マーベル映画の達人・杉山すぴ豊さんに聞いた! MCUの魅力は人間くささにあり?
4月26日にマーベル映画の最新作『アベンジャーズ/エンドゲーム』が公開されます。アイアンマンなど、マーベルの人気ヒーローらによるスペシャルチーム「アベンジャーズ」が主役の作品は本作で完結。どのような結末になるのか世界中のマーベルファンが注目しています。
その盛り上がりを見て、マーベル作品に興味を持った人も多いのではないでしょうか。ただ、今からでも楽しめるのか、どの過去作品を見ておけばいいのか悩みますよね。
そこで今回は、マーベル映画初心者に向けて、マーベル映画の魅力や『アベンジャーズ/エンドゲーム』を見る前にチェックしておくといい作品などを、「アメコミ映画の第一人者」として知られる映画ライターの杉山すぴ豊さんに聞きました。
「マーベル」のヒーローは人間くささが魅力!
――「マーベル作品」のどんなところが一番の魅力だと思いますか?
杉山さん やはり「格好いいヒーローが強大な敵と戦う」ことが一番の魅力ではないでしょうか。その一方でヒーローもヴィラン(悪役)も極めて「人間的」に描いている。
普通の人間がたまたまスーパーパワーを手にしたらどういうドラマが生まれるのか?、日常の延長にあるヒーローたちの活躍を描いています。
――ヒーローたちが遠い存在ではなく、身近なものだと感じるわけですね。
杉山さん そうですね。『スパイダーマン』のピーター・パーカーもヒーローですけど、貧乏で恋もうまくいかないなど普段の生活は私たちと変わりません。それまで「家賃に困っているスーパーヒーロー」なんていなかったですからね。
「ヒーローはコスチュームを洗濯するのだろうか」といったことは誰もが考えるものですが、マーベルはそうしたヒーローやヴィランの日常も描きました。これはマーベルならではの画期的なことです。
――確かにマーベルの登場人物たちはみんな「人間くさい」です。
杉山さん それはヒーローもヴィランも私たちと変わらない等身大の悩みを持っているからだと思います。だからこそ共感できるし、「なんとなく自分と似ている」と思えるのです。「推しヒーロー」が見つけやすいともいえますね。例えるなら、AKB48などのアイドルです。
遠い存在だったアイドルが、会いに行けるくらいの近さになり、個性の異なるメンバーたちが個々に活躍したり、ユニットで活躍したりしているのに似ています。
――なるほど。すごくわかりやすいです。
杉山さん 時代の世相を反映しているのも特徴です。マーベル作品は1960年代から1970年代にかけてブレークしたのですが、ちょうどカウンターカルチャーが隆盛した時代で、その要素を作品にも盛り込みました。
ティーンエージャーや黒人が主役になるというのはその最たる例です。当時はまず見られなかったことですから、その点が受けたのでしょう。ほかにも「正義の在り方」が時代で変わっていくのも面白いですね。ヒーローの敵となる存在も、昔はナチスだったのが今は麻薬組織や腐敗した政府に変わっていっていますから。
――それも共感しやすいポイントなのかもしれませんね。
マーベル映画の魅力とは?
――MCU(※1)作品は2008年公開の『アイアンマン』から『アベンジャーズ/エンドゲーム』まで延べ22作品に及びますが、こうしたマーベル映画の魅力は何でしょうか?
杉山さん 杉山さん やはりヒーロー物ですからヒーローたちがどんな風に活躍するか、アクションが魅力でしょうね。CGもすごいですし、アクション映画ならではのスカッとした爽快感が味わえます。ストーリーも面白く、ヒーローものらしくどのような展開であっても道徳的なエンディングを迎えるので誰もが楽しめます。
あとは「ヒーローたちの人間くささ」が描かれているのも魅力です。活躍する姿だけでなく、彼らの日常や情けないところも描いている。それがリアリティーを引き出しています。
あとあのキャラをどんな俳優が演じるのか、も楽しみです。キャスティングが本当に素敵だから。
――人間くささはマーベル作品の魅力ですが、映画でもしっかりと描写されているのですね。
杉山さん 最初にアベンジャーズが集まったときの微妙な空気なんて、現実の会社の会議と同じですよ。「実際にヒーローがいて初めて対面したときはこうなるだろうな」と思えますからね。
ヒーローも一人の人間ということをちゃんと描いているからこそ、見る人が共感できるのだと思います。完全無欠のヒーローだとつまらないですから。
――そうした日常の描写があることで、活躍するシーンが際立つのかもしれませんね。
杉山さん ほかには、どのヒーローにも見せ場があるのも魅力です。アベンジャーズにはいろんなヒーローがいますが、スペックに関係なく、それぞれが自分の個性を生かし、強い使命感を持って自分のするべきことをしています。
誰もが「アベンジャーズに欠かせない存在」なんです。つまり「個性は尊いもの」だと描いているのです。
これはスタン・リー(※2)の「世界は自分が思いどおりに生きられるほど広いのに、なぜ相手(の個性)を認められないのか」という考えが如実に出ているのだと思います。社会に対して一人一人できることがあり、そこに能力や個性は関係ない、ということです。この考えはマーベル作品の本質であり、個人的に一番の魅力だと思っていることです。ぜひ学生のみなさんもマーベル作品から学んでもらえればと思います。
※1……Marvel Cinematic Universe(マーベル・シネマティック・ユニバース)の略。マーベル・スタジオが製作するヒーロー映画が共有する架空の世界の名称、またその作品群の総称。
※2……マーベル・コミック黎明期より、数多くのマーベルヒーローたちを生み出し続けた「マーベルの父」。
初心者はこの作品を押さえておけ!
――『アベンジャーズ/エンドゲーム』に向けて、初心者はどの作品をチェックしておけばいいでしょうか?
杉山さん 『アベンジャーズ』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』の3作品は見ておくといいですね。この3作品で、地球と宇宙にヒーローがいることや、ヒーローたちの複雑な背景など最低限のことが理解できます。その上で、前作『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』を見るといいでしょう。
――これを基本として、少しずついろんな作品を見るといいですね。
杉山さん そうですね。格好いいと思ったヒーローの作品を見たり、出演者で決めてみるのもいいと思います。個々の作品のストーリーも、シリーズ全体のストーリーも難しいものではなく、「○○から見ないといけない!」「最初から見ていない人は作品を語ってはいけない!」といったルールもありませんから、難しく考えないでどの作品から見ても大丈夫ですよ。
――個人的にすすめたい作品はありますか?
杉山さん 『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』ですね。アクション映画として最高峰だと思うので、アクションが好きな人はぜひ見てほしいです。『キャプテン・マーベル』もすごくよかったです。爽快でいい映画でした。
ドラマ性やストーリー性も大事ですけれど、やはりヒーロー映画には格好いいシーンや爽快なアクションが求められるものですから、その要求にきっちり応えた作品はいいですね。
マーベル映画の今後は……
――マーベル映画の今後については、どのように考えていますか?
杉山さん 『キャプテン・マーベル』や『ブラックパンサー』のように、ダイバーシティー(多様性)を意識していくようになると思います。
いわゆるLGBTのヒーローも考えられますね。マーベル作品ではありませんが、次のスーパーマンを黒人が演じてもおかしくない時代になったと思います。
――フェーズ4として『The Eternals(エターナルズ)』などの公開が予定されていますが、そうした流れになると……。
杉山さん 映画界全体の流れでこれからの作品の方向性も変わってくると思います。例えば、恋愛要素を入れる流れが強まれば、マーベル作品も恋愛要素が強くなるなど……。正直なところ「先が読めない」ですね。
――今後どんなヒーローがMCUに参加すると思いますか?
杉山さん 21世紀フォックスがウォルト・ディズニー・カンパニー傘下になったことで、『X-MEN』がMCUに参加する可能性があります。これも期待したいです。
――多くのマーベルファンが期待していることですね。
杉山さん また、先の話になるのですが、次の世代のためにもう一度『アイアンマン』から始めてすべての作品をリブートする可能性も考えられますね。
そのときの世相やテクノロジーに即した解釈で、新しいヒーロー像が生み出されると面白そうです。
――MCUとは違うストーリー展開でもいいですよね。『X-MEN』や『ファンタスティック・フォー』のいるアベンジャーズとか……。
杉山さん そうですね。それこそ女性のアイアンマンとかでもいいわけですから。
――スパイダーグウェンもいますし、原作には女性版のスパイダーマンもいますから、可能性はありますね。いろいろ考えながら今後の発表を待つのも面白いです。ありがとうございました!
国内随一のマーベルの達人によると、マーベル初心者は
・『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』
・『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』
・『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』
の4作品を見ておけば、最新作『アベンジャーズ/エンドゲーム』がより楽しめるとのこと。4作品なら見るのも難しくないでしょう。劇場で壮大なフィナーレを楽しんでから、他の作品をチェックしていくのもまた一興です。
その際は、ぜひ各ヒーローたちの「人間くさいところ」をチェックしてみてください。彼らの人間味あふれるシーンを見るごとに、どんどん好きになること請け合いですよ!
杉山すぴ豊ツイッター:@supisupisupi
(中田ボンベ@dcp)