「メン・イン・ブラック」シリーズの元になった都市伝説ってどんな話?
「メン・イン・ブラック」シリーズの7年ぶりの続編『メン・イン・ブラック:インターナショナル』が6月14日に公開されます。実は、同シリーズはUFOを目撃した人のところにやって来る黒ずくめの男(メン・イン・ブラック)という都市伝説を基にしているんです。
メン・イン・ブラックの伝説はどのように発生したものなのでしょうか? 今回は、メン・イン・ブラックについて、しばしば日本最強のデバンカー※1といわれる皆神龍太郎先生にお話を伺いました。
メン・イン・ブラックはUFO目撃者のところに現れる!
――映画「メン・イン・ブラック」シリーズの最新作が公開されますので、「メン・イン・ブラック」とは何か、について解説していただけますか?
皆神先生 一種の「都市伝説」ですよね。UFOを目撃した人がいると、その人のところに謎めいた黒ずくめの男が現れ、目撃したものを口外しないように警告するというお話です。
黒い高級車に乗り、黒い帽子、上下黒のスーツ、黒のネクタイ、黒い靴、黒のサングラスと、全身真っ黒なので、黒衣の男たち(men in black)と呼ばれます。
――メン・イン・ブラックはどこから来るのでしょうか?
皆神先生 CIA・FBIといった情報機関、空軍、報道関係など、いろんなパターンがあります。しかし、後で調査してみると、メン・イン・ブラックが名乗った組織には「そんな人間はいなかった」というのがお約束 です。
メン・イン・ブラックは1947年に初登場!?
――メン・イン・ブラックはいつから目撃されているのでしょうか?
皆神先生 「20世紀初頭にも現れた」という話もありますが、本格的出現は1947年以降です。
――いやにはっきりしていますね。
皆神先生 1947年は「UFO神話」にとって重要な年です 。まず「ケネス・アーノルド事件」※2がこの年に起こっています。この事件で「Flying Saucer(フライングソーサー:空飛ぶ円盤)」という言葉が誕生しました。
UFOが墜落したといわれる「ロズウェル事件」※3もこの年ですね。そして、メン・イン・ブラックは同年に起こった「モーリー島事件」の際に登場し、ここから一般に知られるようになっていきます 。
――「モーリー島事件」はどんな事件だったのでしょうか?
皆神先生 アメリカのワシントン州タコマ湾近くにモーリー島という島があります。1947年6月21日の午後2時ごろに、湾岸パトロールだったハロルド・ダールは15歳の息子とイヌを乗せてモーリー島付近を航行していたのですが、ドーナツ形の奇妙な物体が6機飛んでいるのを目撃します。
そのうちの1機が不安定な飛行で、降下してきた1機と接触。衝撃音と共に黒い岩のような物体と箔(はく)のような物体を吐き出しました。この物体のせいで船の一部は壊れ、息子がけがを負います。なぜか無線が通じなかったため、ダールはタコマに戻り、フレッド・リー・クリスマンという上司に報告。息子を病院に連れていったという事件です。
上司のクリスマンは最初はその話を信じませんでしたが、自分でモーリー島に行ってみたところ、ダールの言う物体が大量にあった上に自分もその飛行物体を目撃したため、話を信じるようになったそうです 。
――スゴイじゃないですか! わくわくしますね。
皆神先生 事件の翌日、ダールの家に黒いスーツの男が黒い大型高級車でやって来ます。ダールはその男と一緒に朝食を取ることになるのですが、「家族を愛していて、今の幸せな生活の上に何も起きないことを望むなら、自分が見たことを誰にも話さないことだな」と言い、去っていきました。
これが初めての「本格的なメン・イン・ブラックの登場」といわれています 。ダールはその男が軍人か政府機関の人間だと思ったそうですよ。
――では、メン・イン・ブラックは「空飛ぶ円盤」の目撃談と同じぐらい古いというわけですね。
皆神先生 はい。ただし、この格好いい「モーリー島事件」は実際にはなかったことが判明しています。
――えっ!?
皆神先生 ダールと彼の上司とされたクリスマンのでっち上げた作り話だったことがわかっています。彼らは、(本当の)軍の取り調べを受けて、自分たちが湾岸パトロールではなく、ただの材木の回収業者で、イタズラだったことを白状しているのです。
この事件で大けがをしたはずのダールの息子がずっと後になってインタビューに答え「そんな事件などなかった」と言っているくらいですから。
――ガッカリですね……。
皆神先生 「モーリー島事件」について詳しく知りたい人は『UFO事件クロニクル』(ASIOS著,彩図社刊)をご覧ください。秋月朗芳さんが詳細に顛末をリポートしていらっしゃるので、それを読んでいただくのがよいでしょう。
⇒参考・引用元:『UFO事件クロニクル』(ASIOS著,彩図社,2017年8月25日刊)
メン・イン・ブラック神話が人気の理由
――では、メン・イン・ブラックがやって来たという話もウソだったんですね。
皆神先生 UFOの目撃談がイタズラでしたから、メン・イン・ブラックのところだけ本当ということはないですね(笑)。メン・イン・ブラックはUFO神話の派生物ですが、UFO神話とほぼ同時に発生しているわけです。
UFOと同じように、このメン・イン・ブラックも多くの目撃談を得てお話として発展していくことになります。
メン・イン・ブラックを最初に神話として形成したのは、UFO研究者のグレイ・バーカー が書いた『彼らは空飛ぶ円盤について知り過ぎた』(1956年)でした。その中でバーカー と共にUFO研究会を主宰していたアルバート・ベンダーがメン・イン・ブラックに口止めをされたためUFO研究会を突然休止した、と紹介しました。
1962年にはベンダー本人が『空飛ぶ円盤と3人の男たち』を出版し、メン・イン・ブラックからの脅迫を明らかにしました。このようなメン・イン・ブラックについての情報の流布と共に、メン・イン・ブラックの存在が一般にも広く知られるようになっていきました。
――なるほど。
皆神先生 ですが、メン・イン・ブラックの脅しでUFO研究会が解散させられたなどという話もでっち上げだったようです。というのは、後にバーカーの友人がCSICOP(サイコップ)※4の機関誌に、自分もバーカーから存在しないUFO研究会の話をでっち上げて広めるように頼まれたと白状していますから。
つまり、黒衣の男は誰のところにも現れなかったわけです。そんな男はいなかった(笑)。
――なんだかガッカリですね。
皆神先生 UFOの存在は隠蔽されていて、その秘密が漏れないように誰かが工作しているという話は面白いですからね。陰謀論の一種といえるかもしれませんが、人を引き付ける魅力があるのは確かです。特にうまいと思うのは「後味の残し方」ですね。
メン・イン・ブラックの話は、たいてい「後で当局に問い合わせてみると、そんな人間はいないことがわかった……」となって終わります。黒ずくめの男が名乗った肩書は全部ウソだった、じゃあ、あの男はいったい!?となると、ミステリアスな感じが後を引くでしょう?
この引っ張り感がメン・イン・ブラックのお話を魅力的にしているのでしょう。
――メン・イン・ブラックの神話が一般に広く知られるようになっていますが、なぜそうなったのでしょうか?
皆神先生 それはやっぱり面白いからでしょう。元々は1947年の「いたずら話」から始まっていますが、「こんな(面白い)話を知っている?」と口コミで伝わり、小説や映画、漫画などに取り上げられてイメージの拡大再生産が行われ、その過程で一般に広く知られるようになったのです。これは、他のメジャーな都市伝説も同じだと思います。
――ありがとうございました。
皆神先生のお話によれば、2019年はメン・イン・ブラックが本格的に登場して72年後となります。しかし、現在でもメン・イン・ブラックの伝説は面白く、その神秘性を失っていないようです。
過去に3作品にわたって映画化され、いずれも興行収入30億円を超えるヒットとなった「メン・イン・ブラック」シリーズ。最新作の『メン・イン・ブラック:インターナショナル』は、6月14日(金)に日米同時公開されます! 『マイティ・ソー バトルロイヤル』で共演したクリス・ヘムズワースとテッサ・トンプソンのふたりにも注目です。
※1「デバンカー(debunker)」
オカルト・超常現象を懐疑的に捉え、科学的に調査する人のことです。
※2「ケネス・アーノルド事件」
1947年6月24日、ケネス・アーノルドは自家用飛行機を操縦しているときに不思議な9個の飛行物体を目撃します。 アーノルドがその物体について「水面を跳ねるお皿(saucer:ソーサー)のような飛び方をしていた」と語ったことから、「空飛ぶ円盤」という言葉が生まれました。アーノルドは物体の「動き」について言ったのですが、「形状」についての言葉として広まったわけです。これ以降、未確認飛行物体には「円盤形」というイメージが付くようになります。
※3「ロズウェル事件」
1947年7月8日、ロズウェル陸軍飛行場が「空飛ぶ円盤を回収した」というプレスリリースを発表。それが新聞に取り上げられましたが、軍はすぐに「回収したのは空飛ぶ円盤ではなく、軍の使用する観測気球だった」という発表を行い否定した、という事件です。1970年代終わりになってから改めてこの事件が取り上げられ、「実はUFOが本当に墜落しており、宇宙人の遺体が回収されていた」といわれるようになりました。
※4
「CSICOP(サイコップ)」
「Committee for the Scientific Investigation of Claims of the Paranormal」の略で、日本語では「超常現象の科学的調査のための委員会」と訳されます。現在はCSI(The Committee for Skeptical Inquiry)と改名しています。 超常現象や疑似科学に対して科学的な調査・批判を行う団体で、機関誌は『スケプティカル・インクワイラー』。
(高橋モータース@dcp)
■全米公開:2019年6月14日
■監督:F・ゲイリー・グレイ(『ワイルド・スピード ICE BREAK』)
■公式サイト:http://MenInBlack.jp
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