就活中、自分に向き合って疲れたあの日、背中を押してくれたのは/「ソウルフル・ワールド」家塚彩夏
全力で駆け抜けた青春に寄り添ってくれた音楽ー。
たまたま手に取った本が思いもしない世界を拓いてくれた経験ー。
泣きたい夜には観る映画ー。
コンテンツに背中を押された学生の実際のエピソードをもとに、コンテンツの魅力と、そこから得られる教えを紹介する、企画「あの日、背中を押してくれたのは」。あなたにとっても、人生を震わすコンテンツとの出逢いがここにあるかも―。 第一弾は私、学生ライター家塚彩夏のエピソードをご紹介します!
私は何ができる?何をすべき?
就職活動に足を踏み入れた大学3年の今、そんな問いで頭がいっぱいになる毎日を過ごしている。自分の明確なビジョンと生きる意味を見つけ出さねば、と精神ごと力んでしまう。
今回は、そんな張り詰めた感覚から私を救い出し、穏やかな気持ちを取り戻させてくれた映画のご紹介をしたい。
雑多な都会の交差点で独り立ち止まっている、そんな気分の日曜日。
息抜きに、と『ソウルフル・ワールド』/ピクサー・アニメーション・スタジオ(2020)を鑑賞した。
ジャズ・ミュージシャンを夢見るジョーが迷いこんだのはソウル(─魂─)たちが暮らす世界。そこは、生まれる前のソウルが、どんな性格や興味(―きらめき―)を持つかを決める場所。でも、22番と呼ばれるソウルだけは、何のきらめきも見つけられないままでいた。まるで人生の迷子のように生きる目的をみつけられない22番と、夢を叶えるために何としても地上に戻りたいジョー。正反対の二人の出会いは、奇跡に満ちた冒険の始まりだった…。
ひょんなことから、2人は思いがけない形で地上に降りる。
はじめて地球にやってきた22番は、自分の足で歩くことや鼻に流れ込んでくる匂い、街に溢れる自然の音など自分を取り囲むすべての瞬間に目を輝かせる。
「これが私のきらめきかも!」と喜ぶ22番に、「そんなのはただの生活の一部だ。」と言うジョー。「夢を追うこと」に必死だったジョーは、きらめきとは生きる理由であると考え、自身の生きるべき将来を懸命に思い描いてきた。
生活の一部は、きらめきではないのだろうか―。
私たちは、生きれば生きるほど、生きる喜びと理由を日常の外に見出そうとしてしまう。そして自分の人生に意味をもたらしたくなる。何者かになろうともがくジョーに、今の自分がどうしようもなく重なってしまった。
目を凝らして自分の将来に向き合う時間もたしかに大切だ。
しかし、生きることの目的や意味は探すものではないのかもしれない。
人生のきらめきや喜びは、日常のなかにあるのかもしれない。
ならば、自身の未来のことで頭のなかを窮屈にするばかりでなく、すべての感覚の扉を開きながら歩いてみよう。
イヤホンでお馴染みのプレイリストを聴くのもいいけど、たまには思わず流れてきた音を楽しんでみる。液晶に夢中になってうつむく頭をあげて、窓の外を眺めてみる。きっとそこには、まだ知らない世界がどこまでも広がっているだろう。
雑多な都会の交差点。
右にも左にもななめにも、私は足を進めることができる。大切なのは「何をすべきか」ではない。「どんなことに喜びを感じられるか」だ。就職活動だって、きらめきを感じながらわくわくして臨んでみよう。『ソウルフル・ワールド』は私の背中を優しく押してくれた。また行き詰ったときには、このきらめきに帰ってこよう。
著/学窓クリエイター部 家塚彩夏