50年以上に渡って『数学』を探求し続ける、その理由。#学問の面白さってなんですか?
"Education is a progressive discovery of our own ignorance."
– Will Durant
(勉強とは自分の無知を徐々に発見していくことである。)
あまり勉強に熱が入らない大学生も多いのではないだろうか。そうだとしたら、かなりもったいない。この連載では、勉強する意味を見出せていない諸君に向けて、文系・理系の様々な学問を探求する「知的好奇人」達からのメッセージをお届けする。ちょっとした好奇心が、諸君の人生をさらに豊かにしてくれることを祈って。
今回の"知的好奇人"は?
今回お話を伺ったのは、東京理科大学の特任副学長・栄誉教授の秋山仁先生。秋山先生といえば、バンダナ姿で数多くのテレビ番組にも出演する高名な数学者。そんな秋山先生が現在研究されている内容や、理系学問、さらには先生の専門である数学の面白い点を聞いてみた。
INDEX
1.数学は「永遠の真実」である
2.数学を探求し続け、50年。
3.好きなことを、とにかく続けてみよ。
4.大学で学ぶことの意味とは?「自分でつくれ!」
1.数学は「永遠の真実」である
――ズバリ、数学など理系の学問の魅力ってなんですか?
数学に特化した魅力・醍醐味になるのですが、無限・無数に絡んでいる真実を求める研究であることですかね。しかもその無数のものを特別な装置や実験室を必要とせずに、各自の創造力や閃きや論理性で取っ組み合い、仕留めるところが最大の魅力だと思います。
――なんだかかっこいい...!
多くの国々の研究者と互いにアイデアを交換しながら研究を深めていけるのも楽しい点です。自分が数学をやっていて一番感動する瞬間は、ある一つの対象について、見方や考え方を変えることで、それまで見えなかった性質をあぶり出すことができたときです。
――とはいえ、私たち一般人にとっては、「数学」ってかなり遠い存在な気がしますが…?
身の回りを見渡せば、数学の恩恵を全然受けてないものを探す方が困難なくらいですよ。頭の中だけで考えられ発見された数学的事実で、「そんなもの実社会で何の役にも立たない」と言われたものが、ずっと後になって惑星の軌道だとか相対性理論だとか宇宙空間の物質の発見に役立ったという例がたくさんあります。
――真実を探ることができる学問…なるほど...!
数学はいわば「万国共通の言語」です。ガウディには怒られるかもしれませんが、サグラダファミリアは素晴らしいチャーチですが何千年もたつと壊れてしまうやもしれない。しかし数学の定理は壊れません。
2.数学を探求し続け、50年。
――秋山先生は、現在どんな研究をしているのですか?
かれこれ50年ほど数学の研究を続けてきましたが、振り返ると大学院のころは微分・積分の親玉のような「解析学」の研究、次に20年ほど「グラフ理論」の研究に没頭しました。その後は「離散幾何学」を経て、この10数年は「多面体」に関する研究に取り組んでいます。
――なぜ多面体に着目されたんですか?
一つの分野の研究を長く続けられている先生も多くいらっしゃいますが、私は、元来好奇心旺盛なせいか、色々なものに目が行って、そのときそのときに強く心惹かれるものを研究するタイプなんです。多面体も、そういう中のひとつだったんです。
「だったらもう調べ尽くされていて、チャレンジする余地はないのでは」と思う人もいるでしょうが、調べていけばいくほど奥が深く、新しい世界が見えてきます。その興味が尽きることはありません。
――多面体とはそれほど奥深いものなんですか!
多面体はその種類も無限なら、個々の性質も様々。自然科学の様々な分野との関連も深く、また色んな工学的な応用を考えることもできて、
まさに自然科学の醍醐味が味わえる研究対象のひとつだと思っています。
――自然科学の醍醐味、とは...?
数学の研究は他の研究分野と密接にリンクしています。多面体でいえば化学、金属学、結晶学、建築やデザイン、工学、経済学などと関係しており、例えば、原子の配置と多面体は密接な関係があることが分かっています。
さらに、こうした数学と他分野の研究は日常のあらゆるところに応用され、私たちの生活を便利にし、また安全にも寄与しています。
3.好きなことを、とにかく続けてみよ。
――多面体といえば、先生は中学生のころに正多面体に着目した課題研究をされたことがあったそうな…? 具体的にはどんな研究だったのですか?
「正多面体は、正四面体、正六面体、正八面体、正十二面体、正二十面体の5種類しかない」ことを証明するエレメンタリーな研究でした。証明を書いた模造紙とともに、ボール紙で5種類の正多面体を作り、色を塗って出品しましたね。普段あまり先生に褒められることがなかったのですが、非常に褒めてもらったのを覚えています。それで「自分は数学の才能があるかもしれない」と勘違い(笑)して現在に至る七転八起の人生を歩んできました。
――本格的に数学に取り組まれたのはいつだったんですか?
高校生のころだったと思います。といっても、「数学一本で生きていくぞ!」といった自信にあふれた前向きな動機ではなく、「成り行き」で数学に取り組むことになったのが正直なところです。
それに、当時「数学ができると一目おかれる」といった、いわゆる「ええかっこしい」の不純な動機もありましたね。(笑)とはいえ、唯一好きな科目だったので、結果的に長く続けられたのだと思います。
――「好き」という気持ちが大事ってことですね。
これは大学生の皆さんに伝えたいですね。才能のあるなしで悩む人が多くいますが、基本的に持って生まれた才能がある人なんて多くありません。
なので、才能がある・なしにこだわるよりも、好きなことを探して取り組み、とにかく続けることが大事だと思います。
得意だと自信を持っていることよりも、好きなことに取り組むほうが挫折しても諦めずに続けやすいですし、なんとか続けているうちに成果が出てくるものなのです。これはどんな学問、職業でも一緒。もちろん、嫌いなことを一切しないで済む世の中じゃないから、嫌いなことも多少はしないといけませんけれど。
4.大学で学ぶことの意味とは?「自分でつくれ!」
――ここ数年、大学で学ぶことに価値や意味を見いだせない学生が増えていますが、先生は大学で学ぶ意味をどのようにお考えですか?
各学問の先端で行われているイキイキとした部分の遥か手前の基礎トレーニングが、大学の学びでは延々と続きます。その結果、学問の本質や醍醐味が見えづらくなってしまい、学生たちは学ぶ意味を見いだせなくなっているのかなと思います。
ただ、そこで漫然としていては意味がない。もうすぐ第四次産業革命が来るなんていわれていて、今ある職業の半分がなくなるという推測もあります。そんな状況だからこそ、文系・理系関係なく、自分でしっかりと考え、動くことが大事。自分の人生は、己の意志と努力で切り開いていくものだという意識を持つことです。
――意味や価値を与えてもらうのではなく、「自分でつくれ」ということですね。
大学は自分が知的好奇心を持って主体的に望む限り応えてくれます。自分で動く意志がないとどの大学でも、どの会社でもうまくいきません。才能がどうこうよりも、したいことがいっぱいあるという好奇心を持つことが大事です。そうした若者は必ずいつか花開くと私は考えています。
もちろん大変なことも多くありますが、それは自分の成長の糧だと前向きにとらえることです。私もいまだに試練の連続ですが、成長のきっかけを与えてくれたことへの感謝を最近、少しずつ抱くようになりました。そう続けているうちに自分の中に素晴らしい宝物があることに気付きます。
――好きなことを続けることに価値があるということですね。
私も若いころは何百年も解けなかった未解決問題を解きたいと思っていましたけれども、願いかなわず絶望することが何度もありました。それでも諦めずに起き上がってきました。苦しい期間がどのくらい続くかは分かりませんが、諦めるとそこで終わりです。試練に対してもがき苦しみ、なんとか活路を見いだそうとする強い意志を持つべきです。若い皆さんには、「屈辱をバネに飛躍せよ」という言葉を贈りたいと思います。
秋山先生の考える数学の魅力は「永遠の真実が見つけられること」でした。
大学在籍時から50年以上も研究を続けられてきた秋山先生ですが、まだまだ面白いと思うことだらけで、興味は尽きないそうだ。数学が好きという気持ちや強い好奇心が、度重なる挫折や屈辱を超えて、今の秋山先生を形作ってきたのだろう。大学で学ぶ意味が見いだせないという人は、何でもいいので好きなことを探し、取り組んでみてはどうだろうか。それをきっかけに、一気に道が開けるかもしれません。
●取材協力
⇒東京理科大学数学体験館
⇒東京理科大学広報部広報課
<秋山仁先生プロフィール>
1946年東京生まれ。数学者/理学博士。東京理科大学応用数学科卒業、上智大学大学院数学科を修了後、ミシガン大学数学客員研究員、米国AT&Tベル研究所科学コンサルタント(非常勤)、日本医大助教授、東海大学教授、文部省教育課程審議会委員、科学技術庁参与などを歴任。2018年より東京理科大学特任副学長に就任。同大理数教育研究センター長、数学体験館館長も務める。
writer:中田ボンベ@dcp
editor:がくまど自由研究サロン
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