#春からFES2021 スペシャルインタビュー【後編】「苦手なことが楽しいと思えるようになった」吉住さんが語る芸人としての今の自分。
新しく始まる学生たちの「#春から」を応援する「#春からFES2021」に、インタビューと動画の両方で登場してくれるのは、昨年末『女芸人No.1決定戦 THE W 2020』で優勝を果たし、今やテレビで見ない日はないほどの活躍ぶりを見せる吉住さん。
インタビュー【前編】では学生時代について語ってくれた吉住さん。インタビュー【後編】では、吉住さんが“芸人としての今の自分”について語ってくれました。
一歩踏み出したことで、苦手だと思っていたことが、すごく楽しいことに気づいた
ーー昨年、『女芸人No.1決定戦 THE W』で優勝されてからずっとお忙しいと思うのですが、今の率直な心境はいかがですか?
もともとネタ作りやライブに出るのがおもな活動だったのが、急にテレビに出させていただくようになって。しかも食レポとかクイズとかいろんなジャンルがあって戸惑ったり、ものすごく才能のある方たちを浴びるように見ている状況なので、落ち込みながらも、意外と自分にできることや合ってるものがわかったりもしてきていて。優勝した直後は圧倒されるのみだったんですけど、だんだんそういうものも見えてきたので、今はまだ楽しめるところまではいってないんですけど、これから楽しめたらいいなって感じですね。
ーーちなみに、合っているかもと思ったお仕事ってどんなものだったんですか?
私、人見知りで、私生活では初対面の人に対して一歩踏み込めないところがあるんです。でも、仕事で岡山県にロケに行ったとき、ディレクターさんに「(地元の人に)どんどん聞いていこう」とか「その人の人生を掘り下げたい」って言われて。内心「そういうの、人の心に土足でズカズカ踏み込む感じがしてちょっと苦手なんだよな……」って思ってたんです。
でも、意外とみなさん、ちょっと聞くとけっこう話してくださって。意外と自分の人生を語ることに抵抗がないというか、サービス精神が旺盛だなって思ったと同時に、人の人生にちょっと触れられたことで「こういう人生もあるんだ」っていう刺激を受けたんです。もともと本を読むのは好きなんですけど、やっぱり生身の方から聞くお話って刺激があって楽しくて。苦手だと思っていた仕事が、実は「すごく楽しい」ということに気づけた瞬間でした。
そのロケがキッカケになって、その後お仕事でご一緒したホーミー(注・モンゴルの唱法でひとりの人間が同時に二種類の声を出して歌うこと)の先生にも「なんでホーミーをしようと思われたんですか?」とかいろいろ聞いちゃったんです。今までだったら「ちょっと失礼かな?」とか、勝手な遠慮があって聞けなかったんですけど、「聞いていいんだ」って思って。そうしたら先生もいろいろ話をしてくださって、そのときも「楽しいなぁ」って。だから……、人に興味が出てきたのかもしれないです。
ーーいろんな人の話を聞くことは、今後のネタ作りにもいい影響をもたらしそうですよね。
そうですね。よく(ネタ作りで)本屋さんに行ってバーっと背表紙を見て、タイトルの中の気になった単語をメモしたりしてるんですけど、やっぱりそこで出会えるものって自分の好きなジャンルのものでしかなかったりするんです。推理小説が好きなので、すぐ推理小説の棚に行っちゃったり。なので、自分が興味ないジャンルの棚にはあんまり足が向かなくて。
でも、いろんな人と話すことによって衝撃を受けたり、ずっと仲がよかった友達にちょっと聞いてみたら「え、今そんなことに興味あるの?」って思うような意外な答えが返ってきたりすることもあって、自分ひとりで生きてたら遭遇しなかった単語や分野に最近出会うことが多いな〜って。だからそれがネタの幅が広がることにつながればいいなぁと思ってます。
芸人としてブレないでいるためにも、ネタはやり続けていきたい
ーー吉住さんが、芸人として「これだけはする/しない」など、決めていることはありますか?
基本的にネタはやり続けていきたいと思ってます。テレビに出て、慣れないことも多くて「やっぱ自分ダメだな」って思っちゃったりすることもあるんですけど、そういうのがすぐ顔に出ちゃうので、みなさんけっこう声をかけてくださるんですね。そこで、芸人はネタという軸足があることで、落ち込んだり悔しい思いをしたり、逆に楽しかったりしてもブレないでいられるんだっていう話を聞いて、しかも「吉住にもその軸足があるから大丈夫じゃないか」って言っていただいたんです。
なので、1個ダメだとすぐに「全部向いてないんじゃないか」って心が折れそうになるんですけど、「これだけは自信を持てる」というもの(ネタ)を強みとして持っておきたいし、それを持っているということを忘れないようにしたいなと思ってます。
あと心がけているのは、“人を傷つけないようにしよう”ということ。でも難しいんですよね。意図していないところで傷つけてしまったり、無知なせいで人を傷つけてしまうこともあるじゃないですか。今までだったらお笑いライブとか深夜番組とか、お笑いが好きな方の目に触れる機会が多かったんですけど、今はいろんな方が見られる時間帯の番組に出させていただくこともあるので、そういうことはすごく考えます。
ーーでも、あんまり気を遣いすぎるとなんにも言えなくなっちゃいますよね。
そうなんです。なので、そこが今いちばん動きづらいなって思ってるところかもしれないです。だから今、「ここまでは言っていい」っていうラインをどこに設定するのか、というのを自分の中で探っている最中ですね。傷つけていいとはもちろん思ってないんですけど、誰もが不快にならないというのは無理だなとも思っていて。
ーーお笑いって特に、きわどい部分が面白いところもありますもんね。
そうなんですよね。ある意味ちょっと意地悪な目線が笑いだったりするところもあるので、「どこまでだったらその発言をしたことを自分が許せるのか」というか、芸人として「ここまでは勝負として言ってOK」というラインを早く自分の中で見つけたいです。
ーーでは最後に、吉住さんにとっての「#春からワタシは」を教えてください。
最近、すごくウジウジしてる自分がいて。今まで自分のネタにはちゃんと誇りを持っていたはずなのに、いろんな仕事で挫折感を味わったりして、「あれ? 向いてないかも?」って気持ちが芽生えて、なんか「ウヮ〜ッ!」てウジウジしてしまってるんです。でも、「私は自分のネタが好きだったな」ということに改めて気づけたので、もうちょっと自分に自信をもって……シャキッとしたいですね(笑)。
** * あとがき * * *
大学時代からなろうと決めていた芸人になり、その数年後には“女芸人No.1”という偉業を成し遂げた吉住さん。優勝した今も試行錯誤を続けながら仕事をしていく中で、苦手だと思い込んでいた仕事をやってみたら意外と楽しかったりと、日々あらたな発見をしながら芸人として成長していく吉住さんの姿は、学生のみなさんにとっても参考になる部分が多いのではないでしょうか。
PROFILE
吉住(お笑い芸人)
1989年11月12日生まれ。福岡県北九州市出身。熊本県立大学卒業後、2013年プロダクション人力舎の養成所・スクールJCAに入所(23期生)。2016年よりピン芸人「吉住」として活動をスタートさせる。2020年、『女芸人No.1決定戦 THE W』優勝、2021年『R-1グランプリ』決勝進出。現在、初のネタDVD『せっかくだもの。』が発売中。
吉住公式Twitter
YouTube【吉住 official channel】
取材・文/落合由希
撮影/為広麻里
編集/学生の窓口編集部