「女性とウェルネス」から「誰もが等身大で輝ける社会」を考える。津田塾大学「苗ぷろ。」代表・江連千佳さんの目指す社会とは?
世界中で女性の社会進出が飛躍的に進むなか、「ジェンダーギャップ指数2020」の世界ランキングで、日本は153カ国中121位と、前年の110位よりもさらに後退しました。しかし「ジェンダー平等の実現」は、SDGsのゴール5にも掲げられている重要課題。
私たちはこの問題とどう向き合っていけばいいのでしょうか。今回は「自分の人生をデザインできる女性を増やす」を目指して活動に取り組む、津田塾大学の学生団体「苗ぷろ。」にフォーカス。代表の江連千佳さんに話をお聞きしました。
江連さんが考える、女性とウェルネスの“密な関係”
――「苗ぷろ。」の活動はいつ頃からスタートしたんですか?
2019年の6月に、私が周りの友だちに声をかけて作りました。ようやく団体らしくなってきたのはこの春くらいからですけどね。最初は津田塾大学の2年生が中心だったのですが、今は全国からメンバーも集まっていて、全部で21人くらい。年齢も18歳から28歳まで幅広く集まっています。
2020年1月には東京神保町で『紙でできたピアス&イアリング試着会』を開催。女子大生に身近なピアスやイヤリングに潜むアレルギーなどのリスクを考え、"カラダに優しいピアスやイアリングに触れることでカラダへのリスクへのアンテナを高くしよう”という啓発活動。
――どんなコンセプトで活動されているのでしょう?
簡単に言うと、「ウェルネス」を女性の立場から考えようというものです。日本では「ウェルネス=健康」と訳されますが、同じく健康を意味する「ヘルス」とは違います。ウェルネスは身体だけじゃなく、精神、環境、社会など、いろんな要素から生活の質を高めようとする「手段」だと考えられています。
女性って、女性特有の病気や生理の影響で、自分の身体と向き合う機会が多いんですよね。例えば婦人病もそうですし、統計的に見ると鬱になりやすいこともわかっています。私自身も、この両方に該当しますしね。だから女性は「女だから悩んでいる」「身体が辛い」という状態に陥りがちなんですけど、社会的には、当の女性たちにも理解されているとは言い難い状況です。
――確かに。女性特有の事情に配慮しない、悪い意味の「男女平等」というか…。
ちゃんと女性の身体と社会の問題は結びつけて考える必要がありますし、その指標となるのがウェルネスだと思っています。ウェルネスを考えることが、女性の社会的な選択肢を増やすことにもつながると感じて、ある日、友だちや教授に話してみたんですよね。そこから「じゃあ、女性とウェルネスを考える学生団体を作っちゃおうよ」と話が発展して、今に至っています。
――これまでどんな活動をされてきたのでしょう?
最初はSNSで発信力の強化から始めました。女性の身体特有の問題を提起して、フォロワーは半年で4000人くらいまで増えましたよ。ツイートがバズるたびにメンバーも集まってきましたね。今年の4月からは、「Think」「Chance」「Act」という3つのジャンルに分けた活動をスタートさせています。
苗ぷろ。が掲げる3つの活動方針
江連さんが通う津田塾大学以外にも様々な大学のメンバーが所属する苗ぷろ。は、メンバーの興味関心も多種多様。個人の興味関心を「女性とウェルネス」の視点で発信する場を設けている。
――「Think」「Chance」「Act」というのは?
まず、「Think」は、メンバー全員で「女性とウェルネス」という視点でブログを書くこと。自分にとってウェルネスの理想がどこにあるか、理想を阻む社会の課題がどこにあるかなどを考え、ブログにすることで自分を見つめる機会を作りました。ブログの更新は月に1〜2本というノルマも設けています。
――なるほど。では、「Chance」は?
「Chance」は、月1のミートアップのことですね。メンバーの中から自発的に「こういう企画をやろうよ!」と提案してもらって、一般からも参加者を集めます。例えば、性教育や結婚観、LGBTQなど、みんなでテーマを出し合って一緒に議論を深める場ですね。ジェンダーや性の話などは、女性同士だからこそ話せることも多いんです。
例えば、津田塾大学のOGである元厚生労働事務次官の村木厚子先生を招いて「結婚」をテーマにディスカッションをしたこともあります。日本は、ワークライフバランスを保つのが難しい社会ですが、自分の理想のバランスはどんな状態なのか、「ワーク」だけでなく「ライフ」の観点から見直す。これは学生のうちから考えるべきことですし、何も考えないでいるほうが怖い。やってみたら同じ気持ちの人も多くて、参加枠は一瞬で埋まり、当日も大盛況でした。
――確かに、それは社会に出る前から考えておいたほうがよさそうですね。
3つめの「Act」は、女性のウェルネスを向上するために、社会に必要だと思うものを探し、自らアクションを起こすことですね。例えば、渋谷区の連携推進SーSAPの一環で行っている津田塾大学とマヨネーズで有名なキユーピー様の連携プロジェクトに参加させていただいていて、「べじらいふ。~ズボラ女子大生の野菜日記~」という企画を実施しています。その内容は、「キユーピー公式レシピ」や「苗ぷろ。メンバー考案のオリジナルレシピ」を使って、ゆるく自炊に挑戦して、ゆるくレビュー記事を発信していくというものです。
――自炊、ですか?
女子大生は、自炊することの大切さをちゃんとわかっています。でも正直、面倒くさいのも本音。ネットでレシピを見ながら作っても、料理初心者の自分の実力で本当に上手くいくのかはわからない。そこで、まったく料理しない苗ぷろ。のメンバーにズボラレシピを元に料理してもらって、コスパや作りやすさなどを本音でレポートしてもらおう、と。料理ができない子のレポートだからこそ本当の意味で参考になりますし、ツイッターでも「作ってみました!」という声を頂いています。
一緒に企画を実施しているキユーピーさんのオフィスにて。ズボラレシピを考案する際にかかる食材費などは限られた団体予算のなかから捻出して頑張っているそう。
――それは実用性が高そうですね!
他にも、「月経カップがナプキンの代わりになるのか検証したい」と提案したメンバーがいて、実際にレビューしてもらいました。日本ではあまり月経カップが使われていませんが、欧米では比較的ポピュラー。再利用できるのでSDGsフレンドリーだし、コスパもいいんです。
――使い方もあまり知られていないんですか?
アスリートや年齢層が女子大生よりも上の方のレビューは見ることができますが、女子大生が使用した所感は見受けられませんでした。そこで、体験したことがない子でも安心して使えるのかを検証し、レビュー記事にしたんです。そうやってひとつひとつのプロジェクトを通じて広めることも大切ですし、同時に、自分たちのウェルネスも向上させていくことを目指しています。こうした活動の費用は苗ぷろ。の予算から出しています。