挑戦を選ぶのは、成長したいから。手島章斗、ソロプロジェクト開始の背景を語る #セルフライナーノーツ
常に挑戦心を持ち続けるのは難しいことです。なぜなら、人は過去の経験から学ぶ生き物だから。学びとは、諸刃の剣です。もちろん成長の鍵にもなりえますが、「これまでと同じやり方できっと大丈夫なはず」と安易な選択をしてしまえば、それが停滞を招く場合もあります。
8人組ボーカルグループ・SOLIDEMOのメンバー、手島章斗さん。手島さんは2020年6月からソロプロジェクトをスタートさせました。グループとしても着実にキャリアを重ねるなかで、また一つ新たな挑戦となります。手島さんがこの挑戦を選択した背景とは?
ソロ楽曲におけるボーカリストとしての挑戦や、新しいことを始めるときの心がけについて、お話を伺いました。
文:蜂須賀ちなみ
写真:島田香
編集:学生の窓口編集部
感覚派? 分析家? ボーカリストとしての自己評価
――手島さんは「avex audition MAX 2013」でグランプリを獲得したことが音楽活動を始めるきっかけになったんですよね。
手島章斗:はい。そのオーディションは1万7千人ぐらいの人が応募していて。1次審査、2次審査……と進んでいくなかで、正直歌がうまい人っていっぱいいるんだなと感じました。そこでまさか自分がグランプリになるとは思っていなかったので、名前を呼ばれた瞬間、びっくりしすぎてポカーンとしちゃいましたね。
グランプリをいただく前は大阪でバイトしながらボイトレ(ボイストレーニング)を受けていたんですけど、その生活を始めた半年後には東京に出てきて、SOLIDEMOのメンバーとして活動をすることになりました。なので、僕には下積みというものがありません。
他のメンバーはすでにボーカリストとして完成した状態なのに、そんななかで、僕がセンターとして立たせてもらえることになって。最初の頃はそこに対する責任感と重圧が大きかったです。「早くみんなに追いつかなきゃ」と感じていました。
SOLIDEMOはデビュー当時からライブをやらせていただく機会が多かったんですけど、プレッシャーからか、声が裏返ってしまうこともあって。それがトラウマみたいになっていたので最初からファルセット(裏声)で唄うようにしていたんです。そうやって逃げていることに当時のプロデューサーやマネージャーも気づいたみたいで、「逃げるな」と言われてしまい……。
――そういう状況をどう打開していったんですか?
やっぱり、練習あるのみですね。メジャーデビューをしてからありがたいことに怒涛の日々だったので、ボイトレをきちんと受ける時間はなかなか取れなかったんですけど、スケジュールの合間をぬってメンバーと一緒に歌を練習したり、自分の身近にいる歌のうまい人や、好きなアーティストのYouTubeを観て、自分なりに研究・練習をしていました。
――Instagramにアップされているカバー動画をいくつか拝見しましたが、手島さんは「原曲はこうだから」「自分の歌はこうだから」という2つの視点できちんと分析したうえで唄っていますよね。
そう言っていただけるのはありがたいんですけど、実は僕、案外感覚派なんですよね。レコーディング後にメンバーからも「ここ、○○だから××にしたんでしょ」みたいに言われることがあるんですけど、それも「あ、たしかに言われてみればそうなっていたかも」ということのほうが多いくらいで(笑)。
それに僕自身、あまり「努力している」と思ったことがないんですよ。僕はただ歌が好きなだけで、「こういうふうに唄えるようになりたいなぁ」「こういう声を出してみたいなぁ」というのを、遊びながら習得していっている感覚が強くて。
本当に好きなこと、やりたいことだったら、それをやっているうちに気づいたら時間が過ぎていて、気づいたら身になっているものだと僕は思います。それが周りから見たら「努力している」と見てもらえているのかもしれないですね。
「唄わないように唄う」という新たな挑戦
――そして今回、満を持してソロプロジェクトが始動しました。そもそもどういう経緯でソロ活動を始めることになったんですか?
去年の2~3月にソロカバーライブをやったんですけど、実はその少し前から「ソロ活動に挑戦してみたい」とスタッフさんに相談していたんですよ。そんななか、SOLIDEMOの5周年が終わり、「タイミング的にもちょうどいいし、そろそろやってみないか」というお話を改めていただいたので、「ぜひやらせてください」とお返事しました。
「SOLIDEMOでの僕」と「ソロでの僕」は、違うものだと思っているんです。たとえば、SOLIDEMOのようなボーカルグループだと、メインのメロディを唄う人の他に、ハーモニーやコーラスを担う人もいます。誰がどの部分を唄うか振り分けることを「歌割り」と言うんですけど、それによってお互いがより引き立つんですね。それがグループの魅力だと思います。
だから、グループで唄っている人に対して「この人の歌はいいなあ」と思ったとしても、それはその一人の力だけではなく、周りの支えがあるからこそ成り立っているもので。逆に言うと、ソロだとそういうものに助けてもらえなくなるんですよね。
そう考えると、僕の歌だけで1曲届けるのはハードルが高いことだと思います。だけど、やってみたいという気持ちがあったし、今の自分がどれだけ通用するのか、やっぱり気になるので。それが今回、ソロ活動に挑戦してみることに決めた主な理由です。
――現時点でリリースされているのは、WHITE JAMのSHIROSEさんがプロデュースした「大好き。」「Fire」の2曲ですが、曲調としてもこれまで唄ってきたものとは少し毛色が違いますね。
そうですね。今回リリースした2曲は、恋愛をしているときの高揚感を表現した曲です。特に「大好き。」は、イヤホンをつけて聴いたときに、語りかけられているように感じるような、歌詞の描写がパッと浮かぶような唄い方をしたかったので、僕としては、“唄わないように唄うこと”を意識しました。
僕は元々、バラードを唄い上げるのが好きだったんですよ。だからSNSにあげているカバー曲でいうと、Official髭男dismさんの「I LOVE…」やwacciさんの「別の人の彼女になったよ」などの曲の歌唱が、今までの手島章斗のイメージに近いんじゃないかと思います。
だけど「大好き。」「Fire」に関してはそういう唄い方ではなく、一つひとつの言葉が立つように、ハキハキと発音していますね。それもあって今回はほぼビブラートを入れていません。
――ビブラートを入れない唄い方は、ごまかしの利きづらいスタイルとも言えますよね。
そうだと思います。ビブラートをかけないということは、語尾の処理のしかたがひとつ減るということだから、発音やグルーヴのような、それ以外の部分でなんとかしなくちゃいけなくなる。つまり、ボーカリストとして裸にさせられるんですよ。
逆に言うと、ビブラートを入れると、ある程度はうまく聴こえてしまうんですよね。だからこそ本当に歌のうまいボーカリストは、いらないところでビブラートをかけない、技術を多用しすぎないと僕は思っていて。僕の一番好きなボーカリスト、玉置浩二さんはまさにそういう方なんです。歌唱力があるだけではなく、詞をきちんと伝えるための、言葉の置き方がめちゃくちゃお上手で。
実は1年ぐらい前から、僕もそういうスタイルをモノにしたいなと考えていて、実際にライブでも取り入れたりしてました。その唄い方には合う曲/合わない曲があるんですけど、今回SHIROSEさんからこの2曲をいただいたときに「あ、使うときが来たぞ」と思いまして。それで、“唄わないように唄うこと”を意識した歌唱に挑戦しました。
自分自身の成長のために、未来の可能性に賭けたい
――歳を重ねるにつれて、今までのやり方を変化させたくない、だってこれで上手く行っていたんだから、と安全な道を選ぶことが増えてしまいがちになるじゃないですか。
わかります。僕にもそういう気持ちはあるので。
――それでも手島さんはソロデビューにあたって、ご自身の従来の強みを打ち出すような、唄い上げるタイプの曲ではなく、新しい挑戦を含んだ曲をリリースすることにしたんですね。
そうなんですよね。正直、僕にも葛藤はありました。特に「大好き。」はソロ第1弾にあたる曲だったので、これまでのイメージとは違う曲を最初に持ってきて大丈夫かな? という気持ちはあったんです。
だけど、イメージ通りのものを選んだら、今までと同じで終わってしまいますよね。ソロとしてもグループとしてもこれからもっと成長していけるように、と考えたら、未来の可能性にベットしたほうがいいと思えました。
それに、恋愛したときのウキウキした気持ちを表した歌詞って、若いうちしか唄えないなぁとも思っていて。今しかできないことだからこそ、思い切って挑戦してみようっていう気持ちもありましたね。
――ソロ活動となると、グループとは違って、いい評価も悪い評価も一人で受け止めることになりますよね。そこに対する不安はありませんか?
ないと言ったら嘘になります。だけど今は、ワクワクのほうが勝っていますね。
今回のソロプロジェクトはセルフプロデュースという形で携わっていて、音楽面はもちろんですけど、それ以外の部分――MVや衣装、アーティスト写真などに関しても、すべてに僕の意見を取り入れてもらっています。スタッフとのリモート会議にも参加しました。
僕は一つのことを確認したら他もつい気になってしまうタイプなので、気づいたら全部に関わっていただけなんですけど(笑)。こういう制作も好きだなぁ、楽しいなぁ、と思っているところです。お客さんには自信を持って作品を提供したいですし、そのほうが作品に対する愛情も自然と生まれて、制作がどんどん楽しくなっていきますよね。
だから、今はワクワクのほうが大きいかな。すごく楽しくやらせてもらっています。
――ソロアーティストとして叶えたい夢、今後の展望を聞かせていただけますか?
SOLIDEMOとしては「日本武道館でライブをする」という夢を掲げているんですけど、僕は、ソロとしても日本武道館に立ちたいです。
あと、いつか留学もしてみたいですね。海外の方とコミュニケーションを取ることが好きで。以前、海外に行かせてもらったときに、音楽を通して一つになれたことがうれしかったんです。
国も文化も言葉も違うのに、音楽を通せばすぐに仲良くなれるなんて、めちゃくちゃうれしくないですか? それに元々海外の文化や言葉、洋楽が好きなので、憧れもあるんですよね。
――ソロ活動となると、ご自身の音楽的な趣味をより濃い状態で還元できそうですよね。
そうですね。今回の2曲も、今っぽいサウンドを使いつつ、R&Bの要素が少し入ったトラックに仕上げていただいているので、そういうところにも注目していただけるとうれしいです。
僕自身はR&Bの中でもネオソウルが一番好きなんですよ。中でもエリック・ベネイが特に好きで。そういう自分の趣味みたいなところも、これから少しずつ形にしていけたらと思っています。
――先日Instagramにオリジナル曲をアップされていましたけど、今後、ご自身で作詞作曲した曲をリリースする予定はありますか?
ライブではやろうと思っています。この状況なので、ライブができるのもいつになるかはまだわからないですけど、それまでに自作曲を増やしておくので、ぜひ楽しみにしていてください。