“韓流スター”はどのように育成される?高校にも関連学科があり、“ハリウッド”留学しなくても良い教育システムが⁉『韓国ドラマ全史 なぜ世界的ヒットを連発できるのか?』#Z世代pickブック
こんにちは! 韓国・慶煕大学で学んでいた いと(東京外国語大学 4年生)です。
日本だけでなく世界でも多くのファンがいる韓流ドラマ。学生のみなさんの中にも好きな方も多いのでは?中には親や祖父母3世代で韓国ドラマ“沼”にハマっている、なんて方もいるでしょうか…?
今回は、そんな韓国ドラマが発展を遂げた25年間の歴史や背景を読み解くことができる書籍『韓国ドラマ全史 なぜ世界的ヒットを連発できるのか?』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、おわりに より、一部を抜粋してお届けします。
俳優という存在
一方、韓国ドラマに絶対に欠かせない存在がある。それが「俳優」いわゆる「アクター(Actor) 」だ。韓国ドラマの成功と進化の道のりにおいて、俳優たちの演技力は、単に登場人物を演じることにとどまらず、物語に命を吹き込む最も重要な要素の一つである。斬新で独特なストーリーや最新技術を活用した演出に加え、俳優たちの演技力が物語をさらに際立たせる。彼らの演技は、セリフ以上に登場人物のキャラクターを深く表現し、その役作りには毎回驚かされる。ある作品ではまるで別人のような役を演じ、同じ俳優とは気づかずに見てしまうことさえある。第8章までの本文では制作陣に焦点を当てて述べてきたが、最後に俳優についても触れておきたい。
先日インタビュー取材を受けていただいた行定勲監督は、韓国ドラマ『完璧な家族』を演出した際の出演者について、こう語ってくださった。
「ある俳優が『監督が日本人だから、韓国人だからというのは関係なく、私たちにやりたいことをぶつけてほしい。最終的に監督がどうしたいのかをはっきり伝えてくれれば、私は自分のキャラクターを守って演技します』と言ってくれました。その言葉のおかげで、安心し信頼して撮影に臨むことができました」
さらに、制作現場では、俳優が「監督、僕が思うに……(韓国語:カムドクニム、ジェセンガゲヌン……)」と話しながら、登場人物のキャラクター分析や役作りについて意見を交わし、監督の意図とすり合わせる場面があり、こうしたやり取りが作品の完成度を高めるとともに、俳優たちが楽しみつつも緊張感を持って演技することにつながったという。
また、『完璧な家族』の主人公チェ・ソニ役を演じたパク・ジュヒョンさんと、幼少期の親友イ・スヨン役を演じたチェ・イェビンさんは、同じ大学の演技科の先輩後輩の関係にあたり、現場では彼女たちが互いに演技指導をし合い、助言を求める姿が印象的だったと行定監督は語る。
韓国では、俳優を志望する人々を対象とした映像アクターズスクールや民間アカデミーが全国に多く存在するが、4年制の高等学校の中にも俳優を輩出する関連学科が設置されているほか、演技を専攻できる大学も多い。
全国の大学を対象とした、演劇・演技・ミュージカルなどの関連学科の2025年入試情報を集めたサイトによると、計55の大学が演技・ミュージカル・演劇などの俳優を育成するために新入生を募集している。その中でも最も競争率が高いのは、『完璧な家族』で高校生役を演じた二人の出身校である、国立大学の韓国芸術総合学校である。韓国芸術総合学校(KoreaNational University of Arts, K-Arts)は、芸術に特化した専門教育を目的として設立された、文化体育観光部傘下の国立高等教育機関である。米国のジュリアード音楽院をベンチマークし、総合コンサバトリー(総合芸術院)形式の高等教育機関として設立された。この学校の設立は、第13代の盧泰愚(ノ・テウ)大統領が掲げた大統領選挙公約「大韓民国文化発展10年計画」と深く関わっており、その推進過程で開設が決定され、1991年、盧泰愚政権下で大統領令により設置令が制定されたことに端を発している。2022年の夏休み中に、韓国に一時帰国していた若者と出会った。彼はかつて子役として活躍し、中学校は海外、高校は韓国の芸術高校に通い、当時は海外の大学に留学中の1年生だった。そして映画監督になるために韓国の大学を再受験すると言っていた。目標は韓国芸術総合学校への編入だった。かつて映画業界では、ハリウッドをはじめとするアメリカの大学へ留学することが、世界的なクリエイターを目指すための一つのステップとされていた。しかし、現在では韓国の大学のカリキュラムや実習も非常に充実しており、国内で十分な学びの機会が得られると彼は話していた。俳優のエリート養成機関として知られる韓国芸術総合学校の出身者には、 『パラサイ ト半地下の家族』のパク・ソダム、 『ユミの細胞たち』のキム・ゴウン、 『ミスター・サンシャイン』 『ミセン-未生-』のピョン・ヨハンなど、数多くの人気俳優がいる。
また、私立大学の中でも俳優養成で有名な「ソウル芸術大学校」からは、『ソウルの春』のファン・ジョンミン、『梨泰院クラス』のパク・ソジュン、『イルタ・スキャンダル〜恋は特訓コースで〜』のチョン・ドヨンなど、映画・ドラマ業界を牽引する俳優が多く輩出されている。
こうした高等教育機関は、入学のための専門塾が設置されるほど競争率が高く、入学するだけでも優れた演技力が求められる。
なお韓国では俳優志望者が芸能事務所に所属し、デビュー前に厳しいトレーニングを受けるのが一般的だ。事務所によっては、歌手(アイドル)と同様に「練習生制度」があり、大手事務所は新人俳優の公開オーディションを開催することもある。また、作品ごとに俳優の公開オーディションを行うことも多く、実力さえあれば、無名の新人でも一気にブレイクするチャンスがある。
韓国の俳優育成・教育システムは非常に体系的で、多様なルートが存在する。韓国ドラマや映画が世界的に成功している背景には、こうした俳優を育成するためのしっかりとしたシステムが大きく影響している。
しかし、俳優の道を志す人すべてが演技専門の大学や学科に進むわけではない。
『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』の主演パク・ウンビンは心理学を専攻、『悪鬼』のオ・ジョンセは新聞放送学、『イカゲーム』のイ・ビョンホンはフランス語・フランス文学を学んでいる。演技、演劇、映画、美術、放送、舞台芸術など、俳優活動に直結する専門学科は多いが、経営、経済、哲学などを専攻しながら俳優として成功した人もいる。
舞台演劇の経験を積んでから映像作品へと進む俳優も多い。劇団では、即興劇や台本を使った演技訓練を通じて、実践的なスキルを身につける。舞台演技は発声・表現力・集中力を鍛えるのに最適であり、映像作品とは異なりリテイクができないため、一発勝負の演技力が求められる。
大学での学び、オーディションへの挑戦、そして下積みの厳しい訓練を経て、高い演技力を持つ俳優が次々と誕生し、韓国ドラマ・映画のクオリティを支えているのである。
ドラマとは何か
最後に、改めて「ドラマとは何か」を考えてみたいと思う。我々はなぜドラマに心を奪われるのか。ドラマに何を求め、その先に何を見出そうとしているのだろうか。ドラマを見る理由やきっかけは人それぞれであり、時代や世代によっても異なる。しかし、長い歴史を持つ映像作品であるドラマは、国境を越え、共通のテーマや感動、そして共感を人々の心に届け続けている。
Z世代ブックピッカーのレビューコメント
最近はオーディション番組の影響で、アイドルの練習生が注目されていますが、韓国には俳優になるためにも、体系的な教育システムが準備されていることがわかりました。たしかに、同じ俳優さんがラブコメ作品でイケメン御曹司役を演じた後、復讐劇系の作品で猟奇的な役を演じたりしていると、同一人物とは思えないときが多々あります。

『韓国ドラマ全史 なぜ世界的ヒットを連発できるのか?』
「冬のソナタ」から「イカゲーム」まで25年間の挑戦と試行錯誤の軌跡!
韓国のコンテンツ発展の大きな転換点となったのは、1997年の通貨危機とIMF救済であったことはご存知でしょうか?
この時期、韓国ドラマは従来の華やかなトレンディドラマから、家族愛や絆を描くIMF型ドラマへと変化。これが後の「韓国ドラマらしさ」を形成する要因となったと言います。
近年では、Netflixなどのグローバルプラットフォームの台頭により、制作会社の立場が強化。従来の放送局主導の制作から、制作会社が企画・開発から権利管理まで一貫して手掛ける「スタジオシステム」への移行が進んでいる。また、若手クリエイターの育成や共同執筆システムの導入など、新たな試みも活発化しているそう。
韓国コンテンツの成功に日本のコンテンツビジネスは何を学ぶべきか?を読み解ける一冊です。
著者:黄仙惠
定価:1,650円(税込) 発行日:2025年3月21日
詳細ページ:https://d21.co.jp/book/detail/978-4-7993-3132-3
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