ライオン・キングのような「動物の王」って本当にいるの? ライオンの生態について飼育員さんに聞いてみた!
実写版映画『ライオン・キング』が大ヒット公開中です。
本作は、ライオンが王様の動物の国・プライドランドを舞台に、国を追われた国王の息子・シンバの大冒険を描いた作品。もちろんこの物語はフィクションですが、本物のサバンナではこうしたライオンを中心とする肉食・草食動物たちのグループができる可能性はあるのでしょうか?
日本国内の動物園で、初めてサファリ形式のライオン展示を導入した『多摩動物公園』に聞いてみました。
ライオンを中心とする動物たちの群れは誕生するの?
今回お話を伺ったのは、多摩動物公園の飼育展示課北園飼育展示係の大賀幹夫さんです。
――『ライオン・キング』にはライオンが王様という王国が登場しますが、自然界でもライオンを中心とする動物たちのコロニーが生まれる可能性はありますか?
大賀さん ライオンは草食動物と一緒になると 「食う食われるの関係」が生じます。そのため、ライオンと草食動物が仲良くなる可能性はありません。
生き物には、ハゼとテッポウエビのように同じ空間で相利共生関係が生じるような場合もありますが、ライオンについてはこのような関係となる動物種はいないのです。
――なるほど……映画でのライオンのシンバとイノシシのプンバァのように、仲良くなることはないのですね。
そもそもライオンはサバンナで最も強い動物なのでしょうか?
大賀さん 生態ピラミッドの上位捕食者に位置し、強いほうであることは確かですが、必ずしもNo.1というわけではありません。
1対1の成獣同士の戦いであると仮定すると、例えばアフリカゾウにはかなわないでしょう。また、ライオンが単独であるならば、たとえ自分より体が小さい動物であっても、ハイエナやリカオンなどの群れにはかないません。
過酷なリーダー争い
――『ライオン・キング』では、王位は親子で継ぐという形になっていますが、実際のライオンの群れのリーダーはどのように決まるのでしょうか?
大賀さん ライオンの群れは「プライド」と呼ばれます。このプライドは、母親、姉妹など血縁関係が近い10頭前後のメスライオンのグループと、1~2頭の兄弟のオスライオンのグループで構成されています。このオスのグループがリーダーになります。
リーダーの子供がそのままリーダーになることはなく、オスの子供は2歳半から3歳になると、リーダーに群れを追い出されます。
群れを離れたオスは、放浪オスとなり、別のプライドのリーダーに戦いを挑み、 戦いに勝てばそのプライドを乗っ取り、新たなリーダーになります。その他、リーダーが不在のプライドに受け入れてもらう場合もあります。
――リーダーの子がそのままリーダーになることはないのですね。映画では、世襲制を不公平だと考えた王の弟の策略によって、主人公のシンバは殺されそうになりますが、リーダー争いで殺し合うことはありますか?
大賀さん リーダー争いで命を落とすこともあり、敗れたオスは生き延びたとしても群れを出ます。
――別のオスがリーダーになった場合、元いたリーダーの子供を殺そうとすることはあるのでしょうか?
大賀さん はい。外部のオスが群れを乗っ取ると、元いたオスリーダーの子を殺す、俗にいう「子殺し」が起こります。
――厳しいリーダー争いは映画でも忠実に描かれているのかもしれませんね。仮にサバンナで「ライオンの子供一匹だけ」という状況になった場合、生き残れるものなのでしょうか。
大賀さん 正直厳しいでしょう。哺乳類は子供の時期が一番敵から狙われやすく、ライオンも弱肉強食の世界では子供だけで生き残ることはほぼ不可能です。
ライオンの遠ぼえはプロが聞いても似ている!
――アニメーション作品の『ライオン・キング』を見て、リアルに描かれていると思った点はありますか?
大賀さん 本物のライオンと似ていると思ったのは咆哮(ほうこう)と背筋を伸ばすしぐさですね。
――あの咆哮はフランク・ウェルカーさんという声優さんが演じているそうですが、プロが聞いても似ているのですね。反対に「ここは全然違うなぁ」と思った点はありますか?
大賀さん ハキリアリの群れが描かれているシーンがあるのですが、そもそもハキリアリは南米に生息する昆虫で、アフリカには生息していません。
また、キリンのネッキング(首を打ちつけ合う行為)がうたげのようなシーンで出ていたと思いますが、実はあれはオスが争うときに行う行為です。
――実際にはあり得ないシーンも多いのですね。
大賀さん ワニの口の中に鳥がいるシーンもそうですね。ナイルワニとナイルチドリの話(※)が大本と思われますが、こうなると食べられてしまいます。
一人の飼育係として改めて映画を見直すと、ライオンの産仔数が1頭だけとか、一夫一妻制のような表現、それ以外の動物たちの各種行動の意味など、所々で現実と異なるシーンが見受けられましたが、 動物の行動を把握した上でのアレンジであると感じました。生物学の固定観念に縛られていては、ライオン・キングのような感動的な映画は生まれないですし、発想力の豊かさを感じました。
※ナイルチドリはナイルワニの口の中に残った肉片を食べるという説がある。ただし正確な記録は残っていない
――動物園でライオンを見る際はどのような点に注目するといいですか?
大賀さん 個人的には、ライオンの「威風堂々とした雰囲気」を見ていただきたいですね。
――ありがとうございました。
やはり実際には『ライオン・キング』のようなライオンを中心とする王国が生まれる可能性はないようです。肉食動物と草食動物が同じ空間で過ごすことはあり得ないのですね。
一方、リーダーの息子がそのままリーダーを継ぐということはないものの、リーダー争いは非常に過酷なようです。
現在公開中の『ライオン・キング』は、フルCGリメークということで注目されています。映画を楽しんだ後は、ぜひ動物園に本物のライオンを見に行ってみてはいかがですか?
映画とは違うリアルな迫力に圧倒されるかもしれませんよ!
『ライオン・キング』公開中
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取材協力:多摩動物公園
https://www.tokyo-zoo.net/zoo/tama/
(中田ボンベ@dcp)