90歳の伝説の経営者が令和の学生に伝えたかった一つの言葉「Study Hard」 #伝説の人に会いにいく

「やりたいことが見つからない」「将来が見えず、焦りを感じる」——。そんな漠然とした不安を抱える大学生や若手社会人は少なくありません。取捨選択が難しいほど情報が溢れ、AIが瞬時に答えを提示してくれる現代において、私たちはつい「効率的な正解」を探し求めてしまいます。
今回、そんな若者たちの疑問に対してアドバイスを送ってくれたのが、オリックスの創業メンバーであり元グループCEO、現在はシニア・チェアマンの宮内義彦さんです。学生から寄せられた「進むべき道が見えない」「失敗が怖い」といったリアルな悩み、そしてマイナビ学生の窓口の学生記者の質問に、宮内氏はなんと答えたのでしょうか?
宮内さんの学生時代と現代の学生の違いと共通点
1935年に兵庫県で生まれ、関西学院大学卒業後、ワシントン大学でMBAを取得。日綿實業(現:双日)を経て、1964年のオリエント・リース(現:オリックス)創業に参画し、日本にリース業を根付かせました。1980年には代表取締役社長・グループCEOに就任。プロ野球球団であるオリックス・バファローズのオーナーを長年務めたことでも知られる伝説的な経営者、宮内義彦氏。
2014年に代表執行役会長・グループCEOを退任しましたが、いまもなお社外取締役など現役で活動しており、90歳を迎えた現在も元気な姿を見せてくれました。
――本日は貴重なお時間をいただきありがとうございます。始めに、宮内さんの学生時代についてお聞かせ願えますか。
宮内:当時は戦後復興から高度経済成長へと向かう時代で、大学へ進学する人はまだ10%程度でした。日本中が焼きつくされ、なにもない中から復興して、政府が経済白書に“もはや戦後ではない”という言葉を載せたのが1956年です。
いまと比べて一部上場企業なんてはるかに少なかったですし、私の卒業したころに大企業へ就職できたのはごくわずかでした。まずは『就職できて良かった』という時代で、たくさんの選択肢から企業を選べる環境ではありませんでした。いまのように企業を比較しながら就職先を探す時代ではなかったので、就職情報サービスも成り立たなかったでしょうね。
――宮内さんは学生時代をどのように過ごされていたのでしょうか。
宮内:私は一貫校の出身で、中学・高校・大学と同じ学校に通っていて、とくに高校時代は受験を意識しなくて良いぶん、一番楽しく過ごしていました。
しかし、大学に入って恐怖感を持ちました。外部から入学する人たちは倍率8倍、10倍という難関を突破してきているのに、こちらはぜんぜん勉強をしていない。だから「これは猛勉強しないといかん」と思って、授業は全部出ましたし、他の学部の授業にもよく出入りしていました。
しかし実際には、大学から入ってきた人たちは受験を終えてほっとして遊び始めていた。これはいまも昔も、あまり変わらないのかもしれません。日本の大学は、入学生の品質保証はしますが、卒業生の品質保証はしない。だから、大学入学と同時に青春が始まるわけです(笑)
ただ、海外の大学生は18歳から22歳の間、すさまじい競争の中で勉強しています。大学は、卒業生の品質を保証するために、学業が一定の水準に達しなければ進学させません。ですから入学してからも、厳しい評価制度の中で卒業できない学生も少なくありません。
――宮内さんから見た、当時の大学生と令和の大学生の違いは?

宮内:私の知る限り、当時の大学生はあまりアルバイトなどしていなかったと思います。その代わりクラブ活動を一生懸命やったり、もしくは麻雀をして時間を潰していたかな(笑) まあ、大学で青春を楽しんだ人が大部分だったでしょう。でも社会に出ると、厳しさがガラッと変わる。本当にこの切り替えが難しかったと思いますね。
いまの若い人たちも、それなりに勉強していると思います。しかし私から見ると「まだ甘い、スクールライフをエンジョイしすぎているのでは」と感じてしまいます(笑)一方で、思ったところに就職できるかどうか不安を感じる人も多いようです。私からすると、人生は就職活動だけで決まるものではないと思うのですが。
「進むべき道が分からないなんて当たり前」宮内さんが学生からの質問に答える
――ここから、学生さんたちからお聞きした質問にお答えいただきたいと思います。非常に多いのが「進むべき道が分からない」という悩みです。宮内さんからアドバイスをお願いします。
宮内:学生のうちから自分の進むべき道を決め志している人は、少数派なのではないでしょうか。社会に出て、しっかり足元を固めてから分かってくるものじゃないかな。分からないのは当たり前です。
ただ、「この業界にはなんとなく興味がある」「この職種にはあまり向いていない気がする」というような希望はあるわけですよね。ピンポイントで就職先まで決めるのは難しくても、「こっちの方かな」という広い範囲の中に入っていれば、働きながらまた次の考えが出てくるものです。
海外では、医学部でも法学部でも大学を終えてから専門分野を選ぶのが一般的です。例えば、医学部以外の学部を卒業した人が「やはり医学をやりたい」と考え、改めて医学大学院に入り医者になるわけです。ですから、20歳前後で自分の進むべき道を見極める必要はないと思うんです。
――次の質問は「大学の過ごし方」です。宮内さんは学生時代をどのように過ごすべきだと思いますか?

宮内:やはり物事を知らないといけない。18歳から22歳というのは吸収力が非常に高い時期ですから、それを活用した方が得だと思う。例えば英語を勉強するにしても、18歳で勉強するのと30歳を過ぎて勉強するのでは全然違うわけですね。人生設計の中で、いまやらないといけないこと、つまり勉強に集中することが大切です。
――現在の若い世代はAIを非常に活用している世代ですが、「AIとどのように向き合うべきですか」という質問について、お考えをお聞かせください。
宮内:わかりません(笑)これは人類に投げかけられた大きなテーマで、私も答えを持ち合わせていません。ただ、これからの社会はAIを振り回す側と、それに振り回される側に分かれるでしょう。結局のところ、「君はどちらになりたいんだ?」という話に尽きると思います。
みなさんはおそらく、AIを振り回す側になりたいはずですよね。そうなりたいのであれば、自分自身もしっかり学び続けなければダメです。
――以前、「グッドリスクをとりなさい! (プレジデント社)」という本を書かれていましたが、その大切さを改めてお聞かせください。
宮内:リスクを取ることと、ギャンブルをするとは別です。リスクは、失敗する可能性はあるけれども、自分で計算しコントロールすることができます。
また、リスクをコントロールすることと、リスクをなくすということはまったく違います。ノーリスクというのは、ノーリターンなんですよね。それでは何事も起こらないわけです。新しいことにチャレンジしていくことで、充実感を覚え、学んだことが身に付いていく。
明日のことをわかっている人なんて一人もいません。それなのに、みんな平気な顔をして生きているわけです。生きていること自体が不確実性の中にあるのに、日々の生活ではなかなか一歩を踏み出そうとしない。何かに挑戦しなければ、新しいものは生まれてきません。
――次が学生さんからいただいた最後の質問となります。「座右の銘である『日々新た』に込められた意味を教えてください」
宮内: 「昨日」と「今日」は違うわけですから、毎日を新しい目で見るということが、一番大事だと思っています。そうしてみると、面白い発見がたくさんある。そして、昨日まで当たり前にやってきたことでも、変えないといけないことがたくさんある。
「昨日」と違う「今日」を現実として見て、その中で生活していくわけですから、自分を変化にアジャストすることが必要になります。例えば、10年前は誰も想像していなかったAIが登場して、世の中を大きく変えようとしている。だから自分なりに知恵を絞って、少しでも追いつけるよう努力する。そういう気持ちが『日々新た』なんだろうと思います。
学生記者が直撃インタビュー、オリックスへ転籍した裏話から趣味、健康まで深掘り
ここからはインタビュアーを学生記者にバトンタッチ。斎藤さん、宮内さんと直接対談してもらいました。
齋藤:私も海外に3年間住んだ経験があるんですけれども、いま大学入学のため帰国して、そのまま日本に居続けていいのかなと悩んでいます。宮内さんはアメリカでMBAを学ばれ、日綿實業(現:双日)からアメリカに派遣され、その後日本で経営をされました。オリックスで働くことを決めた理由を教えてください。
宮内:僕は、できれば海外関係の仕事をしたいと思って英語を勉強していました。アメリカでは貿易を専攻し、その後に日綿實業(現:双日)に入社しました。ですから、そこまでは自分の希望した通りのキャリアでした。しかし、ある日「新しい会社を作るから行け!」という話があり、オリエント・リース(現:オリックス)創立に携わることになりました。
新しい会社ですから、もう山のように仕事が出てくるわけです。それを一生懸命こなしているうちに「この会社に居てもらわないと困る」と言われるようになった。日綿實業(現:双日)からは「次のポジションが決まったからそろそろ戻ってこい」と何度も指令が来るのですが、「もう少し待ってください」と言い続けている間に、自分としても「これはもう運命だな」と思い、オリエント・リースに転籍しました。
だから、出会いかなあ……そこで無理して戻って、という選択肢はなかったと思う。別に後悔はしてないし、転籍することに不満もなかったしね。「ここを離れるわけにいかないな」という感じでしたね。
齋藤:アメリカや、おそらく他の国々でもそうだと思いますが……人生を変えるような印象的な出来事はありましたか?
宮内:漫画みたいな話だけど、私は貨物船でアメリカに行ったわけです。シアトルでホストファミリーに迎えられて、初めてハイウェイを走ったとき、「みんな外人ばっかりや」と言ったら大笑いされてね。「いや君が外人じゃないか!」と(笑)。それが世界に目を開かれた瞬間でした。
それと、貨物船はカナダのバンクーバーに上陸する可能性があるということで、事前にカナダ大使館へビザを取りにいったんです。そこに世界地図が掛かっていましてね。「なんかこの地図、変だな?」と思ったら、カナダが真ん中に描かれている。今までに見た世界地図は日本が真ん中にあったので、びっくりしました。日本は世界の一部であるとわかったのが一番大きいですね。
世界人口82億人のうち、日本人は1億2~3000万人に過ぎません。ですから若い人たちが「海外に行きたくない」というのは、僕にとっては少し不思議なんですよね。
細川:私は現在、大学3年生で就職活動をしているのですが、宮内さんはどのような基準で仕事とか業界を選ぶべきと考えていますか?
宮内:そんなに深刻に考えなくたって、気に入ったところでいいんじゃないでしょうか。 最初から「これしかない」という仕事や会社に出会えることは、恐らくないだろうと思います。一生そこで働くとも限りませんし、そういう時代でもないでしょう。
まずは自分なりに納得できるところでキャリアをスタートして、専門性を高めていくと、自分のやりたいことがよく分かってきます。大学生のうちには無理でも、社会人になって数年もすれば見えてくると思いますね。
細川:もうひとつ。私はプロ野球のオリックス・バファローズの大ファンで、野球を見るのを毎日楽しみにしているんですけれども……
宮内:ありがとうございます(笑)

細川:宮内さんが学生時代に勉強以外で趣味としていたことはありますか?
宮内:趣味というと、野球と音楽です。中学からずっと合唱をやっていましてね、グリークラブに入っていたんです。私が所属していたのは、全国でも高い評価を受けているクラブでした。体育会系的な訓練をして、「全国コンクールで優勝しよう!」という目標に向けてがんばっていたんです。それからクラシック音楽が好きになり、今日に至ります。
齋藤:本を同時に3冊読まれているというお話を伺ったんですけれど、どのような本を読まれているのですか?
宮内:一冊は常に難しい本です。チャレンジして読破しようという本で、気分が乗らないとなかなか読めないので、ゆっくり時間を掛けて読むわけです。もう一冊は小説など気楽な本で、気分転換に置いておく。あと一冊は、色々な方から送っていただいた本。「あの人に会うまでに読まないといけないな」というものです。そんな感じで3冊ぐらい同時に読んでいます。
色々な勉強の方法がありますが、やはり一番の基本は読書だと思います。世の中はどんどん変わっていきますから、少しでも補わなければいけないという気持ちがあります。
齋藤:最後に、個人的なことなんですけれど、宮内さんが健康でいるために続けている習慣などありましたらお聞きしたいです。
宮内:睡眠……それから身体に悪いところがあれば、直していくようにしています。一番危ないのは、「この数値だけは悪いけれど、他は問題ない」という考え方。「血圧だけ高いけど、あとは全部大丈夫」というのは、最悪なんですよね。だから健康上、問題が起こった箇所はきっちり直していくと。まあ、もう少し歳を取られたらワインでも楽しんでください(笑)
宮内さんが令和の学生に送る言葉は「Study Hard(スタディ・ハード)」

学生たちの率直な質問に対し、ときに真摯に、ときに面白おかしく話をしてくれた宮内さん。最後に、将来に希望と不安を抱える学生に対してエールをお願いしてみました。
――大学生にもし何かひとつ言葉を送るとしたら、どんな言葉を送られますか?

宮内:「Study Hard――勉強せい!」ですね。子どもや孫にも同じことを言っているので、「また勉強の話か」と家族にも思われている(笑)。
私は大学3年生の時に結核になりました。なぜかというと、めちゃくちゃ活動していたからです。グリークラブの厳しい練習があって、授業は全部出席して、英語の勉強もしないといけない。食事の時間もないんですよね。友達にも「やりすぎやろ」と言われるような生活をずっとしていました。
だから「結核だ、家で寝ておれ」と言われたときは残念でしたが、同時に「できることはやったな」という気持ちもありました。いまにして思えば、一年間休学して、ゆっくりやればよかったのかもしれません。でも、若い時はそう思わない。「一年遅れるなんて、大変だ」という感じでしたね。
やはり、頭に詰め込めるときにしっかり学ぶということが大事だと思います。勉強して身につけた知識や経験は、必ずどこかで自分を支えてくれます。将来何をしたいのか分からなくても構いません。学生時代にはしっかり学び、自分の将来の選択肢を広げてほしいですね。
取材・文、写真=加賀章喜
学生記者=細川淳生、齋藤楓華(ガクラボメンバー)
動画=前田勉、菅原剣士郎
編集=降旗靖夫(マイナビ学生の窓口編集部
取材協力=オリックス https://www.orix.co.jp/
































