【お盆といえばお寺!】「棺桶ワーク」ってなに?! 寺院×大学生が産学連携したら、お寺市場を救う尊みの深いプロジェクトになった #大学生の社会見学
お盆時期到来!突然ですが、みなさんは「お寺」に対してどんなイメージを持ってますか?近寄りがたい印象を持っている人も多いかもしれないし、そもそも、「お寺」の印象についてなど考えたこともない、という人が多数かもしれない。
そんな「お寺」の未来について考える産学連携プロジェクトが行われているという話を耳にした。
都内・芝公園にあるお寺「松流山 正傳寺」が、東洋学園大学の学生や、全国各地で「お寺ステイ」を手掛ける(株)シェアウィングとタッグを組み、当寺の活性化を目指しているという。はて。大学生×お寺、という全くイメージが結び付かない両者によって生み出されるのはいったいどんなモノなんだろう? 疑問を胸に、さっそく報道関係者向けの発表会に参加してきた。
いざ正傳寺の境内へ
会場となったのは、東京都港区にある日蓮宗 松流山 正傳寺。取材をした日はグッタリしてしまうような真夏日だったが、境内に一歩入ってみると、体感気温が少し下がったような気がした。ほのかな線香の香りと高い天井のためだろうか。久々に訪れる「お寺」の神々しい雰囲気に少しテンションが上がった。
全国の「お寺」が抱える課題は大きい
イベント冒頭では、現在の「お寺」市場の課題について意見が交わされた。正傳寺の住職・田村完浩さん(写真右)によると、ここ数年は、お墓を見る跡取りがいなといった理由や、引っ越しなどにより、当寺では「墓じまい」が年に1~2件あるような状況とのこと。基本的にお寺の収入源は、檀家さんのお寺管理のため、お寺経営の未来は明るくないと指摘する。
また(株)シェアウィング代表の雲林院奈央子さん(写真左)は寺院の抱える社会的課題について以下のように語った。日本には 77,000 以上のお寺が存在しているが、その内の 30%以上が檀家減少を主な理由とした後継者不足に直面しており、今後消滅していくことが予測されているという。
特に地方では、空き寺・廃寺が増えており、複数の寺院の住職を兼務しているお坊さんが増加している。業務量が増えることにより、週 75 時間以上勤務などの条件を満たした「過労死予備軍」の割合が 14.8%と、極めて高い状況にあると指摘する。
2名の話を聞きながら、筆者自身も「お寺」と自分の関わり方について改めて考えてみた。やはり祖父母世代までは、お寺やお墓に足を運んでいたし、家にある仏壇の前でも熱心にお経を唱えていた印象がある。一方で、親世代からはお寺に足を運ぶことなど皆無に等しく、そもそも「お寺」の存在を意識すること自体が、数年に1度のお葬式くらいである。お葬式で見かけるお坊さんもみな老人が多い印象だ。2名のプレゼンは、筆者も実感をもって理解できた。
「お寺」衰退に、大学生世代は何を思うのか。
このような「お寺」市場の現状をふまえ、大学生世代は何を思うのか。
登壇したのは東洋学園大学 代表 田中陽太さん。もともとマーケティングに興味があり、今回のプロジェクトに参加したとのこと。『マーケティングの真の力が試されるのは、「価値はあるけれど、売れないものを売る」。お寺はまさに日本の文化として必要で価値のあるものだけれど、いまは衰退している、魅力が伝えきれていない存在だと感じているため、真剣に取り組んでいきたい』と熱意のこもったメッセージからプレゼンがスタートした。
学生の発表に耳を傾ける大人たち
若者世代にはなかなか覚えづらいお寺に、正傳寺ならではの縁起物にちなんで「むかで寺」とインパクトのある愛称をつけることを提案。「むかで」を中心的なコンセプトとした様々な企画について熱弁を奮った田中さん。
棺桶の中で人生を見直す『棺桶ワーク』を中心とした葬式体験マナー講座や、縁起物で勝ち運を運ぶ「むかで茶」を朝茶としてビジネスパーソンへ提供する取り組みや、むかで茶を使った利き茶体験などを提案。秋学期には広告・マーケティングの側面から、さらに研究を進めていく予定だそうだ。
(企画詳細や今後の展開についてはこちらを参照)
今回の学生の取り組みを指導した本庄加代子准教授は以下のように語る。
「マーケティングには洞察力が重要。例えば、葬儀マナーやお寺のしきたりは、大人でも自信のないものです。今回の取り組みを通して、大人でも言葉にできていなかった無知に対する恥ずかしさを、大学生の先入観のない観察力をもって形にすることができたと思います。受講した全学生にとっては、マーケティングの面白さとその先の企画立案の難しさを体感できる良いきっかけとなったでしょう。大学側も、本学だけではなく、多くの大学でこのような取組みが実施されるようになれば、社会的価値もより高まるのではないでしょうか。」
また、今回のプレゼンを受け、住職の田村完浩さんは「若い人たちがお寺のことを考えてくれるのは非常に嬉しいこと。お寺業界は伝統的であるがゆえに保守的なところもあり、伝統と革新のバランスは難しいが、新しいものは取り入れて、お寺を活性化していきたいです。」とコメントしている。
「大学生」にはたくさんの可能性がある。
筆者にとっても今回のプレゼンは、新鮮であった。内容はまだまだ粗削りではあるものの、学生ならではの柔軟な発想が活かされておりシンプルに面白かった。企画した学生達自身も、今回のプロジェクトに取り組むまではそもそもお寺に対する明確なイメージを持っていなかったそうだ。企画制作にあたり、様々な文献を通し市場を分析したり、実際にお寺に足を運んだりしたことで、お寺が持つ独特な雰囲気や空間の魅力に気づくことができたという。そういった彼ら自身のリアルな「発見」が企画案にも生かされている内容のプレゼンだと感じた。
産学連携プロジェクトに参加した他企業の企画も新鮮だった。
画面左:(株)シェアウィングによる「お寺ステイ」
画面右:(株)UsideUによるAIアバター その名も「尼ター」
最後に、本庄加代子氏が述べたように、大学生は「大人でも言葉にならない無意識のニーズや恥ずかしさの感覚を、大学生にしか持ち得ない先入観のない観察力をもって形にする」ことができる存在である。また、今回の学生は、これまで全くイメージを持っていなかった対象であるお寺に対し、プロジェクトを通し知りえなかった魅力に気づいた、と述べていた。
大学生活のなかにはこのような取り組みに参加するチャンスがたくさんころがっている。特に夏休み期間は様々な体験にチャレンジする格好の機会だ。読者のみなさんも、こういったプロジェクトに参加することで、新たな知見や広い視野が獲得でき、自分の「世界」がさらに面白く、充実したものになっていくのではないだろうか。もちろん、大人たちも。
取材協力:東洋学園大学
取材・原稿・撮影:ナベ子