『倦みの膿を治癒するレシピ』 私の大学2年までの毎日は高校時代よりもディテールが少なかった。|「#Z世代の目線から」エッセイコンテスト7月入選作品3
「#Z世代の目線から」エッセイコンテスト7月
入選作品3:『倦みの膿を治癒するレシピ』井上智尋 さん
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私の大学2年までの毎日は高校時代よりもディテールが少なかった。
特にコロナ世代はそうであっただろう。適当に起床し、寝ぼけ眼で無機質にオンライン授業を受け、残りの時間は自粛と称してスマホゲームを罪悪感無しにプレイする。最初は勿論楽しかった。受験勉強の疲れを癒すには打ってつけの時期だったであろう。しかしそれは秋頃には段々と飽きに変わっていった。秋だけに。それでもコロナ禍でどのように生き抜いていくかを自分で思考していったつもりだ。それは周囲の学生も同じだったと感じている。「倦み」を無理矢理にでも楽しいものに変えようと学生を含めた様々な人間は努力したが、数年前に当たり前に感じていた日常以下のものしか生まれない結果に終わった。
大学3年になった春頃から高校までに歩んでいた普段の生活の彩りが戻ってきた。丁度無色透明の日常生活に慣れてしまった時で、久しぶりに色彩を持つのは眩しかった。それに自分を守ってくれるサングラスは何故か存在しない。最も辛かったのはゼミで長いグループディスカッションを行った時だ。話す内容は固まっているものの、自宅の布団の中から話している時の包まれた安心感の無いキャンパスでは、何故か発言を上手くすることができなかった。2年間私たちの抱えてきた「倦み」は気づかぬ傷となり、それが進化して「膿」を発生させている。しかし大学はそれに目を背け、対面での通常の試験やゼミ選択などを課す。少ない情報の中で生きざるを得なかった私たちは戸惑いながらも、もう一度足を進めていく。
砂漠の先には海が存在するだろうか。いや多く見積もってもオアシスしか無いだろう。砂漠とオアシスが切り替わった時、私たちは環境に適応できずに悩み苦しみ「倦む」。その際に生まれる「膿」は皮膚用薬を使用しないと治すことができない。この場合の薬とは人間とのコミュニケーションだ。外部から何かフレッシュなものを取り入れることが万薬となり、それでいて置かれている現状を誰かに報告することができる。それは単に話すこと以外にも書くことで満たされる。得体の知れない心の中で起こっている何かを懸命に言語化し、本エッセイを記すことで私なりに共感を得たかったのだと思う。
「倦み」の「膿」がプツリと消滅した。
著者:井上智尋 さん |
学校・学年:慶應義塾大学 3年 |
Twitterアカウント:@chihiro_logical |
著者コメント:久しぶりに自身の気持ちを文章に起こしたことで私の心の中の膿を治療することができたと思います。このような素敵なコンテストを運営してくださったこと、感謝致します。 2020年に大学に入学した代は特に色々と失うことも多かった大学生活だったと思います。少し伝わりにくいエッセーになってしまいましたが、何か感じ取ってくださると嬉しいです。 |
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