『ヒカルの碁』『DEATH NOTE』などの大ヒットを生み出してきた漫画家・小畑健。その飽くなき探求心に迫る。 #大学生の社会見学
『ヒカルの碁』『DEATH NOTE』『バクマン。』などの大ヒット作で知られ、その類稀なる「画力」で勝負し続ける漫画家・小畑健さん。画業30周年を記念した展覧会が7月12日から開催されている。展覧会のタイトルとなった「NEVER COMPLETE 」という言葉には、<全ての絵は決して自身にとっての“完成形”ではない。目指したい表現はまだまだ描く先にある >という小畑健氏の想いが込められているという。「漫画家」として歩んできたこの30年間を振り返り、何を思うのか。普段メディアの前に姿を現す機会の少ない小畑健さんの素顔を取材してきました。
「この30年間、うまくいったり、うまくいかなかったりの繰り返しです。」
小畑健さん:うまくいかなくて当たり前、というこの漫画の世界ですし、そして結果を出すことが常に求められる「少年ジャンプ」という場所で、これだけ長く続けられた、というのは、実は自分でも想定していませんでした。正直、自分が一番驚いていると思います(笑)。
まあその30年という中で、うまくいったり、うまくいかなかったりの繰り返しです。正直、うまくいってなかった時間のほうがずっと長くて。支えてくれたファンの皆さんへの感謝、そして「いい原作」に出会えたことが大きかったなと思います。
「ジタバタしながら自分は絵をかいていただんなぁって。」
小畑健さん:今回の展覧会では、「原画展」ということで、原稿が完成する過程のものも展示しています。こうして改めて原画を振り返ってみると、描き損じているものもあったり、間違っているところも多いな~って。そういうふうにジタバタしながら自分は絵をかいていただんな、と思います。ほんとは、ジタバタしていたところって、あんまり人には見せたくないんですけどね(笑) 。来てくれた人に楽しんでもらえたらな、と思います。
この30年を振り返ってみると、だいたい、楽しい瞬間より、つらいほうのほうが多かった気がします。例えば、『ヒカルの碁』や『DEATH NOTE』を描いているときって、「楽しい!」 というよりかは、まあ、すごく集中して描いていたので、食べる寝るを忘れて描くことも多かったんです。その分、後になって(健康面で)反動が来ちゃったり......(笑)。
小畑先生はきっちり締め切りを守る漫画家さん。そういった意味で「つらい」という発言に繋がったのかもしれませんね(笑) by ジャンプスクエア副編集長 吉田幸司さん
小畑健さん:今はちゃんと、睡眠をとって仕事をしています(笑)。漫画家をやっていて嬉しい瞬間は、書店で自分の本を買ってくれている人を見かけた時ですね。すごく嬉しいです。あとは、細かい(描写の)絵を描いているときですかね(笑)。
「主張の強い絵柄じゃなかったからこそ、様々な原作と組んで作品を作ってこくることができた。」
小畑健さん:自分が描いてきた絵が、あんまり個性がない、マンガ的な絵でないことがずっとコンプレックスだったんです。でも今振り返ると、そういうあんまり主張しすぎない絵柄だったおかげで、いろんな原作と組んで様々な作品を作れてきたのかな、とも思えるようになってきました。
原作を漫画化する時には、「とにかく原作の良さを引き出す」ことに注力しています。そういった意味では、ある程度『自分』を抑えつつも「原作のこの部分を引き出したら面白いんじゃないかな」といった観点を活かしながら描くようにしています。この30年間の活動を通し、そういった「先に進むヒント」が自分なりに見つかった気がしています。
小畑健さんの「コンプレックス」と探求心に学ぶこと
普段、メディアの前に姿を現すことが少ない小畑健さん。17歳でデビューし高校生の頃から絵が上手かった、という有名なエピソードと、技巧が凝らされた綿密なイラストレーションの印象も相まって、DEATH NOTEの主人公・夜神月のように「隙のない人物」を想像していた。しかし、実際にお話を聞いてみて、抱いていた人物イメージとは異なった印象を得た。
漫画家としての道のりは、「つらかったことのほうが多いです。」と語り、「30年間も続けてこれたことに自分が一番ビックリしています。」とはにかむ姿は、漫画界最高峰に位置する漫画家というよりも、シャイで謙虚な少年のような印象を受けた。
読者から見ると「隙の無い完璧な作画」も、本人からすると「昔から絵に個性がないのがコンプレックスだった」と語るから驚きだ。30年間、漫画を描いてきて気づいたことの一つに、「主張しない絵だからこそ、様々な原作と組んで仕事ができたのかもしれない」という発見があったと語っていた小畑健さん。
この考え方は、漫画家のようなクリエイターの仕事に限られたことではなく、私たち自身の生き方や仕事にも共通して言えることではないだろうか。特にインターネットにおける「自己表現」の競争が激しい現代においては、突出したアイデアや、強い個性を持つ者が注目される傾向にある。そのことで自分がいかに「無個性であるか」を痛感し、自己嫌悪に陥ってしまう人も少なくないだろう。しかし、小畑健さんのお話に当てはめてみると、「主張しすぎない存在」だからこそ、様々な分野の人々との間に波風を立てず物事に取り組め、活躍の場が広がるというか可能性があるという考えた方もできるのではないか。「個性がないこと」を恥じる必要ことはない、ということを取材を通して感じた。
さらに、前線で活躍してきた小畑健さんからはとにかく学ぶことが多い。ジャンプスクエア副編集長の吉田さん曰く、小畑健さんは『自分自身がこう描きたい!』という絵にたどり着くまで、何度も何度も描き直しをするようで、それが彼の最大の特徴の一つであると述べていた。
今回の展示会における描きおろしオリジナルテーマイラスト『NEVER COMPLETE』は、棺の中に人物が横たわる構図となり、複数のパーツが分割されている。その名の通り「終わりを決めることのない一つの作品」であり、人物の表情、色、すべてに決まりごとはなく、描きながらに変化する仕様だそうだ。
「締め切りなどに捉われることなく、いつまでも描き続けられるとしたら、自分はいったいどんな作品を描くことになるだろうか。」という小畑健さんの疑問をきっかけに、今回の展示会の描きおろしイラストのテーマは「終わりを決めることのない作品」に決定したという。小畑健さんが持つ、その飽くなき探求心。それこそが次々とヒット作を生み続ける「才能」なのではないだろうか。
今回の展示会では、そんな「飽くなき探求心」を持つ小畑健さんが生み出した、1万5千枚を超えるアーカイブの中から厳選された約500枚の原画や資料が展示されている。30年間に渡って自身の絵と向き合い、常に「完成しない何か」を求め続けてきたその軌跡。この機会に、ぜひ自分の目で彼の「探求心」を確かめてきてはいかがだろうか。
日程:2019年07月13日(土)~2019年08月12日(月・祝)
会場:アーツ千代田3331 東京都千代田区外神田6丁目11-14
時間:10:00-17:00
備考:最終入場30分前/毎週金・土と7/14、8/11は20:00まで延長
休み:会期中無休
料金:一般・学生1500円/中学・高校生800円/小学生600円/未就学児無料
会場:1F メインギャラリー
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取材・原稿:ナベコ
撮影:はまみ