熱中を仕事に。俳優・渡辺大知の表現に懸ける想い
放送中のドラマ『べしゃり暮らし』で、高校生にして“元・プロ芸人”という経歴を持つ「辻本潤」を演じている渡辺大知さん。自身も高校時代、ロックバンド・黒猫チェルシーを結成しメジャーデビューした経験があります。現在は俳優としても活動の幅を広げ続けている渡辺さんに、お笑いや音楽など「学生時代に熱中していること」を仕事にする方法についてお伺いしました。
文:落合由希
写真:島田香
編集:学生の窓口編集部
【INDEX】
1.芸人らしい「匂い」を出すために
2.表現者なら「好き」を曲げない
3.好きでいつづけるため、自分を疑う
4.好きな仕事かどうかと幸せは無関係
芸人を本気で目指す人の「匂い」を出すために
ーー作中の辻本は、お笑いに“熱中”している人物だと思いますが、演じるにあたってご自身と重なる部分はありましたか?
思いのぶつけ方を間違えたり、悩んだりしながら、それでも気持ちをぶつけていく辻本の姿を見ていると、自分がバンドを始めた高校生時代と重なって「わかるな」って思いました。人と何かを作るときって自分の意見が言いづらかったり、強く言いすぎてケンカみたいになっちゃったりするんですよね。
本作はお笑いをめざす若者の話なんですけど、「お笑い」の部分は何にでも置き換えられるなと思って。本当に自分がしたいことに対して、もがいたり、悩んだり、ぶつかるさまが描かれているドラマだと思います。もちろん笑えるシーンもたくさんあるんですけど、青春期のモヤモヤとかが胸に伝わってくる作品になったんじゃないかなと思ってます。
ーーお笑い芸人をめざしている人の“特別な”物語ではなくて、高校生だったら誰でも経験があるような普遍的な感情が描かれているんですね。
そうなんです。人のことを気にしすぎちゃったり……今だったらもう少しコミュニケーションの取り方とか、相手との距離感もわかるけど、思ってもないのに言いすぎてしまった感じとか、高校生らしい部分を思い出しながら撮影できたので、見る人にも身に覚えのある場面があったり、共感できるんじゃないかなと思ってます。
ーーもともと原作の漫画は読んでいたそうですが、お笑いは好きですか?
好きです。小学校のころから好きだったんですけど、家が堅い家庭だったので、親に隠れてこっそり見たりしてました(笑)。神戸出身ということもあって、子どものころは関西の芸人さんが好きだったんですけど、小学校高学年ぐらいで爆笑問題さんを好きになってからは、東京の芸人さんも好きになって。自分が東京に出てきてからは、バナナマンさんとか関東の芸人さんが好きになりましたね。爆笑問題さんやバナナマンさんは今でもラジオを聴いてるぐらい好きです。
ーー俳優として「芸人役」を演じるにあたっていちばん大変だったシーンは?
やっぱり漫才のシーンですね。お笑いに本気でぶつかっている人の姿がちゃんと映っていてほしかったので、まずは「笑えるものにしたい!」という気持ちがありました。お笑いって良し悪しが難しいというか、見る人の好みもあると思います。でも、劇団ひとりさんはじめ、漫才指導の方がすごくおもしろいネタを書いてくださったので、撮影ではそれをちゃんといいものにしたいということだけを考えて臨みました。
ただ、本当にいちばん大事にしたかったのは、漫才の上手い下手というよりは、お笑いに対してのぶつかり方とか芸人らしい空気感。芸人を本気でめざしている人の匂いが出せているかどうか、というところでした。見ている人が一緒に応援したくなるような漫才師になったらそれでいい。もし「ヘタだな」とか「笑えねぇよ」と思われたとしても、なんかバカにできない、応援したくなるような漫才師に見えていたら、それでいいと思っていましたね。
表現者なら、自分の「好き」を曲げない
ーーご自身も高校のころからバンドをやっていて、「どうしたら音楽で食べていけるか」を真剣に考えていたそうですが、学生時代に熱中していることを仕事にまで繋げるためにはどうしたらいいと思いますか?
「好きということを曲げない」ということですかね。たとえば「ミュージシャンになりたい」とか「俳優になりたい」という方の中には、ミュージシャンに“なること”がいちばんになっちゃってる人もいたりするんです。でも、それだと少しもったいない気がするんです。「ミュージシャンになりたい」から始めちゃうと、それが叶ったら終わりじゃないですか。一見すると、でっかい夢を持っているように見えて、すごく小さいんじゃないかと感じたことがあって。もっと大きな夢を持ってもいいんじゃないかなと思うんです。
僕がバンドを始めたときは、「表現したい空気」みたいなものがありました。自分がこれまで聞いてきて好きだった音楽とか、好きだった映画の匂いというか。すごく人間臭くてロマンがあって、悲しいけどすごく明るくて……、そういうものを自分を通して表現したいなと思ったんです。逆に言うと、それができれば音楽でも映像でも絵でも、なんでもよかったんですよ。別に職業にならなくてもいいと思っていて。
自分がやりたいと思った「感じ」って、自分にしかわからないじゃないですか。「オレが好きな空気感はオレしか知らない」というか。だから、“自分が好きな空気”のことを自分がいちばん愛してなきゃダメだと思っていて、それを伝えるための方法として職業がある。
やっぱり「表現する人」は、それを職業にすることよりも、自分の「好き」を他の人になんて言われようと曲げないくらい好きになるということがいちばん大事なのかなと思います。
ーー好きなものを好きでいたら、いつのまにか職業になっていた?
僕の場合はそうだった、というだけです。表現者って、“気づいたらなってる”ものだと思うんですよね。北野武さんが「映画監督になるにはどうしたらいいですか?」って聞かれて「オレ別になりたいと思ってなったわけじゃないんだけど」って言ってたように、“気づいたらやってただけ”みたいな。
逆に言うと焦らなくていいというか、自分の好きなことにちゃんと目を向けていれば絶対に見てくれている人はいると思うので、だからこそ自分の好きなことから逃げないようにしたほうがいいと思います。
好きでいつづけるために、自分を疑う。
ーー熱中していることを「お仕事」にした後、続けるためには何が必要だと思いますか?
続けるということになったときに、今度は考える必要が出てくると思うんです。たとえば自分が好きだと思っていたものが本当に好きなのかを一度疑ってみたり。好きだとしたらどういう部分が好きなのか? 人間臭い感じが好きだけど、じゃあ人間臭くないものは好きじゃないのか? とか。音楽でいうと打ち込みで作られた機械的なものに、本当に人間味を感じないのか? でも、人が打ち込んだ打ち込みの音楽には、人間味がある。じゃあロボットに打ち込みをやらせたらどうなる? それはおもしろがれないの? とか。
そうやって今度は“自分を疑うことで楽しむ”ことも必要になってくると思います。自分が好きなものをどんどん掘り下げていったほうがいいんだろうなって思いますね。
やっぱりお金をもらうことになった以上は、考えるべきことが出てくると思うんです。お金をもらってなければ曲を書けなくなったらやめることも可能ですけど、お金をもらうようになって、しかも期待してくれてるファンの人がひとりでもいる場合は、やっぱりなんとしてでも曲を生み出すべきだと思う。そのためには自分を疑ってみたり、今までしてこなかった音楽のジャンルを勉強してみたり。研究の仕方は人それぞれだと思うんですけど、考えるべきことは出てくると思うんですよ。
ただ、それも楽しめなくなったら終わり、苦しんでやるようになったらやめたほうがいいだろうな、とは思います。そういう意味で、ずっと好きでいられるパワーは持っていたいなと思いますね。
ーーずっと好きでいることって意外と難しいことかもしれないですね。気づくと義務になっていたりして、好きだったはずのことも嫌いになっちゃいそうですし。
ずっと好きでいることは、頭で好きでいようとしても無理なんですよね。自分ではコントロールできない。だから、頭で何がやりたいか考えるんじゃなくて、もう自分が勝手に動いちゃってるぐらいのほうが信じられる。
「こういうことをしたいんです」と言って、心の中でちょっとでも「ん?」と疑問に思うことがあったら、そっちを信じたほうがいいと思いますね。本当は安定した会社に就職したいという気持ちがあるかもしれないし。自分だけは、そういう気持ちにウソをつかないほうがいい。やっぱり、体が反応していることがいちばん信じていいところだと思います。
好きなことを仕事にするか否かと、幸せは無関係。
ーー「熱中できることがあるけど、それを仕事にする勇気はない」という学生はどんな道に進むのがいいと思いますか?
僕は音楽や映画が好きで、今の仕事に就けてありがたいと思っているけど、ミュージシャンや俳優だから偉いと思ったことは一回もないです。仕事は自分に合ったものがあるでしょうし、たとえば音楽とか映画が大好きだったとして、ミュージシャンや俳優とはまったく違う職業に就いていたとしても、それはその人の幸せには関係ないと思うんです。
だから僕がいつも同級生の友達に会って思うのは、どんな仕事をしていても誇りに思ってほしいなということ。好きじゃなかったことを仕事にしていても、それをやれていることは何にも恥ずかしくないです。好きなものを仕事にしなきゃいけないってことはないと思うんですよね。幸せはそことはまた別の話。
苦しかったり、おもしろくない仕事をしてても幸せは作れるから、好きなことをどうしても仕事にしなきゃいけないって思う必要はないと思っています。僕みたいに、どうしようもなくて気づいたら音楽やっちゃうみたいな状況から、たまたま仕事に結びつく可能性があるっていうぐらい。
ありがたいことにこうしてドラマにも呼んでいただいてますけど、自分がどれだけ「ドラマに出たい!」って思っても、その思いだけで出られるものじゃないし、本当に縁というか、巡り合わせでしかないんです。それを待っていたり、追いかけていてもしょうがない。自分はとにかく好きなことに没頭して、仕事はいただいたものをありがたく受けるというのがいいんだと思います。
文:落合由希
写真:島田香
編集:学生の窓口編集部