【連載】『あの人の学生時代。』#15:映画プロデューサー/博報堂DYミュージック&ピクチャーズ 取締役:春名慶「“生意気力”を蓄えろ」 2ページ目
サークル活動から学んだチームビルディング術
――では、学生時代はどのようなことに打ち込んでいましたか?
当時としては非常に一般的な学生生活で、毎日昼過ぎに起きて学校へ向かい、テニスサークルの活動に参加し、夜は仲間とお酒を飲む。その繰り返しでした。当時は出席率についても今ほどうるさくなかったですからね。
ただ、所属していたテニスサークルはわりとしっかりした組織で、3年生に上がると自分たちが中心となって運営をしていくことになります。そこで集団生活の中で自分の役割を果たすことや、目指すゴールに向かって組織をコントロールすることなどを、体験的に学ぶことができました。もっとも、これは後から振り返って感じるだけで、当時はただ遊び呆けることに一生懸命でしたね。
――組織で何かを作り上げるという意味では、映画プロデューサーの仕事に通ずる学びがあった、と。
そうですね。学生時代は自分なりに、走りながら変わっていく景色をよく見て、その場面ごとに自分の立ち位置ややるべきことを考えるようにしていました。この経験は大きいのでしょうね。また、映画は1人で作れるものではありませんから、とくにチームビルディングの作法というのも、今に生かされていると思います。
――映画プロデューサーとは、どのような仕事でしょうか。
プロデューサーは監督や俳優と違い、一般的には役割がわかりにくい職業だと思いますが、建築にたとえて言うなら最初の図面、設計図を引くのが僕の仕事です。そして、その図面を元にスタッフを集めます。ちなみに、売れている原作を持ってくれば必ず映画も当たるわけではないので、着目した原作を"売れる映画作品"にするためにどう調理するかを考え、それを図面として起こすのが僕の役割です。
映画プロデューサーにもさまざまなタイプがいて、クランクイン後に撮影現場を司るプロデューサーもいますが、僕は現場には顔を出さないタイプです。図面を引いて、チームが確定して、制作が動き始めたら、あとは現場のみなさんにお任せして次の企画に取り掛かります。
――もともと映画ファンではないことが、仕事上のハンデになることはありませんか?
それもやはり、チームビルディングが奏功しているからなのか、幸いにしてあまり感じたことはありません。これはおそらく、映画に造詣が深くない僕がプロデューサーとして、最初の図面を少し"甘め"に引くことを意識しているからでしょう。チームにはシナリオのプロである脚本家や、映画のプロである監督がいるので、僕が独断的に自分のイメージを最初に固めてしまうよりも、彼らの発想を生かせる余白を残しておきたいんです。実際、作品がいい形で映像になり、大きな反響を得られたときというのは、そういった各々の仕事が理想的に絡み合ったときであることを実感しています。