いろんなスタンスで虫を愛しすぎ! 多摩美虫部(TUBE)が教える虫の魅力
「私ってどんな子だった?」
小学校の同級生に久しぶりに会った時に聞くと
「教室の端っこで、蚕(カイコ)を大切に育ててた。」という。
えっ。自分の記憶の中では、美術や音楽、体育に才能を発揮し、時にクラスの代表をつとめたり、割とハデに生きてた気がするんだけど、そんな時期もあったのか…?
「放課後は強制的に桑の葉っぱを摘むのを手伝わされた」らしい。
そうだった。思い出した。私がいちばん楽しくなかった1年間、3年生の時だ。
過激な全体主義を掲げる人が担任で、クラスに貢献した人は表彰され、棒グラフで可視化されていた。私は給食も時間内に食べ終われないような「役立たず」の人間だったので、社交性でなんとかやっていたそれまでと打って変わり、ヒエラルキー最下層に落ちていた。
そんなクラスで私が唯一任されたことが、蚕のお世話役だった。
いちごのパックに飼われたそいつらは、しゃべらない、怒らない。
ただ、すべすべとしていて、むしゃむしゃと葉っぱを食べて、くさくないフンをする。指でつかんでも逃げないで、じっとしている。
放課後ひとり残され、お決まりのお説教が終わったあと、廊下で待ってくれていた隣のクラスの友達を連れて、桑の葉を摘みに行った。
そのころはその友人と、蚕だけが支えだったのかもしれない。
あれから10数年。そんなことはすっかり忘れて、わたしはただの害虫ギライの大人になっていた。
TUBEの存在を暴くため、五美虫展に潜入!
多摩美術大学在学中に、ずっと気になっていた部活があった。
「虫部」と書いて、「TUBE(チューブ)」と読む。
''TUBE''は発足6年足らずでその活動の幅を広げ、現在部員数は50人を超えている。
在学中は直接関わることはなかったが、時たまタイムラインに流れてくるTUBEの部員が制作するアクセサリーが、やたらかわいい。
「虫と友達のまま、魔法がとけていない」人たちに会ってみたい! そう思った私は、彼らに会いに行くことにした。
と、いうわけで8月某日。やってきたのは高尾山口駅、から徒歩4分のミュージアム「TAKAO 599 MUSEUM」。
自然の中に開放的な美術館が突然現れる。
ここで、「五美虫展」なるものが開催されているとのこと……
虫部の正体を探るため、いざ突入!
会場に入るやいなや、子供達の楽しそうな声が聞こえてくる……
!?!?!?!?!wwww
めちゃくちゃに絵の具を塗りたくられた巨大カブトムシ&クワガタにお出迎えされてしまったんだけどもこれは……?
え……これ……
わたしもやる!!!!!(はしゃぎがち)
※筆者はその場に速攻溶け込む性質があります。
私の童心を一瞬でとらえたこちらは、参加型ワークショップ。毎日白く塗り直していて、その日ごとになんとなく子供たちの方向性が生まれるそう。
はっ!こんな愉快なトラップに引っかかってはいけん!
と、展示に目を向けると……
で、出た〜〜〜!!!! Kawaii系虫愛好家(?)のニオイがする〜〜!!!
リアル蟻の巣×ファンシーとか、海外のおしゃれなPVですか?
作者は、多摩美術大学2年のナガノさん。天然のオーラがまぶしい。
はましゃか「このアリたちって、どこから捕まえてきたんですか?」
ナガノさん「アリ、家で飼ってるんですよ〜。今は、クロオオアリと、キイロトビイロケアリと〜、ヒメアリと、あとムネホソアリの4種類います! かわいいですよ〜」
……出だしからこんなん、絶対ツワモノぞろいの部活じゃん。
この透明アパート、アリの子育ての状態まで眺め放題。小学生の私に見せてやりたい。成人した私は1分が限界。やっぱだめかも……ファンシーのふりかけで1分持っただけかも……
はい次!!!
そうやってすぐ異世界を組み合わせる。なにこれどうした……?
実はこれ、虫が開けた穴を使って作ったピンホールレンズだそうな。
実際に虫カメラで撮影した写真たちと、作者の東京藝大院生2年のガンちゃんこと岩崎さん。
「人間がカメラを生み出すその何億年も前から、昆虫たちがレンズを作っていたと思ったら、興奮しませんか?」
ん、ちょっと何言ってるのかわからない。
ガンちゃん「あ、虫って海外の方が大きかったりカラフルなのが多いんですよ。この前はマレーシアに虫捕りに行ってきました。」
はましゃか「虫のためにスッと国境超えてくる」
ギャア!となるような作品が多いかなと思って来たら、細やかな作品が多くて思わずほっこり。
こちらは、横浜美術大学の渡邉さんの作品。
これは何……?こんなん壁にかかってるお家あったらおしゃれ……ってなってしまうわ。
「ジュエリーです。」
教えてくれたのは、多摩美術大学3年のハマモトさん。
「まぁ、私の作品じゃないですけどね。
藝大大学院卒の、佐々木怜央さんという方の作品です。」
まぁ、私の作品じゃないですけどね
彼女は去年の部長、通称虫部のアイドル。粒ぞろいだな。
触角のあたりにシンパシーを感じる彫金作品。
はましゃか「これを作った方は……?」
ハマモトさん「虫くんのことですか」
・・・・・・虫くん?
ハマモトさん「虫くんです。巷ですごく有名で。私は初めて会った時、顔でこの人が虫くんだってわかりました。」
顔?そんな直球のあだ名で……。漫画に出てきそうな設定の人が……?
謎に包まれるTUBEさんに話を聞いてきた
と、いうわけでインタビューしてるっぽい写真です。
虫部のみなさんにお集まりいただきました。
現部長でありファンシーアリの巣の作者のナガノさん、虫の眼カメラのガンちゃん、虫部のアイドル・ハマモトさん。好奇心旺盛な1年生のカトウくん、そして……
はましゃか「この中に虫くんがいるって聞いたんですが……」
虫くん「あ、僕ですね」
あ〜〜〜ッッ!!!! 虫くんだ!!!!!!!
彼こそが虫くんこと多摩美術大学・大学院2年の福井さん。
はましゃか「あの…私虫部のことネットで調べたんですけど全然情報が出てこなくて……。どんな部活なのか教えてほしいんですが……!」
虫くん「ぼくがあまりに虫好きなので、周りにすすめられて虫部を作ったんです。」
はましゃか「えっっ!!虫くん、虫部作ったひとだったんですか……」
東京藝大の虫研究部の元部長、虫の眼カメラの作者・ガンちゃん。
ガンちゃん「ぼくと虫くんはもともと知り合いなんです。それぞれの自分の大学に虫のサークルを、そしてムサビ(武蔵野美術大)の友達にむりやり作らせて(笑)。
あとは東京造形大学や女子美術大学のやつらにも声をかけて、
五美大とよばれる大学の虫好きとかを集めた、五美虫という団体をつくったんです。」
はましゃか「どんな人が多いんだろう?やっぱり虫好きのエースが集まってるって感じですか?!……?」
現部長、自宅でアリを飼っているナガノさん。
ナガノさん「女の子がめっちゃ多いです! 9割くらい女子です! ぜんぜん虫好きじゃない人もいるんですよ」
はましゃか「虫好きじゃないヤツもいるんかい。ふだんはどんな活動を?」
虫くん「ふだんは標本をつくったり、夏は高尾山に虫採りにいったりですね。
あとは、カブトムシオールというのがあります。」
はましゃか「カブトムシオール⁈」
虫くん「はい。大学の近くに樹液が出る木が沢山生えてる公園があるんです。
そこで頭にヘッドライトつけて、夜通し採集します。ひと晩で70匹以上は採れます。
あ、観察したらちゃんと自然に返すのがルールですよ!
樹液が出てる木の中でも特にカブトムシが集まってる木があって
つかまえてカゴに入れて、ふり返ったらもういる。わんこカブトムシというか。」
はましゃか「ポップな例えですねw」
ハマモトさん「(笑)。あとは毎年11月にある多摩美の芸祭で展示したり、グッズも売ってます!私は刺繍とか手芸が好きで、去年は帽子やブローチを作りました。」
見せてもらった去年の写真がこちら。ぬっ、このキャップかわい可愛すぎる。
いいものはほとんど売れてしまったんだそう。
無言で送られてきた彼女の作品たち。こんなん、これだけで食べていけるやつじゃん……
今年、2018年度の多摩美芸祭は11/2〜4で開催されるそう。ぜひ足を運んでみては?!
はましゃか「みんなどういうスタンスで虫を愛してるんでしょうか…?」
部員のみなさんに虫への愛を語ってもらうと、それぞれがかなりアツかった。
多摩美術大学1年のカトウさん。推しはオオムラサキの幼虫の‘‘ムーちゃん’’。
「僕は、自然が作り上げた造形品として見ています。絶滅してしまった種で興味深いものが沢山あるので、それを後世に伝えたいなと。」
会場ではデジタルの標本をイメージさせる作品を展示していた。フレームも自然の中で朽ちていく様子を表現してるんだとか。
ガンちゃん「僕は標本がもともとすごく好きだったんです。
そこから実際に作ってみたいなと思って今に至ります。
それに、虫は地球上に4億年前からいるわけじゃないですか。
だからだいたいの情報は虫のDNAに詰まってるんじゃないかなと思っていて、
そういうのからインスピレーションを受けて作品を作ることに繋がってますね。」
虫くん「ぼくが魅力だと思うのは、多様性ですね。昆虫って地球上で一番多い生き物ってなんです。信じられないくらい種類があるから、人智を超えた造形が調べても調べても出てくるんですよ。飽きることがないというか。」
……虫くん、筋金入りの本物だ。
「インセクトフェアっていう虫のフリマみたいなところに行って、海外の昆虫の標本をコレクションしています。」
……本物だ。
ハマモトさん「私は綺麗な色や形をした虫が好きなんです。
日本の虫って地味なのが多いけど、その中でカラフルな虫を見つけると、日常に潜むクリーチャーを見つけた!って感覚になってワクワクします。
虫はあのころ、友達だった。
石をひっくり返せばつやつやと輝くダンゴムシがいる。
秋になればキラキラした羽のトンボが空を覆いつくす。
アリが体より大きなエサを運ぶのを、応援しながらずっと見ていた。
思えばあの頃は、世界に境界線がなかった。
なのに、大学から上京して、部屋で素早く動く黒いものに遭遇してから、大きい虫を見ると鳥肌が立つようになってしまった。
実家の台所に蟻が入ってくるのを見て、友達だったあいつらのことを嫌いになってしまった。
まるで、魔法がとけてしまったような感覚だった。
危険で、毒を持った害虫だけじゃない。雑菌を持っているとか言い訳をつけて、なにもしない虫たちが''我々の陣地''に入ってくることを許せなくなってしまっていた。
虫部のみなさんに話を聞いて、普段じぶんが世界を「わたしたち」と「わたしたちじゃないもの」で分断していたことに気づいてしまった。
「わたしたちじゃないもの」をどれだけ「わたしたち」だと思えるか、そこに世界平和とかあるんじゃないかとか、本気で考えてしまったじゃないか。
(※それぞれの推しの虫のポーズをしています)
虫部のみなさん、ありがとうございました!
これを読んだ誰かが、ちょっとだけ、''友達''だったものを思い出しますように。
Text : はましゃか (@shakachang)
Photo : TAKAHA KAI
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