#へんてこアート入門「東京都現代美術館『あそびのじかん』」編
美術館では、館内に並べられた美術品をじっくりと鑑賞して回るのが、一般的な楽しみかた。しかし、ただ見るだけではつまらない……という人もいるかもしれません。
そうした人におすすめなのが、東京都現代美術館で行われている展覧会『あそびのじかん』。作品を見るだけでなく、触れて遊べる「体験型の展覧会」なので、美術鑑賞が苦手という人も楽しめるものです。
今回は、この『あそびのじかん』について、担当学芸員の小高日香理さんにお話を伺いました。
「おとな」も「こども」も楽しめる展覧会
――この企画展のコンセプトを教えてください。
小高さん 現代美術に初めて触れる人、苦手意識を持っている人に、その面白さを知ってもらおうと思い、「遊び」をテーマに作品を集めました。
美術は高尚なオトナの文化、遊びは楽しいけれどコドモの活動、という意識はいまだ少なからず存在しています。しかし、どちらも人類が育んできた文化です。
この展覧会では、あえてその境目をあいまいにしてみようと考え、遊び心あふれる6組のアーティストたちによる、「おとな」も「こども」も楽しめる作品を紹介しています。
――見どころは?
小高さん 触って、参加して、撮影して楽しめる体験型作品に注目してほしいです。ただ、ここは現代美術館なので、それだけではない知的な面白さもアピールしています。
――例えばどのような点に注目すると、知的な面白さも楽しめますか?
小高さん 現代美術の特徴の一つとして、素材や形状が多種多様であることが挙げられます。
本展でも、家具やボタンなどの日用品や既製品を使った作品があります。そうした作品を見る際に、『「なぜこれを使っているんだろう?と想像することは、作品の背景、つまりアーティストが世の中に対して感じていることや、考えていることを知る第一歩です。
会場にある解説もヒントにして、現代を映す鏡である作品に共感したり、驚いたりしてもらえれば幸いです。
自由におしゃべりOK!
――「他の展覧会とはここが違う!」というポイントはありますか?
小高さん 展覧会といえば通常、作品を見る・聞く・解説を読む、といったインプットが中心になるのですが、本展では来場者にアウトプットをしてもらう機会を用意しています。
その一つとして、普段は静かな展示室でのおしゃべりを今回はOKにしました。ぜひ感想を話し合ったり、作品について議論をしたりしてみてください。
また、来場者がお面にデコレーションをしたり、積み木に書かれた言葉を組み合わせて独自の文章を作ったりできる参加型作品もあります。ぜひ創造力を存分に発揮してください。
――その場で意見を交わすことで、より作品への理解も深まりますよね。
小高さん 展覧会の最後にある休憩コーナーには、「公開型アンケート」を設置しています。
来場者が答えたアンケートを神社の絵馬のように壁に掛けてあり、自由に読むことができます。つまり、他の来場者とアイデアを共有できる仕掛けです。
アンケートの裏面は塗り絵になっているので、そちらを楽しんでもOKですよ。
担当者おすすめの展示は?
――小高さんのおすすめの展示を教えてください。
小高さん どれか一つを選ぶのは難しいので、新作のみで構成する2作家の作品からピックアップしました。
まず1つ目は「ハンバーグ隊」というアーティストの『今までの行動や信頼性が一言の言葉で揺らぐなら、人のために何かをすることはでしかない』です。
小高さん ハンバーグ隊は、バックグラウンドの異なる複数のメンバーで構成されるオンライン・ミーティング・グループです。
SNSのグループチャットを遊び場に、誤解やすれ違い、連想や言葉遊びを交えた会話から、いくつかのキーワードを引き出し、それを作品化しています。
来場者が遊べる体験型作品が多い中、自分たちが遊んだ痕跡を見せるハンバーグ隊の作品は、一見脈絡がなく、ハチャメチャに見えるかもしれません。
その中から、集団でとことん自由に遊ぶときの、カオスな楽しさを感じ取っていただければと思います。
――もう一つは何でしょうか?
小高さん 次は、「うしお」の『不如意の儀』です。
小高さん 本作は、選択肢によって物語が変化するゲームから着想を得た「インスタレーション(空間全体を使った作品)」です。
展示室の中には、幾つかの分かれ道が存在しています。鑑賞者は分岐点を進むごとに、本を読んだり、テレビを見たり、ゲームで遊んだりと異なる日常的動作を体験することになります。
――日常的動作なのに、不思議な感覚になれるインスタレーションですね。
小高さん その中の一つに「ベッドに寝転ぶ」というものがあります。
これは、かつて「世界平和を願ってベッドに寝る」というパフォーマンスを発表した、アーティストのジョン・レノン氏、オノ・ヨーコ氏へのオマージュです。
さまざまな生活の動作を通して、アート、そして遊びが、生活や経済、社会活動から一定の独立性を保ちながらも、決してそれらと無縁ではないことが示唆される作品です。
本展覧会の楽しみ方
――事前にどのような準備をしておけば、本展覧会をより楽しむことができますか?
小高さん 特に準備しておくことはありませんが、体験型の作品が多いので、美術館に来たらロッカーに荷物を預けるなどして、なるべく身軽にしておくことをおすすめします。
また、入り口で配っているガイドマップには、解説や鑑賞のポイントのほか、作品をより楽しむための行動を促す「ミッション」が書いてありますので、ぜひチャレンジしてください。
――最後に、美術館の今後の展望を教えてください。
小高さん 今年の秋には、ファッション・テキスタイル・ブランド『ミナ ペルホネン』による『ミナ ペルホネン/皆川明 つづく』、来春にはエコロジーをテーマにした『オラファー・エリアソン』など、さまざまなジャンルにまたがる展覧会を予定しています。
また今回の『あそびのじかん』以降も、定期的に現代アート初心者が楽しめる展覧会を継続していくつもりです。
――ありがとうございました。
『あそびのじかん』は、「おとな」も「こども」も楽しめる体験型の展覧会。
美術鑑賞が苦手という人や、ただ作品を眺めるだけではつまらないという人には、まさにうってつけの内容になっています。
作者のトークパフォーマンスやワークショップなども開催される予定なので、ぜひみなさんも参加してみてくださいね!
会場:東京都現代美術館 企画展示室 1F/3F(B室)
会期:2019年7月20日(土)~10月20日(日)
入館料:一般1,200円(960円)、大学生・専門学校生・65歳以上850円(680円)、中高生600円(480円)、小学生以下無料
※( )内は20名以上の団体料金。7月26日(金)~8月30日(金)の毎金曜日17:00~21:00はサマーナイトミュージアム割引(学生は無料※要証明、一般・65歳以上は団体料金)
開館時間:開館時間:10:00~18:00(7月26日、8月2、9、16、23、30日(金)は21:00まで開館)、展示室入場は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(8月12日、9月16、23日、10月14日は開館)、8月13日、9月17、24日、10月15日
住所:東京都江東区三好4-1-1
https://www.mot-art-museum.jp/
(中田ボンベ@dcp)