弱さとは、のびしろだ。flumpool 山村 隆太が提案する「加点方式」の生き方とは #セルフライナーノーツ
たとえば、自分がまったくついていけなかった授業のテストで満点をとっているクラスメイトを見かけたとき。大教室での講義でも、はきはきとした口調で自分の意見を発表できる人を見かけたとき。仲のいい友達が自分より早く内定を獲得したとき。
周りの人が優秀に見えてしまい、「普通」な自分にコンプレックスを感じてしまう。そんな経験に覚えがある人も少なくないのではないでしょうか。
2008年にデビューしたバンド・flumpoolの山村 隆太さん(Vo)は、かつて「非の打ち所のない、カリスマみたいなバンド」を目指していたのだそう。しかし最新アルバム『Real』では、不安や悩み、葛藤なども隠さずに唄っています。
「生きるのが楽になりました」と笑う山村さん。12年間での人生観の変化について語ってもらいました。
文:蜂須賀ちなみ
編集:学生の窓口編集部
背水の陣での上京、手放しで喜べなかった快進撃
--山村さんはどういうきっかけで唄うようになったんですか?
山村 隆太さん(Vo):ひとつは、友達と一緒に楽しいことをやりたかったからですね。
僕の中学は、合唱コンクールが盛んな学校だったので、唄うことがすごく身近にあったんですよ。高校に入ってからも、放課後に一生(阪井 一生/Gt)や元気(尼川 元気/Ba)と集まって、コブクロさんやミスチル(Mr.Children)さんの曲をハモったりしていて。一人で唄うよりも、友達と一緒に声を合わせるほうが好きだったんです。
もうひとつの理由は、モテたかったからです(笑)。高校生の頃、好きな子から「声がいいね」って言われたんですよ。それがうれしくて。
僕は元々、目立ちたがり屋の恥ずかしがり屋でした。
文化祭にしろ、修学旅行の余興にしろ、なにかあるたびに人前に立ちたがっていたんですけど、一人じゃ無理だからいっつも一生を誘ってました。
今考えると、一人だったらなにもやっていなかったんじゃないかと思います。
--その数年後にflumpoolを結成され、2008年10月にダウンロードシングル「花になれ」でデビューします。今回のアルバムの1曲目「20080701」というタイトルは上京した日の日付ですか?
そうですね。メンバー4人で大阪から東京に来た日です。当時はもちろん「夢に向かって」という純粋な気持ちもあったんですけど、僕らの場合、アニメや漫画でよくあるようなキラキラした感じではなくて……。
そのときすでに、大学を卒業してから1年が経っていたんです。だから、誠司(小倉 誠司 /Dr)は「親から“いつまで音楽やってんねん”って電話かかってきた」って言ってましたし、僕も親から「好きなことをやるのもいいけど、ほどほどにな」と言われている状況でした。僕は手堅く行く人間だから、「音楽が無理だったら違う道に行けるように」ということを考えながら、大学時代、教育実習にも行ってましたし。
だから上京直前ぐらいまでは「やっぱり就職しなきゃ」「それならバンドをやめようか」っていう話も出ていたんです。
そんななかで、いまの事務所の方から「東京に出てこないか」っていう話をいただいて。「もう次はない」「最後の花火を打ち上げよう」という気持ちで上京することに決めました。
--flumpool は、CMソングへの起用をきっかけに「花になれ」がヒットしたり、デビューから1年程度で日本武道館公演を開催したりと、目に見える結果を早い段階で出していたと思います。当時は「これなら音楽でやっていけそう」という安心感はありましたか?
いや、安心感と言えるほどのものはなかったですね……。
これはメンバー4人とも全員が言っていることなんですけど、初期の頃は、自分たちの足で一歩一歩進んでこられた感覚がなかったんですよ。CMのタイアップの話も、事務所の人が持ってきてくれたのであって、自分たちの実力で獲ったものではないんだという意識があって。
タイアップも、武道館も、テレビ番組での歌唱も、明日には泡のように消えてしまうもののみたいに感じていたから、安心感もなかったし、「よっしゃ!」って思える瞬間もそんなになかったですね。
そういう自分たちの状態が、理想としていたバンドのスタイルとは違っていたから、手放しでは喜べませんでした。
--では、どういう状態だったら喜べていたと思いますか?
当時の理想は、自分たちの足だけで、しっかりと立っている状態でしたね。自分たちの力だけでなにかを成し遂げたっていう実感がほしかったし、非の打ち所のない、カリスマみたいなバンドになりたかったんだと思います。
あの頃の僕はプライドが高くて、弱さのない人が一番強いと思っていたし、カッコよく見られたいと思っていたので、バンドに対しても同じ考えを持っていたんですよ。だから周りの人のサポートありきで成り立っている自分たちのことをまがいもののバンドだと思っていたんです。とはいえ、事務所をやめたり、バンドをやめたりする勇気もなく……。
結局、周りの人が作ってくれた大きな船に乗っている自分たちを否定することすらできず、言い訳ばかりしていました。
--そのように「誰にも弱さを見せたくない」という気持ちが強いと、メンバーに対してすら本音を打ち明けられなくなりますよね。バンドとしてまとまるのが難しそうです。
本当にその通りですね。なんのためにバンドやってるんだ、っていう話で(苦笑)。
今考えたら、「自分たちはたくさんの人に支えられてここに立っているんだ」ということをもう少し受け入れられたらよかったんですよね。
そもそも、誰の力も借りずに活動するなんてまず無理じゃないですか。それに「このバンドを支えたい」と誰からも思ってもらえないようなバンドって、きっと本物ではないですよね。
だから、周りからカッコいいと言われるような完璧なバンドじゃなかったとしても、自分たちがのびしろを感じられているんだったら、それでいいじゃないかと。今の理想のバンドスタイルはそういう状態ですね。つまり、僕のなかの理想が変わったんだと思います。
誰からも「支えたい」と思ってもらえないバンドはきっと本物じゃない
--今回リリースするアルバムのタイトルは『Real』。2008年にリリースしたミニアルバム『Unreal』と対照的なタイトルになっていますよね。
デビュー当時は「flumpoolはこういうバンドなんだ」というのが自分たちですらわかっていない状態だったので、すべてがどこか非現実的(Unreal)な出来事のように感じていました。
だけど今は、メンバーもファンもスタッフも、flumpoolというものをよりリアルなバンドとして見ることができていて。「じゃあここからどんな夢を見ようか」という気持ちでひとつのアルバムを作りたかったんです。
どうして変わることができたのかというと、やっぱり声が出なくなって活動休止したのがすごく大きいですね(注:2018年12月、歌唱時機能性発声障害であることが判明。治療に専念するため、約1年間活動を休止した)。
自分の最大の武器である声がなくなってしまったことによって、一旦裸になったというか、強制的に脱がされた感じがしたんです。メンバーには一番見せたくなかった、自分の弱さを見せざるをえない状況になったし、そうして弱さを見せることによって救われた部分もあって。
活動休止期間中には「もう唄えないかもしれない」「別の仕事を探さないといけないかもしれない」と考えたこともありました。そうやって音楽を一度諦めかけた時期を乗り越えて、再スタートできるとなれば、やっぱり強い気持ちがありますよね。僕だけじゃなくて、メンバーみんな、このアルバムに賭ける想いは強かったと思います。
減点方式から加点方式へ。今だからこそ気づけた人生の喜びとは
--本作の収録曲を聴いて、山村さんの書く歌詞がさらに赤裸々になった印象を受けました。曲を通じて、自分の弱さが不特定多数のリスナーに知られることに対して、「怖い」もしくは「恥ずかしい」と感じることはありませんか?
いや、今は逆に楽しみです。なんか人生の楽しみ方が変わったんですよね。
前までの僕は、100点の自分をみんなに見せて「すごい」と言ってもらうのが目標でした。だけど今は、声が出なくなった0点の自分を、すでにみんなに知られている状態なんですよね。
それだったら、たとえ60点でも、今の自分を見てもらったほうがいいんじゃないかと考えるようになって。そのうえで「明日は61点の自分を見てもらおう」と努力すること、「前回より1点上がったね」という喜びをみんなと共有することに、楽しみを見出せるようになりました。
僕、エゴサーチをよくするんですよ(笑)。たとえば、テレビ番組で生歌を唄ったあとだと、「やっぱり声出てないじゃん」と言われることが未だにあります。それを見たときに、昔だったら「うわぁ、最悪や」って思って、傷ついて、「やっぱりテレビ出るの怖いな」って考えちゃうこともありました。
でも今は「次にテレビに出たとき、仮にこの人が見てくれたとしたら、“前よりいいな”と言ってくれるかもしれない」と考えられるようになったんです。
だから、人生の楽しみ方が減点方式から加点方式に変わったんだと思います。そうやって、プラス1点の喜びをみんなで共有することが今は楽しいので、怖いという気持ちはあまりないですね。
--今、2008年当時の自分に会えるとしたら、どんな言葉を掛けてあげたいですか?
「助けを求めることもひとつの力なんだよ」「それは弱さじゃないんだよ」と伝えたいです。これは「HELP」という曲に込めたメッセージなんですけど、あの曲の歌詞に救われることが今でもたくさんあるんです。
上京したての頃、夢に迷っていたときは、誰かに相談をするのはダサいと思っていたし、そういう見栄みたいなものを音楽に押し付けていたというか。いつの間にか、弱い自分を隠すために音楽をやっていたんですよね。
だけどバンドの場合、独りよがりでいてもうまく行くケースは少ないし、仲間と一緒になにかを作り上げることに楽しさがあると思うんですよ。だからあの頃の僕は、もっとメンバーを頼ったほうがよかった。そういう意味で「助けを求めることも大事だよ」と伝えたいです。
同じように、もしも今、就活で困っている人がいるとしたら、あんまり一人で抱え込みすぎないでほしいなぁと思いますね。気軽に誰かに相談したらいいと思うし、それこそマイナビさんみたいに、救いの手となるコンテンツを発信してくれている人たちもいると思うので。
弱さがあるっていうことは、のびしろがあるっていうことだから。自分は弱いんだということを受け入れたうえで「じゃあその対策としてなにができるのか」という視点で考えることができれば、それは本当の強さに繋がるんじゃないかと思います。
そうやって自分の足りないところを埋めていく人生のほうが、きっと喜びが大きいですよ。だから、たとえば面接に落ちたとしても「やっぱり自分はダメなんだ」という方向で考えないでほしいですね。その経験を力に変えていってほしいなと思います。
--今、バンドは楽しいですか?
はい、楽しいです。
でもこれ、ちょっと難しいところで。僕らにとってバンドは仕事だから、ただの遊びになっちゃうのはよくないんですよ。「バンドが楽しい」というのは優先順位として一番最初にあるべきものだけど、それだけになってはいけないんですよね。
とはいえ、僕らは12年間この仕事をやってきているので、その辺の意識は自然と身についているんですけど。でもそういうことを心配し始めてしまうくらい、今はもう楽しいです(笑)。
--きっと今のflumpoolは“強くてニューゲーム”状態ですよね。
ははは。それ、いい言葉ですね。でも確かに、改めてスタートを切る楽しさがあるのかなと思います。まあ、経験を重ねた分、歳はとっちゃいましたけどね(笑)。
カメラクレジット:渡邉一生
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