【大記録達成!】大谷翔平選手はなぜこれほど盗塁できるのか? 筑波大学の谷川聡准教授に聞いた。 #もやもや解決ゼミ

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大谷翔平選手はなぜこれほど盗塁できるのか?

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今回の疑問は「大谷翔平選手はなぜこれほど盗塁できるのか?」です。

大谷選手はホームランを量産しながら、盗塁数も伸ばし、前人未到の50-50を達成しました。
さらに残り試合で、誰も想定できなかった55-55を達成してもおかしくないくらい、シーズン終わりまで打ち続け、かつ走り続けそうです。

しかし、なぜ大谷選手はこれほど盗塁が可能なのでしょうか?

今回は、『筑波大学』の谷川聡准教授に回答をお願いしました。

谷川先生は、110mハードルの第一人者で、2000年シドニーオリンピック、2004年アテネオリンピック代表を務めた方です。また、今年のパリオリンピック男子100mと200m日本代表選手を指導されています。

自身もアスリートでしたが、アスリートがいかに運動しているのか、その動作がどのような結果をもたらしているのかについての研究を行い、非常に興味深い論文を執筆していらっしゃいます。

2024年は特別なシーズンです!

まず、2024年は大谷選手にとっては特別なシーズンであるという点は考えて置かなければならないでしょう。

肘をトミー・ジョン手術して投手を務めていませんので、守備をしないで済み、DHとして打撃、走塁に専念できています。盗塁にも集中できる環境であることが盗塁数が増えた一つの要因でしょう。

ただし、DHにいてもこれだけ走れる選手はいません。

アメリカでも大きな話題になっていて、まるでNBAのマイケル・ジョーダン選手が毎日ニュースになっていたぐらい毎日大谷選手について報道がされています。

それぐらいすごいことなんだ、という認識は持っておきたいですね。

盗塁についていえば、大谷選手が足が速いのはもちろんです。

ただし、走るのが速いから盗塁できるというものではありません。実際、陸上のオリンピック選手だった方が野球に挑戦し、ピンチランナーのような形で起用されることもありますが、それで盗塁がうまくいくかというとそんなことはないのです。

足の速さが最低限必要ですが、盗塁の技術が磨かれているというのが、大谷選手が盗塁数を伸ばしている最大の要因になっているでしょう。

大谷選手は今年30歳ですが、年齢的なものもあると考えられます。

例えば、陸上競技ですと一番最初にオリンピックに出るのが21歳とか22歳。二回目に出るのが26歳。本当に成熟して最高のパフォーマンスを達成するのが30歳。

自分を理解して自己記録を出し、アスリートとしての自分を高めていっている証がそのくらいの年齢です。

大谷選手も今回の盗塁の数は、自身のアスリートとしての技能、能力を高めている証が出ているのではないか、と思います。

日本にいたときも盗塁は行っていましたが、20も超えていませんし、調べて驚いたのですが、今年はずば抜けて盗塁の数が多いのです。

走ることに不安がないことも大きい!

大谷選手は、『日本ハム』でピッチングを行っていたときに左の太腿裏、ハムストリングスを痛めたことがあります(2017年4月8日の対オリックス戦)。

(二刀流だったので)打者として出て、一塁をどんと踏んだときに肉離れを起こし、これが再発したということがありました。

MLBでもハムストリングスの肉離れは増加している障害です。特に右投げのピッチャーの場合は、左足をドンと地面に着いて投げるので、左足のハムストリングスは大きな問題です。また左バッターとしても、左足は軸になる足です。

ハムストリングスと全身の筋力のバランスは大谷選手にとっても生命線ではないか、と思ってずっと見ているのですが、今シーズンはその不安がないようです。

それは走法にも現れており、これが今シーズンに盗塁を量産できている要因の一つと考えられます。

大谷選手の盗塁時の歩数は決まっている!

大谷選手の盗塁でいうと、基本的に歩数が決まっています。

大谷選手の場合には、打って一塁まで行くのに12歩のときと13歩のときがあります。ストライドを伸ばすときは12歩ですが、13歩になったときは左足で一塁に着きます。

2021年には内安打も多くなっていますが、ホームランバッターで内安打が多いというのがそもそも特異的です。バランスを崩しても打ってから全力疾走して一塁に走るときに右でも左でも踏めるという強さが一つあります。

最も回数の多い、一塁から二塁への盗塁では、大谷選手の歩数は11歩です。

二塁から三塁への盗塁の場合は9歩になります。セカンドとショートの野手が二塁ベースから離れているので、リードを大きく取って、自分でちょっとジャンプして、ピッチャーが投げるか牽制するのかを瞬時に判断して走ります。

一塁までが13歩、一塁から二塁までが11歩、二塁から三塁までが9歩と塁間の歩数は2歩ずつ減っています。

これをどのくらいの選手が行っているのか、私は研究する余地があると思っています。

塁間の長さは一緒なので、もちろんリードの長さがありますが、

・ストライドを大きくした(その分歩数が減る)二塁から三塁への走り方
・打ってできるだけ加速できる姿勢に素早くバランスを整えて一塁に到達しなければならない走り方
・さらに一塁から二塁への走り方

この三種類の走り方ができている、すなわちストライドを変えながらしっかり走れているわけで、大谷選手はものすごく走力のベースが高いといえます。

基本レベルを押さえ、かつ成長する「力」と「速さ」

基礎的なレベルの話でいうと、体重が増えると基本的には疾走能力を維持したり、向上したりするというのは大変に難しいことなのです。

ところが、大谷選手の場合には(推定)約96kgという体重で、疾走能力を確実に上げており、さらにはピッチとストライドのバランスを変えながら走れるというコーディネーション能力も高めています。

盗塁がたくさんできているという事実にはこのような背景があると考えられます。

打ち方にも変化が見えます。

現在は打ち方が「上半身が立った状態」になっています。昨年はかぶせながら打っていたのですが、現在は左足を残したまま打つようにしています。

なので、かなりボールを呼び込みながら、左足を軸にして打っています。

ピッチャーのときには、投げた時に左足で止まらなければならない、走るときに左足でベースを踏まなければならないのですが、これをけがを心配しないでできている状態だというのが大きいかなと思います。

打ち方も股関節、お尻周りとか、ハムストリングスにかなり力をぐっとためて左足を軸にして打つようになっています。

松井選手のように左足に重心を乗せるホームランバッターの打ち方です。

しかもイチロー選手のように「内安打」も「盗塁」もするような、とんでもないプレーヤーになっているのです。

走法に見える変化とは?

走法でも変化が見えます。

これまでは、一塁から二塁への盗塁の場合には回旋の運動がものすごく大きかったです。

サッカーの選手は骨盤を左右に回しながら走ります。これはボールを蹴りながら走るという特性も影響していますが、骨盤の回旋動作が大きい。しかし、野球選手の場合には胸椎の回旋動作が特徴です。

昨年、一昨年までは、大谷選手も一塁まで行く13歩、11歩で行く一塁から二塁までの走りの場合には、上半身がすごく動いていました。しかも骨盤が回旋するような動作も大きかったです。

ところが、今年はそのような「胴も骨盤も回旋するような動き」がほとんど見られなくなりました。

地面を後ろでキックすると上半身がねじれて骨盤が回旋するのですが、陸上選手の走り方に近くなり、回旋しないで、ぐっぐっと進むようになっています。

何が起きているかというと、「前さばき」といって、体の前で着地して、筋肉が伸ばされながら前に進みます。すると筋肉と腱がバネのように引っ張られてグンと前に進む感じです。

今までは、縮む力で走っていたのですが、現在は伸ばされる力で進んでいるので、見た目には軽く走っているように見えるのですが、バネを生かすように前さばきでググググっと走っています。

しかも上下動が少ないので、速く、大変効率のいい11歩で二塁まで走れています。

もう少しストライドを大きくして走ることもできるのですが、大谷選手の能力的には塁間の距離が11歩にしては狭く感じているでしょう。

今までは、体を旋回させる動作で地面を蹴るように走らないといけなかったのですが、身体能力が上がることによって、足を置くだけで進むようになり、塁間の11歩が大谷選手にとっては狭くなったのだと思います。

さまざまな身体能力が上がると球がゆっくり見えたりということがありますが、われわれで言うとハードルが低く見えたり、一般の人でいうと今までの階段の一段飛ばしが楽にできたりというような状態が今の大谷選手だと思います。

打撃のときもちょっとしゃがんだときも、ぎゅっと筋肉に力をためられるので、ボールを打つときに一気に左の股関節を軸にして軽く回旋して打てているのではないか、と思います。

左のけがへの不安がないこと、パワーの向上、速度の向上が大きいと考えられるのではないでしょうか。

二塁から三塁への盗塁は幅跳びのようだ

自分への理解が深まり、身体能力が高まるとやれることに深みが出ます。

私も大谷選手が冬に帰国したときに汐留のアシックスのトレーニングセンターで大谷選手の様子を横で見ていましたが、例年、体があんなに大きくなっているので、もしかしたらけがが増えるかもしれない、走れなくなるかもしれないと心配していたのですが、全く想像を超えて身体能力を高めてきました。

盗塁については、相手投手のピッチングの分析をしているのでしょう。

現在メジャーリーグでは、20秒以内に投げないといけない、牽制球は2球しかできないなど、ピッチャーへの制約が厳しくなっています。

3つ目の牽制球を投げてアウトにできなかったら進塁ですから、2つ牽制球を投げたら「次は盗塁が来る」と誰もが分かるのですが、それでもアウトにできない(笑)。

盗塁の成功確率が92%(2024年09月11日現在:取材時)で、確実に盗塁できると思って走っている。

また、今までよりスライディングの距離が長くなっていると思います。速度が速いので、遠い距離からスライディングしても届くのです。

しかも二塁から三塁まで9歩でいくので――二歩減らすので――このときのストライドは大きいですよね。ぐいぐい前に進んで、どーんと飛んでいく。

一塁から二塁への盗塁はタッタッタと走っていくのですが、二塁から三塁への盗塁は全然違います。種目が違うぐらいです。100m走と走り幅跳びの助走ぐらい違います。

一塁から二塁は100mダッシュで、二塁から三塁はまるで走り幅跳びの助走のようで、最後はびよーんと飛んでいる(スライディングする)のです。

きっちり自分の身体を操作できているからこそ「できる」ことです。

ピッチャーに復帰するのが楽しみ!

体重が増えるとパワーは高まるのですが、どうしても速度が落ちます。力だけ上がっても速度が落ちれば、「力」掛ける「速度」でいったときに、身体能力の総体(パワー)としては向上しません。

速度――自分の身体の操作性を残しながら力を上げるというのは難しいことで、力を増すために体重を上げても、それでは自分の操作性を下げていってしまうことにつながります。

大谷選手が行っていることは、体重を増やしながら自分の操作性をさらに高めるということです。

野球にフィットするように打つ・投げる・走るという三拍子そろうよう、どの選手をも超越するように体づくりが進んでいるように見受けられます。

むしろ、来年ピッチャーに戻ったときのピッチングがものすごいことになるのではないかと期待するところもあります(笑)。

走力が今年でぐっと上がっているので、相当余裕が出てくると思います。

トミー・ジョン手術をすると球速が3、4kmほど落ちるといわれます。

しかし、たとえ球速が落ちたとしても、脚力が向上した左足で踏ん張り、タイミングをずらしてうまく投げるなど、いろいろな可能性が考えられるので、これからどうなるか本当に期待が高まります。


◇けつろん!

大谷選手が多くの盗塁が可能なのは、体が大きくなりつつ走力を高めることに成功しており、力と速度の掛け合わせでより大きな身体能力を発揮できているから――ということになりそうです。


◇おしえてくれたせんせい!

谷川聡
Profile

『筑波大学 体育系』准教授。博士(体育科学)。
1972年生まれ。東京都町田市出身
1991年 『都立八王子東高校卒業
1996年 『中央大学経済学部卒業
1999年 『筑波大学』体育研究科修了、『ミズノ株式会社』入社
2006年 『筑波大学大学院』人間総合科学研究科講師に就任
陸上だけでなく、球技の走り、トレーニングなどについて研究を行っている。


文:高橋モータース@dcp
編集:学生の窓口編集部

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株式会社デジタル・コンテンツ・パブリッシング
編集プロダクション。コンテンツを制作する「よろず屋」です。取材をして原稿を書き、編集、校正を行って多くのWebメディアに納品しています。https://dcp.jp.net/

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