#へんてこアート入門 『センス・オブ・スケール展』編

編集部:いとり

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美術館と聞くと「難しそう」「楽しみ方がわからない」というイメージを抱く人もいるでしょう。たしかに、絵画や彫刻など美術品の鑑賞は、知識がないと楽しめないのでは? なんて思ってしまいますよね。しかし、展覧会の中には、初心者でも楽しみやすい一風変わった切り口のものもたくさんあります。

今回は、そんな初心者でも楽しめる展覧会として、横須賀美術館で行われている『センス・オブ・スケール展』をご紹介します。

#へんてこアート入門 『センス・オブ・スケール展』編

美術作品を通してスケールについて考える展覧会

『センス・オブ・スケール展』を開催している横須賀美術館の学芸員・立浪佐和子(たちなみ さわこ)さんに、今回の企画展の見どころやおすすめの展示を伺いました。

――今回の展覧会のコンセプトを教えてください。

立浪さん タイトルのとおり「スケール」をテーマにしています。スケールという言葉には、基準や尺度という意味があり、物差しなどの大きさを測るための道具も指します。「スケールが大きい話だ」「スケールが小さい人だ」というふうに、大きさの規模を表す言葉として日常的に使われてもいますね。

今回の展覧会は、美術を通してスケールの意味をあらためて考えたり、スケールを利用した表現を楽しんだりするのがコンセプトです。
例えばミニチュアのように対象の大きさを極端に変えて表現した作品や、異なる縮尺を共存させた作品、視点を対象から遠く離すことで非日常的な範囲の事象を捉えた作品などを紹介しています。

日本列島のベンチ

鈴木康広「日本列島のベンチ」2014年 作家蔵 撮影:木奥恵三

田中達也「しばらくここで待ってクリップ」

田中達也「しばらくここで待ってクリップ」2018年 作家蔵

――なぜ「スケール」に注目した展覧会を企画したのでしょうか?

立浪さん 私たちはさまざまなメディアで、目に見えない最小の物質から遠く離れた宇宙の果てまで、あらゆるスケールの事象について情報を得られるようになりました。ミクロからマクロの世界まで、肉眼では捉えられないものを、あたかも実際に見たかのように理解していますよね。

一方で、本当の大きさを実感することは難しくなっているように思いました。例えば、テレビや本で見ていたものの実物を見て「思ったより小さい(大きい)」と驚くことがあると思います。

――確かに実物を見て初めて大きさや小ささを実感することが多いですね。

立浪さん そこで、美術作品を通してスケールについて考えることで、表現された大きさと、本来の大きさの関係を捉え直し、その差異を楽しむことができるのではないかと思いました。

また、大きさやその見え方をテーマにすることで、美術の表現に対してだけでなく、日常に対しても、何か新しい気付きを得られるような展覧会にしたいと考え、今回の展覧会を企画しました。

最後まで飽きずに楽しめる展示

――この展覧会の見どころを教えてください。

立浪さん これまであまりなかったコンセプトの展覧会だと思います。絵画、写真、映像や立体作品、インスタレーションまで、幅広い表現を見ることができるのが特徴です。

あっと驚くような大きさの作品もあれば、繊細な手仕事によって作られた小さな作品、クスッと笑える作品まであり、飽きずに最後まで見られます。

――「ここが他とは違う!」というポイントはどこですか?

立浪さん 横須賀に関連する出品作が多くあることですね。この美術館、この立地でなければ生まれなかった表現や展示だと思います。
とはいえ、市外の方が楽しむことができない地元ネタというわけではありません。作品を楽しみつつ、地域性も感じることができるということです。

――横須賀の魅力が感じられる作品として何が挙げられますか?

立浪さん 平町公さんの「京浜工業地帯の掟 磯子・横須賀隆起図」や、鈴木康広さんの水平線をモチーフとした作品群、高橋勝美さんが作る横須賀にあった和風建築のミニチュア、岩崎貴宏さんによる横須賀と広島の歴史的なつながりを捉えた作品、高田安規子・政子さんの『ガリバー旅行記』を軸にした作品・展示などです。

平町公「京浜工業地帯の掟 磯子・横須賀隆起図」(部分)2019年 作家蔵 撮影:木奥恵三

――個人的におすすめの作品は何ですか?

立浪さん 絞るのは難しいのですが、大きさの関係について理解しやすいという点で、田中達也さんの「スケールと見立ての関係」をおすすめします。

田中さんは、「異なる縮尺のものを組み合わせて見立ての世界を作る」という作家さんです。今回展示している「スケールと見立ての関係」は、制作時にスケール(縮尺)をどう使い分けているかという、田中さんの頭の中を図にしたような作品です。「えっ、手の内を公開しちゃってもいいんですか!?」と私は戸惑いましたが、ご本人は気にしていない様子でした。

田中達也「スケールと見立ての関係」2019年 作家蔵 撮影:木奥恵三

田中達也「スケールと見立ての関係」2019年 作家蔵 撮影:木奥恵三

――今回の企画展で展示されているもの以外で、「ぜひこの作品も紹介したかった」という作品はありますか?

立浪さん 出品作家の一人でもありますが、鈴木康広さんの「空気の人」という作品は展示してみたかったです。事情があって不出品となりましたが、当たり前にある空気という存在を、見事に可視化した作品です。
作品自体がとても大きくてインパクトがありますが、「空気の人」をきっかけに、地球を覆う気体としての空気に意識が向くというか、地球の成り立ちや宇宙まで連想させ得る魅力的な作品だと思います。

※「空気の人」は鈴木康広さんの公式サイトで見られます

⇒「鈴木康広」公式サイト
http://www.mabataki.com/

――今回の展覧会をより楽しむには、事前にどんな準備をしておくといいですか?

立浪さん 美術に興味がない人や、知識がない人でも楽しめる展覧会だと思います。特に事前学習のようなものは必要ありません。あえて挙げるとすれば、身の回りを見渡して、目の前にあるものが原寸のものなのか、拡大・縮小したものなのかを考えてみるというのはどうでしょうか。

身の回りには意外と拡大・縮小されたものが多くあるので、その原寸を想像して、大きさの違いやそのことから受ける印象に意識を向けることに慣れておけば、展覧会をより楽しむことができるかもしれません

――ありがとうございました。

『センス・オブ・スケール展』は、「スケール」をテーマにした大小さまざまな作品が並ぶ展覧会。
「しばらくここで待ってクリップ」のように、私たちの身近にあるものを使ってスケールの違いを表現した作品も多く、専門知識がなくても楽しめます。スケールが変わると、物の見方や印象がどのように変化するのか、ぜひ体験してみてください。


『センス・オブ・スケール展』
会場:横須賀美術館
会期:2019年4月13日(土)~6月23日(日)
入場料:一般900(720)円、65歳以上・大学生・高校生700(560)円、中学生以下無料
※( )内は20名以上の団体料金
※市内在住または在学の高校生は無料
※身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳をお持ちの方と付添1名様は無料
開館時間:10:00~18:00
休館日:毎月第1月曜日
住所:神奈川県横須賀市鴨居4-1
http://www.yokosuka-moa.jp/exhibit/kikaku/1901.html


(中田ボンベ@dcp)

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好きなものはチョコとビールと音楽と映画。ネトフリ廃人。ときどき絵を描きます。
Twitterで人の「いいね!」欄を見て時間をつぶすのが日課。

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