自分の在り方を選ぶ権利は誰だって持っている。だからMaica_nは「自由」を唄う #セルフライナーノーツ
「○○は××するのが普通」といった固定観念は、ときに思考の枠組みを縛り、未来の可能性を狭めてしまいます。自分のなかにある思い込みをなくすことができたら、人はもっと自由になれるのではないでしょうか。
シンガーソングライターのMaica_n(マイカ)さんは、幼い頃から固定観念の存在に違和感を抱いていたのだそう。何にもとらわれず、自由に生きるために必要なこととは? メジャーデビューEP『Unchained』に込めた想いをうかがいました。
文:蜂須賀ちなみ
編集:学生の窓口編集部
▼INDEX
1.心のよりどころとなった音楽との出会い
2.しがらみに惑わされない自分が一番かっこいい。何にもとらわれずに表現したい
3.自由な生き方の鍵は、知らない世界を見に行くこと
4.同世代へ今贈りたいメッセージ
心のよりどころとなった音楽との出会い
――お父さんの影響で、小さい頃から音楽に触れていたそうですね。
Maica_n(マイカ):そうですね。自分が生まれる前の時代の音楽や、洋楽に憧れながら過ごしていました。
ある日、父がリビングでThe Beatlesの「Blackbird」という曲をギターで弾いていたんですよ。それを見て「かっこいい」「自分も弾けるようになりたい」と思ったので、その場で頼み込んで弾き方を教えてもらいました。それが小学校6年生のときですね。
曲を書き始めたのは中学生になってからです。自分は元々、気持ちを言葉にするのが苦手なタイプでした。だけど、思春期になっていろいろなことを考えるようになると、「口には出せないけど本当は思っていること」が生まれてきて。それが自分のなかにどんどん沈殿していくような感覚があったんです。
そういうものをノートに書くようになって、「せっかく言葉にしたんだから」とメロディをつけて歌にするようになって。それが曲作りの始まりでした。
相手がいるとうまく言えないようなことでも、歌に乗せたら、スッと唄えるんですよね。
――実際に曲を書いてみて、どういう気持ちになりましたか?
すごくスッキリしました。達成感もありましたし、自分の心のもつれた部分がほどけたような感覚がありました。
あと、日常生活のなかで嫌なことや腑に落ちないことがあっても、「曲にしよう」と思えるようになりました。自分の言葉を吐き出せる場所というか、心のよりどころができたおかげで、精神的にちょっと楽になりましたね。
歌という表現方法を見つけられたことは自分にとって救いでした。
しがらみに惑わされない自分が一番かっこいい。何にもとらわれずに表現したい
――メジャーデビューEP『Unchained』の収録曲には、2つのポイントがあるように感じました。ひとつは、自分のなかの固定観念や周囲の声を気にしてしまい、素直になれずにいる人が登場すること。もうひとつは、「だけど本当は何にも縛られずにいたい」という願いが唄われていること。これらはMaica_nさん自身の根底にあるものですか?
「縛られたくない」「カテゴライズされたくない」「何かに当てはめられたくない」という気持ちはずっとあって。自分という人間の根底には、そういうところから来る寂しさや孤独感があると思っています。
「Unchained」は直訳すると「鎖から外れた」「解放された」という意味なんですけど、アルバムタイトルを考えるときに、制作チームから「本当の自由」を表現しようというアイデアが出て。そこから「一番の自由は、自分自身を解放してあげることなんじゃないか」と考えました。
「周りの声やしがらみに惑わされない自分が一番かっこいいんだ」、「自分が思っているよりも実は自分ってすごいんだよ」というメッセージを込めて唄っています。
自分は、顔立ちが幼いとよく言われますし、性別も間違えられることが多いんですよ。それをすごく気にしていた時期もあったんですけど、あるときから、年齢や性別なんて、もはやどうでもいいんじゃないかと思うようになったんですよね。
――そう思うようになったきっかけは?
小学校3年生の頃までは神奈川に住んでいたのですが、その後徳島に引っ越して10年間住んでいました。
神奈川から徳島に来たとき、みんなは(徳島の)方言をしゃべっているのに自分は標準語だから、都会っ子みたいな見られ方をしてしまって、最初はなかなか受け入れてもらえませんでした。
それもあってか、周りの子が話していることの内容や、その場の空気にどんどん敏感になっていって。
中学生になり、多感になっていくなかで、他の子と話したときに「この子とこの子は通じ合う」、「だけど自分はこの子とは考え方が違うし、あの子とも考え方が違う」ということに気づくようになったんです。他の人の思う「普通」と自分の思う「普通」がちょっとズレているように感じたというか。
たとえば「女性像」「男性像」のような、社会のなかで自然と作り上げられたイメージを周りの子たちはスッと受け入れられているのに、自分はそこに違和感を抱いてしまう。
看護師さんや保育士さんには女性が多いと言われているけど、だから女性の仕事なのかというと、それは違うんじゃないかな? みたいなことを考えがちだったんですよね。
――おそらくMaica_nさんは、人の本質を見る前に、表層だけを見て「この人はこういう人だ」と判断する行為に違和感を抱いたんでしょうね。
そうだと思います。年齢や性別は生まれ持った要素であって、自分の意思では選べないじゃないですか。だからきっと一番本質的な部分ではないのに、わざわざそこに固執する必要ってあるのかな? って。
本当はそこじゃなくて、人としての本質、その人自身の中身を見るべきですよね。
――ちなみに、Maica_nというアーティスト名は年齢不詳・性別不詳な感じがありますけど、あえて記号的な名前にしたんですか?
そうです。「_n」の部分にはいくつかの意味を込めているんですけど、なかでも一番意味合いとして大きいのは「neutral」(中立的な)です。
何にもとらわれずに、自分から自然と出てくる音楽をこれから表現していきたいです。
自由な生き方の鍵は、知らない世界を見に行くこと
――「女だから」「男だから」など、そもそも人が人をカテゴライズをしてしまうのはなぜだと思いますか?
人間は生まれたときに、生物学的に「男」か「女」に分けられてしまうじゃないですか。さっきも言ったように、それは自分でどうにかできることではないんですけど、それをスッと受け入れられる人もいれば、受け入れられない人もいます。
受け入れられた人は、「人は男か女のどちらかに分けられる」という考えが自然な流れで自分の中に入っていると思います。でも人の考え方って、生まれ育った環境や出会った人に左右されるもの。そこから先、同じような考えを持つ人にしか出会わなかったとしたら、自分の価値観も変わらないまま、それが「固定観念だ」ということにすら気づかないまま、年齢を重ねていくことになりますよね。
――逆に言うと、価値観の違う人と交わるようになれば、固定観念が覆される可能性もあるということですよね。そう考えると、自由に使える時間がたくさんある大学生活は、自分の価値観を広げるチャンスであるように感じます。
そうですね。やっぱり大学は、中学・高校に比べて自由な場所だと感じます。そんな環境のなかで、知らない世界を見に行く、興味があることに積極的に歩み寄ることで、自分の価値観や知識を豊かにしていくことができると思いますね。
人と人って、実際に関わってみないとわからない部分がたくさんあります。いろいろな人と話すと、「あ、そういう考え方があるんだ」みたいなことを知ることができますし、それは自分自身を知るためにも必要なんじゃないかなと思っていて。
だからこそ、先入観を捨てて、そういうきっかけを自分から作っていくことがすごく大事なんじゃないかと思いますね。そういう経験は、そのあとの人生にも大きく関わってくると思いますし。
同世代へ今贈りたいメッセージ
――Maica_nさんは現在19才とのことですが、同世代のなかには、感染症拡大の影響で生活が変わり、不安を覚えている学生も多いかと思います(※取材日は5月中旬)。最後に、同世代へのメッセージをいただけますか。
こういう事態になってしまって、みなさんすごく大変な状況のなかにいらっしゃると思います。自分も、数ヶ月前まではこんなことになるなんて思ってもいませんでした。
当たり前だと思っていたことが突然なくなったというか……。学生の方だったら、入学式・卒業式のような学校行事もなくなってしまって、思い出に残る大事なこともできなくなってしまったと思います。
また、わたしたちの世代は特に、「もう大人なんだから」とも「まだ子どものくせに」とも言われる年齢なので、家にいることも多い生活のなか、悶々としてしまうこともすごく多くなっているんじゃないかと思います。情報があふれかえっている世の中ですし、そういった周りの声みたいなにとらわれやすい環境にみなさんいらっしゃるんじゃないかな、と。
だからこそ今、自分自身について考えてみてほしい、自分自身のことを知っていってほしいと思います。これからも大変な状況が続くかもしれないですが、誰もが唯一無二であり、「今この瞬間どう在ろうか」を選ぶ権利を持っているんだということを――自分の人生は自分のものなんだということを、心のどこかに置きながら、今を大事に生きてほしいです。
自分の心をどれだけきれいに整頓しようとしても、うまく落とし込めない部分、どうしても納得いかない部分があると思います。だからこそ、今の自分にとって一番いいと思うことを、その都度自分自身で見つけていくしかないというか。それを信じて過ごしていくしかないかなと思っています。
※オンライン取材より
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