――松下さんが実演販売される際、どんなことを考えて話されているのですか?
松下さん 「相手のことしか考えていない」と言ってもいいくらい、相手のことを考えて話しています。例えばですが、私たちは商品を見つけてきてお客さんに買ってもらうのですけど、もちろん買いたくない人もいるわけですよ。そうした人たちが「ちゃんと断れる」ような流れもつくります。
――それはなぜですか?
松下さん 無理やり売るのでは駄目ですからね。簡単に断れない人もいますから、そうした人のために「断れる空気」をつくることも大事です。「これはまず売れない」という商品を最初に出すこともありますよ。「これどうですか? 買わないですよね?」といった感じで……。実演販売では、こうした現場の空気づくりが本当に大事なんです。
――空気づくりで売り上げも変わってくるものですか?
松下さん かなり変わってきます。私たちはアドリブではなく、決められた構成で話をしているのですが、同じ内容の話をしたとしても、1個も売れないこともあれば、集まった人全員が買うこともあります。その違いはやはり空気づくりの差だと言えます。自分に有利な空気をつくり出すことで、場をある程度コントロールすることも可能です。
――話している内容はアドリブではないと話されていましたが、内容を全て覚えて話しているのでしょうか?
松下さん そうです。もちろんアドリブを入れている部分もありますが、基本的に話の流れは決まっていて、この決まった構成の中に、商品の特徴や魅力を落とし込んでいく形になります。
――もちろんその流れにならないこともありますよね?
松下さん そうならないために、こちらのリズムで進めていけるような空気づくりが大切なんですよ。じゃあ自分のペースをつくるにはどうすればいいかというと……例えば洗剤を売ろうとした場合、「こういう汚れってありませんか? ありますよね?」「じゃあこの汚れって落ちますか? 落ちませんよね?」「でも汚れが落ちたらうれしいですよね?」と、相手が質問する必要がないように進めていくことで、こちらのペースを維持することができます。
――相手に不必要な質問をさせない……ということなのですか。
松下さん ただ、いきなり自分のペースだけで進めるのではなく、最初は「断れる空気」をつくるなど、お客さんとの距離感を測りながら、一緒に空気をつくっていくことが大事です。そして次第にこちらのリズムに持っていくわけです。最初は相手に「共感」してもらって信頼関係を築き、その共感の中で生まれる疑問を「解決」し、解決するとあなたの生活はこのようになりますよと「夢」を語る。この3つのステップを用いることで、だいたいどの商品でもお客さんを引き付けることができます。
――就活の面接でも有効でしょうか?
松下さん もちろんです。面接でも一方的に話すのではなく、相手との距離を詰めながら、「私はこういう人間で、こんなことができます」と自分の個性や魅力を伝え、「こうした個性や魅力があるからこの会社でこんなことができます」という話に持っていければ、より聞いてもらえる空気がつくれると思います。