「夢が叶う順番は人それぞれ」芸能活動14年目・前田敦子の『前向き力』
誰もが知るトップクラスのアイドルグループ、AKB48。芸能生活をAKB48からスタートしたと聞くと“エリートコース”のように感じますが、前田敦子さんはその礎を築いた人。自身で道を切り拓いてトップアイドルとなり、今も、10代の頃からの夢だった女優の道を一歩一歩ていねいに歩んでいます。そんな前田さんを支える“原動力”を、最新の出演作「葬式の名人」撮影エピソードとともに伺ってきました。
『野望や夢を、言葉にする。』
――前田さんは10代の頃から女優になるのが夢だったそうですが、夢を叶えるために意識してきたことはありますか?
言葉にすることだと思うんですよ、本当に。口に出すと言霊になるというか、自分もそれに向かっていけるんだと思うんですよね。
――口に出すことで、自分自身を奮い立たせることができる?
はい。言っちゃったら、がんばるしかないじゃないですか。それが自分の刺激になるんじゃないのかなぁって。だから、いまだにやりたいことは口に出すようにしています。「こういうのやってみたい」とか「ここに行ってみたい」とか。全部言うようにしてます。
――人生うまくいかない時もあると思うんですが、そういうときはどう乗り切っていますか?
すごく落ち込む時とかもあるんです。でも、それは人には言わないようにします。マイナスのことを発すると、そっちに引っ張られちゃう気がするんですよね。なんでもやっぱり言霊になるんじゃないかなと思うので。悩み事を相談できる相手は必要だし、それで発散もできるんですよ。でもマイナスなことばかりを発していると、マイナスな考えの人が周りに集まってくるというか。自分が自然とそっちに行っちゃうのかもしれないですけど。やっぱり、前向きでいたいですよね。
『夢を追い続けていたら、絶対に自分の番が来ると思う。』
――“前向きでいる”というのが前田さんらしさなんですね。では、例えば前田さんが就職活動をしている大学生だとして、希望した業種で何社も落ちたとします。それでも前向きに夢を追いかけるにはどうしたらいいと思いますか?
もしそうなったとしても「自分はダメなんだ……」とは決めつけないでほしいですよね。もちろん、つらいし、「もう無理かもしれない……」ってくらい落ち込むと思うんですよ。でも、夢って追いかけてたら絶対に自分の番がくると私は思っていて。みんながみんな、同じタイミングでは自分の夢はつかめないんじゃないかなって。やり続けたら、最後に勝つ気がしますね。
たとえ、それがもともと目指していた「夢」と形は違ったとしても、挑戦し続けてきたからこそまた新たな「夢」を見つけることができるわけじゃないですか。
――1度の失敗がすべてではなく、成功する日も必ず来るということですね。
そうです、そうです。目指してる場がずっと満員になることはないじゃないですか。次に進む人もいれば、別の夢に向かう人もいるだろうし。どの職業でもそうだと思うんです。だから、絶対自分の番が来ると思うんですよね。あきらめちゃったら終わり。だから、続けることがいちばん大変だなって思うんですよ。
――たしかに。社会人になってからのほうが人生長いですからね。
そうなんですよね。長く続けることが実はいちばん大変なんじゃないかってすごく思います。だから同じ夢を追いかけていても、叶う順番は人それぞれ違って当たり前。俳優の世界でも、始めた瞬間に売れる人もいれば、実は20年やってたんですっていう人が急に人気になることも多いじゃないですか。だから順番は人それぞれ。タイミングは人それぞれかなって。私はこの世界に入って14年になりますけど、さらにそう思うようになりましたね。
――前田さんが長く女優を続けられている原動力は何だと思いますか?
そのことだけにならないことじゃないかな。1つのことで頭がいっぱいになっちゃうと、すぐに限界がきちゃうと思うんですよ。私は行動力があるほうなので、「こうする!」って言い切って突っ走っちゃうこともあるんですけど、それで後悔することも多くて。だからうまく休みながら、ほかのことともバランスをとることが大事だなと思っています。
最新作「葬式の名人」のエピソード
『映画好きの高良さんが興奮するぐらい楽しい現場でした。』
――映画「葬式の名人」は現実とファンタジーが入り交じった不思議なお話ですね。
脚本自体が魅力的だったので、お話しをいただいた時からどんなふうに映像になるんだろうって楽しみでした。高良(健吾)さんが先に撮影に入っていて、「面白いものが撮れてると思うから、これからが楽しみだね!」ってすごく興奮してたんですよ。映画を大好きな方が「面白い!」って言うんだったら、すごく楽しいんだろうなと思いながら現場に入りました。
――前田さんが演じた雪子はシングルマザーで、胸の内に複雑な感情を抱えた女性です。演じるにあたって大切にしていたことはありますか?
雪子はこれまでいろいろな経験を、1人でがんばって乗り越えきたんだと思うんですね。そしてまた、自分の大切なものと向き合わないといけないという状況で。同窓会でみんなが楽しんでいる雰囲気の中、1人違う感じなんですけど、それはいろいろ抱えているからなんだとわかるように考えて演じていました。そうじゃないと、ただふてくされている女の子になってしまうので。
――前半は、表情で演技されている場面が多いですよね。
雪子もみんなと話したいけど、それより自分の中で整理しないといけないことのほうが多かったと思うので。その距離感が、画面を通した時にどう映るんだろうっていうのは心配でした。すべてがわかった時に、観てくださったみなさんが腑に落ちるといいなと思います。
――初めての母親役ですが、息子役の阿比留照太くんとの演技はいかがでしたか?
照太くんは今作が初めての演技経験だったんですけど、初めてのお芝居って素敵なんですよね。純粋にその子のすべてが飛んでくる感じで、自分が持ってないものがポンッと出てきたりするんです。すごく頼もしい子で、私のセリフも全部覚えてくれたんですよ。私が「次なんだっけ?」って言うとコソコソと教えてくれるぐらい完ぺき(笑)。「もう一冊全部覚えてるんだ」って最初から言ってて、天才だと思いました。照太くんのこれからが楽しみです。
――この映画を機会にたくさん声がかかりそうな子ですね。この映画の撮影後、前田さんも実際に母親になりました。母親目線で完成した映画を観ると、撮影時とは違う感覚になったのでは?
初の母親役で、公開する時には実際に母になっていて……私にとって節目の作品ですね。こんな運命ってあるのかなっていうぐらい重なっているなと思います。完成した映画を観ていろいろ思うことがあったのは、母の目線になっているからなんでしょうか。自分が出ている映画なんですけど、それとは関係なく感動しました。
『目の前にある幸せに目を向けられる作品だと思います。』
――今回は監督からの演技指導がまったくなかったと伺いました。
撮影が終わってから、(原案の)川端康成さんが俯瞰で見ているような、第三者がずっとみんなを眺めているような視点で撮りたかったんだと言われました。なにかを言ってみんなの演技が意識的に変わってしまうのが嫌で、耐えていたそうです。できあがった映画を見た時に、監督の意図がすごくわかりました。でも現場では、監督がなにも言ってくれないことに戸惑いましたね。
――監督の指導がないということは、その場の演技が正解かどうか自分で判断していくことになりますよね。
最後まで自分たちで考えるしかなかったので、俳優陣それぞれが闘っていたと思います。現場でも、こんなにみんなで作り上げるという感覚は今までなかったなと思うくらい話し合って。特に高良さんが考えぬいた上でみんなに意見を投げて、引っ張ってくれました。もともと真面目な方だなと思っていたんですけど、頼りがいがあってカッコよかったです。監督は「すごくいいものが撮れているので大丈夫です」と言ってくれていたので、それを信じながらやっていました。
――葬式”とタイトルにあるので悲しいお話かと思いきや、ファンタジーでもあり、コメディー要素もあって、いろんな感情が詰まった作品ですよね。前田さんは、この映画を観て何をいちばん感じましたか?
終わりがすごく素敵だなと思いました。何があっても、すべてに前向きでいたいですよね。向かう先はそこがいい。どんなこともタイミングって人それぞれで、人生のお別れが20代でくる人もいれば、もっと先で経験する人もいると思います。何があっても目の前にある幸せをちゃんと見たい、ということがこの作品では描かれているので、私はそこが好きです。
文:加治屋 真美 写真:島田 香 編集:ナベ子
『葬式の名人』
9月20日(金)全国ロードショー
■出演:前田敦子 高良健吾 白洲迅
尾上寛之 中西美帆 奥野瑛太 佐藤都輝子 樋井明日香 / 有馬稲子
■監督:樋口尚文
■原案:川端康成
■脚本・プロデューサー:大野裕之
■撮影:中堀正夫(JSC)
■音楽:上野耕路
■音楽プロデューサー:佐々木次彦
■特別撮影協力:大阪府立茨木高等学校
■全面協力:大阪府茨木市 茨木市制施行70周年記念事業
■配給:ティ・ジョイ
■コピーライト:©2018 “The Master of Funerals” Film partners