『一瞬の永遠』 「フフッ、シラスだ」 冷房の効いた店内で一口食べて思わず笑ってしまった。|「#Z世代の目線から」エッセイコンテスト7月入選作品1
「#Z世代の目線から」エッセイコンテスト7月
入選作品1:『一瞬の永遠』スズキサイハ さん
1458文字/4分くらいで読み終わります。
「フフッ、シラスだ」
冷房の効いた店内で一口食べて思わず笑ってしまった。そんな私の反応に三人は不思議そうな目で見つめてくる。
「いや、これ笑っちゃうから、ハハ、食べてみて」
口内にはまだ何匹かシラスがいる。
「フフッ」
同じ“シラスアイス”を注文した尚も一口食べて笑う。
「ここまで主張激しいとは思わなかったな~」
「成分としてのシラスじゃなくてガチのシラスだね」
「いる?」とカップを傾ければ安パイな味——マンゴーとメロン——を頼んだ二人もスプーンですくいとり、同じように笑った。口の中にはシラスの潮っぽさと独特の生臭さ、それをかろうじて包み込むバニラが一緒くたに鼻から抜けた。
私たち四人は「彼氏・彼女いない同盟」を組み、アオハルをその手に掴みたいと切に願う猛者の衆である。口に出すのもおぞましい“その歴”が年齢と合致するのは、所謂いつメンというグループの中で私たちだけであり、いてもたってもいられずに酔った勢いで発足したのが始まりだった、はずだ。その中で江ノ島へ縁結び参りに行こうと提案したのは誰であったか。補習を終えた私たちは本来の祈りもそこそこにご当地名物らしいシラスアイスを堪能し、更には暮れかけた海辺ではしゃいでいた。
「海だね~」
「波だね」
「はいはい、こっち向いて」
まこがスマホを向ける。私はちょっと照れながらも澄ました顔をして撮られるのを待つ。あとでインスタにあげよう。そういう類のアプリに疎かった私も、大学でできた友だちに「インスタを教えて」と言われ続けるようになってから自主的に活用するようになった。けれどフォトジェニックな写真なんてどうとればいいのかさっぱりだ。のんびりと向こうの方で夕焼けが沈むのを見ていた。
「どう? 撮れた?」
「こんな感じ」
差しだされた画面に眩しさを覚えながら感想を伝える。
「お~、上手い」
まこは写真を撮るのが上手い。綺麗に写され現物よりましになった自分をしげしげと見つめた。ざざーん、と波が押し寄せてくる。「尚も撮ってあげるよ」とまこは歩き出す。公介もそんな二人を見つめていた。その三人を見ながら、あれ、これもアオハルとやらではないか、と考えつく。
私が、そして皆がアオハルとやらにこだわるのは、失われた時間のせいかもしれないなと思う。ここ最近、コロナによる自粛生活とオンライン授業で、友だちと過ごせたはずの二年間へ想いを馳せてしまうことが増えたからだった。だからこそ、今こうして終わりかけているこの瞬間さえ私には価値があった。
ときどき、このままずっとこの同盟も続いてくれ、と思う瞬間がある。解散することが目的であるはずなのに、一緒にいるのが楽しすぎるせいで惜しい気がした。
海の家には裸電球が列をなして灯り、辺りもぼんやりとしてくる。
「鶴岡八幡宮の方も行ってみようよ」
「じゃあ勘でたどり着くかやってみたい」
「おー、いいね」
「まあ迷子になったらグーグルあるしな」
横一列に並んでのんびり砂浜を歩き始める。波はずるずるとこちらに寄ってきて、濡れそうになった公介が必死に走っていくのがおかしかった。
夜風は昼の熱を持ちながら心地よく、月もぼんやりと浮かんでいる。これ以上ない有史以来最高の夜だった。
しかし私はこのとき知らずにいたのだ。二週間後には公介が尚に告白していた事実を知り、展開の速さに驚く羽目になることを。そして、永遠などというものはやはりどこにもないのだと、心で苦笑しながらたった今も二人の恋の話を聞いている。
著者:スズキサイハ さん |
学校・学年:明治学院大学 3年 |
Twitterアカウント:@SZK_SiHal_888 |
著者コメント:彼女・彼氏いない歴=年齢である私たちが、江ノ島へ縁結びの祈願をしに行ったときの出来事です。大学三年生になってから一緒にいるようになり、時々、これが一年生だったら、あと三年間も一緒にいられたのにと失われた時間を惜しんでしまうほど楽しい人たちです。そんな皆との江ノ島巡りもあっという間に二週間前。永遠になって欲しい時間ほど、一瞬で過ぎ去ります。ですがその一瞬を文章にすることで、少しは留めておけるのではないかと考え応募させて頂きました。標本をつくるような気持ちで丁寧に言葉を選びました。また、二人がくっつきそうなのを隣で見ていて悔しいような嬉しいような、ここ最近は青春の苦い味がします。 |
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