【お題:"ガチャ"】「#大学生の目線から」エッセイコンテスト入選作品2『がこん、という音がした。私は旅行に行った際には必ずと言っていいほどガチャガチャを引く。... ...』

編集部:ベッシー

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エッセイコンテスト6月「#大学生の目線から」入選作品2:北海道大学 3年 伊織 栞里 さんのエッセイ

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がこん、という音がした。

私は旅行に行った際には必ずと言っていいほどガチャガチャを引く。そのために百円玉を五枚くらいはいつも忍ばせている。硬貨を一枚ずつ入れ、感触を確かめながらレバーを回す瞬間に、普段味わえない感覚を覚えるのだ。

ガチャガチャの品物には一つだけこだわりがある。それは、家に持って帰った途端に、急に要らなくなるようなもの。旅行途中の高揚した瞬間にしか回さないニッチなガチャガチャにこそ愛着が湧いてしまう。こんなに物好きな私が通り過ぎなかったら、お前は一体どうするつもりだったんだと言わんばかりに。

けれどその不思議な感覚を、私は自分の将来になぞらえてしまう。毎年大勢の人間が大学を卒業して就職する。毎年彼らが就職できる働き口が用意されていることが不思議でならない。ロケット鉛筆のように押し出される間に、その疑問を解決できる気はしない。

履歴書と面接で良しと判断された私を見て、会社は何を思うのだろう。働き始めて、私の片鱗を見た瞬間に、失敗だったと思わないのだろうか。よりによってどうして、こんなやつを採用してしまったと後悔しないだろうか。

カプセルから取り出された緑のビニルフィギュアが、私の将来に見えてならないのである。腕をにぎにぎ触られて、大したこともできずに、すぐに飽きられてポケットにしまわれたまま忘れられてしまうのではないかと。

大きな不安を感じていても、時間は平等に過ぎていく。大学生になったばかりと思っていたのに、周りは就活を始めている。私だけが取り残されたままだ。社会に押し出そうという出典不明の圧力も感じる。私の何を見て、社会は私を受け入れるのだろう。何の能力も無いと判断されたら、すぐに捨てられてしまうのだろう。私を好いてくれる物好きが、果たして私の前に現れるのだろうか。

がこん、という音がした。



著者:伊織 栞里 さん
学校・学年:北海道大学 3年
Twitterアカウント:@hoku_bun
著者コメント:社会に出るのが怖くて書きました。
だけれども社会に出ないまま生きていける自信と才能がないので、大人しく社会に出ようと思います。

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「#大学生の目線から」6月期エッセイコンテストの結果と総評はこちら

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