大学で「数学」を学ぶ意味って何ですか? 数学科から経済学科へ、官僚も経験した教授に聞いてみた #学問の面白さ

"Education is a progressive discovery of our own ignorance."
– Will Durant (勉強とは自分の無知を徐々に発見していくことである。)
あまり勉強に熱が入らない大学生も多いのではないだろうか。もしそうなら、かなりもったいない。この連載では、勉強する意味を見出せていない諸君に向けて、文系・理系の様々な学問を探求する「知的好奇人」達からのメッセージをお届けする。ちょっとした好奇心が、諸君の人生をさらに豊かにしてくれることを祈って。
経済を語るには「数学」の素養が必須である!
嘉悦大学 高橋先生にお話を伺いました。

――現在は大学院 経営経済学部の教授でいらっしゃいますが、先生はもともと数学者になりたかったそうですね。
小さいころから数学的素養があって、それは天賦のものでした。
学校でやる授業は本当に退屈でたまらなかったし、先生よりも僕の理解のほうが進んでいるものだから、数学問題を吹っ掛けると勝ってしまうんだよ。イヤな学生だね(笑)。
だから高校までの授業はずっと勝手にしていた。先生もほったらかし。高校のときには「きみはもう学校に来なくていい」という先生もいたぐらい。
ただ、大学の数学科に進むと自分の好きな研究ができるし、数学は自分の頭だけで完結するものだから、とてもよかったですね。
――数学科では何の研究をしていたのですか?
ナンバーセオリー……日本語だと「整数論」。それと「代数幾何」ですね。数学の中でも先端の部分をやっていたわけ。
――数学科の後、経済学部経済学科にも入っていらっしゃいますが、それはなぜですか?
たまたまです。大学院に行こうと思ったら定員の関係で行けないと言われたので、それじゃやめとこうってなっちゃった。
そうすると就活でしょ? 統計数理研究所が採用してくれるというので、「経済でも勉強しとこうか」と思って経済学部に入ったんだけど……結局その採用はなくなっちゃった。
ひどい話だよね(笑)。だから経済学部卒業になったわけ。
――経済学は面白かったですか?
こんなことを言うと怒られるかもしれないけどつまらなかった(笑)。
経済学の問題は数式で考えることができるんだけど、そんなに難しい数学を使うわけじゃない。
――線形代数はよく使われるようですが。
線形代数より、ちょっと難しいものも使いますし、金融工学のほうにいくと少しは難しくなる。でも簡単だよ。
――経済学にも数学の素養は必要でしょうか?
それは必須でしょう。経済学者や評論家の中には、数学の素養がほとんどないような人もいますが論外です。
科学的に物事を考え、予測を立てるには数学が必要だもの。
誰が何を言おうと正しく論証した者の勝ち
――数学という学問の魅力は何でしょうか?
数学では、年齢や立場など関係なく、論証にも権威の必要はありません。自分の頭の中のロジックのみ。それが数学の魅力だと思います。こんなに楽しい学問はないですよ。
だって、先生や教官がなんと言おうが、正しいものは正しいし、間違っているものは間違っているからね。「学問に王道なし」です。
これは、数学者のユークリッドがプトレマイオス1世から「数学を学ぶのに近道はないか」と聞かれて答えた、私が大好きな言葉です。
数学は誰にもひとしく平等で、王様だろうがなんだろうが近道はない。正しく論証した者が勝ち、自分の力のみで道を切り開く面白さは、ほかにはありません。
それに数学は普遍的な言語なんですよ。ランゲージバリアがなく、どこにいっても共通のものなので、英語を知らなくても、数学で意思疎通ができるのです。
そのまま通用するかどうかは分からないけど、宇宙人と会話するときも、初めは数学的な話題だと思いますよ。
物事の根拠を提示するためにも数学は必要
――数学を学び、経済を理解することで得られることは何でしょうか?
数学は世の中のあらゆることに必要なものです。最近になって改めて「数学は重要」なんていわれていますが、正直遅過ぎます。
プログラミングも授業で教えるようになりましたけど、そもそもプログラミングも数学が前提なので、ちゃんと数学が分かっていないと苦しい。
自分は数学ができたので、プログラミングを覚えるのも楽でしたね。
――数学は理系の基本ということですね。
そうだと思います。数学ができるかできないかが、文系と理系の大きな差でしょうね。
プログラミングに限らず、理系の素養がないと難しいと感じることは多いと思います。
――文系と理系を分けるポイントが数学だと……。
文系の人は話をするのは好きだけど、論証がないからね。議論をしていても、こっちが明確な数字を出すとすぐに黙っちゃう(笑)。
問題になっている年金の話だって、数字で見れば簡単だもの。
年金はシンプルにいえば20歳から70歳まで保険料を払って、70歳から年金を受け取る、いわば保険。
じゃあ、20歳から70歳まで所得の20%を保険料として払う場合、50年間で所得の何倍の保険料を払うことになると思いますか?
――所得×0.2×50だから、50年間で所得の10倍の保険料を払うことになると……。もし所得が400万円であれば4,000万円の保険料を払う、ということですね。
所得が実際いくらかは関係なく、誰もが所得の10年分を支払っているわけ。
じゃあ、年金給付水準の所得代替率(支給年金額と現役世代の給与との比率)を50%として、70歳から年金をもらう場合、何年で支払った分の保険料が返ってきますか?
――1年で所得の50%ですから、所得の10倍を得るには……。保険料が4,000万円だとすれば、400×0.5×X=4,000なので、Xは20。20年間必要ですね。
そう、70歳で死んでしまえばもらえないけど、70歳から20年生きれば、払った分のお金が戻ってくるし、それ以上生きれば、多くもらえる。
簡単にいえば、年金というのは早く死ぬ人から、長く生きる人への所得移転なわけで、シンプルなんですよ。それを文系の人があれこれと難しく言っている。
数字は根拠だけど、数学が分からないと、その根拠を示せないんだよね。
数学という武器を手にせよ
――よく「数学なんて勉強しなくてもいい」なんて言う大学生もいますが、大学で数学を学ぶ意味とはなんでしょうか?
さっきも「数学は根拠」という話をしたけど、数学の知識を用いて根拠を示すことは、何よりも強い武器になる。
だって数字は何よりも正しい答えなんだもの。その根拠を示すには数学を学び、理解しないといけない。それだけです。
――その武器は必ず社会に出ても役立つものですよね。
武器があれば強くなれるし、なければいろんなことが怖くなる。
私は数学だけでなく、英語や会計・統計といろんな武器を持っているから、これまでの人生でこれは困ったという場面に遭遇したことはない。なお、統計は、数学をやっていればマスターは簡単だ。
英語、数学、会計・統計の知識、この3つは大きな武器ですよ。これらの武器さえあれば、たいていは困らずに生きていけます。
――学生の皆さんも、社会に出る前に武器を得るべきでしょうか?
社会に出てからも英語を勉強したり、会計や統計の勉強をしたりできますけど、圧倒的に時間が足りません。
それなら、時間のある大学生のうちに、その力を得ておけばいいですよね。大学時代というのは、自分の武器を手に入れるための時間。そんなふうに考えてみても、いいのではないでしょうか。
――ありがとうございました。
幼いころから数学の才能を発揮していた高橋先生。その数学をベースに、大学生のころからプログラミングや英語、会計、統計など、さまざまな武器を得てきたとのこと。それが現在も自身を支える武器になっているそうです。
「勉強しなくてもいい」「大学で学ぶ意味が分からない」と思っている皆さんは、大学を出てから後悔をしないよう、ぜひ大学生のうちに自分だけの武器を得られるよう、努力してみてもいいかもしれませんね。