地域生活との別れ・変化」や「楽しかった学校生活・突然の別れ」など、被災した方々の生の声を届ける映像の上映も行われています。学生たちは真剣なまなざしを向けていて、展示品の数々を目に焼き付けているようでした。
なかには、跡形もなくなった、友達との思い出の地を何とも言えない表情で見つめる女性のパネル写真を見て、涙を浮かべる学生の姿も。
また、伝承館では、実際に福島で被災した語り部による講話も行われており、今回は12歳のときに被災した方のお話を聞くことに。自分たちと近い年齢の方が、小学生のときに余儀なくされた避難生活の実体験などを交えた講話を、学生たちは真剣に耳を傾けて聞いていました。
●東京電力廃炉資料館
福島第一原子力発電所事故の事実と廃炉事業の現状を確認できる場として、東京電力が開館した資料館。ツアーでは、まず、東日本大震災発生当時の原子力発電所の様子を再現したプロローグ映像を視聴。「お詫び」から入るという内容に衝撃を受けつつも、本施設が、東京電力の反省と教訓を伝えるために必要な場所だということを改めて感じる映像でした。
本施設では原子力発電の仕組みの説明や、福島第一原子力発電所事故の対応と経過、現在の取り組みに関する記録も展示。学生たちは次の場所へ移動する時間ギリギリまで、そのすべてに目を通します。なかには、施設の方に熱心に質問する学生の姿も見られました。
●中間貯蔵施設
除染で発生した福島県内の除去土壌や廃棄物を福島県外で最終処分するまでの間、安全かつ集中的に貯蔵するための施設。福島第一原子力発電所を取り囲む形で、大熊町、双葉町に整備されており、全体の面積は渋谷区と同じ広さになります。バスで巡った敷地内には、被害を受けた建物がそのままの形で残されていました。
施設内を巡っている途中で、中間貯蔵施設の広さが一望できる高台にも訪れました。この場所からは、福島第一原子力発電所も見ることができます。学生たちは静かに、事故が起きた場所を眺めていました。
また、バスから降りて外の空間線量率を測りながら、スタッフの方のお話を聞くこともできました。それは、除去土壌の上であっても、覆土をすることで放射線を遮へいしているため、足下からの放射線を抑えていることや、空間線量率の数値は周囲の影響によるものなど、実際に現地でしか体験できないことでした。実際に、学生たちが立っていた場所の奥に見えていた林に近づくと、少しだけ空間線量率が変化。学生たちは自分たちでも空間線量率を測り、その変化を自ら体験しながら、放射性物質を安全に管理していることや放射能について学びました。
なお、バスでの移動中には施設内を案内していた環境省の方から「ここに住んでいた方は地元を愛する方々が多く、自分たちが生まれ育った土地が中間貯蔵施設になることに反対していた。今でも『ご先祖様に申し訳ない気持ちがある』とおっしゃられる方もいる。それでも、復興のために、福島のためにと受け入れてくださった。そんな方々の想いを知ってほしい」と語りかける一幕も。学生たちは真摯にその言葉を受け止めていました。
●飯舘村長泥地区環境再生事業エリア
除去土壌の再生利用実証事業を行っている飯舘村長泥地区。この場所を訪れた学生たちは、飯舘村の被災からここまでの歩み、そして除去土壌を再生資材化する仕組みと農業への活用について学びました。
説明を受けたあとは、再生資材を盛土として使用し造成した水田等や生花を育てるビニールハウスを見学。栽培支援員として協力いただいている地元住民や有識者と協力しながら作り上げた水稲・ダイズ・飼料用トウモロコシなどの放射性セシウムの濃度は、2023年度に調査したところ、一般食品の基準値を大きく下回る結果となったとのこと。まだ出荷制限解除はされていないものの、再生利用実証事業は着実に進んでいます。
「自分たちが同じ立場なら、どう行動していたのか」「除染した汚染土壌の最終処分を県外に住む自分たちは受け入れることができるのか。私は受け入れたい」。中間貯蔵施設と飯舘村長泥地区環境再生事業エリアを見学した学生たちのなかには、後々の座談会でそう言葉にする方もいました。そんな姿を見て筆者は、今回のツアーで知った福島の「いま」を、学生たちがきちんと自分事として捉えているように感じました。
●福島水素エネルギー研究施設(FH2R)
福島県浪江町で建設を進めてきた、再生可能エネルギーを利用した世界最大級となる水素製造装置を備えた施設。この施設では、クリーンで低コストな水素製造技術の確立を目指しています。水素は電力を大量に長期で貯蔵することができ、長距離輸送も可能。燃料電池車など、様々な利用方法があります。今回は、いま注目されている再生可能エネルギー由来の水素の概要やその活用方法、そして本施設の役割について、スタッフから紹介してもらいました。
説明を受けた後、学生たちは主要設備を見学。エネルギー産業が盛んな福島県の取り組みと、その先につながる未来について学びました。
●ワンダーファーム
「ワンダーファーム」は、国内でも珍しい一年中トマト狩り体験ができるトマトハウスと、採れたてトマトや地域食材を使用したレストラン、地域の特産品を購入できる直売所などが集まった施設。そう、トマトは福島県を代表する野菜のひとつなんです。
今回のツアーでは、トマトハウスを中心に見学。オランダ方式でコンピューター管理をしながらトマトを育てていること、太陽の光を利用して気温・湿度調整をしていること、そして土を使わずに養液栽培をしていることを聞いた学生たちは「えー!」と驚きを隠せない様子。その後、実際に育てられているサンシャイントマトを食べて、「おいしい!」と満面の笑みを浮かべていました。
「いま、私たちが伝えるべき福島のこと」を座談会で考える
ツアーの最後には、参加者全員で座談会を実施。複数のグループに分かれて、「(全国の若者に)いま私たちが福島について伝えたいこと」をテーマにディスカッションしました。座談会には、環境省や福島の復興活動に携わる有識者のほか、福島県いわき市出身の俳優・富田望生さんもゲストとして参加。
中間貯蔵施設や飯舘村長泥地区などを訪問した富田さんは、「13年半経って、あのときニュースで見た場所がこうやって残っているんだなと実感した」とコメント。一方で、「いわき出身でも、大熊町、双葉町に降り立ったのは初めてに近い。ここにも何気ない日常があったと思うと何とも言えない気持ちになった。知らないことばかりだったので、今回の経験を通じてみなさんと同じく伝えられる側になれれば」と言葉にし、地元でありながらも知らない福島の「いま」があることを包み隠さず伝えていました。
ツアー参加者の座談会では、「昨年もツアーに参加していたが景色が変わった場所・変わっていない場所があった」「各地に残っている爪痕を見て、泣きそうになった」「地元の方々の想いや復興に向けての取り組みをこんなにも知らなかったなんて恥ずかしい」「家に帰ったら友達や家族に伝えたい」など、自分の目で見て感じたことをそれぞれが言葉にします。
そして、座談会の最後には、選ばれた5つのグループがディスカッションした内容を壇上で発表。
「都市部の人たちは福島の原子力発電所のエネルギーを利用していたにも関わらず、まだ他人事かもしれない。自分自身も、今回誘われたからツアーに参加してみたくらいの気持ちだったので」
「実際に現地のものを食べることで、福島と関係を持てた気がする。県外に除去土壌を持っていく課題など、正しい情報を知って自分事として捉えたい」
「国や県だけでなく、若者がSNSなどで発信することでの影響力もあるのでは?」
といった想いが次々と語られます。それらの言葉や表情からは、2泊3日のツアーを通じて、参加者たちの福島へ向ける想いが明らかに強くなっていることが伝わってきました。
未来に向かって進み続ける福島
ある学生は「東日本大震災が起きたのは幼稚園の頃。福島で何が起きたのか、何をやってきたのか、よく分かっていなかった。だからこそ、正しい情報を知るのが大事だと今回のツアーに参加して思った」と、ツアーに参加した意義を言葉にしていました。今回のツアー、さらにはディスカッションを通じて、参加者たちは多角的に福島について理解を深めることができたようです。
東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故から13年。多くの課題を抱えながらも、福島の復興と環境再生は着実に進み続けています。それをどうやって知ってもらうのか、どう伝えていくのか。日本に住む誰にとっても他人事ではないであろう福島のことを、あなたもまずは調べて、知ってみませんか?